第九小隊☆交換日誌

報告その1:異世界到着だよ!  【報告者:ナナ】

あたし、ナナ!
第九小隊のメンバーだよ。
ユン兄がリーダーやってるって聞いて、
いっしょーけんめーベンキョして、入っちゃった☆
ユン兄と一緒にいる為だけに入ったといっても過言じゃないもんね!

あ、それでね?
今は王様直々の命令で、異世界を調査することになったの。
なんで陸軍でも空軍でもなくて、あたし達?って思ったんだけど、
扉をくぐって、その謎、解決。
だって扉をくぐった向こう側って、いきなり海だったんだもん!
おかげで、あたし達、全員ドボン。
も~、頭からずぶ濡れだよぉ……
幸い岸が近かったから、なんとか泳ぎ切ったけど。
海のど真ん中だったら、どうしようかと思っちゃったよ~。


びしょびしょになったあたし達は、酒場っぽいお店に落ち着いたの。
「荷物も計器もズブ濡れじゃないか。初っぱなから、この有様とはね」
ぶつぶつ変態眼鏡が、あっ、変態眼鏡ってのはキースの事ね。
キースが文句を言っていたけど、あたしもユン兄も皆で無視。
ユン兄が白い紙をテーブルの上に広げて、皆に言った。
「大気成分は我々の世界と同じと見ていいだろう。
 詳しい成分表の作成は、セーラとキースに任せる」
「あぁ、判った」
偉そうにキースが頷く横では「了解です」と、セーラも頷く。
「地図も描かねばならないか……その前に言語調査が先だ」
ユン兄が手を挙げると、お店の人っぽいのが近寄ってきた。
フリフリのスカートを履いてて、自分でも可愛いのを意識してるっぽい?
あ、もちろん女の子だよ。歳は、あたしより、ちょっと上かな。
「ご注文ですか?」
あ、言葉、通じるみたい。
不思議なほど、すらすらと相手の言語が、あたしの耳に入ってくる。
「あぁ。この店のメニューは?」
ユン兄もナチュラルに頷いて、ウェイトレスさんを見上げる。
ウェイトレスさんは向かいの壁を指さした。
「あちらの壁に書かれております」
うっわ、ホントだ。ズラズラと大量のお品書きが書かれている。
その中から適当に、飲み物っぽいのと食べ物っぽいのをチョイスすると。
ウェイトレスさんは「かしこまりました」と頷いて、去っていった。
「しかし、よ」
カネジョーが話し始めたので、あたしの意識も皆の視線も、そっちへ向かう。
「ここってマジ海ばっかなのな。海しかねぇってカンジ」
そうなの、あたしも岸に這い上がった時に思ったんだけどね。
この世界って、たぶん陸地より海の方が多いんじゃない?
ってぐらい、海がめっちゃ広いの!
まぁ、確かなことは実際に歩き回ってみないと分かんないんだけど。
「それで私達が派遣されたのかしら?」
腕を組んでセーラが考え込んでいる。
「海が広いと事前に判っていたんなら、教えてくれてもいいのにな。
 なら最初から船で入るなりして、ズブ濡れ対策も出来たってのに」
荷物から機材を取り出してフキフキしながら、キースが、まだぼやいてる。
だから、あたしは言ってやった。
「あーもー、くどいなぁっ。濡れたって、すぐ乾くんだからいいじゃない!
 それに事前に教えてもらわないほうが、楽しみも減らなくていいでしょっ」
「そうだな」
キースがニヤリと笑って近づいてきたので、あたしは思わず一歩下がる。
何その笑顔。ちょーキモイんだけど。
「濡れたなら、お互いの肌で暖めあって乾かすって手もあったんだ。
 さすがナナたん、俺の気持ちをよく判って――ぐぁばッ!!」
変態眼鏡の戯れ言は、途中で強制終了。
ウェイトレスさんの持ってきた、あっつあつのピザが、彼の顔面を塞いだので。
ぶつけたのは、レンだった。
あたしの親友にして、同じ時期に軍隊入りした子だよ。
「あ、ごめんなさい。手が滑ってしまいました」
なんて言っているけど、超真顔だし。……もしかして、わざと?
「なんで机の上のものが、俺の顔にぶつかるんだ?」
キースに凄まれても、レンは全く怯まない。
「すいませんねぇ、私、なにしろ盲人なもんで」
そう言って、彼女はニヤリと口元を歪ませる。
わざとだ、絶対わざとだ。やるじゃん、レン♪
「嘘つけ!目が見えなくても常人と同じ動きができるだろーが、テメェは!」
まだキースがギャーギャー喚いていたけど、ユン兄は安定のマイペースで
中断された会議を再開する。
「地図作成はレン、お前と俺でやる」
「了解です」
コクリとレンが頷く。
さっきまでキースとおちゃらけていたのに、今はすっかり真面目な顔で。
にしても、いいなぁ~。ユン兄と共同の作業を任されるなんて。
「あたしも、やりたい~」
あんまり羨ましかったもんだから、思わず声に出しちゃったら。
ユン兄は、ちらっと、あたしの方を見て、淡々と続けた。
「ナナ、お前はカネジョーと共に周辺の生物調査を頼む」
え~。よりによってカネジョーとぉ?
ってゆっか、絶対『よし、お前も一緒に来い』って言ってくれると思ってたのに。
がっかりー。
「なんだよ、俺と一緒じゃ嫌ってツラしやがって。ムカつくな」
当のカネジョーには言いがかりをつけられて、ついつい、あたしも喧嘩腰に。
「なによー。こっちだってムカツクー」
「およしなさい、二人とも」
セツナ先生には怒られて、あたしもカネジョーも一斉にソッポを向いた。
ふんだ。こんな奴と一緒の作業なんて、冗談じゃないわ。
いいなーレン、いいな~。
「それで……ユン、私は何をしたらいいのかしら?」
セツナ先生の問いに、ユン兄が答える。
「女医は俺達の健康管理だけで充分だ」
「あら、そ。判りました」
先生も、あんまり調査協力には乗り気じゃなかったのか、あっさりしてる。
「では、当面の問題は宿屋確保ですね」とは、レンの問いに。
ユン兄が黙って頷くのと同時に、誰かが声をかけてきた。

「宿を探しているのかい?というか君ら、何処からの旅行者?
 この辺じゃ、見かけない格好しているけど」

話しかけてきたのは、金髪の男の人。
たぶんユン兄と同じぐらいの歳なんだろうけど、何?こいつ。
いきなり人の会話に混ざってくるとか、不審者極まりないんだけど。
ヘラヘラ笑いかけてくる怪しい男に、キースが答える。
「我々は辺境から来た旅行者だ。お察しの通り、今晩泊まる宿を探している」
「じゃあ、案内してやるよ。『酔いどれ狼の昼寝亭』ってんだが、
 なかなか美味い飯が出てきてね、密かに人気がある店だ」
この人自身も怪しいけど、お店の名前も、すんごく怪しいっ。
とはいえ、怪しんでばかりじゃ、こっちまで怪しまれちゃうかもしれない。
結局、あたし達は、この人に案内を任せてみることにした。
案内しながら、男の人が名乗りをあげる。
「あぁ、そういや名乗ってなかったな、まだ。
 俺はバージニア、気軽にバージとでも呼んでくれ。一応、傭兵をやっている」
「ふぅん、そう。私達は研究者よ。バカンスがてら、こちらへ来たの」
セツナ先生ってば、よくそんな嘘がスラスラ出るなぁ。感心しちゃう。
「青い髪の人はユン、ピンクの髪の子はナナちゃん。灰色の髪の子はレンちゃん。
 それから金髪の女性、あの人はセーラさんよ。
 で、三白眼はカネジョー、眼鏡はキース」
だんだん紹介が大雑把になってきたけど。
「おい、誰が三白眼だ!」「眼鏡しかないのか、俺の特徴」
二人とも文句を言っているけど、当然のようにセツナ先生はスルー。
「そして、私はセツナ。よろしくね」
「あぁ、こちらこそ。そんで、ここが狼亭の入口だ」
話しているうちに目的のお店へ、ついたみたい。
「宿代はあるのかい?」
「この金貨では、どうだろう」
ユン兄が取り出した1クォンス金貨をチラ見して、バージさんは首を横にフリフリ。
「どこの金貨だか知らねぇが、そんなもんは首都じゃ通用しないぞ?
 換金し忘れるたぁドジだねぇ。仕方ない、俺が代わりに払ってやるよ」
「いや、そこまでしてもらう義理はない」
すかさず断るユン兄へウィンクすると、バージさんはニッコリ微笑んだ。
「なぁに、せっかく旅行へ来たのに悪い印象しか残らないってんじゃ
 首都出身としては気まずいんでね。ここは奢らせてくれよ」
「しかし……」
食い下がるユン兄の袖を引っ張って、あたしは提案してみた。
「ね、あんまり遠慮しすぎても怪しまれちゃうよ?ここは素直に従っとこうよ」
「……判った」
ユン兄、やっと頷いたよ。渋々だったけど。
あたし達はバージさんにお礼を言って、宿に入った。

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