第九小隊☆交換日誌

終章

第九小隊の提出した交換日誌を読んだエウゼンデッヘ少尉は、頭を抱える。
なんだ、この適当極まりない報告書は――!?
肝心な世界の情報は何一つ書いておらず、書かれているのは感情的な日記ばかり。
まごうことなき感想文だ。しかも誤字脱字は多いし。
手みやげがなかったら、今頃は雷を落として全員謹慎処分にしている処だ。
だが、連中を行かせたのは他ならぬ自分である。
それに彼らは唯一、貴重な情報を教えてくれた。
彼らの行った先、ワールドプリズの住民は異世界への門を開くことができるという。
「座標の位置確認、か……」
少尉は口元を歪ませる。
もし異世界の住民をサイサンダラへ召喚することが自由自在になれば、我がセルーン国に足りない戦力を補うのも可能であろう。


「やっと終わったってのに、また任務かよ。休む暇もないんだな、俺達は」
ぼやくキースの横では、無表情に銃を磨くユンの姿があった。
特殊任務から解放された彼らは海軍へ戻り、戦闘の激しい海域へ送り込まれた。
今、サイサンダラは戦争の真っ最中。
四つの国での覇権争いで、どこが世界を統一するかの世界大戦が起きていた。
だが正直言って庶民にとっちゃ覇権争いなど、どうでもいいこと。
なんでもいいから、はよ戦争終われ、というのが最も多い住民の意見だった。
軍人もピンキリで、キースの感覚は庶民に近い。つまりは、はよ終われ派だ。
従って任務もやる気が起こらず、こうしてユン相手に雑談している有様だ。
話をふられているユンは、さっさから相づちを打つでもなく道具の手入れに忙しい。
道具の手入れが、第九小隊の仕事である。
なにを隠そう、第九小隊は海軍の中でも一番のミソッカス。
役立たずにカウントされている小隊で、戦闘最前線だというのに暢気な役割を与えられていた。
「あ〜あ、暇だな!暇だからゲームでもするか」
キースも道具の手入れを任されているはずだが、彼は一ミリも働いていない。
こきこき肩を鳴らすと、愛用の黒い携帯機を取り出した。
「あ、そうだ。そういや説明してなかったな、こいつの素晴らしい機能を」
独り言かと思ったら、どうやら今のはユンに言っていたらしい。
キースは馴れ馴れしくユンの肩に手を置き、彼の前へ携帯機を突きつけてきた。
突きつけられては嫌でも視界に入ってしまい、嫌々ユンが見たものは、ベッドに寝そべる全裸のセーラであった。
無論、本物ではない。合成画像だ。
ユンは黙々と銃の手入れを再開する。
「無反応かよ。やっぱセーラよりはセツナのほうが、お好みか?」
ゲスの勘ぐりが飛んできたが、それもユンが無視していると、キースはタッチペンで画面を、ちょいちょいと突っつく。
異変は、直後起きた。
側で同じく武器の手入れをしていたセーラが、突然奇妙な声をあげたのだ。
「あっ、はぅぅんっ、だめぇっ!」
驚くユンの前で、キースがまたも画面を突く。
どこを突いているのかと見てみれば、画面上のセーラ、その股間を執拗に突いていた。
「い、いぃぃん、イクッ、いっちゃうぅぅ〜んっ!」
ハァハァと呼吸を荒くし、股間を押さえてセーラが悶えている。
画面上ではなく、本物が。
頬を染めて嬌声をあげる彼女には、ユンも照れて視線を逸らしながらキースへ尋ねた。
「な……なにをした?どうなっている」
「クックック。これぞEVAM最大のお楽しみ、ヴァーチャルバドリー機能だ。画面上の人体をタッチペンで突くと、本物とリンクしてエロい快感を――」
そこから先は、聞くことが出来なかった。
「なぁーにしてやがんだ、このエロ眼鏡がァッ!」
「え、エロ眼鏡の仕業なの!?何してくれちゃってんのよ、この、変態エロ眼鏡ッ!!」
左側からカネジョー、一拍おいてセーラの攻撃も右から飛んできて。
キースの眼鏡は派手に吹っ飛んだ。



おしまい

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