第九小隊☆交換日誌

報告その3:資金収集計画  【報告者:キース】

ユンから交換日誌が回ってきた。
しかし、なんだ?
一人一日かと思いきや、なんで二人で一日分を書いているんだ。
すでに二人目で、日誌ではなくなっているじゃないか。
まぁ、ナナたんは新人なので仕方ない。
悪いのは全てユンだ。
さっそく俺のオモブンにケチつけていやがるしな。
言いたいことがあるなら直接言えってんだ、あのコミュ不全。
つーか、デフォルトってなんだ?デフォルメだろ。
まぁ、ナナたんのオッパイは大きいのがデフォルトだがね。
……あぁ、修正するなと少尉に言われたから、直していないのか。
なるほど。
まぁ、いい。
そろそろ、本日起きた出来事でも書き記しておくとしよう。


俺達が泳ぎ着いた街、レイザースは大きな都市だった。
ざっと見渡して市場と王宮、それから貧困街の三つに分かれている。
原住民のバージニア曰く、この大陸の首都であるらしい。
驚いたことに本屋では、堂々と異世界にまつわる書籍が売られていた。
その名も『異世界研究広報』。そのまんまだな。
本の中の文字が読めることにも驚いた。
異世界というからには文字も読めず、会話も通じないと思っていたんだが。
俺達が思うほどには、『異』な世界ではないのかもしれない。

ユン曰く、しばらくはレイザースを拠点にアルバイトをしようとの提案。
勿論、異存はない。
しかし問題となるのは、俺達の立場だ。
バージニアとの会話でセツナ女医が『研究者』と名乗ってしまった以上、
俺達は当面、研究者で通さなければならないわけだが……
「研究者にも出来そうなバイト、あった?」
求人誌を片手にナナたんが問えば、同じく新聞を調べるレンが答える。
「う〜ん……傭兵とハンターばっかりだよ、募集してるのって」
俺も一応求人誌をめくってみたのだが、レンの言うとおりだった。
急募に並んでいる仕事先の要資格は、概ねハンターと傭兵ばかり。
研究者を募集している仕事なんか、ありゃしない。
「やっぱよ、ここは初心者歓迎の仕事を探すべきじゃねーか?」
などと言っているのはカネジョーだ。
思いつきで言う奴の提案ほど、役に立たないものはない。
「初心者歓迎、ねぇ……」
女医もパラパラ求人誌をめくっていたが、不意に手を止めて皆を呼んだ。
「あ、これ。これ、どうかしら?要資格が特にないみたいなんだけど」
どれどれ、と俺達も覗き込む。
女医の指さした求人広告は、こういったものだった。

【亜人の島探検隊の護衛を求む】

「亜人の島ァ?」
俺とカネジョーの声がハモり、女医も首を傾げる。
「亜人が沢山いるか、或いは亜人しか住んでいない島があるのかしらね。
 でも行き先が何処であれ、護衛なら私達でも務まりそうじゃない?」
ま。俺達は軍人だしな。一応、銃と素手での訓練も積んでいる。
「島っていうからには、道中は海路よね。あたし達向けじゃない?」
俄然ナナたんとレンが張り切り出し、ユンやセーラの反応は、というと。
「他になさそうだったら、それで決まりね」
セーラが頷き、ユンも無言で頷いた。
「よし、決まりだ。連絡先は?」
俺の問いに女医が答える。
「クレイダムクレイゾン……って、なっているわ」
「クレイダムクレイゾンかぁ〜。で、それって、どこ?」
俺達は顔を見合わせた。
だが、顔を見合わせたところで誰一人として判るわけがない。
なんせ俺達は、レイザースしか知らない異世界住民なんだからな。
「……こういう時は、やっぱり地図を調べてみるものではなくて?」
一番最初に提案したのは、やはりというか当然というか女医だった。
俺達は本屋で求人誌と地図を買い求めると、酒場へ戻った。
……え?俺達は無一文じゃないのかって?
あぁ、そうだ。
だが、これはバージニアが宿代を立て替えた時の釣り銭だ。
やるって言われたから俺が貰っておいたんだ、ユンや女医には内緒でな。
もちろん買う時にはバレたわけだが、特に誰も文句を言わなかった。
こういう時だけは、皆も素直に状況を受け入れてくれるんだよな。


「あー、ここですね、ここ。この小さな島が、亜人の島だそうです」
地図を広げて睨めっこすること数分で、レンが左上隅を指さす。
「アホかテメェ、探すのはクレイダムクレイゾンだろ?」
すかさずカネジョーの嫌味が入り、今度はナナたんが地図を突いた。
「言ってる間に探しなさいよ!ほら、もう見つけたもんね。ここよ、ここ!」
「クレイダムクレイゾン……レイザースから見て北西にある街、か」
ユンが呟く。
「この地図の尺図でいうと」カネジョーも、ぼやいた。「だいぶ距離があんな」
「馬車ぐらい出ているでしょうよ」とは女医の意見に、皆も頷く。
「すいませーん、停留所ってありますか?」
ナナたんがウェイトレスに尋ねると、彼女は気さくに答える。
「えぇ、ありますよ。街の入口を出て、左手に進むと乗合馬車の停留所が」
「ありがとう!」
元気のよいナナたんの笑顔に、ウェイトレスもニッコリ。
なんだか俺まで、つられて笑顔になりそうだ。
「ニヤニヤしているんじゃないの。気味悪いったら」
なんて思っていたら、セーラには気味悪がられた。うるさい年増だな。
だが、ここでまた問題発生だ。
「乗合馬車に乗るにも金がいる……どうするんだ?リーダー」
俺の問いに、ユンは黙って考え込む。
いや、考えたって答えは出ないだろ。
俺達は、この世界じゃ無一文も同然なんだ。
しばらくたって、ユンが答えた。
「歩いていくしかないな」
先立つ物がない以上、そうするしかあるまい。
「ゲェー、歩き!?勘弁してくれよ〜」
さっそくカネジョーが泣き言をぼやき、セーラが奴に抱きつく。
「なら、私がオンブしてあげる。いいえ、それともダッコのほうがいい?」
「どっちもいらねーよ!!」
ま、いつもの見慣れた光景だ。取り立てて書くまでもなかったな。
俺はナナたんに近づいて、甘く優しい声色で囁いてあげた。
「ナナたんも遠慮はいらないんだぜ?
 いつでも言ってくれれば、この俺が君をお姫様ダッコでつれていって」
「ユン兄、つかれたらオンブしてってくれる?」
「疲れた時は、俺に言え。休憩を取る」
ナナたん、俺と話している途中だってのにユンへおねだりかい?
ハハハ……だが、そんなつれない処も愛しているよハニー。
「では、荷物を取ってきましょう。善は急げ、だわ」
女医がさっそく取り仕切り、俺達は部屋に戻ると荷物をまとめた。
といっても全部じゃない。
持っていくのは武器の詰まったレンの鞄と、各々の貴重品ぐらいだ。
「さ、行きましょう」
女医の号令で、俺達は酒場を出る。
行き先はクレイダムクレイゾンだ。


――意気揚々出てきたのはいいんだが、一体いつになったら着くんだ?
地平線まで続く一本道を、かれこれ三時間はぶっ通しで歩いている。
周りの風景は草っ原。何の面白味もない景色だ。
ナナたんは、すでに息を切らせている。
そろそろユンへのオンブ攻撃が始まる頃だろう。
そう思った俺は先手を打った。
「ナナたん、息が上がっているぞ。さぁ、俺の腕の中に飛び込んでこい!」
「ハァ?何言ってんの、バカ眼鏡」
いや、バカ眼鏡って……
そういやナナたん、日誌でも俺のことを変態眼鏡って呼んでいたな。
俺の特徴って眼鏡しかないのか、本気で。
この優秀な頭脳と麗しい外見を無視するとは、さすが俺のナナたん。
ツンデレにも程があるぜ。
「相変わらずツンデレだね、マイハニー。だが、そんな処も好っきっさっ」
気を取り直し、俺はナナたんへ接近すると、一気に彼女を抱き上げる。
「きゃあ!」
きゃあ、だって。可愛いなぁナナたん。むふふ、むふ。
それに、このスベスベした太股。
ちょっと標準より太いかもしれんが、そこがいいんだ。健康的で。
太股の先には、まだ誰も踏み入れた事のない茂みが広がっているのだ。
考えただけでも、俺の鼻息は荒くなった。
「やだ、ちょっと触らないでよ!降ろして!!」
ナナたんが暴れるたびに、可愛いお尻が俺の股間を刺激する。
そんなに擦り寄せられたら、俺のマグナムが興奮しちまうじゃないか。
「ナナたん、愛している」
ふぅ〜っと耳元に息を吹きかけたら、ナナたんはゾクッと身を震わせた。
「やっ……!」
「可愛いぜ、その表情。食べちゃいたいぐらいだ」
いや、本当に。きゅっと結ばれた桃色の唇といい、華奢な腕といい。
人目があってもなくても、襲いかかりたい衝撃にかられた。
「ナ、ナナたん……ここから先は、オトナの時間だ……ぞ!」
「ヒィ!や、やだ、やめて!こないで、近づかないでーッ!!」
ナナたんが怯えた瞳で俺を見た。
激しく、いやいやをする。俺の顎を、精一杯両手で退けようとする。
そんな姿でさえも、愛おしい。
「はいー、そこまで!」

ぐぁ!!

……ってぇ……
こ、この野郎。
痛みで一瞬、視界が真っ暗になったじゃないか。
ナナたんと唇が重なろうかという瞬間、レンの奴が俺の足を踏みやがったのだ。
畜生、腫れたら後で治療代を請求してやるからな。
「あーん、レン〜!やっぱレンって頼りになるぅ〜」
ナナたんの声が、遥か遠くに聞こえるぜ……
レンにしっかり抱きついて、レンもナナたんの背中を撫でていた。
「よしよし、もう大丈夫だよ」
そしてユンを振り仰ぐ。
「隊長、ナナが疲れているみたいです。休憩しましょう」
「あら、キースも、じゃなくて?だって、地面に座り込んじゃうぐらいですもの」
と、まぜっかえしたのはセーラだ。
見下すような視線を俺の頭上によこし、偉そうに腕組みなんぞしながら。
「ナナちゃんより先に、へたばったの?だらしないわねぇ」
ふん、何とでも言っていろ。
お前の愛しいカネジョーなんざ、もっと前からへたばっているぞ。
ユンが気づいて、二メートルほど来た道を戻っていく。
「カネジョー、大丈夫か?」
「大丈夫なワケねーだろ?くったくたで足ボーだよ。もう歩けねー」
軍人らしからぬ体力の無さには、ほとほと呆れる。
二人の会話を耳にして、ようやくセーラもカネジョーのダウンに気づいたようだった。
「えっ、やだ、カネジョーったら言ってくれれば私がダッコしてあげたのにぃ〜」
「うっせーよ!」
へばっていた割に抵抗するとは、意外と元気じゃないかカネジョーの奴。
俺の後方ではナナたんとレンが仲良く草むらに腰を降ろし、水筒のお茶を飲んでいる。
ナナたんは嬉しそうに笑って、レンと、どうでもいい雑談に花を咲かせていた。
ナナたんの唇が、お茶で潤いを増してツヤツヤしている。
いつか二人っきりになれたら、ナナたんが「あん、もう駄目、キースのばかぁ……」って
潤んだ瞳でギブアップを告げるまで、思う存分チューしまくってやるんだがなぁ。
駄目って言いながら、お手々は俺の背中に回されているんだ。
俺の求めに応じて、可愛く喘ぐナナたんを想像するだけでも御飯十杯は軽くいける。
だが今はナナたんとの快楽も、お預けだ。
クレイダムクレイゾンへ行くのが最優先だからな。
合間に休憩を挟みながら歩くこと、さらに五時間ほど経過しただろうか。
どんどん日も暮れてきて、俺達は草原のど真ん中で野宿することになった。


ユンの、というよりはセツナ女医の命令でテントを組み立てる。
「あッつ!」
不意に、ナナたんが小さく叫んで指を咥えた。
紐を切る際、自分の指まで切ってしまったらしい。
「ナナたん、大丈夫か?俺がレロレロしたら、たちどころに治っちまうぜ、そんな怪我」
レロレロと舌を出しただけで、ナナたんは露骨なほど眉間に縦皺を寄せて身を退いた。
「やだっ、汚い!キースなんかに舐められたら、指が壊疽しちゃうわ!!」
すっかり黴菌扱い、か……
だが、そうやって彼女の怯える姿も、俺の股間を刺激するスパイスとなるのだ。
いつか床に組み敷いて、嫌がるナナたんのオッパイを思う存分――
「キース、手がお留守になってるわよ」
おっと、いかん。妄想の虜となっていたようだ。
女医の小言を食らった俺は、ナナたんの切ったロープを引っ張り杭に結びつける。
「よしっ……と。これで完成だな」
途中ナナたんが怪我を負うハプニングもあったが、野営の準備が完了した。
俺達はたき火を起こし、火の一周を囲む形で座り込む。
「地図によると、うぅん……あと一日で到着できる距離かしら」
女医の広げた地図を覗き込み、俺達も尺度から、おおよその距離を目算する。
「だな」
俺が頷き、カネジョーが大きく伸びをした。
「あーっ、かったりぃ!テキトーに金作ってからくりゃ良かったんじゃねェのか?」
「だから、そのお金を作るためにクレイダムクレイゾンへ行くんでしょうが!」
カネジョーの愚痴に、レンが金切り声で言い返す。
ナナたんは、というと、すでに寝袋を用意していた。
「ねぇ、そんなのどうでもいいから、早く寝ようよ!」
早くも寝る気満々だ。
「じゃあ、俺が添い寝してあげよう」
いそいそと近づくと、ナナたんは寝袋ごと身を退いた。
「やだ!こっち来ないでよ、変態!!」
「キースは出口、カネジョーは一番奥に寝てちょうだい」
振り向くと、眦を釣り上げたセツナ女医と視線がかち合う。
「キースの隣にはユン、レン、セーラ、ナナ、私、で、カネジョーが一番奥」
颯爽と仕切る彼女を横目に、俺はユンへ囁いた。
「すっかりリーダー面していやがるじゃないか、あの女先生。
 現リーダーとしても、ここはガツンと言っとくべきじゃないのか?ユン」
だがユンの返事と来たら、実に素っ気ないもんで。
「……いや、いい。助かっている」
奴は短く答えると、さっさと寝袋にくるまり横たわってしまった。
「チッ」
俺も舌打ちして、言われた場所に横たわる。
出入り口付近って一番寒いんだぞ。嫌がらせ以外の何物でもないな、これは。
セーラとカネジョー、ナナとユンの位置を放している辺りも、意図的による物だろう。
俺とユンが横になったのをきっかけに、他の連中も寝袋へ入り込む。
ナナたんは、がっちりセーラとセツナの年増コンビでサンドイッチされていた。
これじゃ用足しから戻った後、寝ぼけたフリでナナたんに抱きつくこともできやしない。
チッ。つくづく策士だな、女医。
今日の処は、俺も大人しく寝ておくことにした……


読み返してみれば、だいぶ本音をさらけ出しちまったが、ま、この際だ。
俺が皆をどう思っているのかを、知ってもらおうじゃないか。
俺達は運命共同体。一蓮托生で、この任務に挑む仲間なのだから。
というわけで、次の順番はセーラか。明日の記録を宜しくな。

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