第九小隊☆交換日誌

報告その12:アクシデント発生  【報告者:カネジョー】

これまでに判ったことを、まとめとく。

・この世界の名前はワールドプリズ
・亜人の島に起きた異変はジェスターとかいう奴の仕業
・島にいるバケモンは自由に変身できるし他者にも乗り移る
・なんか俺達が退治する事になったらしい
・戦えよ、ドラゴン

……こんなトコか?
ついでに、昨日起きた事件の顛末も書いとくか。


ドラゴンどもから話を聞いている最中に、それは起きたんだ。
キャーって悲鳴が聞こえたんで、そっちに行ってみたら
ビッチのアホが、女を襲ってやがった。
セクハラか?って思ったんだが、そうじゃなく取り憑かれたらしい。
何にって決まってる。その、例のバケモンにだ。
ったく。足手まといになんのも、いい加減にしろよビッチ。
「いかん、正気を失っておる!
 あの状態は、まさしく奴らに取り憑かれた状態じゃ!」
ってドラゴンの長が叫ぶのと、斬の走り出したのが、ほぼ同時で。
俺達が声をかける暇もなく、あいつはビッチを殴り倒しちまった。
容赦ねーな。
しばらくして起き上がったビッチは、放心してた。
いや、魂が抜けちまったとでもいえばいいのか?
こっちが何を話しかけても、ボーッとして答えやがらねぇ。
長曰く、取り憑かれた者は皆、記憶を奪われるんだと。
あぁ、もちろん死ぬまで、このまんまってわけじゃねぇ。
数日経てば、自分が何者かも思い出すらしい。
ただしドラゴンの場合だが、とも一言付け加えられたけどな。
まぁ、ビッチは図太い野郎だし、そのうち戻るんじゃねーか?
戻んなかったとしても、それはそれ、だ。
冒険家を名乗ってるぐらいだし、危険は承知の上だろ。
「このまま彼を連れ回すわけには、いかないわね……
 斬、一度戻ってMrを病院に入れましょう」
ドクターの意見に斬が頷く。
「うむ。それと救援を頼むか……」
「救援?」
スージとレンがハモる。
「そうだ。今回の敵は我々だけでは手に余る相手と予想される。
 何しろ、あのジェスターの放った刺客だからな……
 我々にも協力者が必要だ。
 一旦本国へ戻り、ハンターや傭兵を募集しよう」
斬は頷き、皆の顔を見渡した。
ま、それが妥当だろうな。
俺達だって最初の依頼で死にたくねーし。
まだ礼金だって貰っちゃいねぇ。

そんなわけで、亜人の島探索もソコソコに
俺達は一路、レイザースへ戻ってきたってわけだ。
行く時は、やたら時間がかかったような気がしたが
帰りは、めっちゃ早かったような気がするぜ。
変なバケモンが出なかったおかげか?
一夜を船内で明かし、次の日はクレイダムクレイゾンへ直行した。
俺達の報告を全部聞き終わった後、依頼主はしかめっツラで答えた。
「そうですか……島に、そのような異変が起きていたとは。
 ともあれ、ご苦労様でした。約束の報酬をお支払い致します。
 しかし、シモビッチ氏には悪いことをしました。
 そのように危険の高い場所であると判っていれば、
 彼を行かせたりしなかったものを」
そもそも、なんであんなのを雇ったんだ。こいつは。
ビッチが何かの役に立った記憶なんか一度もねーぞ?
「簡単な依頼だったら、経験稼ぎになったんですけどね〜」
とかスージが言ってやがったから、俺は小声で尋ねた。
「お前ら、ビッチと顔見知りだったのか?」
「うぅん、僕達もここで知りあったんだよ」
スージは首を振って否定すると、ひそひそと小声で返してきた。
「あの人の家系は代々ネイトレット家のお抱え冒険家なんだって。
 でも、シモビッチさんの代になってから
 一度も冒険に出る機会がなかったらしくて……
 今回が初冒険だったんだって」
つって、ポツリと付け加えた。
「でも、可哀想な事になっちゃったね」
なーにが可哀想、だ。
可哀想なのは俺達だろ、あんなバカに足を引っ張られて
ノコノコ戻ってくるハメになっちまったんだから。
初心者は、おつかいから始めりゃ良かったんだ。
ま、しょうがねぇ。
戻ってきた理由はビッチの不調だけじゃねーしな。
ビッチの件はネイトレット家にお任せするとして
俺達は人手をかき集めるべく、酒場へ向かった。


俺達が行ったのはクレイダムクレイゾンにある
『輝かしい赤煉瓦亭』って店だ。
一階が酒場で、二階は宿になってる。
赤い煉瓦造りになってて、割とかっけぇ酒場だ。
んで、壁に人員募集のポスターを貼りだしてたら
でっけぇクロンボが俺達に声をかけてきた。
「よぉ、この人員募集ってな定員何名までだ?」
この野郎。
挨拶も抜きたぁ、いい度胸してんじゃねーか。
「えっと……ボブだっけ?確か」
なんだよ、ジロの知りあいか。
ボブって呼ばれたクロンボは一瞬ポカンとした後
「おっ。そーゆーお前はハンターの、タロ!」
って叫んだけど、名前間違ってんぞ。ジロだ、ジロ。
「あはは、惜しい〜。正解はジロでしたー」
いや、掠りもしてねーだろ。
馬鹿笑いのスージが寄ってきて、ボブと握手する。
「お久しぶりです、HANDxHANDGLORY'sのスージとジロです。
 ハリィさんは、お元気ですか?」
「あぁ、元気も元気、最近は仕事がねぇってんで
 釣りばっかやってるよ、うちの大将は!」
大声で笑い返したボブが、うちの女連中にエロい目線を送ってきた。
「んで、こちらの綺麗どころは何なんだ?新ギルメンか?」
「あ、違う違う。前の依頼で知りあった、えーと、いせか」
言いかけるスージに、がばっと横からキースが飛びついて黙らせる。
あー。やべー、びっくりした。
いきなり何言い出すんだ、このポニテ野郎は。
続いてドクターが場を取りなした。
「商談話になりそうだし、続きは二階でやりましょう?」
眉をひそめるボブの背中はレンとナナがグイグイ押して
不審がってたクロンボも、仕方なく階段を登っていった。
あ、違う、途中で仲間らしき奴らに声をかけてから登ってったんだった。
「モリス、カズスン、新しい仕事にありつけっかもしんねぇゼ?
 俺と一緒に二階へ来いや」
呼ばれて、モジャモジャ頭のオッサンと目つきの悪い毛糸帽が立ち上がる。
あいつらがモリスとカズスンか……
どっちがどっちだか判んねーけど。

カズスンとモリスってのは、ボブの仕事仲間らしい。
こいつらはハリィってのが仕切るチームのメンバーで
以前、斬達と一緒に世界を脅かすバケモンと戦ったんだってよ。
世界を脅かすたぁ、えれぇ大袈裟な話だな。
だいぶフカしてんだろうが、ま、とにかく斬とは知りあいってこった。
目つきの悪い毛糸帽子かぶった男が、カズスン。
モリスはモジャモジャ頭の男だ。
どこにでもいそうなパッとしねー奴らだが、ビッチよかぁマシかもな。
仕事の話、っつーか交渉は斬が全部一人で仕切った。
俺達が口を挟む隙間なんか、まったくなかったぜ。
「それじゃ、さっそくだがよ」とボブが切り出して、斬が応える。
「仕事の話か……実は今、亜人の島で異変が起きていてな」
「亜人の島!?あんたら、あの島に入ったのか!?」
カズスンがすげービックリしてんだが、そんなに驚く場面か?ココ。
「あ、仕事で入ったんです」とスージがフォロー。
「へぇ〜。ドラゴンに威嚇されたりしなかったのか?」
まだカズスンは感心してやがったが、斬の放置っぷりもすごかった。
奴の質問をスルーして、どんどん話を進めていきやがる。
「ドラゴン曰く、かの黒騎士が異変をもたらしたのだ。
 恐らくは異世界の怪物であろう。
 奴らは変幻自在に変身し、他者に乗り移ることもできるそうだ」
「奴ら?敵は複数確認されてんのか?」
おっ、ボブはちゃんと話についてこれてんのか。
感心、感心。ただのデクノボウってわけでもねぇんだな。
ついでに背後へ目をやったら、レンとナナが窓辺に座って何か話してやがる。
お前ら、暇だからって雑談してんじゃねーよ。
まぁ、俺もだんだん眠くなってきたんだけどよ。
早く終わんねーかなァ〜。
「魔法生物の可能性が高いですね……魔術師の協力が必要かもしれません」
モジャモジャがなんか言って、毛糸帽が頷いている。
「ひとまず、大佐に連絡を入れよう。
 あぁ、この依頼、俺達は引き受けるぜ。いいだろ?」
「勿論。歓迎しよう」
斬が頷き「やったぁ〜!またハリィさん達と一緒だ♪」とかスージが喜んで
「そういや、このお綺麗様方の紹介を、まだされてねぇンだが」
とかなんとかクロンボが言ってるとこまでは、聞いた覚えがあるんだが……



悪ィ。
気づいたら、夜中だった。
つーわけで後の補足は頼んだぜ、レン。

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