第九小隊☆交換日誌

報告その5:海路を行く  【報告者:カネジョー】

あー、めんどくせ。
なんで交換形式なんだ?
こんなモン、やりたい奴がやりゃあいいっての。


異世界四日目。
クレイダムクレイゾンで依頼を引き受けた。
亜人の島ってのを 探索するらしい。
んで、その護衛役をやればいいんだと。
俺達は全員採用されたんだが
一緒に採用された奴らが、すっげヘンだった。
まず、リーダーが全身黒ずくめっていう変態だ。
名前は斬(ザン)。
暗殺者でも気取ってんのか知んねーが
ご丁寧に顔までビッチリ黒い覆面で隠してて
目しか見えないような奴、雇う方も頭おかしいだろ。
んで、そいつの部下は三人。
まず、金髪のポニーテールがスージ。
女みたいなツラしてて、声もやたら甲高いから
絶対女だと思っていたら、男だった。きめぇ。
それから、黒髪で赤い帽子を逆向きに被っている男。
こいつはジロっていうらしい。
どんよりした目で、あんま強そうじゃねぇ。
最後が、エルニー。
仰々しい縦巻きロールの金髪女だ。
四人合わせてギルドっつーグループを組んでる。
名刺には『HANDxHANDGLORY's』って書いてあった。
「なんて読むんだ?」って俺が聞いたら、
スージが「ハンドハンド・グローリーズだよ」と教えてくれた。
なんだ、xは飾りかよ。

亜人の島までは、船で行くんだと。
でもって、依頼主は一緒に行かないらしい。
「じゃあ誰を護衛するんだ?」ってキースが聞いたら
「無論、冒険家が行くのだよ」って依頼主が答えた。
雇った冒険家を行かせて、成果は自分の手柄ってわけだ。
なるほど、いかにも金持ちの考えそうなこった。
「海図は読めるかね?」と依頼主に聞かれたんで
セーラが自信満々ってツラで答えた。
「お任せ下さい!海路は私達のもっとも得意とする道ですわ」
あーあ、そんな豪語しちゃって大丈夫かねぇ?
忘れてっかもしんねーが、ここは異世界だぞ。
海図だって、俺達の世界とは違うかもしんねーのに。


船は依頼主が用意した帆船だった。
イマドキ風任せの船旅かよ?って思ったんだが
斬の話によると、こいつは帆船に見えて帆船じゃないんだと。
中身は機械化されていて、エンジンも積まれている。
じゃあ帆、いらねーじゃん。
無駄な飾りに凝るのが、金持ちってやつなのかねぇ。
依頼主から手渡された海図を見て、セーラが首を捻ってる。
「あ、あれぇ〜?こ、これ、本当に海図ですの?」とか言って。
大方、そんなトコだろうと思ってたぜ。
見ろや、斬や冒険家も呆れてんじゃねーか。
「やれやれ、大口を叩いた割には大したことがございませんなァ」
とか言ってんのは、同行する冒険家のヤロウだ。
名前はシモビッチ=ソシール。
なんかキッタネェ語感の名前だよな。
シモビッチは、ぶっくぶくに肥えたオッサンだ。
酔ってるわけでもねーのに、汗っかきで赤い顔をしてて
側にいられるだけで室内温度が一、二度あがりそうな男だ。
あと服の上からでも、はっきり三段腹なのが見て取れる。
情報誌に載ってた顔写真って、こいつのじゃねーか?
「わからないのならば、無理をする必要はない」
とか言って、斬がセーラから海図を奪い取った。
あいつは海図が読めるらしいな。
ま、道案内は原住民に任せときゃいいんだ。
「この海には出るのか?バケモンや海賊ってのが」
俺の質問に答えたのは、巻き毛女だ。
「えぇ、勿論。その時は、あなた方の出番になりますわね」
あなた方?
お前らも戦うんじゃねーのか。
「あなた達も護衛じゃなくて?私達と言うべきね、そこは」
ドクターのツッコミを、巻き毛女は鼻でフッと笑い飛ばした。
……なんか感じ悪ィな、こいつ。
「あぁら、わたくし達は野蛮な海賊や海のモンスターは
 専門外でございましてよ」
じゃあ、なんで護衛の仕事に志願してきたんだよ?
「わたくし達の出番は、亜人の島へ入ってからですわ。
 それまでの護衛は、あなた方のお仕事でしてよ」
よく判んねーが、そういう段取りが既に出来てたらしい。
勝手に決めてんじゃねーよ。
「なるほど、俺達の役目は露払いか」
ぼそっとユンがなんか言ってたが、誰も聞いちゃいねー。
いや、ナナが「頑張ろうね、ユン兄!」とか何とか
相づちを打ってたから、こいつは一応聞いてたらしいな。
ま、聞き逃したところで、どーってこたねぇ独り言だけどよ。
ともかく船は出航し、退屈な海の旅が始まった。
海賊でもバケモンでもいいから、なんか出ねーかなー。
何もないまま島についちまったら、マジで俺達役立たずじゃね?

……なんて俺の考えを空気が読んでくれたのかは
わかんねーんだが、まわりが海しか見えない場所まで
船が突き進んだ頃、突然風が強くなってきやがった。
これは……何かが出る前兆か?
慌ただしく走ってきた船員が報告した。
「沖合に複数の船を、発見しました!」
「何ィ?複数の船だとぉ、レイザース船ではないのか」
ビッチの疑問に答えたのは斬だ。
首を真横に振って「レイザースの船は滅多に、この付近を通らぬ」と。
「船は三艘と確認、こちらへ向かって進んできます!」
他の船員達も騒ぎだし、金髪ポニテもつられて喚いた。
「海賊だ!バイキングだよ、きっと!どうしよう、ジロ、マスター!」
どうするもこうするも、こんな時の為に俺達がいるんだろーが。
「おい、この船には武器があんのか?」って俺が聞いたら
船長が答えた。「魔砲は一台しか積んでおらん!」
なんだ、魔砲って。
わけわかんねー大砲、積んでんじゃねーよ。
普通の大砲はねぇのか、普通のは。
「どうする、ユン。敵は三艘、こっちは大砲が一台ときた」
キースが尋ね、ユンは遠目に目を凝らして答えた。
「今なら、まだ振り切れる。船長、大きく旋回して逃げ切れるか?」
「敵は旧型だ、全速すりゃあ逃げ切れんこともないが……」
なんだ?歯切れが悪ィな。ユンも聞き返そうとしたんだが
「冗談じゃない!」とか怒って、ビッチが割り込んできやがった。
「旋回したら島が遠のくじゃないか!」
そりゃ仕方ねーだろ、無益な戦いを避ける為なんだから。
「私は、船酔いしやすんだぞ!?さっさと島に着きたいんだッ」
なんだそりゃ、100%テメェの都合じゃねーか。ふざけんな。
こんなオッサンと共倒れする趣味なんざ、俺達にはねーんだ。
俺は船長に言った。あと、ビッチにも。
「うっせーよビッチ、おい船長、さっさと旋回して振り切ろうぜ」
「だっ、誰がビッチだ!私の名はシモビッチだぞ、失敬な小僧め!!」
まだビッチが怒ってるけど、無視だ無視。
「よぉし、面舵いっぱぁぁい!」
船長の号令で、船が大きく傾く。
「旋回しろ!奴らを振り切るぞッ」
めっちゃ揺れてっけど、船乗り達はさすがだな。
誰一人として船酔いでダウンする奴はいねぇ。
まぁ、当たり前っちゃ当たり前だけどよ。
もちろん、俺達だって平気だ。伊達に海軍やってねーからな。
「う、うぅ……」
って、おい。
ナナの奴、フラフラじゃねーか。なんか顔、真っ青だし。
「何青くなってんだよ、ナナ。まさか船酔いしちまったのか?」
「う、うるさいわねぇ……おえっぷ」
マジかよ。
「ナナたんのゲロなら俺が全身全霊で受け止めてみせる!」
とかキースがマジキチほざいてやがったけど、やめとけ。汚ねーから。
んで、ドクターは何してんのかっていうと
すでにゲロッてるビッチやジロ達を介抱していた。
セーラ?奴なら俺の腕を、しっかり握って震えてんぜ。
ぶっちゃけウザイんだが、振り払ったら払ったで
ギャーギャー文句を言いそうだし面倒なんで、そのままにしといた。


しっかし、この船はえーなー。
三艘の海賊船をブッチで振り切って、大海原に戻ってこられたよ。
でも今、ドコらへんにいるのかは斬にも判んねーってさ。
海のど真ん中じゃ海図も役立たずだもんな。
「ひとまず島を目指して進んでみちゃあ、どうだろう?」
キースの提案に、斬が頷く。
「うむ。北を目指して進めば、メイツラグか亜人の島へ辿り着けよう」
船酔いしてねぇのは、俺とユンとキースとドクターとセーラ
あとは船乗り達と斬ぐらいか。
他の奴らは全員ゲロ状態だ。だらしねぇったら、ありゃしねぇぜ。
普段は生意気なレンも、ぐったり甲板でオネンネしてやがる。
ったく、ジロやビッチは海に慣れてねぇのかもしんねーが
お前とナナは海兵だろ?一応。
船は針路を北に向けて、動き出した。
どっか島が見えるまで、酸っぱい匂いを放つ甲板でも掃除しとくか。

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