Infallible Scope

act4

亜人の島を襲った怪奇現象――
形なきものが乗り移って人を操り、悪さを働く。
別の姿にも変身する。
これまでのレイザースでは、一度も見かけなかったモンスターの類か。
或いはモンスターではなく、余所の世界から紛れ込んだ亜種なのか。
それすら判らず、情報収集の糸口も見つからない。
故に、傭兵のハリィは唯一の手がかりである反逆の騎士に目をつけた。
奴の行方を辿れば、何かを掴めるかもしれない。


方々に散ったチームメンバーは、リーダーの号令で一つの場所に集まった。
南国の群雄諸島、うち一つのヴァーリ島だ。
「ジェスターの足取りですけど見つけましたよ、それっぽいのを」と、切り出したのはレピア。
「ジャネス周辺で見かけない顔の男が、山へ入っていくのを見た人がいたんです。黒騎士かどうかは思い出せないけど、黒のマントを羽織っていたそうです」
「山登りでマントってなぁ、確かにおかしな格好だナ」
ボブがうんうんと頷き、ハリィへ話を振る。
「何人かで山狩りしてみっか?」
「あぁ」とハリィも頷き、ちらりとジョージへ目をやった。
お願いする前から、彼には「いいですよ」と快く承諾され、続けて報告を聞かされる。
「酒場での聞き込みですが、これといって芳しいものはありませんでしたね……怪奇現象は亜人の島でしか起きていないんじゃないでしょうか?」
「船乗りにも被害者はいなかった」と、これはボブ。
「連中は亜人同様、島に引きこもっていると考えたほうがヨサゲだな」
「しかし、ジャネスかぁ。亜人の島からは、かなり遠いな」
うーん、と腕を組んでバージが考え込む。
「そんなとこの山奥から指示を飛ばして、届くもんかね?ジェスターっぽい奴は今回の事件とは無関係なんじゃ」
「けど」と異を唱えてきたのは、情報を拾ってきた本人のレピア。
「怪しい奴を、このまま放置しとくわけにもいかないだろ?」
「そこは俺が様子を見てきてやるから、落ち着けって」
彼女をジョージが宥めるのを横目に、ルクも尋ねた。
「保護ハンターからの連絡は?」
ちらりと通信機を確認して、「あぁ、一通来ているな」とハリィが答える。
メッセージを開いてみると、こうだ。

――島に新たな異変発生。すぐに来られたし。

「すぐに来いって言われたって、俺達にゃあ足がねーぜ」
ハリィ達は斬と違って賢者にコネがあるわけでもなければ、亜人と知り合いでもない。
島へ渡る手段を持っていない。
「あの」と、カチュアが手を挙げた。
「移動手段なら、僕の魔法でなんとか出来ますよ。それよりも」と、聞き込み調査の報告を続ける。
「シュロトハイナムにあった、悪魔の住処だった家は覚えていますか?あそこから面白いものが見つかったそうですよ」
カチュアの報告によれば、今でもシュロトハイナムにはクローカーの住居が残されていて、ちょっとした観光名所になっていたらしい。
最近、そこの床下に妙な反応が見られると首都から出向の役人に指摘されて掘ってみたところ、なんと大量のツボがゴロゴロと出てきたというのだ。
「壺の蓋には、お札のようなものが貼られていたそうです。何かを封じ込めていたのではないか、とは役人の推測だそうです」
「きみは何だと推理する?その壺の中身だが」
ハリィに問われ、少し考えた後。カチュアは述べた。
「やはり、使い魔……悪魔の眷属が入っていたと考えるのが妥当でしょうね。主がいなくなって封印も緩まり、出て行ってしまったのでしょうか」
「もし、それが亜人の島で暴れている奴だとして」と、言葉を繋いだのはモリスだ。
「何故、レイザース本土を無視して亜人の島に直行したんでしょう」
皆で頭を捻ってみても、未確認生物の起こした行動の動機など判るはずもない。
「皆目見当もつきませんね」
「亜人に何か、感じるものがあった……?」
「そんなのは怪奇現象を起こしている本人に聞きゃ〜いいだろうがよ」
しまいには、ボブが推理を放り投げる。
「そうだな、とにかく一旦ハンターと合流しよう」と、ハリィも席を立った。
「出発は明日。明日までに手配できるか?カチュア」
「僕の準備は、いつでもオーケーですよ」と、カチュア。
返事を横目に、ハリィは皆にも号令をかける。
「聞いたな?準備が必要な人は、今日のうちに整えておいてくれ」
仲間は「了解です!」といった返事を残して、酒場を出ていく。
ハリィもまた、出ていく途中でルクに声をかけた。
「南国気分を味わえるのは、今日でおしまいだ。しばらく来る事もないだろうから、準備のついでにお土産でも買ってこよう」
「えっ?」と驚く背中を押され、よろめくようにしながらルクも出口ヘ向かう途中。
「あっ!また二人で行動ですか?ずるいですよ、僕もいきます!」
背後から甲高い声が追いかけてきて、反対側からハリィの腕を取った。
「ね、ハリィ大佐。僕、ずっと会えなくて寂しかったんですよぅ〜?」
なんて媚び媚びな声を出していりゃ、もう一人が気づくのも当然というもので。
「あっ!何抜け駆けしてんのさっ」
少々ヒステリックな声も混ざってきて、結局四人で土産屋へ向かった。


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