彩の縦糸

長門日家は、先祖代々霊媒師を受け継ぐ家系である――
と、親から聞かされて育った源太であるが。
自身の家系について、疑問に思わぬ事がないでもなかった。
もし生まれた子に霊力がなかったら、そこで家系は終了なのだろうか?
幸いにして自分も弟の吉敷も並以上の霊力をもって生まれたから、自分達の代で家系が潰えるということは、なさそうだが。
源太はまだ学生の身であったが故に、子供を持つ自分の姿が想像できず。
或いは自分の次の代で潰れるんじゃないかと、ぼんやり考えた。

高校を卒業して間もなく、十九歳を迎える前に両親が死んだ。
二人揃って、依頼中に命を落としてしまったものらしい。
詳しい死に様は知らされなかった。
彼ら二人だけで引き受けていた依頼の内容など、他人がどうやって知り得ようか。
依頼主が頭を下げに来て、それっきりだ。
詫びと称して、幾ばくかの金と線香を立てて。
両親が他界した今、源太が生活費を稼がねばならぬ。
他に身よりもないので、霊媒師になるしか道は残されていなかった。
いや、一応霊媒師以外の進路も考えてはみたのだが、どれ一つとして出来そうな職がない。
接待は得意ではないし、営業も無理だ。
事務や経理なんてやろうもんなら、頭が爆発する。
強いて言えば肉体労働系、いわゆる土木師が向いていそうな気もしたのだが、せっかく持って生まれた霊力だ。出来ることなら、世のため人のために使いたい。
土木は霊力のない者でも出来よう。
だが、霊媒師は霊力なくしてなれぬ職なのだ。

しかし、ここで問題が一つ発生した。
源太は無名も無名、超無名の立場にある。
おまけに長門日流の知名度も低い。
かつては無敗を誇ったそうだが、源太の物心がつく頃には落ちぶれており、これでは客が取れそうにもない。
どうするか。
すぐに、答えは出た。
まずは、この界隈で一番流行っている流派の門弟に下る。
そこで霊媒師の資格を取り、有名になったら長門日流を名乗ればよい。

だが万が一、霊媒師になれなかったらとも考えて、源太は親の残した幾ばくかの遺産を使い大学へ入学した。
大学さえ出ておけば、就職活動でもツブシが利く。
土木師でも、上の役職へ就く機会が生まれよう。
大学へ通う傍ら、霊媒師の修行も行なう。
要は、どちらかが実になれば良いのだ。生活費を稼ぐ為に。

  
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