彩の縦糸

其の一

蝉が鳴いている。
ここへ来るまでの道のりで、たくさんの汗をかいた。
何もない田舎道だが、坂が幾つもある。
そのくせ日陰がないのだから、汗だくにもなろうというものだ。

夏の真っ盛りに、十和田九十九は猶神流の門を叩いた。
十九歳。
この春、大学生になったばかりの年頃だ。
高校卒業までに進路を決められなかったので、仕方なく大学を目指したのである。
普通は、違うのだろう。
大学へ行くには、なにかしら理由を必要とするはずだ。
だが、大学に入っても尚、九十九は進路を決められずにいた。
そんな折に、知ったのだ。
世の中には霊媒師という輩がいて、世のため人のために働いているのだと。
霊媒師は、報道媒体に姿を表すことがない。
おまけに十和田家は霊に悩まされたり被害に遭うこともなかったから、九十九も、ずっと彼らの存在を知らずにいた。
だが、知った今となっては知らぬ存ぜぬで生きていくわけにもいくまい。


霊媒師を目指そう。
漠然と、そう考えた。


霊媒師になるには、霊力を必要とする。
人間誰しも必ず多少なりとも霊力を持っているものだが、霊媒師は霊力の放出が出来ないと、お話にならない職業であるらしい。
そうした霊力の検査や出力試験は、各流派の道場で実施される。
月に一度、門下希望生を集めて霊力検定を行なっているそうだ。
――というのは、取り寄せた資料に書いてあった大前提。
霊力検定の実施日を確認して、九十九は、あっとなる。
明日じゃないか。
えらく急な話になってきた。
無論、検定を受けて、すぐ霊媒師になれるわけじゃない。
そこからは道場での修行が始まり、師匠に合格をもらうまでは霊媒師を名乗ることも許されない。
修行は終了期間が人によってまちまちで、才能がない者は十年経ってもプロになれないのだという。
そこまでいってしまうと大抵の者は挫折して、自ら辞めていくのだそうだ。
検定を受けて、もし資格がない、駄目だと言われたら、どうしよう。
九十九は少し悩んだのだが、なければないで、別の道もあろうと思い直し、検定を受けるための用意を始めたのだった。

そして、翌日。
坂を何度も登ったり降りたりして、ようやく猶神流の本山へと辿り着いたのだ――

  
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