Chapter3-5 因縁の対決、再び
次々起きる急展開にはダークライオンへ搭乗したエリーもついていけずにいたのだが、「そうかよ、全部ぶっ潰す方向へ出たってんならギアが出てくる前に片付けようぜ!」と通信機へ吼えるリックスの声で我に返る。
「ちょいとお待ちよ、サイクス同士で戦うなってフェイが言ってなかったかい?」
「はぁ〜?もうそんな呑気なこと言っている場合じゃないってのが分かんねぇかなぁ、このオバチャンは!」
「オバッ、
誰がオバチャンだ!あたしは、まだ二十一歳だよ!?」
額に青筋を立てて脇道へそれるエリーには、リックスも同じぐらいの勢いで怒鳴り返す。
「二十一ィ?じゅーぶんオバチャンじゃねーかっ、戦況を理解できないなら黙って乗ってろ!」
おかげでエリーの頭は怒りでいっぱいになり、戦闘を止める方向はウッチャリされてしまった。
「二十一の何処がオバチャンだってのさ!大体、そういうあんたは幾つなんだよ、あたしよりフケ顔なくせしてさッ」
隣で怒鳴るエリーなんかには目もくれず、リックスは「いけぇ、ダークライオンッ!」と叫んで移住者の乗るSAYCSの間を駆け抜け、空へ砲撃する。
空に浮かんだ連中がリックスの射撃を受けて去るかというと、それもなく、反撃が地上へ降り注ぐのへは急ストップの急ターンで「おっと危ねぇ!」とリックスが避けるたびに、エリーは反動で振り落とされまいと座席にしがみつくので精一杯だ。
「ちょ、ちょっと、どう考えても不利だろ、この戦い!」
「だからァ、SAYCSでの戦闘を知らないオバチャンは黙ってろっての!」
「誰がオバチャンだぁ!」
堂々巡りの繰り返しな二人のコント会話を遮ったのは、若葉からの通信だ。
『気をつけて、リックス!援軍が近づいてきているっ』
「援軍!?」
リックスとエリーの両名が叫ぶ。
援軍って何処からだ、空か?それとも地上を走ってきているのか。
あちこちを見渡したエリーの目が捉えたのは、フェンの機体が被弾した瞬間であった。
「あっ!」と思わず叫んだエリーに気を取られたか、ダークライオンも被弾して「だぁっ!」とエリーが座席を転がり落ちる。
どうにか無様に転倒するのだけは免れて「驚かすなよ、オバチャン!」とリックスが怒鳴った時、ダークライオンの真横を茶色の影が走り抜けた。
「げぇっ、ビーストPro!?もう来ちまったのかよ、ギア!」とリックスが叫ぶからには、あれがギアの乗る機体であろう。
見た目は茶色の熊、リックスやゼインの機体と比べると動きは、やや緩慢に感じる。
だが、一機しかいない。
若葉の言い方だと、軍隊を率いてくるような話だったのに。
さして此方へ通信を入れるでもなく、後ろ足で立ち上がった熊は上空へ向けてカッと光の線を吐き出した。
すると、どうだろう。
空を飛んでいた何体かが光に触れた直後、ふらふらと落ちてゆくではないか。
「当たった!?」
驚くエリーに何を驚くのかと「当たり前だろ?地上からだって砲撃すりゃあ当たるんだ」とリックスが小馬鹿にしてくるから「でも、あんたの攻撃は当たらなかったじゃないか!」とエリーも言い返す。
そうすりゃ気の強い同士、当然リックスには「当たりはするけど当てるのが難しいんだっての!もぉーなんで判んねぇのかな、このオバチャンは!」と嫌味で返されて、またも喧嘩が再開しそうだ。
しかし、派手な口喧嘩第二ラウンドをおっ始める前に今度はゼインが通信を入れてきた。
『あいつらは二機だけで対処するつもりだ、援護するぞ』
「あったりまえだぜ!」
打てば響く返事のリックスに、エリーはフェイの言葉を思い出す。
そうだ、サイクス同士で戦わせては駄目だったんだ。
「お待ちよ、ゼインも!フェイが言っただろ、あんた達は戦っちゃ駄目なんだ!」
『そうでもなさそうだぜ』と返してきたのは、ゼインじゃない。ヒョウだ。
『この戦い、同盟国は全我関せずだとよ。少なくとも、これを倒したってツェッペルやメキシクとの戦争にゃならねぇらしい』
衝撃の事実には
「はぁ!?」と二人でハモるしかない。
同盟国が襲われていても干渉しないってのは、どういうことだ。
リックスが問うと、ヒョウは『同盟は、とっくの昔に破棄されてたってこった』と答え、『向こうさんもアレの始末にゃ手こずってんじゃねぇか?だから、戦力のある大国に処理させようってんだろ』と推測を語った。
『いくらビーストProが優秀な機体だとしても援軍を含めた全機を撃ち落とすのは無理だ。ブレインノアも押されている』とはゼインの弁で、頭上を見上げれば人型と交戦する脳髄が見えて、どちらが押しているのかエリーには判別できなかったのだが、リックスが「ホントだ、やべーじゃねーか!サイクが落ちちまったら、誰もギアを直せねぇ」と叫んだ。
いや、しかし、ブレインノアは自ら敵の大将機へ突っ込んでいったはずだ。
まさかと思うが、相打ち覚悟の突撃なんだろうか。だとしたら、早いとこ援護に回ったほうがいい。
エリーがリックスへ進言するよりも先に、頭上でフェイの声が響き渡った。
『お願い、そこの茶色のケモノ!他のケモノとは戦わないで!フェザーリングのリングだけ破壊して!』
「なんで外部音声にしてんだ?」とリックスが首を傾げるのへは『ギアが通信を拒否し続けている以上、こうするしかあるまい』と通信の向こう側でゼインが答え、エリーの視線は空へ向かう。
アイアンクロウは先ほどから旋回を繰り返しているのだが、できればあまり戦闘してほしくない。
あの機体にはフェイが乗っている。
もし墜落するようなことがあったらと思うと、エリーの胸はキリキリ傷んだ。
何も答えないかと思っていた茶色の機体からも『うるせぇ!戦場を知らねぇ外野はすっこんでろ、全部撃ち落とさなきゃアルを狙えねぇだろうがッ』と声を大にした外部音声が轟き、間髪入れずにゼインが『来たぞ、援軍だ!』と注意を促してくる。
空だ。
空を覆う大群が、こちらへ向かって飛んできた。
ゴクリと唾を飲み「あんな沢山、また作ったってのかよ……!」と緊張するリックスを見て、エリーにも敵の援軍だと理解できる頃には援軍の内一つ、他のと比べて多少大きめな雲模様の機体が外部音声で話しかけてきた。
『よぉ、久しぶりだなぁ、ギアッ!俺だよ、判るか?』
『その声……レキか!』とビーストProが答え、レキ?と首を傾げるエリーの真横、それから通信の向こう側でも同時に「レキだぁ!?」『レキ……やはり出てきたか!』と反応するのを見るに、彼らの知り合いでもあるらしい。
そうだ、確かレキはアルの手駒として、散々利用されていたっていう人物ではなかったか。
今は死して墓の下にいるようなことも、リックスが言っていた気がするのだが……
そこへ『そやで、レキはんや。クローンやコピーとちゃうで、ホンモンのレキはんをウチが再生させたんや』と若い声が外部音声で割り込んできた。
あれがアルか。皆が天才の戦犯と恐れて、始末を考えている。
彼さえ倒せば、この戦いは終わるだろう。大きな戦争へも繋がらずに。
後方に控える若葉は素早く状況を見渡した。
空に浮かぶアルの手勢は援軍も含めて五十機ほど。
注意すべきはレキが乗る雲模様の改造ドラゴニールぐらいだろう。
ギアに撃ち落とされた機体の復活はない。とすれば、乗っていたのはバイノアではない。
「素体の大量生産なら、ギア一人でも対処できる相手だけど……」と呟く若葉に「素体だと復活せんのか?」とエデンが尋ねる。
「素体は実験段階で再生回数の限度を突破してしまうことが多いんです。倒された機体が復活しない点を見ても、回数を使い切っている……そう考えたほうがいいでしょう」
若葉の答えに「ふむ、無限に使えるわけではないのか。安心したぞい」と納得するエデンを横目に、こうも付け足した。
「ただ、数が多いので、フェザーリングを狙い撃ちするには、誰かが囮になって素体を引き寄せたほうがいいかもしれません」
「ふむふむ、それで囮には誰が?」と、エデン。
若葉は空を見上げて「空には空、フェンさんのアイアンクロウが理想ですね」と答えたのだが、即座にエデンからは「駄目じゃ!あれにはフェイが乗っとるではないか」と駄目出しされて、驚いた。
「フェイは儂らの旅に必要不可欠、危険な真似などさせられんわい」
「あ、そうか……風の声、を聴けるのはフェイさんだけなんですよね」
若葉の理解は早く、では誰を囮にするべきか。
フェン以外は全員地上機、敵は全員空を飛ぶ。誰がやっても不利である。
「ちなみに皆の機体は、何がどう違うんじゃ?」
初歩的な質問には若葉も笑顔で、つらつら解説する。
「まず、僕のワンダーフォーとジャックのラビット3は補給機です。ゼインさんのシルバーフォックスとリックスのダークライオンは完全に攻撃仕様ですが、二体とも対空砲撃は一つしかありません。しかもリックスは何年経っても射撃が下手で……」
解説しているうちに、絶望が若葉に襲いかかってきた。
ゼインの射撃は精密だが機体のパワー不足は否めず、レキと対等に戦えるのは、この中ではギアしかいない。
突撃以降、ブレインノアが攻撃に出ないのは、なんらかの不具合が起きたせいであろう。
「……フェンさんのアイアンクロウは、広範囲の攻撃に特化されているんですよね。拡散されるので個々へのダメージは低いんですが、囮にもってこいです」
「だが、駄目じゃ。フェンには戦闘へ参加するなと伝えてもらえんかの?」
エデンも頑としてフェイの安全を主張してくるしで、アイアンクロウは実質手勢としてカウントできない。
ここに、もう一人の仲間、シェンオーがいればフェンに囮をやらせなくて済むのだが……
ギアが出撃する際、彼の存在は思い出されなかったんだろうか?同じ国、同じ王宮にいるはずなのに。
「言わなくても本人も判っているようですよ。先ほどから旋回してばかりですし」
溜息と共に吐き出した後、若葉は解説を続ける。
「ギアのビーストProはスピードよりもパワーに重点を置いています。バイノアの同調でパワーが上がる仕様になっていますから、本当は部下を連れてきたほうが有利なんですけどね。それはサイラックスさんのブレインノアも同様で、乗組員の数によって攻撃力が変化します」
話している間にも、ビーストProが空へ向けて光の線を放つたびに何機か墜落するのが見えた。
シルバーフォックスも攻撃に転じているのだが、フェザーリングへの攻撃は全てが空模様の機体に弾かれて、ダークライオンに至っては空からの砲撃を避けるので精一杯だ。
「素体だけではなくレキ、あいつにも囮が必要じゃのう」
ぽつり呟いたエデンへ若葉も頷き、「まずはアルとレキ、二人の距離を離しましょう」と言うから、てっきり誰かに相談するのかと思いきや、いきなりの急突進に、エデンは「どわぁぁぁっ!」と叫んで座席から転がり落ちた。
「な、な、なにをする気じゃぁー」
「僕が囮になります!」
「なんじゃってぇ!?このケモノは補給機だと言っとらんかったか!」
「ゼインさんとリックスが事実上、素体への囮になっていますから、手の空いている僕がレキを引っ張るしかないんですッ」
エデンに反論の余地はなく、地上をジグザグに突っ走っていったワンダーフォーは空模様の真下まで出た。
『アンカード=レキィィィ、僕が相手だぁぁーー!』
勢いよく叫んだ外部音声は、レキの『いくぜギア、今度こそ俺のモノになれぇ!四六時中、日夜問わずで可愛がってやるぜぇ』といった欲望まみれの大声でかき消され、対するギアも『ウゼェ性格まで全然変わってねぇのかよ!何度でもぶっ殺してやらぁ』とブチキレ全開でレーザーを連発しており、若葉の出る幕がない。
『若葉、レキはギアに任せておけ。俺達は集中攻撃でフェザーリングを狙うぞ』
ゼインの通信に制止されて悔しげに空を見たのも一瞬で、すぐに若葉は嬉々として「シェンオー!」と叫んだ。
「え?」となってエデンも空を見上げると、ちょうどフェザーリングが大きく傾いたのが見えた。
その背後には、これまでいなかった機体が飛んでいる。
姿は茶色の鷹。ぐるっと旋回しては他の機体の攻撃を華麗に避け、フェザーリングのリングだけを器用に狙い撃ちしている。
「やった、シェンオーが来てくれたならリング破壊も僕達だけで出来ます!エデンさん、左の脇にベルトがありますので、しっかり身体を固定させといてくださいね。いきます!」
ベルトで身体を固定する時間を与えてもらえず、床を転がりながらエデンは考えた。
結局、風の危惧を全く無視してケモノ同士で戦う展開に持ち込まれてしまったが、大きな戦争は本当に回避できたのだろうか――?
外野のヒョウが見ても、レキとギアの実力は互角であった。
完全に一対一の構図ができあがっており、誰も手を出せない。
そうと分かった途端、ゼインの切り替えは早く、仲間にリングの破壊を命じる。
フェザーリングを守るがの如く飛び回る雑魚機は、オーソリアン方面から飛んできた茶色の鷹機が一手に囮を引き受けている。
あれがシェンオーであり、遅れてやってきた最後の仲間だそうだ。
『戦犯処理、僕もお手伝いしますよ』との通信へ「ギアは、お前の存在を忘れていたようだが」と突っ込むゼインには、シェンオーも苦笑する。
『お一人で片付けるつもりだったんでしょう。我らが王は傭兵時代から全く成長していませんのでね』
「王様がそれじゃマズイだろ」とぼやくヒョウを聴きつけたのか、『どなたか、ご一緒なんですか?』とシェンオーの声が尖る。
「この戦いを見守りに来た見物者だ。気にするな」と答え、ゼインは一旦通信を切った。
「ビーストProなら、雑魚が何十機こようと敵じゃない。だが、フェザーリングとロックイレイゾンだけは別だ。本当に一人で戦う気だったのなら、無謀という他ないな」
「なんで周りの臣下は止めなかったんだ?」
ヒョウの疑問に肩をすくめ「あいつの性根が傭兵時代と同じなら、止められる奴など居ない」と言い捨てて、ゼインは速度を上げる。
前大戦が終結した時、ギアは戦争を二度と起こさない誓いを立ててオーソリアンの王になった。
だからだ。サイラックスのみ連れて制圧にやってきたのは。
しかも最初に突進させた後は、母艦に待機を命じている。
ブレインノアは壊れたんじゃない、ギアの命令で攻撃させてもらえないだけだ。
雑魚機も数体撃ち落としたのみだ。あの数体で、ギアにも搭乗者が何なのか判別できたようだ。
この戦いに人工バイノアは使われていない。やられても再生しないのが何よりの証拠だ。
もう二度と戦争を起こすわけにはいかない、だから単独でボスのみに速攻をかける。
それは判るのだが、国を治める王が自ら出撃、しかも改良されたであろう二体を相手にするのは分が悪い。
たとえ本人が連携を拒否しようと援護は必要だ、絶対に。
『おぉい!リングがレーザー弾くんだけど!?』
早々にリックスがわめいてくるのに対して、ゼインは「前回も使っていた対母艦バリアだ、ここは合体技でいこう」と提案すると、今度はダークライオンのいる方角へ走っていく。
「合体技?」と首を傾げる同乗者へは短く「連携武器があるんだ」とだけ答え、ゼインは素早く装備切り替えのスイッチを入れた。
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