Cordeline Battle
滅亡寸前まで追い込まれていたファインド国はロイス王国騎士団の加入、いや、同盟による合流で勢いを取り戻す。かたや森林部隊の大多数を打ち倒されて、マギ軍勢は脅威に震えた。
「冗談じゃねぇぜ。テメェが楽勝だって言うから手を貸したんだ」
マギ陣営のテントで撤退を言い出した森林部隊長ジルガを、グランファーは泡食って引き留める。
グランファーの魔導部隊とジルガの森林部隊、この二つが一緒だからこそファインドを追い込めたのだ。
ここでジルガに抜けられるのは敗北を意味する。
「お、オラたちだけで戦うのは無理だ……空を飛べる部隊がいねぇと負けちまうだよ」
「いても、このザマじゃねぇか」とジルガは悪態をつき、しかし、己の部下たちの不甲斐なさにも腹が立つ。
聞けば、大多数はロイス騎士団の隊長一人にやられたというではないか。
エルフどもを軒並み虐殺しまくった我が部下たちが、だ。
ロイス王国は三十余年、戦争には不参加を貫いていた人間の国家だ。
てっきり大人しく占領されるのを待っていたのかと思いきや、このタイミングで参入してくるとは、育てた騎士団長のデビュー時期を図っていたのと、エルフへ恩を売る策略か。
「大体よ、テメェの部隊が足引っ張ってんのが一番悪ィとも言えるぜ?」
グランファー部隊の手勢は、ミノタウロス戦士だけではない。
魔導部隊と名がつくだけあって主戦力は魔族であり、魔術師だ。
問題点を上げるとすれば、魔族が揃って隊長に反抗的な点であった。
「うぅぅ……面目ねぇだ」
「悪いと思ってんなら、次は全力で戦え。光の森をぶっ潰すぞ」
翌日、深夜を狙って、二つの部隊は光の森に奇襲をかける。
だが、その奇襲は敵側に見破られていた――
魔導部隊は自滅した。
光の森を落とせなかったのは、全てグランファーの責任だ。
命からがら撤退した森林部隊の隊長ジルガは、そう結論付ける。
奇襲を見破られていただけではなく、グランファーは敵陣のヘナチョコボウズに挑発されて、ノコノコ前衛に出ていってしまったのだ。
当然、攻撃は彼に集中し、まともに斧を振るうチャンスさえ与えられず、最後はロイス騎士団長デューンの剣にかかって倒される。
あのヘナチョコボウズ……アイル=ロイヤルと名乗っていたが、自身は戦わないくせして口は達者、グランファーが最も気にしていた己の短所である『ハリボテ隊長』を看破して煽ってくるとは、侮れない。
ある意味、魔法の集中攻撃を受けるよりも痛手であったのだろう。
グランファーがキレる姿を、ジルガは初めて見た。
それが彼の終生になるとは思ってもみなかった。
逃げ回ってでも生き延びるイメージが、彼にはあったので。
二つの騎士団改め妖精同盟軍は、現在コーデリンへ進路を取っている。 コーデリンとの同盟を阻止しろとの命令を新たに受けた。
残り手勢で阻止できるかどうかは非常に危ういが、何、いざとなったら劣勢を理由に自分だけでも逃げ出せばいい。
しかし、それはあくまでも最終手段だ。
できることなら勝って帰りたい。
森の戦いで優勢なのがエルフだけとは思われたくない。
今度こそ、エルフを根絶やしにしてやる。
この戦争は次から次へと驚きの展開が待ち受けている。
そう思わずにはいられない、ロイス騎士団の面々であった。
「なんすかアレ、グニャグニャ伸びてきて絡まってチョー気持ち悪いです!しかも、切っても切っても伸びてきてキリがないし!」
顔色をなくして大騒ぎなロイス騎士を、ファインド国のエルフが宥める。
「落ち着け、あれこそが森林部隊の主戦力モルデドだ」
森林部隊にはコーデリン方面へ向かう森の中で追いつかれたのだが、前後を挟まれる大ピンチであり、後ろをハーピィ、前には見たことのないモンスターがいたとあっちゃ、ロイス騎士は全員がパニックに陥った。
ファインド騎士の弓と魔法でハーピィを蹴散らして、森の外まで逃げてきたのだが、前方を塞ぐやつは光の森での一戦では見かけなかった種族だ。
モルデドは一見するとグチャグチャに絡まりあった蔦の固まりで、そいつが蔦――エルフの解説によると触手と呼ぶらしい――を伸ばして、こちらを絡め取ろうとする。
触手に捕まると、鎧の中をまさぐられるやら全身こちょこちょされるやら、それぐらいならまだいいほうで、手足を折られたり首を締められたり胴体を捩じ切られた者もおり、とうとう初の死者を多数出してしまった。
戦争初心者のロイス騎士が、平常心を失うのも当然である。
「なんで、あんな強いのに光の森では出してこなかったんだ?」
首を傾げるデューンに正解を教えたのはイワンだ。
「簡単な話だ。奴らは移動できない。攻め込むことはできずとも、要所に生息している」
過去、コーデリンへ助けを求めに行こうとしたファインド騎士団もモルデドに行く手を阻まれた。
魔法も弓もダメージを与えられずで、撤退するしかなかった。
知っていたんなら事前に教えてくれよと憤るデューンに対し、イワンは言い訳のように付け足した。
「今なら数で押し切れるかと踏んだんだが……盾を増やした程度では無理だったようだ、すまない」
まるっきりロイス騎士団が足引っ張りだと言わんばかりだが、実際その通りなのでグウの音も出ない。
たとえモルデドの存在と攻撃手段を先に知っていたとしても、対処法がエルフにも判らないんじゃ、初心者のロイス騎士団には手も足も出ない。
「あんなんでも、一応生き物なんだよね……?だったら、必ず殺す方法があるはずだよ」
アーリアは腕を組んで考え込む。
弓矢は当たってもノーダメージ、剣で触手を切っても即再生。
炎、氷、電撃、風、土、聖なる魔法も全て即再生コースを辿った。
闇の魔法は力を与えるだけに終わった。
「本体は、どこなんだろ……誰か触手以外を攻撃してみた?」
アーリアに尋ねられて、全員が首をふる。
そもそも全身が触手だし、どこが本体なのかが判らない。
「あいつらは、どうやって獲物を……あ、いや、それは触手を伸ばして取ればいいのか。どうして移動できないんだ?触手を使って移動したりってのは、できないのか?」
デューンの疑問にはエルフが「大地に根を張っているんだ」と答え、アーリアの脳裏に解決法らしき案がピンと閃いた。
「そうか、本体は地下にあるのかもしれないね。地面を掘ってみるってのは、どうだい?」
「どうやって?」と、イワン。
「地を掘るような魔法は存在しない」とも言うのへは「魔法じゃなくたって構わないじゃないか」とアーリアも反論し、策を披露する。
ロイス騎士を盾に置き、エルフ部隊の弓矢と魔法で触手を牽制しつつ、後方で別部隊が穴を掘り、地中を掘り進む。
地中でおかしなものを見つけたら、片っ端から攻撃。
「原始的だが、手がない以上は何でもやってみるしかないか……」
イワンが独りごちる横では、デューンが難色を示す。
「盾になれって言われても、あの触手は盾じゃ防ぎきれないぞ?これ以上、余計な死者を出すのは御免だ」
「あんたがやるんだよ」と、アーリアはにべもない。
「は?」
ぽかんとするデューンの肩をポンと叩き、もう一度言い含めた。
「あんたの剣技で、向かってくる触手を打ち払うんだよ。ハーピィを殲滅した時みたいに踏ん張ってもらおうじゃないか、千人隊長」
「はぁぁぁ?」
妖精同盟軍陣営テントにて、デューンの叫びが響き渡った――
