FES

第一次魔戦・ダイジェスト

Isolated Island Antares

妖精同盟軍が森を抜けてコーデリン国と同盟を結ぶまで、ゆうに十年は経過する。
アーリアが推測した通り、モルデドの本体は地下にあった。
しかし、その本体が地下で大人しくしているかというと、それはなく、地中で縦横無尽に動き回る本体の反撃に遭い、ロイスとファインドの双方に多大な死者を出させた。
何をやっても倒せない相手を前にコーデリンへの道が絶たれるかという寸前で、打開策を出したのが妖精同盟軍のリーダー・アイルであった。
十年間に渡り、地面に埋めた大量の『リューン直伝・毒殺料理』が森全体の土壌を腐らせ、結果としてモルデドをも倒した。
自然破壊だの何だのとエルフや獣人の反発も猛烈に出たが、それらを一切無視してコーデリン国へ到着した彼らはケンタウロス騎士との同盟を結び、次の戦場を孤島アンタレスへ構える。
マギ軍勢に負けて捕虜になったダークエルフが送られる島だとの情報を得て、彼らを救出せんが為の遠征であった――


「それにしてもよ、せっかくお綺麗なエルフ様を捕虜にしたってのに働き奴隷にしちまうだなんて、マギ勢は欲がねぇんだな」
下品な冗談を飛ばしてくるデュペックをジロリと睨みつけ、イワンは傍らのデューンへ問う。
「海にもモンスターは出る。対策は考えてあるのか」
この頃には、すっかり彼もデューンを信頼し、親友と呼べるぐらいには距離が近くなっていた。
三十年も戦争に対して沈黙を貫いていたロイス王国の出身とは思えないほど圧倒的な強さを誇るデューンの剣技は、ひねくれた孤独のダークエルフにさえ敬意を評させたのだ。
モルデドを殲滅させた後は、残るハーピィ軍団を弓矢で討ち取る。
これまでの戦いでは押され気味だった弓矢部隊がハーピィに圧勝できたのは、ひとえにロイス騎士、盾となる戦力を大幅に得たおかげだ。
逃走する向こうの将はデューンが追いかけて討ち倒した。
他種族を凌駕するはずの、獣人の身体能力は彼に何一つ通用しなかった。
いや、確実にダメージは受けていたのだが、デューンに後退の二文字はないのか、満身創痍ながらも鬼気迫る剣技でジルガを圧倒し、討ち倒すに至ったのだ。
「この船には大砲が備え付けてある。任せろよ、コーデリンの漁師は百発百中の腕前だぜ」
イワンの問いに答えたのは世界旅行初心者のデューンではなく、新参のケンタウロスで、名をゴードンという。
詳しい話を聞くに、コーデリンが長年敵対しているのは海沿いから攻めてくる海上部隊なのだそうだ。
海中のサンダー王国が善戦していることもあり、それほど多くの軍勢が襲ってくるわけではない。
森境はファインドが森林部隊と戦っていたおかげで、そちらを心配する必要もなかった。
近年じゃ騎士まで砲撃が上手くなったとゴードンには笑われて、逆に不安が増したイワンとデューンであった。
ケンタウロスの特色は脚力を活かした撹乱戦法である。
肝心の陸上戦で、脚がなまっていないと良いのだが。

道中の戦いは砲撃で退けられても、アンタレスへの上陸は困難を極めた。
相手はモンスターではない。同じく精密な砲撃能力を持つ軍艦だ。
魔法や弓の届く距離ではなく、しかし、ここでもアイル王子のトンチンカン……否、奇策が炸裂し、誰もが思いつかなかった戦法に出た。
船での戦いに慣れたケンタウロスをも驚愕させた、その策とは――
「次いくぞ、3,2,1……発射ァァァ!
号令と共に轟音が鳴り響き、砲弾が発射される。
間髪入れずロイス騎士とファインド魔術師の身体は浮き上がり、突風に押し出される勢いで宙を飛んだ後は砲弾の上に着地した。
「うびょあぁぁぁぁぁ!!!!!」と悲鳴をあげながら敵船めがけて一直線に飛んでいったかと思うと、遥か遠くで赤や黄色の光があがる。
魔術師が船へ着地すると同時に、攻撃呪文を唱えたのだ。
一番最初に飛んでいったのはデューンとイワンのコンビで、ここからでは見えないが、きっと大活躍を繰り広げていることだろう。
魔法や弓矢は届かずとも砲弾は届くのだから、上に乗って移動すればいいじゃない。
騎士と魔術師のセットを風の呪文で包み込み、砲弾の上へ着地できるよう角度を狙って吹き飛ばす。
前代未聞の戦法に当然の如く騎士たちは反論したのだが、なんとコーデリンの傭兵陣がやってみようと言い出して、渋る面々の背を押しての強硬策になった。
ぶっつけ本番だけに最初は何度も失敗したが、何十回目かで偶然着地した後は有無を言わせぬ勢いで敵船までぶっ飛んでいき、砲弾がマストに激突する直前で甲板に降り立ったデューンは腹を決めた。
一人でも多く、敵兵を魚の餌にしてやる。
もし自分が倒れたとしても、王子が奇策で皆を勝利へ導いてくれる。
戦争参加前、全くの役立たずだとナメきっていた無礼はデューンにもあり、それらは先の土壌壊滅作戦で払拭された。
アイル王子は戦う術がない代わり、戦い慣れた者には却って思いつかない策を出せる頭脳がある。
マギの軍勢は、他国が正攻法で戦っても勝てなかった相手だ。
王子の存在そのものがマギへの脅威になるんじゃないかと、今では期待している自分がいる。
ロイス王がアイルをリーダーにつけたのは単なる親馬鹿ではなく、こうした意図があったのかもしれない――というのは、些か持ち上げ過ぎか。
甲板でデューンが見せた獅子奮迅の戦いっぷりはイワンの魔法援護もあってか敵部隊へ戦慄と恐怖を与え、全艦撤退まで追い込んだ。
たったの一戦で、長らく島周辺の海域を占拠していた強敵を退けたのだ。
同時に、マギ軍勢へ騎士デューンの名を広めるきっかけにもなった。

とはいえ陸地にはマギ勢が多く取り残されており、陸にあがればあがったで、今度は彼らとの戦いが待っていた。
海上戦で満身創痍となったロイス&ファインド両国の騎士団に代わり、活躍を見せたのはコーデリンの騎士団だ。
見事なまでに統一された指揮での撹乱は魔族や獣人を翻弄し、囮につられて隊列を乱した手勢が次々騎士の槍に貫かれて倒れていく。
騎士と傭兵の編成は斬新に感じられたし、自慢の脚力は長い海上戦でも全く衰えておらず、多勢を相手にした槍さばきの美しさはロイス騎士に感銘を与えた。
闇に聖をぶつけるというだけではなく、人間には真似できない特色を持つ妖精を集めさせた王妃の見解には改めて感服させられる。
無能だと心の奥で見下されていた王や王妃、王子への尊敬がロイス騎士団の中で高まったのは良い傾向だ。
おかげで全体の士気も高まり、たったの三年でアンタレスの全解放を達成したのである。

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