絶対天使と死神の話

輝ける魂編 07.二つに一つ


突如現れたアーステイラの手によりピコが誘拐されてしまった為、英雄ジャンギが探索に出向く事となった。
彼の決断に場の大人たちが全員諸手喝采かというと、そうとも言い切れなかった。
「駄目だ!ジャンギ、引退した自由騎士が勝手に外へ出るなど、まかりならん!!」
顔を真っ赤に阻止してきたのは警備隊の隊長、ソウルズだ。
傍らでは、ミストもポイズン溢れるツッコミを飛ばしてくる。
「無理じゃないですか?今の実力で、この人数をカバーするのは。それこそ慢心ってやつですよ」
友人勢には、無敵だった現役時代を知っているからこそ片腕では戦えない、そう思われているようだ。
彼らの心配をジャンギは笑顔で撥ね退ける。
「別に、出会った怪物全てと戦うつもりはないさ。気配を探して居場所を突き止めたら、まっすぐそこへ向かう。余計な戦闘を極力避けるのは探索の基本だろ」
アーステイラの気配なら、死神や絶対天使も探したが見つけられなかった。
ジャンギは一体どうやって突き止めるつもりなのか。
しばし顎に手をやり、考えこんでいた神坐がポツリと呟く。
「……そうか。魔力じゃなくて気配、存在自体を探すってのか」
首を傾げたのはヤフトクゥスで、「魔力と気配は同一ではないのか?」との問いに神坐は首を振る。
「俺達はアーステイラが絶対天使と同等、魔力を源とする生物だと思い込んで探していた……だから、見つけられなかったんだ。今のアーステイラは絶対天使じゃねぇ、怪物だ」
「結界を張るって言っていたけど、それも魔法の結界じゃなくて、別の能力で作った結界なの?」
ジョゼも首を傾げて、遠くを見やる。
「恐らくな」と神坐が頷き、ジャンギを振り仰ぐ。
「ジャンギ、お前は人間と怪物の違いが感覚で区別できるんだろ?」
英雄を呼び捨てる神坐に周りの大人たちが慌てるのも何のその、本人は全く気にせず答えた。
「そうだ。俺は異質な気配を察知できる。これのおかげで、現役時代は怪物の奇襲を防げたんだ」
アーステイラが怪物化した時、ジャンギが察知できたのは本来そこにありえない異質なものが出現したからだというのであれば、これまで絶対天使であったはずのアーステイラを感知できなかったのは何故なのか。
「擬態だと感じ取れなくなるのは何故だ?貴様は俺が絶対天使だと、初見では見破れなかったようだが」
ヤフトクゥスの追加質問にも頷き、ジャンギは絶対天使を真っ向から見つめる。
「俺が感じるのは魔力じゃない。人とは異なる気配……なんだ。君は空を飛べると小島くんから聞いている。だが、俺が君から感じた気配は人間と同じだった」
絶対天使や死神の取る擬態とは、原住民と同じ生命体に変身する特殊能力である。
今ここで原田たちと話している姿が、そうだ。
最初にアーステイラがスクールへ混ざった時は、なるべく原住民に近い擬態を取っていた。
背中の羽根は小さかったし、肌寒そうなファッションを除けばクラスの子と変わりない姿だった。
だから、ジャンギも彼女が絶対天使だと気づかずにいた。
「じゃあ、あの姿は絶対天使の本性なの?」と呟き、水木は怪物化したアーステイラを脳裏に思い浮かべてみる。
角は生えてくるし、白くて柔らかそうだった羽根は黒くて硬そうな形に変わったし、全体的に可愛らしい容姿だったのが毒々しい配色になってしまった。
「絶対天使ではなく怪物の、だ。怪物化したばかりで擬態を取る方法が判らぬのか、或いはそのような能力を持っていないのかもしれん」
ヤフトクゥスは苦々しげに吐き捨てると、ジャンギを促した。
「それより、いつまでここで雑談しているつもりだ?奴めを探すのであれば、とっとと出発するべきであろう」
「そ、そうだ、それなんだが、ジャンギ、お前本当にガキどもを引き連れて外へ出るつもりなのか!?」
ジャックスが問題を蒸し返して、またしてもソウルズに「お前は行く必要ない!」と引き留められたのだが、ジャンギは首を真横に「だが、俺が行かなきゃ異質を見つけられないぞ」と頑なに自分の同行を強調する。
このままでは堂々巡りだ。いつまで経っても出発できそうにない。
業を煮やした小島が「ジャンギが行かなくても俺達は行くぜ!」と叫んだ時、誰かが割り込んできた。
「いいでしょう。特別にジャンギ様及び子供たちの外出を許可しましょう」
だれかと思えば町長じゃないか。
「いけません、町長!こいつは片腕なんですよ?引退後のブランクもある、戦えたものではありません」と噛みついてきたソウルズの肩をポンポンと叩き、町長が宥める。
「ジャンギ様は戦わずとも回避できる術をお持ちなのでしょう?ならば、何も心配ありません。それに皆さん、皆さんは一人息子がさらわれて倒れられたご婦人を、お忘れなのではありませんか」
ピコの母親は息子が拉致されたと知るや否や即座に卒倒して、今は保健室のベッドで寝込んでいる。
陸が看病しているそうだが、彼女が元気になれるのはピコが戻ってきた時だけだろう。
「精魂込めて育てた息子を諦めろと、あのご婦人に言うおつもりですか?私には、とてもとても出来ません、そのような無慈悲な一言を彼女に投げかけるのは。彼女の為にも、どうか拉致された少年をお救い下さい英雄様」
まさか町長が、たった一人の少年、それも保護区域外で産まれた貧乏人の為に頭を下げるとは。
原田の知る町長は、住民が何の苦情を訴えても偉そうに「ハイハイ、そのうちに受理しますよ」と聞き流す尊大な態度だけだ。
町に貢献をしたといった噂も聞いた覚えがないし、何故町長の座に収まっているのか不思議な人物だった。
皆の背後で小島が「美人だからな……ピコの母ちゃん」とコッソリ下衆の勘繰りを働かせるのを聞こえなかったフリでスルーしながら、ジャンギが町長の顔を上げさせる。
「そのように土下座懇願されずとも、あの子を探しにいく決意は変わりません。入念に準備した上で出かけますので、吉報をお待ちください」
「ジャンギ!これだけ言っても、まだ出かけるつもりなのか。ならば、俺と勝負だ!俺に勝てば――」
何やら大声で御託を並べるソウルズの肩を叩いて、ジャンギは微笑んだ。
「そんなに俺が心配なら、君も一緒に来ればいいじゃないか」
「バッ、馬鹿言え!俺には警備の責務があるッ。町をほったらかして出かけるなど、警備隊にあるまじき行動だ」
ソウルズは唾を飛ばして大激怒。
反対派を余計怒らせてどうするんだとジョゼや小島は呆れたが、そこに割り込んだのは、またも町長であった。
「いい加減にしたまえ。せっかく英雄様が自ら志願してくれたというのに邪魔するのかね、たかが警備隊の分際で。大体君は、隊長になったというのに一度も私に心遣いを寄越さないし、この、町長である私に対する敬意がまるでないとは、それでも警備隊の隊長であるつもりなのかね?」
いきなり大人の事情まで混ざってきて、ポカーンとなったのは子供たちだけではない。
嫌味を向けられたソウルズ自身も呆気に取られて、しどろもどろに言い訳する。
「なっ……い、いや、心遣いは強制ではないと、前隊長が……」
「それにね、君。君は警備隊の仕事そのものを勘違いしている。夜のチンピラを追い払うだけが責務ではないんだぞ?君は大通りに全く立ち寄らないそうだが、商人への徴税を怠っている証拠じゃないか。この町の経済が上手く回らないのは、君が警備隊の隊長として責任を全うしていないせいだ」
まだまだ続きそうな小言を遮ったのはジャンギで、「彼には俺が重々説いておきますから、その辺でご容赦を」と笑顔で言われては、町長も断る理由がない。
「判りました。ではピコくんの救出は英雄様率いる一団にお任せして、合同会はピコくんが無事に戻ってきたら再開致しましょう。皆様、皆様もそれで宜しいですね!?」
町長の声は校庭の隅々まで届き渡り、まだ帰宅していなかった町の人々が了解を叫び返す。
への字に口を折り曲げて不機嫌なソウルズを筆頭に友人勢も引き連れて、ジャンギは原田たちを自宅へ誘った。
「俺の家に旅の一式があるんだ。現役時代に使っていたものだけど、まだ使えるはずだ。そいつを持っていこう」


ジャンギの家に到着した直後、「心遣いって何のこった?」とジャックスに問われてソウルズが閉口するのを横目に見ながら、ミストが代わりに答える。
「率直に言うと賄賂ですね。警備隊の経費は私達の収めた税金から出す……というのは表向きの話で、実際は町長が何割かピンハネしておりましてー。ピンハネを経費へ回してもらう為に賄賂を要求されるんですけど、ソウルズくんは支払いを怠っていたようですね」
「へー。お前、物知りだなぁ!」と驚く小島も横目でチラリと見て、ミストは肩をすくめた。
「商人やっていると、いらない雑学が小耳にガンガン入ってくるんですよ」
「ジャンギくんだって取ろうと思えば賄賂を取れる身分なのよぉ。でも、ジャンギくんが賄賂を貰ったって話は一度も聞いたことがないわ」とファルがとんでもない話題を振って、ソウルズに怒鳴られる。
「馬鹿!ジャンギが、そのような汚い真似をするはずなかろうッ」
そのジャンギは納戸をガサゴソ漁っていたが、やがて手に布のようなものを何枚か抱えて、くるりと振り向いた。
「……うん、まだ残っていた。簡易テントが三つ。これで人数分、補えるはずだ」
「わぁ、簡易テント!懐かしいわねぇ〜。現役時代は、ぴっとり肌と肌を摺り寄せて温めあったものよねぇ?ジャンギくぅん」とファルが寄り添って来ようとするのは巧みにかわして、ジャンギがテントを広げてみせる。
「君と肌を摺り寄せた覚えは一度もないけどね。原田くん達は、初めて見るんじゃないか?杭で布の四隅を固定すれば、雨風をしのげるコンパクトな家が出来上がるんだ」
「すごーい、これが家に!?だったら、家なんて建てなくても皆これで住めばいいんじゃない?」
水木の提案に、間髪入れずジョゼが突っ込む。
「これって寝るスペースしかないじゃない。食事や排泄、お風呂はどうするつもりなの」
ジャンギは苦笑を浮かべて「家ってのは言い過ぎだったね。そうだ、簡易テントは寝るだけのスペースしかない。正しくは夜露を凌ぐ道具だ」と言い直した。
「野営する気か……」と呟き、ソウルズが眉間に皺を寄せる。
「探索範囲は、どこまで広げる気だ?」
「全世界になろうな」と答えたのはジャンギではなく、ヤフトクゥスだ。
「あぁ」とジャンギも頷き、テントへ目を落とす。
「探索は何日かかるか判らない。そればかりか、あの子が何処へ逃げたのかも判らない。それでも探し出して連れ戻さないといけないんだ。そうじゃないと、原田くん達が無鉄砲に飛び出していきかねないからね」と後半は茶目っ気たっぷりに笑い、原田へ視線を移した。
「外に出たら、まずは気配を探ってみるよ。ただ、俺の予想だと彼女は草原地帯にいないんじゃないかと思う」
「そいつにゃ俺も同感だ」と神坐が同意して、ヤフトクゥスにも話を振る。
「お前がアーステイラの立場だったら、咄嗟の判断で何処まで逃げようと考える?」
「そうさな……一定の距離を稼ぎ、かといって奥地すぎず、行ける距離に人間の町がある場所で立ち止まろうぞ」と答えるのを聞いて、「どうして町の近くなの?一生結界でピコくんと過ごすんだし、町が近くにある必要なくない?」と尋ね返した水木には、こう付け足した。
「怪物化したとはいえ、あれには理性が残っていた。ならば食事は、どうする?絶対の誓いは使えぬから魔法での召喚も能わず、生肉を食べるのに躊躇するとあっては」
「野で狩ればいいんじゃね?生が嫌なら焼けばいいし」とは小島の推理だが、絶対天使としての理性が残った状態でのハングリー生活は難しいのではなかろうか。
結界を解かないと狩りに集中出来ないし、結界を解いたらピコに逃げられるかもしれない。
ヤフトクゥスに見つかるかもしれないリスクを冒してまで誘拐してきたのに、逃げられたんじゃ元の木阿弥だ。
それよりは結界を張ったまま人間の町に入り込み、一つ二つ食べ物を盗んでくるほうが楽ちんだ。
「うわー……せっこい生き方になっちまったなぁ。アーシスに残ったほうが良かったんじゃねぇか」
小島には憐れまれ、水木にも「ピコくんと愛し合うだけなら、外に出る必要ないもんねぇ」と呆れられているなど、アーステイラは夢にも思うまい。
「怪物化自体が本人にも予想外の出来事だったんだろうからね」
雑談には話半分の参加でジャンギが次に取り出してきたのは、大きなザックと古びた武器の数々だ。
古びてはいるが、きちんと手入れされてもおり、剣の刃部分は光を反射して煌めいた。
「これは俺が現役時代に見つけた、古代の武器だ。売らずに残しておいたんだが、まさか使う日が来るとはね」
「えー!こんな沢山持ってたんですか!ずるい、一つぐらい売ってくれても良かったのに!」と騒ぎ出したのはミストで、一つずつ手にとっては「あー、どれもこれもマニア涎もんじゃないですかぁ。納戸に眠らせておくのは勿体ない」と脳内で金勘定を始める。
友人も初めて見るってことは、一人旅になって以降の収集物か。
武器は片手剣、小刀、鞭、杖、大剣の五種類だ。
ジャンギは棒使いだったというから、自分では使わなかったのだろう。
「これなんか、お前にピッタリじゃねぇか?」
小島に差し出された鞭を受け取り、原田は二、三度、軽く振ってみる。
軽くて握りやすい。
過去の遺物なのに、スクールの支給品より手に馴染むのは不思議な感じがした。
「その鞭は、動物の皮を剥いで作ったんじゃないかって鑑定屋が言っていたよ。しなりが今の鞭と全然違うそうだ。まぁ、俺には使いこなせなかったんだが」と、ジャンギ。
スクールの鞭は布を捻じって何本もの紐状にした上で、一本にまとめてある。
見た目の割に重量を感じるのは、そのせいだ。
「よかったら原田くんにあげるよ」と言うのは、ソウルズとミストが声を揃えて「駄目だ!一生徒の依怙贔屓は許さんぞッ」「勿体ない!見習いにあげるぐらいなら私に売ってくださいよ!」と全力で阻止に回り、原田も首を振って「いえ、一時的にお借りするだけで充分です」と断った。
「怪物は全部避けていくんじゃなかったの?」と水木に恐々尋ねられた時には、ジャンギは少し考える素振りを見せてから慎重な答えを寄越す。
「極力そうしたいけど、そうもいかないだろう。これだけの人数が移動するんだ……多少の遭遇は覚悟しておかないと。だが、安心してくれ。君やジョゼさんに被害が及ばぬよう全力を尽くすよ」
「じゃあ、俺はこれを借りるから、この杖はジョゼが借りとけよ!」
小島は大剣を片手でブンブン振り回す。
「おー!全然重たくねぇ」と喜んでいるが、小島は支給品も片手でブン回す男だから、古代の大剣が支給品と比較して軽いのかどうか、見ている側にはイマイチ伝わらない。
「お前は大剣二本持ちでイケそうだよな。双斧ならぬ双大剣の小島、なんつって」
小島はガンツの軽口をまともに受け止めて、片手に支給品、もう片方に古代の遺物を構えてポーズを取る。
「いいじゃん、いいじゃん!双大剣の小島、只今参上!」
大剣だというのに、まるで片手剣の如し扱いだ。
些か生暖かい目で親友を見守る原田の横では、ジョゼが丹念に古代の杖を調べている。
「この杖……先端は硝子じゃなくて、宝石じゃないかしら?」
「え、宝石!?マジ!?」と食いついてきたのは意外にもミストではなくファルで、ぐいぐい至近距離まで詰め寄ってくるのには多少引きつつ、ジョゼが答える。
「え、えぇ。輝き方が硝子と全然違います。光を吸収して、内部で何度も反射しているような」
杖の先端についた石は、ジョゼの両親が持つ宝石と似通っている。
だが鑑定屋に持ち込んだジャンギ曰く、先端の石は宝石ではなく魔導石だという。
そんなものは見たことも聞いたこともないとジョゼが問うと、ジャンギは鑑定屋の受け売りを伝えた。
「魔導石は古代の遺物でしか見つからないからね。宝石よりも希少価値なんだそうだ」
「やだー、めっちゃ綺麗じゃない魔導石!キラキラキラキラキラしてる!指輪にしたらメッチャ映えるんじゃない!?私が、ますます美人になるじゃない!ん〜〜っ、指先美人!!こ・れ・は、売れ筋商品の予感!!」
ファルの鼻息は荒く、杖を奪われそうな危機感を抱いたジョゼは「で、では、こちらをお借りさせて頂きます」と断って、さっさと懐へ杖をしまい込んだ。
「残りは片手剣と小刀かぁ〜。小刀、ピコくんがいれば大喜びしたかも」
ぽつんと水木が呟いてションボリ項垂れたのも一瞬で、すぐに気持ちを切り替えたのか原田に笑顔を向ける。
「ま、いっか。私は引き続き笛で援護するから、前衛の守りは宜しくね」
「笛とかは見つかんなかったのか?」とジャックスに聞かれて、ジャンギが「楽器は壊れたやつなら何個か見つけた覚えがあるけどね、全部売っちゃったよ」と答えるのを聞きながら、原田も質問に加わった。
「こうした過去の遺物は、何処で見つけたんですか?」
「あぁ。草原地帯で地面を掘り返したり、森林地帯の奥にある遺跡へ入り込んだりして、ね。どこに何が埋まっているかは地面を見れば大体分かるよ、そこだけ土の色が違うからね」とジャンギが返して、ガンツも頷く。
「金属ってなぁ、土を腐食させるんだ。武器は大体、金属を使っているから見つけやすいってもんよ。反面、笛は殆どが陶器、土で出来てやがるから保存状態も悪い悪い」
スクールの支給品も粘土を焼いた陶器で出来ている。
ふとした弾みで粉々になりそうなものを、武器と呼ぶには無理がある。
「昔の人も箱に入れて保存しといてくれりゃ〜いいのにな。そうすりゃ楽器も収集できたのに」
文句を垂れる小島には、ジョゼのツッコミが入る。
「昔の人も、後世まで保存するつもりで作っていないんじゃないかしら」
武器や道具を使い続けると、いつかは壊れる。
スクールの支給品も、壊れたら実費で修理してくれと言われている。
この修理費が、またバカ高いというのはさておいて、永遠に壊れないのでは修理屋も商売あがったりだ。
「食料は現地調達だ。持っていくと荷物になるし、腐っても困るだろ?あとは火打石とナイフ、ランタンを持っていこう。さて、ソウルズ。町に残るか同行するか。腹は決まったかい?」
ソウルズは眉間に縦皺を寄せて、じろっとジャンギを睨みつける。
「……腹は、最初から決まっている。お前を今度こそ、守り切ってみせる」
てっきり町に残る選択をするとばかり思っていた原田は驚いたが、ジャンギには、さして驚愕の選択でもなかったようで、会心の笑みを浮かべてソウルズへ片手剣を差し出した。
「君なら、そう言ってくれると信じていたよ。この剣は君に貸すから、俺達の盾になってくれ」
「おぅ、いってらっしゃい。町の守りは俺らに任せとけ」
ガンツもジャックスも、あっさりした反応で、初めからソウルズが同行するのは判り切った結果だったようだ。
却って水木やジョゼなど子供たちに動揺が走り、「け、警備隊は、どうするの?」と尋ねるのには、ガンツがヒラヒラ手を振って応じる。
「あー、何とかなるって。チンピラと追っかけっこするのは隊員だけで充分だし、賄賂は隊員にゃ要求されてねーから。いざとなったら、俺らもいるしよ」
誰も賄賂の心配はしていないが、隊長不在でも警備できるんだったら、隊長は何のために存在するのだ。
もしや、町長に賄賂を渡す為だけに存在する役目なのか?
急激にソウルズが不憫になってきた原田は、思わず憐憫の目を向けそうになって、慌てて自分を戒める。
今はソウルズに同情している場合ではない。
ピコだ。ピコの安否を心配してやらねば。
明日出発するとジャンギに号令をかけられて、緊張と興奮が極度に高まってきた。
今夜は、ちゃんと眠れるだろうか。
ドキドキする胸を抑えながら一同は解散して、それぞれの家路に着いた。
21/11/10 UP

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