絶対天使と死神の話

ガチバトル編 04.激突!?アーステイラ戦


毎日を連携の練習に費やして、休日を挟んだ翌週からは合同会が再開される。
中止前は一ヶ月の日程が組まれていたが、再開後は一週間に短縮されていた。
というのも、ソロ戦の参加者が大幅に減ったせいである。
遠近ともに各八名のトーナメント戦となり、アーステイラとの戦いはソロ戦の前に行われる。
「そ〜んなに嫌かねぇ、なんでもありの戦いが!」と吐き捨てて、ジャックスが肩をすくめる。
「急所狙いだけならともかく、スケベ行為ありってんじゃね……生徒たちが嫌がる気持ちも、判らなくないよ」
ぐるりと校庭を見渡しながら、ジャンギは苦笑を浮かべた。
中止前より見物客が増えていて並べた椅子は当然間に合わず、至る場所で立ち見を決め込む群れだけに留まらず屋上や学舎も一般開放し、それでも入り切らなかった人々はスクール手前の露店へ群がっている。
全ての住民が集まっていると言っても過言ではない。
再開まで日数がなかったというのに、宣伝は充分に拡散されたようだ。
目玉試合は、なんといってもアーステイラ戦であろう。
怪物の王と称しても差し支えない魔力の高さを誇る怪物、しかも元はスクールの生徒だった少女だ。
迎え撃つのもスクールの生徒であり十七年前の拾い子且つ輝ける魂とあらば、見物客が押し寄せるのは道理。
「で?どうすんだ、試合は外でやんの?」とガンツに尋ねられて、ジャンギは首を横に否定する。
「いや。四方に結界を張って、ここでやると決まった」
再開前は外でやろうと考えていたのだが、現役との調整が上手く整わず、内部での試合を余儀なくされる。
現役の闘気は、予想以上に落ちていた。
どいつも金儲け第一主義の戦闘回避派、例の怪物に襲われたら、ひとたまりもあるまい。
結界を張る役目は、合同会で結界と治療を担当している救護士チームに一任する。
「アーステイラは納得したのか?」とも尋ねられ、ジャンギは頷く。
「彼女としては一刻も早く戻りたいからオーケーだそうだ。六対一の変則マッチにも了解の意を得たよ」
最も簡単に戻れる方法は、心を込めて原田に土下座謝罪すればいいそうだが、それは断固お断りらしい。
妙なところで変なプライドが高い。
「開催の挨拶は省略、試合は十時から始める。つまり……そろそろ、だな」
話している側から、メガホンによる大声が響き渡った。

『皆さーん!只今の時刻は午前十時、只今より合同会を再開しますッ』
大声に負けない歓声が校庭を包み込む。
中央に用意された台座の四方に立った救護士が一斉に呪文を唱え始める中、何処からともなく竪琴の調べが些か激しい調子でかき鳴らされる。
『右コーナァー、輝ける魂チーム!』
ファンフェンの紹介で右手から台座へ飛び乗ったのは、原田率いるチームの面々。
校庭と屋上、野外からも「うぉー!輝ける魂、頑張れぇー!」と声援が送られて、誰が何を言っているのかも聞き取れなくなる。
『続いて、左コーナァー、怪物の王ッ!』
バサッバサッと大仰な羽音を響かせて頭上を二度三度旋回した黒い影が、台座に降り立つ。
「ふぅーははは!我がちからの前に、ひれ伏せバカハゲ!」
仁王立ちで腰に手を当てて叫んだりして、アーステイラはノリノリだ。
間髪入れず、客席からは罵倒が飛ぶ。
「約束破りの分際で偉そうにすんなー!」「嘘つきは舌噛んで死んじゃえー!」
罵倒には幼い子どもらの声も混ざっていて、思ってもみない相手の罵倒にアーステイラは狼狽える。
「え?ちょ、ちょっと、なんで、わたしが約束を破ったって、みんな知って」
「あぁ、怪物の王が、どう悪いのかをアピールするってんでウィンフィルドが吹聴しまくってたぞ」
彼女の疑問に答えたのは原田ではなく審判役のジャックスで、これには原田たちもドン引きだ。
「ウィンフィルド……なんちゅー真似を」
「これじゃ元に戻った後、アーステイラの肩身が狭くならない?」
小島や水木にも心配される始末で、アーステイラの頬はカッと熱くなる。
「う、うっさいわね!さっさと試合、始めるわよ!」
「ハイハイ。それじゃ両チームは整列……しなくてもいいか、そのままで」
ジャックスの「試合、開始!」との号令直後、勢いよく後ろに飛んで陣形を整えた。
「せっかく格好良くキメようと思ったのを邪魔してくれた恨み、あんた達に返してやるんだから!」
まるっきり逆恨みな八つ当たり発言と共にアーステイラが、ぐぐっと両の拳を握りしめた直後、台座を割って飛び出してきたのは太いのやら細いのやら、緑色をした茎の数々だ。
「えっ!何だ、これ!?あいつが出したのか」
小島の疑問にかぶせる形で実況が叫んだ。
『おぉーっと開幕早々、怪物の王が触手を出してきたー!』
一見植物にも見える緑色の茎は、表面がぬらぬらと光っており気持ち悪い。
自己意識を持っているのか、それぞれが自由な動きで揺らめいている。
「うわー、プチプチ草の双弁みたい!」とは水木の感想だが、目の前の触手は双弁よりも長さがある分、距離も遠くまで届きそうだ。
『あんな、ぬらぬらしたものに原田くんが捕まったりしたら……原田くんの可愛いお口に、ぶっといものが差し込まれたら、ウッ、私、人目を憚らずイッてしまいそうですぞぉ!』
実況席でリンチャックは股間を押さえて呻いている。
だが、そんな光景に気を取られている暇は原田に与えられなかった。
触手という触手がアーステイラの「いけ!」と号令一つで、一斉に自分めがけて襲いかかってきたとあっては。
「くそ、やっぱ原田を狙ってくんのかよ!」
正面から襲い来る触手は小島の大剣で防げても、横手と背後はガラ空きだ。
「させるかっ!」
横手からの触手はベネセの放った矢が退けたが全部の勢いまでは止められず、太いうねりが原田の背中を勢いよくブン殴ろうかという寸前。
「やぁっ!」
気勢に押し出される勢いで三本の矢が並んで飛んできて、背後に迫った触手を退ける。
校庭は驚愕と歓喜で大きくざわめき、遠方で何が起きたか判らない観客用なのかファンフェンの実況が響いた。
『で、でたー!伝家の必殺サイドワインダーを使いこなす凄腕の弓使い、その名はチェルシーッ!』
途端に名指しでの応援も含まれる大歓声に、チェルシーは頬が火照ってくる。
あぁ、そんな目一杯煽てられても困るんですけど……
サイドワインダーは弓使いが覚える技の中では初歩に当たる。
三本の矢を立て続けに放ち、同時並行で射ったように見せかける、いわばハッタリ技だ。
伝家の、とまで褒め称えられるほど難しくない。
「ふふん、やるじゃない弓使いズ。でもね、これだけが触手の実力だと思わないでください?」
再びボコボコと台座のタイルをぶち破って、幾多の触手が出現する。
結界で威力を抑えられているはずだというのに、早くも土台はボロボロだ。
「オイ、あんま無茶すんなよ。この下、ぬかるみだから、どろんこ試合になっちまうぞ?」
ジャックスに注意されても、アーステイラは聞く耳もたずで当然のスルー。
そりゃそうだ、彼女は空を飛べるのだし、どろんこになって困るのは原田たちだけだ。
「ゆけっ、触手の本懐を見せておやり!」
アーステイラが指示したターゲットは、今度は原田の頭上を越えてゆく。
「しまった、ジョゼ!?」と原田が振り返る前に、ベネセとチェルシーが二手に分かれて矢を射った。
「触手だけに気を取られていると、危ないですよ!」
一瞬後ろに気を取られたすきに、間合いを詰めてきたアーステイラの一撃が原田の目前に迫る。
「――ッ!」
間一髪、「させねぇ!」と飛び込んできた小島の大剣に守られて、原田は背後へ飛び退ると鞭を低めに振るった。
小島の影で死角だったにも関わらず、鞭は触手に弾かれる。
「攻防一体、わたしの触手は、おりこうさんなのです♪その証拠にィ……」
ニヤリとアーステイラが口の端を吊り上げる。
それを合図に、何本もの触手が原田たちの足元のタイルを突き破って出現した。
「こんな真似も出来るんですよぉ?」
「うわわ!」と触手を避けて体勢の崩れた小島は、間髪入れず触手の一本に足を取られて、すっ転ぶ。
後方では「きゃんっ!?」と悲鳴、水木が転ばされたのか。
「水木!?」と慌てる原田の腕にも足にも胴体にも、ぐるぐるっと細い触手が絡みつく。
「やっておしまい!」
アーステイラがパチンと指を鳴らした直後、原田の身体を拘束した触手が動きを変える。
ぬらぬら面を原田の身体に擦り付けるようにして這い登ってきた先端が、服の中に潜り込む。
触手の先っぽが乳首を突いてきたかと思うと、別の触手がズボンの膨らみを擦ってくる。
「ふぁっ!?」と喘いだ原田の目元に涙が浮かぶのを見て、真っ先に絶叫したのはリンチャックであった。
『ふ、ふぉぉーっ!は、原田くんのエッチな喘ぎが私の股間を直撃するーッ!』
『い、いや、それは、どうでもよくて!』と我に返ったファンフェンも実況に戻る。
『無数の触手が輝ける魂チームの面々を襲う!あぁっ、ジョゼ選手が釣り上げられたー!』
動きを封じられたのは原田だけではない。
ジョゼは手足を拘束された形で持ち上げられており、身動きが全く取れなくなっていた。
痛むお尻をさすって起き上がった水木が叫ぶ。
「ジョゼちゃーん!?」
「くそっ、原田を離せ!!」
勢いよく小島が大剣を打ち込んでも、触手はびくともしない。
植物のように見えるし、炎が一番効果的と思われるが、肝心の術使いが術を唱えられないのでは大ピンチだ。
拘束されたのは原田とジョゼだけだが、チェルシーとベネセは触手を避けるので精一杯。
水木は刃物を持っておらず、小島の大剣は効き目がない。
「小島くん、その剣、ぶつけるんじゃなくて斬ることは出来ないの!?」
水木の問いに、小島はブンブン首を振った。
「大剣は、ぶん殴る武器だ!斬る武器じゃねぇ!」
『そんなことはありません!』と即座に小島の結論を全面否定したのは、なんと解説者のリンチャックだ。
『水平です、水平に振り回せば断ち切れます!斧も然り、ぶん殴るだけの武器ではありませんッ』
意外な人物の意外なアドバイスには原田も驚いたが、巻きついた触手に乳首を擦られて「はぅんっ」といった情けない声ばかり出てしまって、お礼の一つも言えやしない。
『あふぅっ!私のフェアリー原田くんがエッチに喘いでるゥゥー、ウッ』
『ちょ、何キタナイもの出してんですか、ここ公ですよリンチャックさん!?』
実況席は解説者が大暴走、試合も一方的な展開となってきた。
「や、やめてぇー!!」
突如上がった甲高い悲鳴に皆が頭上を見あげれば、ジョゼのローブが腰の辺りまでたくし上げられていて、下着が丸見えになっているではないか。
これには観客席が一斉に動いた。
「う、うおぉぉーっ!!
主に独身男性が大勢、舞台の結界ギリギリまで殺到し、各々の股間をたぎらせる。
原田が喘いだ時はリンチャックぐらいしか興奮しなかったのに、えらい反応の差だ。
「アイム……ハイゼンの、お嬢さんが、あられもない姿に……ッ」
「健康的な、むちむち太腿……あぁっ、挟まれたい……!」
「パンティ……純白のパンティ……」
どいつもジョゼの下半身に一点集中、血走った眼でガン見している。
『あぁっ、会場が異常な雰囲気に!みなさん正気に戻って下がってくださーい、結界付近は危ないですよぉ!?』
ファンフェンが促しても、欲望に忠実な人々を下がらせるに至らず。
「ふっふっふ。所詮人間など、知恵の皮をかぶった下等生物。さぁ、もっと下品な本能を子供たちの前で曝け出すといいでしょう!」
おまけにアーステイラまでもが調子に乗って、触手へ新たな命令を出した。
足を拘束していた触手が太腿を躙りのぼり、下着の中へと入り込む。
内側で激しくのたうちまわられても、ジョゼは首を振って「やぁっ、だめぇ!」と悲鳴をあげるしか出来ない。
彼女が叫べば叫ぶほど、最前列に陣取った男性軍団は鼻息を荒くして「ジョゼりーん!」と股間を硬くした。
誰一人としてジョゼを心配していないばかりか下品な本能全発揮で、周りの幼子たちもドン引きしまくりだ。
「やめろぉ!こんなのは、もはや試合ではない!!」
額に青筋を浮かべて舞台へ突っ込んでいったジョゼの父親は、結界に弾かれて勢いよく転げ落ちる。
結界は内部での衝撃を和らげると同時に、外からの侵入をも阻む。
試合が終わるまでは術をかけた救護士にも解くことが出来ず、何人たりとも妨害できない。
ジョゼを助けるのは、結界の中にいる誰かがやらなきゃいけない。
しかし、何十本もの触手がうねりまくる中を掻い潜って彼女の元へ辿り着くのは難しい。
「くそ、こんな能力があるのに何故あいつは行き倒れていたんだ!?」
ベネセが当然の疑問を吐き出し、アーステイラはポッと頬を赤らめた。
「え〜。だってコレ、絡みつくしか能がないんですもの……攻撃力、ゼロですし」
え?となり、チェルシーは耳を疑う。
ぶっとい見た目から考えて、直撃したら、さぞ痛いのかと思いきや、とんだ見掛け倒しだ。
いや、それよりも自分の能力の弱点を敵に教えるとは、バカなのか。
「拘束できるんだったら、トドメも差せるだろう!?」との追加質問にも、アーステイラは肩をすくめて恥じらう。
「え〜。だって、わたし、これしか特殊能力ないんですよ?魔法も使えないのに、どうやってトドメを差せと」
「武器ぐらい使えるだろ!」と、さらに突っ込むベネセにチェルシーが合図を送る。
「ベネセちゃん!今のを聞いたんなら、突破口も見えてきたよね!?」
「ベネセでいい!」としつつ、彼女にもチェルシーの策が伝わったか、逃げるのをやめて触手を待ち受けた。
「おやぁ?観念しましたか。では、あなた達もエチエチ触手ショーの餌食です!」
アーステイラは、自分の近くでうねり猛っていた触手も全て弓使い二人へ向かわせる。
直撃するかというスレスレでベネセ、それからチェルシーも飛び上がり、触手の上へと着地した。
『おーっと弓使い、二人とも身軽に飛び乗ったぁー!?』
上に飛び乗っても触手の追撃は続き、「猪口才な!」とアーステイラの号令で襲いかかってくるのをベネセは鼻先五ミリで避けて避けて、避けまくる。
同じくチェルシーも避けまくりながら次第にベネセの対面へ来るよう触手の上を駆け抜けて、二人がタイミングを合わせて交差した瞬間。
ターゲットを見失った触手は違う触手に絡みつき、全ての触手が団子になって舞台の上を転がった。
だが『おーっとぉ、これは触手自爆ゥー!』と実況が喜ぶには、少々早かったかもしれない。
「んなぁーろぉー!」
額に青筋を浮き上がらせたアーステイラが怒号を放ち、触手は団子状態のまま弓使い二人めがけて転がってきた。
「わっ!?」「むぅっ!」
もちろん直撃する二人ではないが、ジョゼとの距離を離されてしまったのは誤算だ。
ボインボインと跳ね回る団子が行く手を塞いで、彼女の元へ駆けつけられない。
結界ギリギリまで後退して、弓使いとアーステイラの戦いを静観していた水木は気がついた。
アーステイラが肩で息をしているのに。
彼女自身は戦っていない。なのに疲労しているのは、何故なのか。
最初は触手自身が意識を持っているのかと予想したが、もしや彼女が操っているのではあるまいか。
触手は、ざっと目視で数えただけでも三十本近くある。
あれを全部一人で動かしていたんじゃ、疲れるのも当然だ。
水木は視線を、弓使い二人からジョゼと原田に移す。
ジョゼは青いシモの毛が見えるか見えないかの瀬戸際まで下着を降ろされており、ローブも胸の部分だけを引き裂かれて、尖った乳首には両方とも触手が巻きついている。
下着の中で触手がモゾモゾ動くたび「いやぁ、駄目、原田くん、助けてぇ!」と叫んでいるが、原田も囚われの拘束状態にあった。
何度やっても小島の大剣じゃ触手を斬れそうにない。
きっと解説の助言は現役自由騎士、大人の腕力でなら可能な方法だったのかもしれない。
小島は馬鹿力なほうだけれど、所詮は子供の腕力だ。
水平に振り回すのだって慣れていない。バランスが崩れて勢いを失っているとも考えられる。
六人の中で完全に動きが自由なのは自分一人だ。
回復役には何も出来ないと、アーステイラも判断したのだろう。
――あぁ。
水木は小さく嘆息した。
こんなこともあろうかと、密かに練習していたアレが役に立つ。
エリオットは回復用の譜面しか教えてくれなかったが、回復使いにも攻撃呪文は一つだけ存在する。
放課後、図書館に連日通いつめて調べた甲斐があった。
すぅっと息を吸い込み、水木は笛を口に当てる。
恐らくは現役も久しく聴いていないはずだ。これから自分が奏でる旋律は。

「フハハハー!逃げる弓使いは無力、術使いはエチエチの刑で無力、バカハゲは最初から非力、バカゴリラも子供にしては頑張りましたが無力ゥゥー!わたしの触手は無敵です!」
息を切らせていても元絶対天使の意地なのか、アーステイラは威勢よく勝ち誇る。
六対一だと最初に聞かされた時はサンドバッグリンチも覚悟していたのだけれど、下等生物は何人群れようと怪物化した自分よりも格下だというのが判り、ホッとしたのは内緒である。
「くっそー、攻撃力あるじゃないか!これで獲物を狩れっての!」
不規則に跳ね回る団子触手に翻弄されてベネセは得意の弓矢を射るどころではないし、チェルシーも然り、なんとかしてジョゼか原田との距離を詰めようと走り回っているのだが、団子に進行方向を阻まれる。
「フハハー、それ、わたしにも制御不可能ですので、止めたい場合はヤフトクゥスか死神に頼んでください」
無責任な一言で団子触手を放り投げると、アーステイラの瞳が怪しく輝いた。
「仕上げはバカハゲのエチエチショーで、フィニッシュと参りましょうか!」
ずるんとズボンと下着を両方いっぺんに下げられて、「なっ!?」と焦ったのは原田だけではない。
「やめろー!原田のチンチンを見ていいのは、俺と水木だけの特権だぞ!!」と小島もブチキレだ。
「あら、では本邦初公開ですね。バカハゲの半裸なんて見たところで面白くもないでしょうけど」
剥き出しの前に触手が絡みついただけではなく、後ろの穴も触手にツンツンされて、原田の背中を悪寒が走る。
まさか、まさかと思うが、奥へ入るつもりか、この触手。
どれだけ身を捻っても拘束は解けず、グイッグイッと触手に尻の穴を広げられる感覚が恐怖を増してくる。
穴に入っても良いのは小島のだけだ。触手なんてヘンテコな物体に入られたくない。
「だーっ!原田のチンチンに絡みつくんじゃねぇっ、このエロ触手」
小島がグイグイ触手を引っ張れば引っ張るほど、己のナニが力強く締めつけられて原田は「いぎぃィィッ、やめろ小島ァ」と大きく仰け反った。
プチプチ草に絡みつかれた思い出が原田の脳裏を横切る。
あの時と全く同じ真似をしているんじゃ小島も学習能力がないが、小島だし仕方ない。
『フォォォー!原田くんのオチンチンが、オチンチンがぁぁっ、夢にまで見たラブリーチンチン、あぁぁっ、写生道具を持ってくるべきだったァー!』
『そ、その前にリンチャックさんは四方八方へ射精しまくるのを、やめてくださぁぁーいっ!!』
実況と解説は、とっくの昔に仕事を放棄しており、遠方で見ている客には何が起きているのか判るまい。
観客の一部はジョゼの痴態に釘付けだし、もはや何の試合か判らなくなってきた。
このままでは原田も公開処刑まったなし、皆の前で盛大に強制射精させられてしまう。
調子に乗りまくったアーステイラを一発でもいいから殴りさえすれば試合を終わらせられるのだが、触手は雁字搦めに絡まりまくって身動き出来ない有様だ。
――ふと、脳裏を横切ったのは神坐とジャンギの顔であった。
輝ける魂は魔法を使える。脳内で描けば発動する。
この格好のままでも呪文を唱えられるはずだ。
原田の弱い部分や感じる部分を始終擦ってくる、触手の卑猥な動きを無視できれば……
むりむりと強引に穴の奥へ潜り込んでくる動きに「んぁぁっ!」と原田は身を捩らせる。
駄目だ、こんなの到底無視できるもんじゃない。快感に負けて思考が乱される。
涙で視界が滲む原田の耳に、かすかな旋律が聴こえてくる。
いや、聴こえたのは原田だけではなくアーステイラも「ん……?なんですか、この曲」と辺りを見渡した。
最初は高く。
続けて低く、静かに、次第に跳ね上がり、大きくなってゆく。
音と音とが互いに絡み合って、空へと駆け登る。
キラキラと眩い光を纏って、しばらく宙を舞っていた音は、一瞬にしてアーステイラの頭上へ燦々と降り注いだ。
「んっ……ぎゃああああぁぁぁぁっっ!?
柔らかな光の薄い膜が降ってきたようにしか見えないのだが、アーステイラが絶叫しているのを見るに、怪物には絶大な痛みを伴う攻撃であったらしい。
「痛いじゃないですかー!誰ですか、こんな強烈魔法を唱えたのは!?」
なんと、頭から大流血する大ダメージを負っている。
本当に誰だ、こんな隠し大技を土壇場で披露してくれたのは。
拘束されたままの原田の眼が捉えたのは、笛を構えた格好でドヤ顔を浮かべる水木の姿であった――!
22/04/20 UP

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