いなくなったのはアーステイラだけではない。
神坐も緊急休養でスクールに顔を出せなくなり、保健室は再び主不在となった。
一週間で戻ってくると風は言っていたが、心配だ。
何が心配って、彼が不在の間に魔物化したアーステイラに奇襲される危惧だ。
戦えと言われたって、こちらはプチプチ草にも後れを取る弱さである。
真面目に対決したら膨大な魔力の前に蹴散らされるのは、やる前から判り切っている結果だ。
何故、あの場で襲われなかったのかは原田にも疑問だ。
アーステイラには、バカゴリラバカハゲと憎まれていたはずなのに。
森林に飛ばすだけで充分だと判断されたのかもしれない。
とにかく、彼女が戻ってくるまでに少しでも腕をあげておきたい。
風や大五郎は、輝ける魂が覚醒さえしてしまえば勝機があると思っているようだ。
どうやれば覚醒になるかというと、戦闘を何度かこなせばパッと閃くものらしい。
なら、今日やる予定の模擬戦闘が役に立つ。
そう意気込んで怪物舎に向かった原田チームを待ち受けていたのは、ごった返す人混みであった。
スクール生徒のみならず、明らかに成人以上の部外者が大勢、怪物舎に詰め掛けていた。
「な、なんで、こんないっぱい人がいるんだァ!?」と驚く小島へ呆れ目でジョゼが突っ込む。
「そりゃあそうでしょ。昨日の大ニュース、それの発見者が此処にいるんですもの」
人混みの中央にいるのはジャンギだ。
あれやこれや人々に質問されては、それに答えており、身動きが取れなくなっている。
生徒も模擬戦闘を受けに来たというよりはジャンギに興味津々な者が殆どで、これでは模擬どころではない。
風とよく似た黒づくめが駆け寄ってきて、原田たちに会釈した。
「ご覧の通りの混み具合で、すみません。本日は模擬戦闘をご希望ですか?」
「えぇ。けど、これじゃ練習は無理ね」と、ジョゼ。
怪物舎の庭は武器を振るう場所もないぐらい、人で溢れかえっている。
駆け寄ってきた人物もチラリと背後を振り返り、こそっと付け足した。
「裏庭は空いています。もしよろしければ、そちらでどうぞ」
黒づくめは改めて陸と名乗り、原田を促す。
「俺のほうで話を通しておきました。あなたの身の振り方についてジャンギ氏に相談したら、対魔法生物戦での緊急特訓が必要だとの結論が出まして、裏庭に魔法生物を用意しておきました。あなたがご希望なさるのであれば、そちらとの模擬戦闘が可能です。もちろん通常通りプチプチ草との模擬も可能ですが」
ジャンギに相談というが、どこまで話したのか。
魔法生物というのは、つまり絶対天使を仮想した怪物と予想される。
もやっとした気持ちを抱える原田へ陸は尚も言う。
「ジャンギ氏は最初あなたを心配しておられましたが、輝ける魂にしか出来ない戦いだと説明しましたら、全面的なバックアップを約束してくれました」
対アーステイラ戦における重要個所を、洗いざらい話したようだ。
輝ける魂の下りは隠さなければいけないのだとばかり思っていたが、話して良かったのか。
「あんたらが神様だってのもジャンギは知ってんのか?」
小島の質問を受けて、陸は僅かに眉を顰める。
「一応それは伏せての説明だったのですが、彼は何かを察したようですね……伊達に英雄視される男ではない、という事でしょうか。絶対天使が亜種族、魔法生物だというのも、こちらが説明するよりも先に看破しましたし」
神坐たちが神様だというのは秘密にしなきゃならない事項らしい。
うっかり誰かに話してしまいそうで心配だ。特に小島やピコあたりが。
「ジャンギ氏は今日一日あの様子でしょうから、あなた方の模擬は俺が補助します。武器の使い方は助言できませんが、広範囲での戦い方でしたら多少は助言できるかと思います」
「陸も、やっぱり武器は大鎌なの?」
水木に尋ねられ、陸が頷く。
「はい。我々の標準装備です。逆に言うと、それ以外は使えないと言いますか……」
大鎌以外使ったことがないんじゃ、他の武器レクチャーなど出来ようはずもない。
彼らの使う大鎌は背丈以上の大きさで、振り回せば複数の怪物を一掃できる。
刃の面積が広く、殺傷力も高い。広範囲での攻撃を想定した武器だ。
なんで自由騎士の初期装備にないのかが不思議になるほどの。
じっと視線を注ぐ原田に気づいたか、陸が破顔する。
「もしや大鎌のレクチャーをご希望ですか?ですが、これは伝授できません。人には扱えない武器ですので」
「え〜、なんでだよ。もしかして、ものすごく重たいのか?」との小島の疑問には首を振り、陸は一転して真面目な表情で全員の顔を見渡した。
「我々の大鎌は意思に呼応する武器です。所有者の意思で攻撃範囲や威力を変えられる……その分、強靭なメンタルを要されるので扱える者を選びます。腕力や魔力があればいいという武器ではないんです」
ですから心に弱さを持つ人は触らないで下さいね、魂を吸い取られてしまうので――と話を締めて、陸は裏庭へ原田一行を案内する。
表庭同様、何もない草っぱらだ。
大きめのケージが二個三個置かれている。
あれに魔法生物とやらが入っているのだろうか。
「魔法生物のレベルはゼロに設定されています。レベルというのは強さですね。野生を十とした場合、ゼロは初心者でも倒せる強さということです」
模擬戦闘初回で戦うプチプチ草もレベルはゼロなんですよと陸に説明され、一同は深く納得する。
脚に当たった弾は痛かったけれど、重傷というほどの痛みでもなかったからだ。
「ただ、ゼロでも魔法にあたると火傷や凍傷は必至ですので……今日は、どういたしましょう?予定通り複数プチプチ草との模擬に留めておきますか」
ちらと水木に視線を向けた辺り、まだ彼女の回復魔法が完全でないのも陸は御存じらしい。
「さて、どうしようか。緊急訓練は必要だけれど、僕たちは準備が万全じゃないよね」
ピコに持ち掛けられ、真っ先にリタイアしたのは小島だ。
「怪我すんのは俺とピコだろ?だったら、水木が魔法を失敗しなくなってからのほうがよくねーか」
「そうだね……」
回復担当の水木も腕を組んで考える素振りを見せながら、慎重に答える。
「魔法での怪我治療は擦り傷や捻挫の治療とも違っていそうだし、私の練習も併せたら今日はプチプチ草との複数戦闘をやるほうが無難かも」
「無難というか」と割り込んだのはジョゼで、ちらっとケージに目をやる。
「魔法を受けるのだって初めてなのに、いきなり複数を想定しているわよね、あれ。危険すぎるわ」
成す術もなくやられて終わるぐらいだったら、勝算のありそうなプチプチ草複数との模擬をやるほうが有意義だ。
原田は、全員の顔を見渡して結論を下した。
「今日は予定通り、プチプチ草との模擬戦闘にしておくか」
「そのほうが宜しいでしょう」
どこかホッとした様子で陸が頷く。
本音じゃ原田たちに対魔法生物戦は早いと思っていたのがミエミエだ。
当分は彼の反応を目安に対戦相手を考えたほうが良さそうだ。
プチプチ草を七匹出した状態で、陸が軽く解説する。
「原田くん、あなたは外で野生のプチプチ草複数と戦ったと受け持ち教官から聞いています。今日は一人ではなくパーティでの連携を練習してみましょう」
「待ってくれ」と原田は遮り、俯いた。
「あれは戦いと呼べるような立派なものでは……」
しかし陸は原田の反省など頭から聞き流し、「追い払ったのですから、戦いは立派に成功したと言ってよいでしょう」と微笑む。
「いいですか、皆さん。強さとは必ずしも退治とは結び付きません。かのジャンギ氏も現役時代に退治した怪物は三割だとおっしゃっていました。残りは全て撃退、追い払って進路を切り開いたのです。冷静な状況判断が出来るようになると、周りを見渡す余裕も生まれます。戦闘で一番重要なのは生き残る事ですよ」
陸は原田を見据え、質問する。
「あなたなら、仲間をどのように配置しますか?連携及び退路を念頭に想定して下さい」
原田は少し考えた後、小島を中央に据え置き、ピコをその隣に立たせる。
小島の真後ろには水木を置き、両隣を挟む形で原田とジョゼが立った。
「……これがベストだと思う」
「なるほど」と頷き、しかし陸は一つ修正を加える。
「状況如何では、あなたは前衛に出たほうが良いかもしれません」
「えぇっ!?駄目だろ、鞭じゃ盾にもなんねーし」と、小島がけたたましく騒ぎ出すのへも陸は首を真横に否定した。
「防げますよ。鞭は攻防一体の武器だとジャンギ氏が言っていました。詳しくは彼から、お聞きください」
原田の鞭を借り受け、陸が小島の隣に並び立つ。
「小島くんとピコくんに敵の意識が向いている時は、斜め方向からの切り崩しとして鞭が効力を発揮します」
考えられる作戦の一つとして、ピコが敵を挑発して意識を自分に向けさせ、彼に向かう攻撃は小島が大剣で防ぎ、時折原田が鞭で牽制して時間を稼いでいる間にジョゼが広範囲攻撃の呪文を発動させるという手がある。
「小島くんが受け損ねた場合も想定して、水木さんも呪文を発動できる状態にしておくのがベストですね」
鞭を手の中でピシピシ言わせながら、陸は戦略の二つ目を提案する。
「万が一ジョゼさんの魔法が不発だった場合は、鞭が主力となりましょう。原田くん、これまでの武器訓練で広範囲攻撃の練習はしてきましたか?」
「一応は」と頷く彼を満足げに眺め、ひゅんっと鞭を振るう。
「広範囲で当てるには前に人が立っているのは好ましくありません。鞭使いも前衛に出る必要があります」
大鎌以外は判らないと言っていた割に、鞭の使い方を心得ているように思える。
原田がそれを突っ込むと、陸は全部ジャンギ氏の受け売りだと言って笑った。
「ジャンギ氏は、あなたとの模擬戦闘を楽しみにしておられたんですが……昨日、あれを感知してしまったのが彼の不幸です」
「よくアーステイラの気配を感知できたわよね。ここからなんでしょう?感知したのって」
首を傾げるジョゼに、陸が応える。
「彼は他の人より数段、鋭い感性をお持ちのようです。そうでなくては生き残れませんでしょう」
「いっそジャンギがアーステイラを退治してくれりゃ〜なぁ」と小島がぼやくのへは、水木が即座に突っ込む。
「無理だよ。ジャンギさん、片手では戦えないって言ってたじゃない」
「それにアーステイラは原田くんがガツンとやらなきゃ正気に戻らないんだろう?」とピコにも突っ込まれ、小島は唸った。
「けど実際問題、鞭で勝てる相手なのか?ヤバそうだったじゃないか、あいつ」
少し考え、陸が答える。
「間合い次第ですね。それと、魔法を封じる手段も考えておかなければいけません」
それより今は、複数相手の連携を練習するのが先だ。
アーステイラと戦うにしても、バラバラに攻撃していたんじゃお互いに足を引っ張りかねない。
話を切り替える原田に全員が頷き、模擬戦闘が始まった。
『シャギィィィ!!』と鳴き声は勇ましく、しかし動きは案外もったりしている。
プチプチ草たちがヨチヨチ歩いてくるのをのんびり眺めていたら、陸の叱咤が飛んでくる。
「のんびりしてちゃ先手を取られてしまいます。ピコくんは早く挑発で敵を一ヶ所に集めてください!」
「ちょ、挑発って?」
動揺するピコの隣で「ヘイ、カモンカモーン!」と、突如大声を出したのは小島だ。
プチプチ草が何匹か、小島のほうへ進路を変える。
「こんな風に気を引いて呼び寄せるんだよ、お前なら得意だろ?誰かの気を引くの」
小島のアドバイスを受けたピコは、両手にナイフを構えて爪先立ちした。
「よ、よし。僕の美麗な動きで全部ひきつけてみせるよ……!」
その場でクルクル回転し始めたかと思うと、「ほわぁぁぁーー!」と甲高い奇声を発するピコには、プチプチ草ではないジョゼや水木も気を取られがちだ。
彼女たちにも陸の「呪文組は詠唱を開始してください!」といった助言が飛び、慌てて呪文に入るのを横目に原田は全体を見渡す。
七匹中、五匹が小島のほうへ歩いていき、残り二匹がピコのほうへ寄っていく。
挑発というからにはピコが全部引き寄せなければいけないのに、敵の動きがバラけてしまった。
こういう時、小島に集まった五匹がピコのほうへ行くよう誘導するのが鞭の役目だろうか。
原田は小島の横に走り出ると、鞭を振るった。
低い軌道での鞭がピシッと三匹を打ちつけ、『シャギィ!』と鳴いたプチプチ草が一斉に弾を発射する。
ピコのいるほうへ逃げるとばかり予想していたのに、反撃してくるとは想定外だ。
小島は慌てて大剣を原田の足元に差し出したせいで、自分の防御が疎かになった。
「原田くん、あなたの出番は今じゃありません。敵が散開した場合は前衛の判断にお任せを!」
陸のお叱りは受けるわ小島は隣で「アデデデ!」と騒いでいるわで、自分の判断ミスが招いた結果に原田はカァッと頭に血が上る。
おまけに「きえぇー!」と叫んだピコが前へ飛び出していくもんだから、判断を図り損ねて動けなくなった。
「え!?ちょっとピコくん、一体何を」
突然の奇行には陸も虚を突かれ、皆の前でピコが「あたたた!」と弾の餌食になるのを見守ってしまった。
「ピ、ピコくん、単独突入は無謀です、一旦後方に下がって――」
気を取り直した陸が助言を飛ばす側で「それには及ばないよ」と誰かが呟き、大混乱の模擬戦闘に割って入る。
原田は背後から伸びてきた手に腕ごと鞭を振るわれて、たたらを踏んだが、鞭は狙い違わず五匹のプチプチ草を薙ぎ払い、やつらを後退させた。
「混戦の時にこそ鞭の存在は重要だ。仕切り直し担当として、ね」
振り向いた原田の目に入ったのは、ジャンギの笑顔だ。
「ジャンギさん!」と喜ぶ原田へ軽くウィンクして、ジャンギが新たに助言を与える。
「原田くん、鞭での広範囲牽制は後退させるのに有効なんだ。強制移動させたいんだったら、絡めとるといい。まぁ、今の場合は後退させるのが正解かな」
前方では「ちょえぇー!」とピコが奇声を発し、残り五匹をも引きつけるのに成功したようだ。
その代わりと言っては何だが弾も全弾ピコに集中して、彼に「あぎゃぎゃぎゃ!!」と美麗が吹っ飛ぶ悲鳴をあげさせた。
「ピコォ!無茶しやがってーッ」と突進する小島の頭上を赤い塊が飛んでいき、ピコの手前で地に落ちた途端、ぼわっと横に広がってプチプチ草を包み込む。
「ほぉ、すごいね。広範囲制御も完璧にマスターしているのか」
感嘆するジャンギに原田が「今の魔法は、それほど凄かったんですか?」と首を傾げると、ジャンギは頷き「広範囲魔法は制御が難しくてね。習い始めのうちは前衛に誤爆させたり発動しなかったりバラバラに飛ばしたりと、そりゃあ酷い大惨事になるのが常なんだ」と答える。
複数の魔法を一塊に飛ばすのは相当鍛錬を積んでいないと出来ないとも解説されて、原田はジョゼを見やり「すごいな……俺も見習わないと」と小さく呟いた。
例え今のが独り言だったとしても、原田の賛辞を聞き逃すジョゼではない。
「ふっふーん!私はチームで唯一の魔術使いですもの、これぐらいは出来て当然よ」
胸を反らしての大得意に、隣で回復呪文を唱えていた水木は内心苦笑せざるを得ない。
まぁ、一発で成功させられるほど鍛錬を積んだのに関しては、水木も素直に感服だ。
それと比べたら、自分の回復魔法は一体いつになれば成功するのやら。
「あいたた……水木さん、僕の足に回復魔法をかけてくれるかい」
へなちょこに座り込んだピコの足に手をかざし、何度やっても光すら灯らない現実に水木はゲンナリする。
「呪文を唱えている間、気が散ってません?」と陸に問われ、彼女は首を傾げた。
「そんなつもり、ないんだけど……」
「うーん、そうだなぁ、じゃあ怪我人が原田くんだと想像して呪文を唱えてみようか」とジャンギも覗き込んできての助言に従い、再び水木は詠唱に入る。
「それも酷い大怪我じゃないと駄目だ。そこで炎に包まれてのたうち回るプチプチ草みたいにね。炎に包まれて焼け焦げる原田くんを想像してみよう」
むごい想像に憤慨したのは本人ではなく、周りの仲間たちだ。
「ジャンギー!お前、極悪非道すぎないか!?」
「そうよ、原田くんを焼き焦がすなんて天が許しても私が許さないわ!」
激怒するジョゼと小島に「あくまでも、これは例えだよ。仲間のピンチを想像すれば成功させようっていう緊迫感が沸くだろ?」と困惑で返すジャンギを横目に、水木が三度ピコの足に手をかざす。
ふわぁと柔らかい光が掌の内側に灯り、「あっ」と叫んだのは水木本人か、それともピコだったか。
いや、ピコは「はぁぁ……じんわりするぅ、気持ちいい」と足を伸ばしてリラックス。
「あっ……や、や、やったぁぁ」と小さく呟き、水木は涙ぐむ。
「やったな、水木」
真っ先に彼女を褒め称えたのは原田で、ようやく小島やジョゼにも回復魔法の成功が伝わった。
「やるじゃない、水木さんも。やっと本領発揮ってところかしら?」
「一度成功しちゃえば、あとは簡単だろ。高い魔力で酷い怪我もバンバン治してくれよな!」
小島の推測を「そうだね。回復呪文の威力は魔力の高さと比例する」とジャンギが肯定し、ピコのズボンをめくりあげる。
「ほら、当たった跡が一つも残っていない。初発動おめでとう」
「え、じゃあ、魔法をかけてもらう前は痣が残って、いた……?」と青ざめた顔で見上げてくるピコへ頷き、ジャンギは断言する。
「この間の弾よりも痛かっただろう?レベルを一つあげてあるからね。回復魔法をかけてもらわないと青痣が残る威力だ」
「ひ、ヒィッ。ぼ、僕の、美しくて白い足に青痣が、ついていたなんて……ッ」と小さく呻いてピコは気を失い、ジャンギには「なんだ、痛いと言っていたのに傷を確認していなかったのか」と呆れられた。
「傷口を見るのって結構勇気がいるんだぜ。なー、原田」と小島に話を振られた原田は「いや、俺は怪我をしたことがないから判らない」と首を振り、水木が「怪我ならしたじゃない、この前。手首の捻挫だけど」と混ぜっ返す。
「あれは傷じゃないからノーカウントだろ」と言い返す原田の肩を軽く叩き、「捻挫も怪我の一つだよ。痛みがあったら、今後は水木さんに治してもらうといい」と笑いかけて、ジャンギは授業の終わりを告げた。
「次回は魔法を使ってくる生物との戦い方を教えよう。本来は三年の最後に教える内容なんだがね、諸君らは急いで覚えなきゃいけないんだろう?そこの陸くんから聞いたよ」
浮かない顔の元英雄にジョゼが尋ねる。
「やはり初心者には荷が重いと、お考えなんですね。ですが、怪物の王は原田くんが倒さないと駄目なんです」
「うん、その理由も聞いたよ……原田くんの出生を考えると、ありえない話じゃないから困るんだ」
意外な一言に「え?」となる一同を見渡し、ジャンギが手招きする。
「……少し、君達に話しておきたい事がある。ここじゃ何だし、俺の家で話そう。ついてきてくれ」
原田と仲間たちはジャンギの後を追いかけて、彼の家にお邪魔した。