己キャラでMMO

14周年記念企画・闇鍋if


ユン&セツナ

ホワイトデーのイベント特設フィールドで、意外なものを見つけてセツナは目を丸くする。
「あら」
久しく会わないでいて、出来れば二度と目に入れたくなかったものでもある。
「何が『あら』だ。久々にあった知人に言うのが、それだけか?」
目があうなり文句を垂れてきたかと思うと、キースは眼鏡をキラリと光らせ無粋な推測をかましてきた。
「俺がナナたんと離ればなれになっている間も女医とイチャイチャキャッキャウフフしていたとはな。どうだ、もうキスはおろか最後までやっちゃったんじゃないのか?どうなんだ、ユン」
「何の話だ」
眉間に皺を寄せ仏頂面のユンを遮って、セツナがキースに問う。
「ナナちゃんも、この世界へ来ていたの?でも離ればなれって、どうして」
「フッ、ナナたんはシャイなオトメっ子だからな。今は隠れんぼの真っ最中なのさ」
大方キースのセクハラに辟易して、逃走した上でブロックでもかましたんだろう。
キースほどのストーカーが追いつけないとなると。
「ナナたんは、お前にも会いに来なかったのか?」とキースに尋ねられ、ユンは頷く。
ナナが来ているのなら、是非とも会いたいものだ。
だが、探す手がかりは一つもない。
「ナナは、こうしたイベントに興味を持つだろうか」
ユンの呟きを拾い、セツナも首を傾げる。
「さぁ……バレンタインイベントの時には見かけなかったわね」
とはいえイベントは毎回何十、何万人ものプレイヤーが参加するのだ。
ランキングにも入らないような低火力のプレイヤーであれば、いたとしても判るまい。
「待て、ナナたんほどのオトメがバレンタインイベントに参加しないとは思えんぜ」
キースのツッコミをスルーして、ユンが小さく呟く。
「イベント参加者一覧表でもあれば、いいんだが……」
すると、その呟きに反応した者がいた。
「あるよ?参加者一覧表」
ユン達の近くで作戦を練っていた、余所のパーティに属する見知らぬプレイヤーであった。
「なんだと?一体何処に」と叫ぶキースを制し、彼が上空を指さす。
「イベント告知のページ一番下に、ちっさい文字で一覧表へのリンクが貼られているんだ。イベントが始まった直後からリアルタイムでカウントされるんで、たまには確認しとくといいよ」
知らなかった。
皆、色々と注意深く見ているものだ。
さっそく告知を開き、一番下までスクロールする。
すると、ちい〜さく目立たない場所に『参加者一覧』と書かれた文字を見つけた。
小さな文字をなぞると新たに窓が開かれて、そこに自分の名前を確認する。
他にも見知らぬ者達の名前が、既に何十と表示されていた。
「ここからナナたんを探すにはっと……おっ、検索窓発見」
ナナで検索すると同名のプレイヤーが、わんさと引っかかる。
しかし名前の上に指を置くと、相手の顔画像とクラスと現在レベルが表示される仕組みになっていた。
「いた?」
セツナはユンに尋ねたのだが、キースがニヤリと口元を歪ませて答える。
「あぁ、見つけた」
ナナ、レベル36。
クラスはソルジャー。
桃色の髪の毛に目元は大きくパッチリとしていて、胸も大きく、それでいて小柄な体格。
キースやユンのよく知る彼女で間違いない。
「誰かとパーティを組んでいるようだが……」
ナナとパーティを組んでいるのは、春名とビアノだ。
二人とも女の子で、二人ともユンには聞き覚えのない名前だった。
「この世界での、ナナちゃんのお友達かしらね」
「そりゃあ、どこぞの女医と違ってナナたんは無邪気で社交的だからな。野良ってこともあるまい」
すかさず嫌味を飛ばしてきた変態眼鏡をジロリと睨み、セツナはユンに提案する。
「ね、どうかしら。ナナちゃんと接触してみるというのは」
「悪くない」
ユンが即座に頷き、キースも「良かろう。じゃあ、さっそく話しかけて」と言いかけるのには「あなたは、じっとしていて。さ、行きましょうユン」とセツナが封じるも、キースは黙らない。
「探すのはいいが、どうやって探すつもりだ?参加しているのが判っただけだぞ」
「この特設フィールドは広くない。虱潰しに探せば見つかる」と、ユンが言い返す。
バレンタインより混雑しそうな内容なのに、ホワイトデーのダンジョンは確かに数が少ない。
全レベルフリーで、一つっきりだ。
チャンネルは30近く分かれているが、混戦イベントは人の多い場所で参加するほうが有利である。
わざわざ人の少ないチャンネルに、ナナも入ったりすまい。
「名前とクラスとパーティが判明している以上、探すのは簡単だ」
さらに参加者一覧表にはIDが振ってあり、IDを使って、その場検索も可能であった。
「いくぞ」
ナナのいるチャンネルを確認し、ユンが号令をかける。
なし崩しにキースともパーティを組み、三人はナナのいるダンジョンへ突撃した。


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