己キャラでMMO

14周年記念企画・闇鍋if


ユン&セツナ

あと数時間で、戦争イベントが終了する。
その頃にはギルド『第九小隊』はメンバー総数六十名となり、マックス人数に達していた。
もはや小隊ではないなと思いつつも、よくもここまで膨れあがったものだとユンは感心する。
そしてイベントランキングも、不動の一位を走り続けていた『サリバンの赤い灯』を蹴落として、堂々の一位に輝いた。
このままイベントが終わってしまえば、優勝報酬は自分達のものだ。
沸き立つ仲間を諫めるべく、セツナが号令をかける。
「皆、注意すべきは、じわじわ二位に詰めてきたギルド『BATTOLODER』よ。連中も私達を追いかけてきているようだし、ここらで待ち伏せといきましょう」
本来こういった指示はリーダーのユンが出すべきなのだが、ユンは細かな指針や指示を全てサブマスターのセツナに一任した。
彼は人前で話すのが得意ではなかったし何より面倒くさかったのである、説明するのが。
能力からすれば優秀ではあるものの、性格が隊長には向いていない男。
それがユンだ。
ナナやキースがここにいたら、何度も納得している事だろう。
「布陣を張ります。上手い具合に私達が今いるフィールドは街だから、包囲網が敷けるわね。弓部隊は高台へ。剣士部隊は――」
セツナがテキパキ指示を出している間、ユンは他メンバーと一緒に武具の点検に回る。
戦争イベント中は、どこの店も利用できなかったが、消費アイテムは事前に買い込んだ分もあるから終了まで保つだろう。
これまでの戦いで敵対ギルドから奪い取ったアイテムも混ざっている。
敵のギルド『BATTOLODER』もメンバーはマックス人数と聞く。
『サリバンの赤い灯』と戦った時も沢山の負傷者や戦闘不能者が出たが、それ以上の損害を覚悟せねばなるまい。
「敵は何処から仕掛けてくると思います?」
ヒューイに聞かれたので、ユンは無言で頷いた。
「いや、えっと」
無言で頷かれても全然判らず、困惑するヒューイへ代わりに答えたのはギルドメンバーの一人。
「入り口は一つしかない。この勝負、街に籠城している限りは俺達の勝ちだろうぜ」
「それはどうかしら?」と混ぜっ返してきたのは、別のギルメンだ。
「入り口から素直に入ってくるとは限らないわ。土石竜を唱えられる人がいたら、突入先も変わってくる」
土石竜とは魔法の名前で、地面を掘り進む事が出来るらしい。
地上のモンスターをやり過ごして移動が可能になる、素晴らしい魔法だ。
ただし、覚えるには並大抵ではない難易度のクエストをクリアせねばならない。
ヘルプには存在が書いていないし、勿論NPCの店にも置かれていない非売品スキルブックだ。
上級者用魔法である。
こちらの最大レベルプレイヤーは、エルンストのレベル168。
ただし、彼のクラスはキラーだから魔法は唱えられない。
魔術系はルーンマスターやサモナーも揃っているが、かの魔法を覚えている者は一人もいない。
もし向こうにいたとしたら、厄介だ。
「どのみち包囲網は敷いといたほうがいい。向こうは恐らくユンを狙って攻撃してくると思うから、ユンを守る部隊も必要だな」
ユンはコンダクター、今は転職してコマンダーになっているが、ギルドの要だ。
「総大将、あなたは絶対前に出ないでちょうだい」とセツナにも念を押されて、ユンは頷いた。
ぐるりと街を囲む形での配置作戦が完了する。
あとは向こうが仕掛けてくるのを待つばかりだ。


けして不意をつかれたつもりは、なかった。
否、予測された結果とも言える。
『BATTOLODER』の面々は素直に入り口からは入ってこなかった。
地下を掘り進む部隊と、空から降下する部隊の二手に分かれて攻め込んできたのである。
「敵襲よ!」
誰かが叫ぶ。
準備は出来ていた。包囲網は完璧だ。
ユンも叫んだ。
「全員、攻撃を開始せよ!」と、同時に後方で「きゃあっ!」という悲鳴があがる。
あれは――セツナ達、回復部隊!?
敵は二手に分かれたのではない。
三方向、三ツ手に分かれていた。
怒濤の銃撃戦が始まり、ヒューイやマナルナは為す術もなく「ひぎぃぃぃっ!」と情けない悲鳴を残してゲートへ飛ばされてゆく。
ゲート登録は、この街になっているはずだ。
だが彼らの実力では、自陣へ自力では戻ってこられまい。
しかし二人の身を案じている場合でもない。
布陣の人垣が、みるみるうちに少なくなってゆく。
「やべぇ、くそっ!回復を先に狙ってくるのは判っていたのに!」
ぐるり包囲網の後方にいたはずの回復部隊を狙いうちしてきたのは、第三攻撃部隊。
ワンテンポ遅れて、馬車で特攻してきた部隊だった。
馬車に乗っていれば銃弾も魔法も効かない。
馬車も戦争で使えると知らなかったユン達の、これは大きな誤算だ。
味方が悪態をつく。
「くそ、戦いに慣れてやがる!」
だが戦争イベントの開催は、今回が初めてのはずだ。
慣れるも慣れないも、ないのではないか。
向こうには、よほど情報収集の上手なメンバーがいるに違いない。
完全に虚を突かれた奇襲であったが、こちらとて、このまま一方的には終わらない。
こちらには、一位のギルドから奪った強力なアイテムが、ごまんとある。
使うなら今しかない。
「投擲部隊、前へ!一斉投擲、開始!!」
ユンの号令で、手にアイテムを持ったメンバーが、ざっと一列に並ぶ。
「了解!」
応えるが早いか、次々手に持った手榴弾をポイポイ戦場へ投げ込んだ。
攻撃アイテムの短所を一つあげるとすると、敵味方無差別に吹っ飛ばしてしまう点だ。
広範囲で、しかも相手の防御に関係なく吹っ飛ばせるのは強みだが――
『サリバンの赤い灯』と戦った時にも、この攻撃アイテムには散々泣かされた。
全く、酷いイベントもあったものだ。
どんなに強固な装備や人数を揃えても、非売品の手榴弾一つで陣形が崩壊してしまうのだから。
セツナは大丈夫だろうか。
彼女の元へ駆けつけたかったが、ユンは我慢した。
総大将は前に出るなと、きつく言われた約束を守って。
投擲を防ぐには、同じく飛び道具で投げるより早く封じるしかない。
しかし敵は、どこから誰が投げているのかが判らないらしく、大混乱に陥っている。
大将ユンのいる場所は戦場中心より、ずっと離れた建物の影にあるから死角になっているようだ。
おまけに投擲部隊は一カ所に留まらず、素早い動きで投げるポイント地点を替えている。
序盤は劣勢を強いられた『第九小隊』だが、じわじわと戦局を塗り替え、そして遂に遠方で「討ち取ったりー!」という味方の声を聞いた。
敵側のコンダクターを仕留めたのだ。
コンダクターの失われたギルドなど、ユン達の敵ではない。
「反撃だ、全員突撃!!」
ユンの合図を背に、全員が鬨の声をあげて突っ込んでいく。
残った人数は開始前と比べると、かなり減っていたが、それは向こうも同じ事。
「ピンポンパンポーン♪只今の時刻をもって、戦争イベントは終了します。皆様、お疲れ様でした〜!」
全滅させる前に、イベント終了のアナウンスがフィールド上に響き渡った。
「や……やったぁっ、終わったぁ」
ユンの近くにいた面々が歓喜を浮かべて、へたり込む。
完全に勝敗がつかないままイベント終了を迎えてしまったが、ランキング順位は変わるまい。
『第九小隊』の優勝だ。
こくりと無言で力強く頷くと、ユンはゲートに急いだ。
戦闘不能で飛ばされたメンバーと合流する為に。


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