己キャラでMMO

14周年記念企画・闇鍋if


鉄男&木ノ下

雪しぶきをあげて、坂道を滑り降りる。
何度目かのゴールで、木ノ下は鉄男に声をかけた。
「……もう、諦めよっか?」
木ノ下の視線の先には雪だるまが一つ。
いや、正確に言うなれば雪まみれになった鉄男の姿があった。
彼は『最初にチュートリアルで滑りかたを覚えたほうがいい』という木ノ下の忠告をはね除け、ぶっつけ本番でレースに参加した。
そして何度となく転倒し、転がり落ちて、このザマになった。
けして運動神経が鈍いわけではない。
にも関わらず、鉄男のスキーにおける才能は壊滅的であった。
「人には向き不向きってのがあるからさ、あまり気にすんなよ」
木ノ下は慰めてくれたが、どうしても納得がいかない。
木ノ下のアドバイス通りに滑っているはずなのに、何故自分の足はもつれてしまうのだ。
もはやランキングに入賞するどころの話ではなく、まず、鉄男はリタイアしないでゴールするのが目標になった。
木ノ下は毎回きちんとゴールしている。
しかしタイムはというと、まったくふるわない。
上位連中のタイムが速すぎて、とても追いつけない。
「しっかし不思議だよなァ。どうして転んじゃうんだろうな?」
鉄男の雪を払ってやりながら、木ノ下も首を傾げている。
「知るか」
ぼそりと吐き捨て、鉄男はふてくされたように横を向いた。
急な坂道を板はいて滑り降りようというのが、そもそもおかしいのだ。
板ではなく運動靴なら、トップに立てる自信がある。
「雪まみれで寒くなってきただろ。もう辞めようぜ」
ぽんぽんと雪でぐっしょりした背中を叩かれ、鉄男も、ついに素直に頷いたのだった。

「ふーっ!生き返るなぁ〜」
スキー場の近くには宿泊施設が用意されており、風呂やメシも、そこで利用できるようになっていた。
二人は冷えた体を温めるべく、露天風呂へ飛び込んだ。
といっても冷えているのは鉄男だけだったのだが、風呂へ入る必要もないはずの木ノ下のほうが熱心に誘ってきた。
簡単に体を洗い、湯船に浸かる。
熱い湯は、あちこちぶつけた体に染みたが、同時に開放感も漲ってくる。
――本音を言うと、三回転げ落ちた時点で、既にスキーを辞めたくなっていた。
だが自分で参加を言いだした手前もあり、鉄男は、なかなか辞めようと言い出せずにいた。
木ノ下が先に辞めると言ってくれて、本当によかった。
そう思って木ノ下を振り返ると、デレデレして鼻の下を伸ばした彼と目があった。
「……どうした?」
「えっ!?い、いや、別にっ?」
鉄男には気づかれないよう、木ノ下は、こっそり貯まったツバを飲み込んだ。
現実でだって一緒に風呂には入っていたから、鉄男の裸が珍しいわけじゃない。
木ノ下の鼻の下を伸ばさせた原因は、鉄男の開放的な格好にあった。
普段と違ってタオルを巻いていない。
おまけに膝や股が傷むのか、湯の中で立て膝だ。
つまり普段は見えない部分も丸見えなわけで、木ノ下がウホッと喜んでしまうのも致し方なしなのだった。
「ランキングは無茶無謀だったよ、うん。まさか皆あんなに上手いとは思わなかったもんなぁ」
デレデレしていた不自然さを誤魔化そうと、木ノ下は鉄男に話題をふる。
「……俺達が古参に勝てるものは何一つない、ということか……」
暗く落ち込む相棒を慰めるかのように、木ノ下は一つ提案した。
「いや、今回は失敗したけど、イベントで目立つっていう、お前の作戦は悪くないと思うぜ。だからさ、次のイベントが始まる前までに強そうなフレを何人か作っておこう」
「強そうな?何故」
首を傾げる鉄男に、木ノ下が言う。
「たぶん、これの次はまた戦闘イベに戻ると思うんだ。その時までに強いフレが数人いれば、そいつらと一緒に参加できるだろ?そうしたら、イベント内ランキングに入れる確率もあがるってもんよ」
それでは鉄男や木ノ下が個人単位で目立てない。
そう突っ込むと、木ノ下はチッチと指を振った。
「鉄男、俺達が古参を出し抜いて上位に入るには、他の奴を利用するっきゃねぇ。忘れるなよ?ランキングに入る理由。笹川に会う為なんだからな。どんな手を使ってでも、あいつに会わなきゃ俺達は現実世界に戻れないんだぞ」
念を押されるまでもない。
他人を利用するのは気が退けるが、古参に勝てない以上、古参を利用する他ない。
作戦が決まったところで木ノ下は再びデレデレに戻り、鉄男の肩へ馴れ馴れしく手をかけた。
「んで、だ。鉄男、体はあちこち痛まないか?よかったらマッサージしてやるけど」
フンフンと、やたら鼻息の荒くなった友を真横に、鉄男は少々引き気味に遠慮する。
どうしたことか、今の木ノ下は件の黒歴史なマッチョ軍団を思い起こさせる気持ち悪さに変貌していた。
「いや、いい。湯に浸かったおかげで、だいぶ良くなった。そろそろあがろう」
言うが早いかザバッと鉄男はあがってしまい、「そ、そうか」とワンテンポ遅れて木ノ下も湯船からあがる。
だが鉄男が湯からあがった瞬間、しっかりちゃっかり彼の股間に目をやるのは忘れなかったのであった……


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