鉄男&木ノ下
汗臭いマッチョ軍団ギルドから一転して新生ギルド『ラストワン』を作った二人は、少しずつ増えていくギルドメンバーと一緒に、それなりに和気藹々やっていた。笹川の情報は、相変わらず何も掴めない。
それとなくギルメンに話を聞いても、誰一人として笹川の名前すら知らなかった。
「開発者なのに誰も知らないってのは、おかしいよな」
木ノ下は腕を組み考え込む。
今はギルドルームではなく、二人のマイホームで話している。
もっとも、ギルドルームに集まるのはイベントに参加するかメンバー同士で何かする時ぐらいだ。
打ち合わせが終わったら、ギルドルームには鍵をかけて全員閉め出すのが『ラストワン』のルールとなっていた。
「やはりゲームには参加していないと見るのが妥当だろう。運営も別名義でやっていると推測できる。外で俺達の様子を観察しているのではないか?」と、鉄男。
「そうかもな。あぁ、でも、そうだとすると中にいる奴は、どうやって外に出たらいいんだ」
木ノ下は頭を抱え、鉄男は再三ヘルプや告知を読んでいたが、不意に名案が脳裏に浮かび、木ノ下に提案する。
「笹川はテストプレイヤーを募集していた。何か目立つ行為や不具合を見つければ、笹川も気になってコンタクトをかけてくるんじゃないか?」
「目立つ行為ぃ〜?なんだよ、それ」
「俺達は、まだ何も極めていない。ランキングにしても、そうだ」
このゲームには各種ランキングが存在する。
強さ・ギルド・お洒落・モテ度など、様々なカテゴリに分類されたランキングが。
順位は毎回月初めでリセットされるが、エントリーされているのは大体同じ名前ばかりだ。
ランキング上位に笹川の知るテストプレイヤーが入賞すれば、奴も気になるのではないか。
鉄男は、そう考えた。
「不具合探しってのも面白そうだよな。よし、平行して両方やってみるか」
木ノ下も納得してくれたが、同時に彼は、こうも聞き返してきた。
「けどよ、今からランキングに入るのは並大抵じゃ出来ないぞ。鉄男は、どれが一番狙い目だと思う?」
少し考え、鉄男が答える。
「……イベントランキングという手がある」
もうじき、クリスマスイベントが開催されると告知に書いてあった。
主たる目的はプレゼントをあげて好きな人とのラブラブなのだろうが、手段はサンタとのスキー対決である。
プレイヤー八人で同時に滑れるモードもあり、ゴールまでのタイムを競うランキングが登場の予定だ。
「期間限定イベント内でのランキングか。なるほど、そりゃ笹川も注目してるだろうな」
イベント期間は、これまでの季節イベントと比べても格段に短く、なんと一週間で終了する。
戦いの手段がバトルではなくスポーツなので、飽きるのを見越して――という理由だろうか。
まぁ、運営の考えなど、鉄男の知ったことではない。
重要なのは笹川が見に来るか否かだ。
「けど鉄男。お前、スキー出来るのか?」
一番大事な点を木ノ下に突かれ、鉄男は言葉に詰まる。
「俺はまぁ、一応滑れるけど……もし苦手ないしやったことないってんだったら、教えてやるよ」
先回りして木ノ下が持ちかけてきたのをヨシとして、鉄男は素直に頷いた。
「あ、あぁ……宜しく頼む」
スキーなんて洒落たスポーツ、一度もやった経験がない。
なにせ家が貧乏な上、友達もいなかったのだから。