己キャラでMMO

14周年記念企画・闇鍋if


鉄男&木ノ下

戦争イベントは最悪だった。
何が最悪って、まず人数が一定数いないと勝ち抜けないところが。
そしてギルドに集まったメンバーも最悪であった。

鉄男率いるギルド『漢連盟』は、ランキング下位をうろうろする弱小ギルドになっていた。
戦争イベントは、どんなに屈強な男が集まっていたとしても、容易く勝ち抜けるほど甘くない。
この世界には魔法がある。
弓矢や銃もある。
降り注ぐ遠距離攻撃には為す術もなく、マッチョな近接戦士達は一方的な虐殺を味わっていた。
だが――どれだけ惨敗続きでも、彼らの瞳に失望の光は宿らなかった。
「鉄男さん、お疲れ様ーッス!」
「お疲れさんっす!!」
ギルドルームに帰って来るや否や、男達が取り囲むのはギルドマスターの鉄男だ。
皆、汗びっしょりだから、ルームの気温も一、二度高くなっているような気がして、鉄男は眉をひそめる。
戦争イベントは、対人モードをオンにしなければ参加できない。
対人モードをオンにすると、腹は減るし汗をかくしトイレにも行きたくなる。
要するに、生身と同じ状態になるのだ。
オン同士でなら、互いの体へ触れることも可能となる。
そしてギルメンは、こぞって鉄男の肉体に触れたがった。
「ててて鉄男さん、汗をおふきしましょうッス」
「何を、てめぇはこないだ拭いたばかりじゃねーか!次は俺の番だ!」
「鉄男さん、喧嘩している連中なんぞ放っといて、まずはフロといきやしょう!!」
暑苦しい男達が先を競って、鉄男に何かしようとしてくるのである。
木ノ下は勿論、ナナだって気分のいいものではない。
言うまでもなく、鉄男本人もだ。
「おい、お前らギルマスが困ってんじゃねーか!風呂ぐらい一人で行かせてやれよ!!」
木ノ下が助け船を出すも、誰も聞いちゃいない。
そればかりか、鉄男の肩へ馴れ馴れしく手を回して抱き寄せる者まで現れた。
「鉄男さん、俺がきっちり守ってあげますからね。ふんかふんか」
「い、いや……いい。一人で大丈夫だ」
ひきつった表情を浮かべる本人などお構いなく、マッチョなギルメンは鉄男の匂いを嗅ぎまくっている。
「ハァハァ、鉄男さんの汗の臭い、たまんねぇっ。ジュルリ」
たまらないのは鉄男で、無理矢理男の手から逃れた直後、今度は別のマッチョに捕まって抱きしめられた。
「お前ら鉄男さんにベタベタするんじゃねぇ!俺がエスコートしますぜ、鉄男さん」
「いいと言っているだろう!」
しまいには鉄男もキレて怒鳴りつけるが、やはりギルメンは誰一人言うことを聞かない奴ばかり。
「遠慮しなさんなって、鉄男さん。おや、こんな処にビー玉をつけて、どうしたんです」
服の上から、きゅっと乳首を摘んでくる者。
「鉄男さんの汗の臭いをベッドまで持っていきてぇから、このタオルに染みこませてやってくだせぇ」
鉄男が身動き取れないのを良いことに、ズボンをズリ下げて、お尻を直接タオルでごしごし擦ってくる者。
「はぁはぁ鉄男さん、たまんねぇっす。鉄男さんの嫌がる顔もベリーキュートっす」
キスせんとばかりに顔をグイグイ近づけてくる者。
「お前ら、やめろ!」
慌てて木ノ下が割って入るも、力づくでは戦士に勝てるものではなく、逆にボイーンとはじき返される。
はじき飛ばされた勢いで壁に激突してクラクラする木ノ下の頭上に、男達のドスの効いた声が降り注ぐ。
「うるせーよ、サル野郎。順番を守れや」
マッチョメン達は、木ノ下には辛辣であった。
あくまでも、興味があるのは鉄男だけなのだ。
頼りにならない木ノ下の替わりに、今度はナナが立ち向かう。
「もぉー!あんた達、いい加減にしなさいよ!!」
まっすぐ突っ込んでいく彼女を「や、やめろ危ないぞ!」と木ノ下は心配して声をかけたのだが、ナナは木ノ下ほどには単純な攻撃を仕掛けたりしなかった。
「うるせぇクソチビアマ、俺達ぁお楽しみなんだ!」
向かってくる大男の腕をかいくぐり、勢いよく足を振り上げる。
「せやっ!」と、蹴飛ばしたのは相手の急所。
俗に言うと、キンタマだ。
「ほごっ!」とくぐもった悲鳴をあげて蹲る大男を振り向きもせずに、次の標的にも蹴りかかる。
次々とくぐもった悲鳴があがり、鉄男に群がっていた男達が股間を押さえて倒れ込んだ。
その攻撃たるや、疾風怒濤。
鮮やかな手並みである。
「ナナちゃん……蹴るの、上手いな」
ぽつりと呟く木ノ下の元へ、鉄男が駆け寄ってくる。
「大丈夫か、木ノ下」
壁に激突したのを心配されているのだと判り、木ノ下は微笑んだ。
「俺は平気だよ。鉄男こそ、大丈夫か?」
汗臭い男達にモミクチャにされて、さぞ不快だっただろう。
鉄男は眉間に皺をよせ、小さく木ノ下の耳元で囁いた。
「気分としては最悪だ。できれば、今すぐイベント参加を終わらせたいぐらいだ」
「……じゃあ、終わりにするか?どうせ上位には上がれっこないんだし」
木ノ下が囁き返すと、即座に鉄男が頷く。
リーダーが辞めたがっているのなら、さっさと終了したほうが良かろう。
というか木ノ下としては、もっと気軽に楽しめるイベントだと思っていたのに、全く期待はずれで楽しめない。
全然勝てないのでは、楽しいもへったくれもない。
戦争イベントとは、近距離・中距離・遠距離で戦えるメンバーを六十人最大まで集めた上で、コンダクターというクラスをリーダーに据え置かないと、とてもランキングを勝ち抜けない玄人仕様であった。
総勢二十数名、しかも近距離しかメンバーのいない、このギルドが勝てるはずもない。
おまけに、戦闘が終了するたびにメンバーは鉄男を奪い合って喧嘩するのである。
チームワークが微塵もない。
「ギルドってさ、もっと仲の良い仲間同士で作った方がいいよな」
木ノ下が鉄男に相づちを求めると、鉄男も真面目に頷き返す。
「一度ギルドを解散しよう。それで……次に作るギルドは、木ノ下がリーダーになってほしい」
「よし、じゃあ、先に抜けて作るから、俺が招待したら速やかに、このギルドを抜けて俺の処に入ってくれよ」
ひそひそ相談していると、全員を金的でノックアウトさせたナナが戻ってきた。
「なに?どうしたの、二人とも」
「あ、ナナちゃん、ナイスタイミング。あのさ、俺達、もうこのギルド抜けるよ。みんな喧嘩してばかりでギスギスしていて、嫌になっちゃってさ……君は、どうする?」
木ノ下に突然脱退すると聞かされても、ナナに驚いた様子はない。
そればかりか、あっさり同意してきた。
彼女も内心では、うんざりしていたのか。
「そうですか。実は、あたしも抜けようと思ってたんです。この人達って、あたしと木ノ下さんの事を無視してばかりで感じ悪いですし」
「このギルドやめた後は、どうする?」
木ノ下に尋ねられ少し考えた後、ナナは、しばらくソロで探索してみると申し出た。
「ずっと鉄男さんと一緒にいるのも悪くないけど、鉄男さんだって、しばらくは一人になりたいですよね。だから、あたしも一旦お別れです。しばらく一人で冒険してみて、飽きたら、また連絡取っていいですか?」
にっこり微笑まれ、鉄男も僅かばかりに微笑み返す。
隣でぎゅびりっと喉を鳴らす木ノ下はスルーの方向で。
「あぁ、判った。その時は連絡してくれ」
「それじゃ、ここでお別れです。お世話になりました」と言い残し、ナナは先にギルドを脱退していった。

それから後は木ノ下が先に抜けて、制限つきギルド『ラストワン』を作った後は、すみやかに招待で鉄男もそちらへ移籍する。
リーダーが抜けた時点で、ギルドは自動解散となる。
従って『漢連盟』も、鉄男がいなくなると同時に解散されたはずだ。
もちろん、前ギルドのマッチョメンバー達には何の断りも入れていない。
言えば必ずついてくるであろうことは想像に難くなかったし、できれば二度と彼らには会いたくない。
片っ端からブロックリストへ元メンバーを突っ込む作業に没頭する鉄男を横目に、木ノ下が言った。
「だいぶレベルもあがったし、そろそろ馬車でも買って遠出してみるか?」
「……あぁ」と一旦は顔をあげて鉄男も同意すると、つけたした。
「それと、俺達二人で住む家も買おう。ギルドルームは落ち着けない……お前と、二人きりのほうがいい」
ギルドルームでいいじゃんかと言おうとしていた木ノ下は、言おうとしていた言葉を唾と一緒に飲み込んだ。
今、なんかすごく恥ずかしくも嬉しい爆弾宣言を、鉄男にされなかったか!?
「も、もちろん鍵つきだよな?」
上擦った声で木ノ下が尋ねると、間髪入れずに鉄男も答える。
「あぁ。他の奴らが入って来られないようなのが市場で売られていたはずだ」
ユーザーハウスは二種類あって、一つは全公開で誰でも入ってこられるタイプ。
もう一つ、入場制限機能のついた高性能なタイプがある。
鉄男が希望しているのは後者だ。
後者は当然のごとく、値段も格段に跳ね上がる。
その代わり、鍵をつけてしまえば永遠に二人だけの密室完成だ。
鍵つきのハウスが売られているのは知っていた。
だが、鉄男もチェックしていたとは意外だ。
よほど、前ギルドでの悪夢が尾を引いている。
ここで期待に応えねば、鉄男を愛しているとは言えない。
「よ、よしっ!ちっと値が張るけど、頑張って金を貯めるか!」
「あぁ、料金は割り勘でいこう」
意気込んで目標を語る木ノ下へ、鉄男が微笑んでくる。
おかげで、ますます木ノ下のやる気は上昇し、無駄に性欲という名の欲望も彼の内面で燃え上がるのであった。


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