己キャラでMMO

14周年記念企画・闇鍋if


鉄男&木ノ下

鉄男と木ノ下は、街で知りあった女の子ナナを加えた三人パーティで狩りに励んでいた。
途中で中だるみしないよう計画的に、きっちり休息を取っては一定時間内に狩りをする。
鉄男の考えたスケジュールのおかげで、だいぶレベルアップしたように思う。
自分一人だったら、こうはいかなかっただろうな〜と木ノ下は考え、鉄男と一緒だったのを幸運に思った。
何度目かの休息に入り、三人で草原に腰を下ろす。
対人モードオフの戦闘ゆえに、鉄男の汗の匂いを嗅げないのは残念だ。
だが、ろくな装備も持たずに頑張る鉄男へ向かって対人モードをオンにしてくれなんて、さすがに言えるわけがない。
いつか立派な武器を買って装備を万全にした暁には、堂々と対人モードをオンにしてくれと頼もう。
そして二人っきりになった瞬間を見計らって、汗を拭く理由の前に鉄男の裸体へ、あんなことやこんなことを……グフフのフ。
一通り妄想に耽った木ノ下は一旦妄想を終わりにして、無言で休んでいる二人に雑談を振る。
「やっぱ俺が思うに、笹川を探すのが一番の近道だと思うんだよ。この世界を抜ける為には、さ」
すぐさま鉄男が会話に応じる。
「だが、どうやって見つける……?」
眉間には幾筋もの縦皺を寄せて。
即そうしようと、すぐには頷かないのが如何にも彼らしい。
しかし木ノ下は、鉄男のそんな慎重な面に好意を寄せていた。
アイディアを出し合っていれば、木ノ下では思いつかない案を彼が考え出してくれるかもしれない。
そう思い、なおも自分の案を披露する。
「たぶん、ああいう目立ちたがり屋は自分のレベルを最大限まであげていると思うんだよ。だから高レベルプレイヤーを軒並み捜せば、出てくるんじゃないか?噂の一つや二つぐらい」
「作った本人がゲーム内に……?」
木ノ下の推理に、鉄男は首を傾げる。
笹川はテストプレイヤーを募集していたはずだ。
なのに自分までもがゲームの世界へ入り込んでしまったら、何かバグを見つけても直せないのではないか。
疑問に思う鉄男を置き去りに、ナナは木ノ下の意見に賛成のようだ。
「なら、頑張ってレベルアップしなきゃいけませんね!」
笹川を探すにしろ、探さないにしろ、どのみちレベル上げは必要だろう。
鉄男も無言で頷く。
「ま、俺の推理が当たりにしろハズレにしろ、レベルアップは必要だよな。そ〜ゆ〜わけだから、鉄男!頼りにしているぜ、戦闘っ」
木ノ下にニッカと笑われて、途端に鉄男の心拍数は跳ね上がる。
どうしてだ。
ナナに微笑まれても何ともなかったのに。
いや、何故かなんて自問しないでも答えは判っている。
大切な友人にして、唯一の信頼が置ける相手でもある木ノ下に期待されている。
それが己の動悸を速めた原因だ。
ドキドキしているのを悟られたくなくて、鉄男は俯いた。
駄目だ、頬が熱くなってくる。
きっと、もう、木ノ下もナナも鉄男がテレているなんて気づいてしまっただろう。
恥ずかしさで、ますます無言になる鉄男へ、木ノ下が話しかけてくる。
「んで手っ取り早くレベルをあげる方法、考えてみたんだけどさ。クエスト引き受けて戦闘〜の繰り返しも、まぁ、悪くねーんだけど、どうせなら、もっと効率的にやりたいじゃん?」
何を言い出すのかと、鉄男は黙って彼の話を聞いた。
「今、戦争イベントってのやっているんだよ。二人とも知っているかもだけど」
正確には、だいぶ前から始まっていたようだが、参加条件はギルド加入。
ギルドに参加していないプレイヤーはイベントにも参加できないらしい。
ギルド未参加の自分には関係ないかな、とスルーしていた木ノ下である。
しかし今さっき調べたところ、イベントでは報酬や経験値がガッポリ入ると追記されていた。
そういうオイシイ情報は、早めに教えて欲しいものである。
今からでも遅くはない。
イベントに参加してみよう。
鉄男を誘うと、彼にしては即頷いた。
同じモンスターばかりを狩る戦闘に飽きたのかもしれない。
「ナナちゃん、君もどうかな?戦争イベント、参戦してみる?」
木ノ下はナナにも話をふってみたが、オヤ、反応がない。
ナナはポ〜ッと頬を赤らめて、鉄男をじっと見つめているばかりだ。
「えっと、おーい、聞こえてる?」
「……えっ!?」
「あ、我に返ったな。よしよし。あのさ、ナナちゃん。もう一度聞くけど。今、戦争イベントやってるだろ。それに参加しようと思うんだけど、君はどう?」
「えー……」と呟いて、ナナは悩み出す。
イマイチな反応だ。
まぁ、戦争イベントで生き生きしてくる女の子ってのも、それはそれで微妙な反応だが。
「鉄男さんがやるんでしたら、やってもいいですけど」
渋っていたのは、鉄男の参加状況が理由だったようだ。
あくまでも仲良くなりたいのは鉄男だけで、木ノ下は全く眼中にない。
頑なな態度も、ここまでくると表彰ものだ。
木ノ下は内心、苦笑した。
鉄男が頷くと、ナナも「じゃあ、参加します」と了承し、木ノ下はパチンと指を鳴らす。
「よっしゃ、決まりだな!よし鉄男、そんじゃ今からギルドを作ろうぜ」

他人のギルドに入ってもいいのだが、どうせだったら自分で作ったギルドを動かしたい。
ギルドマスターをやる人間も、木ノ下の脳内では既に決定していた。
「ギルマスは鉄男、お前な」
「えっ!」と叫んで鉄男が木ノ下の腕にすがる。
「お、俺には無理だ……木ノ下、お前がリーダーを」
木ノ下は「何言ってんだ」と笑い飛ばすと、やんわり鉄男の腕を自分の腕から外させる。
逆に鉄男の肩に両手をかけて、真っ向から覗き込んだ。
「俺はマスターってガラじゃないよ。鉄男、お前は何事にも真剣だし真面目だし、絶対に弱気になったりしないだろ?俺より、ずっとリーダーに向いているはずだ。それに、お前がリーダーのほうが、俺もやってやろう!って気になるし」
戦争イベントは、言うまでもないが対人戦がメインのイベントだ。
従って、対人モードもオンにしなければいけない。
きりっと真剣な眼差しで皆を勝利に導く鉄男――うん、絵になる。
俺より、ずっと。
汗を飛ばして戦う鉄男も、きっと凛々しいに違いない。
終わった後は思う存分、彼の汗の臭いを堪能しよう。
そして、俺は彼を存分に労ってやるんだ。
大事なリーダーだしな。
疲れているんだったらマッサージするよと偽って、ベッドに誘い込んで、あんなことやこんなことを……フヘヘッ。
木ノ下が脳内でヤマシイ妄想に浸っている間、ナナが助太刀に入ってくれる。
「そうですよ!鉄男さんがリーダーなら、メンバーの集まりもよくなるんじゃないですか?」
そうとも、その通りだ。
鉄男は木ノ下が見るに、イケメンだ。
ナイス男前だ。
彼のルックスに惹かれてメンバーも戦争できる程度には集まってくるに違いないといった確信があった。
二人がかりの説得にあい、鉄男は渋々承諾した。
「ほんじゃ、ギルド名は鉄男が決めていいぞ」
鉄男は再び「えぇっ!?」となり、三人で案を出し合い『漢連盟』という名前に落ち着いた。

広場で募集をかけるや否や、わらわらとメンバー希望者が集まってきて、やがて、ずらっと勢揃いしたギルドメンバーの数は二十人。
その、どれもが男である。
何故かというとギルド結成前に、ナナが提案してきたのだ。
――メンバーは全員男にしましょう。そのほうが、きっと統制も整います。
じゃあ君は、どうするの?抜けるの?と尋ねる木ノ下へ、ナナは露骨に眉間へ皺を寄せると首を真横に振る。
「あたしは、いいんです。お二人の友達ですから。でも、他のメンバーは違うでしょ?だから統制は必要です」
なんだかよく判らない理由だったが、確かに女性が多く入ってくるのは木ノ下の望む展開でもない。
戦力は欲しい。
だが、鉄男にちょっかいをかける奴は欲しくない。
自分勝手な都合を考えていると、めでたくメンバーに承諾された一人が言葉を発した。
「鉄男さん、めちゃ格好いいんで即申請したッス!もう自分は、鉄男さんに一目惚れッス!これから、どうぞ宜しくお願いしまッス!!」
頭は角刈り、ムチムチ弾ける筋肉の眩しいガッチリ体格の大男が、頬を真っ赤に染めて言っている。
思わずドン引きする二人の横で、何も気づかないのか鉄男が手を差し出す。
「こちらこそ、宜しくお願いする」
口元を引き締め手を出す鉄男、その手をぎゅぅっと両手で熱く握りしめ、ガチムチ男が勢いよく頷いた。
「自分、一生ガチついていくッス!マジッスから!今からでも上位ランクインを目指しましょうッス!!」
「あ、お前ばかりズルイぞ!」となって他の筋骨逞しい男達にも群がられる鉄男を眺め、男だけにしたのは間違いだったかもしれない――と、木ノ下は内心焦りに焦りまくるのであった。


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