ラルフ&エリック
ラルフも風呂からあがってくると、エリックの差し向かいに腰を下ろす。「では……いただきます」
両手を併せて行儀良く挨拶するエリックに「ちょっと待った」とラルフが声をかけた。
「今日の飯は対人モードをオンにして食べてくれないか?いや、できれば今日以降は、ずっとそうしてくれると嬉しいんだが」
「おや、何故です?ラルフ」
エリックの疑問にラルフは笑顔で答える。
「対人モードをオンにして食べると、料理がよりおいしくなるんだぜ?知らなかっただろ」
無論、口から出任せだ。
エリックに警戒心を抱かせない為の。
だが生産に没頭してばかりで外出の少なかったラルフは知るよしもないのだが、実はこれ、正解なのである。
街の中では知る人ぞ知る裏技というやつであった。
「なるほど……では、さっそく試してみるとしましょう」
エリックが対人モードをオンにするのを見計らって、ラルフも設定をオンに切り替える。
再び二人で「いただきます」と挨拶すると、ほぼ同時に料理を口へ運んだ。
「……おいしい!」
「本当だ」
お互いに驚いて、「えっ?」とエリックに聞き返されたラルフは慌てて言い繕う。
「あ、いや、俺の料理でも大丈夫かなって思ったんだが、おいしかったんで、ね」
「ラルフ、あなたの料理スキルはレベル78でしょう?なら、美味しくて当然です。もっとご自分に自信を持って下さい」
ニッコリとエリックに微笑まれ、ぎこちなくラルフも微笑み返した。
危ない、危ない。
いや、しかし、これは新発見だ。
今後は飲食も一つの楽しみになろう。
本日の夕飯は子羊背肉のロティ・野菜のブクティエール添え――という長ったらしい名称のメニュー。
スキルブックの補足によると、"フランス料理"というらしい。
現実では作りたくもないぐらい面倒な調理法も、ゲームの中ではお手のものだ。
飲み物は赤のワイン。
エリックは上品に食べている。
今のところ、変わった様子は伺えない。
あの薬が即効性とも限らないし、しばらく様子見したほうがいいだろう。
「――ごちそうさまでした」
「ごちそうさま。どうだい?俺のお手並みは」
「大変素晴らしかったです。このような絶品を、私は今まで味わいもせずに食べていたのかと思うと申し訳ないですね」
社交辞令ではない。
エリックは本心で言っている。
彼がラルフに着飾った言葉を吐くところなど、一度も見た覚えがない。
ラルフは、とっておきのイケメンスマイルで受け応えた。
「ありがとう。じゃあ、これからはオンで飯を食うとするか」
「はい」
イケメンスマイルは効果あったのかなかったのか、それすらも判らないほど普段通りの反応が返ってきた。
エリックは少年の頃から穏やかな気性で、感情の起伏も緩やかだ。
滅多に病気をしないし、ひどく落ち込んだりもしないから、その方面で頼られることもない。
だからエリックが夜中にラルフの袖を引っ張り小声で相談してきた時には、ラルフは顔にこそ出さなかったものの、内面は下心で満たされ、興奮で荒くなる鼻息を静めるのに必死だった。
「ラルフ、ラルフ。……ちょっといいですか?」
「な、なんだい?こんな時間まで眠れないとは君らしくもない」
くるりと向き直ってみると、エリックは困ったように眉を八の字にさげ、ラルフを見つめる。
「すみません。ですが……動悸がおかしいんです。このような状態は初めてで」
心なしか、エリックの息は荒い。
頬も赤く染まっているように見えた。
例の薬が効いてきたのかもしれない。
「君が病気にかかるとは珍しいね。ど、どれ。俺が診てやるよ」
上擦りそうになる声を低く抑え、エリックのローブへ手をかける。
ローブは頭からすっぽりかぶるタイプの服だ。
ラルフが脱がせるよりも、本人に脱いでもらったほうがよさそうだ。
「あなたは医学スキルも取得していらしたんですか?」
ラルフが全ての生産をマスターしていると思っているのか、エリックは、そんな事を尋ねてくる。
「まぁね、ある程度は」と曖昧に濁すと、ラルフはエリックを促した。
「さぁ、服を脱いでくれるかい」
判りましたと頷いて、何の疑いも持たずにエリックがベッドから立ち上がってローブを脱ぐ。
パンツ一丁になって再びベッドへ寝ころぶ様子を、一分一秒たりとも見逃さない姿勢でラルフは見守った。
エリックの下着姿が眩しい。
少年時代でもエリックは慎み深く、たとえ親友ラルフの前といえど下着一丁で遊び回るなど、はしたない真似は一切しない子供であった。
大人になって初めて見る、彼の下着は木綿の白いパンツだった。
どうしても膨らみに目がいってしまうが、そこばかりワンポイントに凝視していたら、さすがのニブチン幼馴染みが相手でも怪しまれてしまう。
ラルフは「んんっ、ゴホン!」と咳払い一つで気持ちを切り替えると、まずは平らな胸へ視線をやった。
エリックの肌はラルフよりは若干白いものの、際だって白いわけでもない。
言ってみれば普通の白人だ。
ムキムキではないが、がりがりのモヤシでもないのは、畑仕事の成果だろう。
そこそこ筋肉は、ついている。
お腹だって、ぷよんぷよんではない。
贅肉は少なく、スマートだ。
「どの辺がおかしいんだい?動悸が速い以外に」
「いえ、特に、どの辺りが、というわけでもないのですが……胸が、ドキドキするのです」
「ふぅん……胸が、ねぇ?」
さりげなさを装って胸を撫で回したついでに、乳首を指でちょいと突いてみる。
ここはどうだい?と聞く前に、エリックがビクンッと体を震わせた。
「んっ!」
「ど、どうしたんだっ!?」
素で慌てるラルフへ「わ、判りません……ただ……」と言葉を濁らせ、エリックも視線を漂わせる。
「ただ、なんだ?」
「その……」
どんどんエリックの言葉尻は小さくなっていくもんだから、自然とラルフも顔を近づけるハメになり、至近距離で覗き込むと、エリックは恥ずかしそうに視線を逸らしてポツリと呟いた。
「あなたの指が触れた瞬間、体に電撃が走ったかのような感覚があり……動悸が、早まりました」
「そ……そうなのか」
ぐびり、とラルフの喉が鳴る。
「電撃……珍しい反応だね。一体どういう病気なのかな」
些か白々しい棒読みになりつつ、ラルフは尚もエリックの乳首に触れる。
人差し指と中指で挟み込むと、くにゅくにゅと弄ぶ。
「やっ――や、駄目です、ラルフッ!」
エリックがすぐさま手を掴んできたが、お構いなしにラルフは、もう片方の乳首を親指で押したりつまみ上げて引っ張ってやる。
「あ、あっ、ラルフいけません、私、私の体が、おかしくなってしまいます!」
「ほほ〜ぅ。どう、どんな風におかしくなっているんだか、ちゃんと説明してくれないと判らないよ?」
もはや荒ぶる鼻息を隠そうともせず、ラルフの両手は激しくエリックの乳首を刺激する。
「おやおや?堅くなってきたぞ、これは危険な病気かもしれないね」
鼻息荒く卑猥な笑みを浮かべるラルフとは対照的に、エリックは涙目だ。
「びょ、病気!?病気、なのですか、私はっ」
親友の棒読みに突っ込む余裕もないのか、或いは気づいていないのか。
否、初めて起きた己の体の現象に、エリックの思考は完全パニックに陥っていた。
ラルフの指が体に触れるたび、くすぐったいような、それでいて気持ち良いような感覚が肌を通して脳に伝わってくる。
「あぁ、こんなにコリコリに男の乳首が硬くなるなんて、きっと悪い病気に違いない」
覆い被さるラルフの表情は、暗くてよく見えない。
だが両手の親指と人差し指は、たえずエリックの乳首をクリクリと摘み、奇妙な感覚を送り続けている。
このまま受け続けていたら、全身がどうにかなってしまいそうだ。
「ら、ラルフ、どうにかしてください、私を助けて下さい!」
「いいとも、まずは消毒しないとな」
ふんふんと荒い鼻息が胸元に近づいてきたかと思うと熱いものにベロンッと乳首を舐められて、「ひぃっ!?」と恐怖と嫌悪の悲鳴がエリックの口から飛び出した。
「おっと動いちゃ駄目だぜ、消毒できないじゃないか」
怖い。
ラルフが低い声で囁いてくるのが、この場にそぐわなくて怖い。
大体、今舐めたのはラルフの舌ではないのか?
唾で消毒するなんて、擦り傷じゃあるまいし。
抗議しようとしたエリックは、ベロンベロンとラルフに胸や腹、首筋まで舐められて、再び引きつった悲鳴をあげる。
「い、い、一体、何を!?」
こんなのは断じて消毒でも治療でもない。
かといって彼が何のつもりで、こんな真似をしているのかも判らない。
判らないからこそ、怖い。
「堅くなっているから、ほぐそうと思ってね」
「な、何をですか!?」
「リラックス、リラックスだよエリック」
リラックスしろと言われても、出来るわけがない。
乳首を通して伝わってくる刺激は相変わらずだし、何故ラルフが全身を舐め回してくるのかも判らないのでは。
「ほら、こんなところも堅くなっているじゃないか。これは絶対病気だよ」
おまけに、ぎゅっと股間の盛り上がりをラルフに握られて、言葉にならない悲鳴をあげ、エリックが身をよじらせた。
「あ、あ……だ、駄目、駄目、です、ラルフ、そこは……ッ」
大量に汗をかき、もぞもぞと体をよじって逃げようとしているが、大事な処をラルフに握られているもんだから逃げられない。
ラルフの腕を掴んで引き離そうとしても、力を込めるたびにニギニギされて、腕の力が抜けてしまう。
ラルフの腕にしがみつき、エリックは譫言のように繰り返した。
「も、もぅ、いけません……やめて、離して下さい、お願いです」
頬を上気させて涙目で見つめてくるエリックなんぞ、ラルフは生まれて初めて見た。
手の中のものは熱を帯びている。
本人の意思とは無関係に、体が反応してしまっているようだ。
ラルフは、もう一度大きくゴキュリと唾を飲み込む。
やめてと言われて、やめるなんて冗談じゃない。
ここまで来たからには、全部見たい。
上から下まで、生まれたままの姿のエリックを拝みたい――!
「助けてくれと言ったのは君だぞ。だから、俺は君を診察する義務がある」
説き伏せると、エリックは視線を外す。
口元がふにゅふにゅ動いていたから、小声で何か文句でも言ったのだろう。
が、そんなのは聞く耳を持ってやるつもりもない。
覆い被さる状態でラルフはエリックを覗き込むと、厳粛な表情を作り、いかにも医者のように偉そうに言い放った。
「いいかい、エリック。君の病名が判明した。これは大人がかかる病気の一つ、その名もイカセテ病だ」
「い……イカセテ病?なんなんですか、それは」
聞いたこともない病名に、エリックの両目が驚愕で見開かれる。
まぁ、聞いたこともないのはラルフも同様だ。
今し方適当にでっちあげた嘘の病名なのだから。
パンツの上から掴んでいたものを、直接、素手で握りしめてやる。
「やぁっ!」と激しく反応したエリックに、ぐいっと両手で顔を押しのけられたが、ぐいっと顔を近づけ返してラルフは囁いた。
「イクとこまでイかないと大変な事になってしまう病気だ」
「行くって、どこへ行けとおっしゃるのですっ!?」
真顔で叫ぶエリックを見て、しばしラルフは首を傾げる。
どうも、会話が噛み合っていない気がする。
ここは、できれば赤くなって俯いたりして欲しい場面なのだが。
ラルフが無言で眺めていると、エリックはぶつぶつと小声で愚痴った。
「この病気をなんとかしない限り、どこへも行かれないではありませんか……!」
「んんん、君、もしかして本気で言っている?」
「本気って何の本気ですか!あなたこそ、私の病気を治す気がないんですか!?」
半ギレされて「い、いや、もちろん治す気でいるよ。だから、こうして診察しているんじゃないか」と宥めつつ、ラルフは顎に手をやり、そっと独りごちた。
エリックのやつ、堅物だと思っていたが、まさかここまで性欲オンチだったとは。
ならば当分気づかれる事もあるまい。
いや、気づかれる前に全部を終わらせてやる。
「エリック、君に判りやすく説明するとだな、この病気は」
言いかける側からエリックに遮られた。
「ラ、ラルフ……」
「ん、どうした?」
見ればエリックの体をつたう汗の量が増している。
ごろんと仰向けに寝転がり、エリックはハァハァと荒い息をついた。
泣き濡れた瞳がラルフを捉える。
「体が、熱いのです……全身がほてって、おかしくなりそう……なのです。どうか、私をお助け下さい」
ちょっと多すぎたのかもしれない。
薬の量が。
「よし、判った」
力強く頷くと、ラルフはエリックのパンツを脱がしにかかる。
脱がしながら、優しく囁きかけた。
「エリック、この病気は全身をくまなくマッサージすれば、だいぶよくなる。そして最後に座薬を打てば完璧だ」
熱に浮かされた状態でラルフに抱きかかえられたエリックが、ぼそぼそと尋ね返してくる。
「ざ、やく……持って、いるのですか……?」
「あぁ、この家には何でも揃っているのさ。君のために」
キラッとラルフは歯を光らせる。
ただ、この座薬は打つまでに時間を要するのが難点だ。
それと、エリックの協力も必要とする。
エリックが素直に尻の穴を弄らせてくれるのであれば。
「ありがとう……ございます、ラルフ」
息も絶え絶えに呟くと、エリックはラルフの腕に身を任せた。
何度目かの唾を飲み込み、ラルフはとうとうエリックを全裸に剥いてしまった。
上から下まで何もつけておらず、あぁ、夢にまで見たエリックの裸が腕の中にある。
そっとベッドへ仰向けに寝かせてみると、股間のものは雄々しくそそり立っていた。
性欲皆無の者を、ここまでにしてしまうとは恐るべし薬効果。
効果が持続している間に、全てを終わらせねば。
「エリック、今から君に全身マッサージを施す。痛くても変でも我慢してくれよ」
もちろんラルフは、エリックが痛がろうと暴れようと絶対座薬を打つまでやめないつもりだ。
藪医者ラルフによる最後の治療が、ついに始まる――!