己キャラでMMO

14周年記念企画・闇鍋if


ジェナック&マリーナ

いくら三度の飯より喧嘩が好きと言っても、限度はある。
ジェナックが飽きを感じたのは、フィールド上にいる全てのレイドボスを倒した後であった。
要は、やることがなくなったのだとも言う。
「よし、帰るか!」
ある朝突然、そんなことを言い出すもんだから、マリーナのほうが驚いてしまった。
「帰るって、どこに?」
「決まっているだろう。あいつの待つ海軍だ」
あいつとは?
マリーナは一瞬、思い出すのに時間がかかったが、海軍での上官カミュだと思い出す。
もう何年も顔を見ていないような気分になっているが、彼がゲーム世界にいないせいだ。
「でも、どうやって、ここを出るつもりなの?出る方法はなかったじゃない」と聞き返せば、ジェナックはクルリと振り向き陽気に言い放つ。
「俺も、ずっとそう思っていたんだがな。出る方法が見つかったらしい」
「えっ?」
ついてこいと手招きされ、マリーナは半信半疑でジェナックの後をついていった。

果たして行った先に二人を待ち受けていたのは、レイドボスで。
「この敵なら、三ヶ月前に倒したんじゃなかったかしら」
首を傾げるマリーナへ、ジェナックが間違いを正してくる。
「そう思うだろ。だが、似ているようで違うモンスターなんだ。あいつの持つスキルに『強制ログアウト』ってのがあるらしい」
「なんですって!?」
初耳だ。
レイドボスは軒並みチェックしていたと思ったけれど、そんなレアボスもいたなんて。
強制ログアウトとは、その名どおり、プレイヤーを強制的にログアウトさせてしまうスキルだ。
ログイン、ログアウトが自由に行えるプレイヤーであれば、ただのロスタイムになる。
だが、ログインもログアウトも自分で行えない自分達が、それを受けたとしたら?
二度と、ここへ戻ってくることもなかろう。
さぁやるぞと張り切るジェナックに、マリーナが待ったをかける。
「そのスキルで本当に此処を出られるとしたら、他の人達にも教えてあげるべきだわ」
「他の人達、とは?」
「私達と同じような状況にある人達よ」
ふぅ、と溜息をついてジェナックが聞き返す。
「心当たりがあるのか?」
元々の知り合いと呼べる顔はマリーナだけだ。
あとは全て、この世界で会った人ばかりである。
心当たりのないジェナックと異なり、マリーナは数人候補をあげた。
「前にグレイグを見かけたのよ……グレイグ=グレイゾン。側には、ハリィの姿もあった。彼らも取り込まれたと考えるのが、妥当じゃなくて?」
「白のグレイゾンが?だとしたら、助けてやらなければいかんな」
ハリィはどうでもいいと言わんばかりだが、マリーナはあえて、そこには突っ込まず。
「二人とも同じギルドに属していたようだったわ。確か……ハンド・ハンドなんとかっていう名前の」
「そこまで判っているのなら、検索してみれば出るだろう」
さっそくジェナックがハンドハンドで検索してみると、頭にハンドとつくギルドが、ずらっと検索結果に並んで出る。
その数、50以上。
「ここから探すのか」と消沈する彼に悪いと思ったのか、マリーナは多少訂正した。
「彼らを捜すのは私に任せて。あなたは、この世界を出たがっている人を捜してみて。フレ内だけでもいいから」
「よし、判った」
検索結果を一つ一つ当たるよりは、フレンド総当たり戦のほうが楽そうだ。
ジェナックのフレンドリストには五人ぐらいしか名前がない。
マリーナの他にはエイジとランスロット、それから葵野と坂井の名が記されている。
ギルドに入っていなかったのが幸いした。
一旦マリーナと別れ、ジェナックは片っ端からトークを仕掛ける。
そうしてエイジとランスロット、及び葵野と坂井も、この世界を出たがっていると知った。


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