己キャラでMMO

14周年記念企画・闇鍋if


ジェナック&マリーナ

きたるイベント初日。何度もソロプレイヤーをやり過ごし、何度か野良パーティーを避けて、ようやく誰も来ない時間帯がやってきた。
「あと二分で出現するな」
ちらりと時計を見て、エイジが呟く。
「エイジ様、私の側を離れませんよう」とランスロットが言うのへは、すかさず龍輔のツッコミが入る。
「や、ランスロットにヘイトを集めるんだから、エイジは、むしろ離れたほうがいいんじゃねーか?」
「そうだな、巻き添えを食って死んだら割が合わん」とジェナックにも言われ、エイジも頷いた。
「では、俺は後方に下がるとしよう」
「そうですか……」
たちまち捨てられた子犬の如く、ションボリするランスロット。
慰めようかどうしようかと悩んだが、結局マリーナは声をかけそびれる。
二分は、あっという間で、巨大カボチャが姿を現したからだ。
「来たぞ!」
真っ先にダッシュで飛び出したのはジェナックだ。
他のプレイヤーが戦うのを眺めたおかげで、巨大カボチャの動きも大体把握できている。
動きは、さほど速くない。
攻撃は近接のタックルと、飛び上がってからの押しつぶし。
押しつぶしは広範囲に渡る強烈な攻撃だが、動きさえ読んでいれば怖くない。
飛び出した背中へ向かってマリーナが叫んだ。
「待って!?色が違うッ」
これまでに見てきた巨大カボチャは全てオレンジ色だった。
しかし今、目の前にいるカボチャは毒々しい紫色である。
「そういや概要に書いてあったけど、レアってのもいるらしいぜ」
龍輔の言葉に、ランスロットが眉をひそめる。
「では、これがレア……?ひ、ひとまず挑発で私の元におびき寄せてみます」
ジェナックの対面でランスロットが挑発スキルを使う。
たちまちターゲットはランスロットへと移り、巨大カボチャがクルリと向きを変える。
突っ込んでくるカボチャをひらりとかわし、ランスロットは皆を促した。
「皆さん、今です!攻撃をッ」
「うおぉぉぉっ!!」
ファーストアタックは、ジェナックの一撃だ。
この中で火力が一番高いだけあって、カボチャのライフバーが一気に一色削られる。
「やっぱりだ!」
龍輔が叫び「何が、やっぱりなの!?」と葵野が聞き返す。
「見ろ、普通の奴とバーの色が違うッ。バーが多いんだ、普通のよりも!」
オレンジ色のやつは確か二本目のバーが青だったが、今のカボチャのバー二本目は黄色だ。
すると、やはりレアなのか。
「攻撃も違うパターンかもしれないわ!皆、気をつけて」
「おう!」
まずは龍輔が手裏剣を投げつけ、傍らではエイジが炎の魔法を仕掛ける。
マリーナも、ひとまず今は回復の必要なしと見て攻撃に打って出た。
「はぁッ!」
ジェナックほどではないが、彼女も近接職では高火力を誇るモンクである。
バーを半分ほど削った処で、後ろに飛び退いた。
「長期戦になるな、面白いッ」
ジェナックの瞳は、らんらんと輝き、反対に葵野は遠方でブルッている。
「け、怪我したら治すから!でも、無理はしないでねっ」
殴る蹴る魔法をしかけるのコンボで、撃っては逃げを繰り返す。
総合ダメージを見れば結構削っているものの、ライフバーは、なかなか尽きそうにない。
普通のカボチャは五本で終了だったのに、こいつは五本目を削っても次が出た。
「た、体力高すぎじゃない?」
さっそく葵野が弱音を吐いたが、ジェナックは逆に「それでこそレアだ!」とやる気満々、一歩も退いていない。
それより攻撃が単調なのが、気にかかる。
通常カボチャは突進とプレスだった。
今のところ、レアも似たような攻撃を繰り返している。
通常との違いが体力の高さだけなのだとしたら、拍子抜けだ。
「長期戦だが、当たらないなら問題ないよな」と龍輔が言い、エイジも無言で頷いた。
そこに、油断があったのかもしれない。
――不意にカボチャが動きを変えた。
突進すると見せかけて、なんと一旦後ろに飛び退いた。
そこから、さらに大きく口を開けたかと思うと、ポポンと大量のミニカボチャを吐き出してきた。
「わっ!何これ、かわいい!!」
喜ぶ葵野だが、最前線にいたランスロットとジェナックは避けきれずミニカボチャに当たる。
「きゃあ!」「ぐぁっ!」
二人の悲鳴を聞いて、これが可愛いなんてシロモノじゃない事を他の者達も思い知る。
「大丈夫か、ランスロット!?」
気遣うエイジに「え、えぇ……」とランスロットは頷いたものの、衝撃の為か足下は覚束ない。
近くにいたジェナックも、頭を押えてよろめいた。
ぶつかった箇所がズキズキ痛む。
「くそっ。油断した!」
小さいのに、なんて火力だ。
こんな攻撃、もしエイジが受けていたら一発でお陀仏だろう。
当たったのが自分達で良かった。
「エイジ、葵野は、もっと後ろに下がれ!」
振り向いて指示を飛ばすジェナックの頭上を、何か細長い紐状のものがシュッと飛んでいく。
それが何であるかをジェナックが確認する前に、ランスロットが悲痛な叫びを上げた。
「エイジ様ぁぁ!」
慌ててエイジのほうを見やると、彼の両手両足には細長いものが絡みついているではないか。
「触手だぁッ!?」と龍輔が叫び、葵野は「見て!これ、巨大カボチャと繋がってる!」と指をさす。
巨大カボチャから伸びてきた触手が、エイジを絡め取り動けなくしてしまった。
これではエイジは攻撃できない。
スキルブックは足下に落ちている。
「くっ……」
エイジは小さく呻いて手を動かそうと懸命に藻掻いているようだが、非力な魔術師じゃ無理であろう。
否、このように奇襲されたら、ジェナックやマリーナだって外せるかどうか。
「触手を切るんだ!」
龍輔の指示にハッと我に返ったジェナックが次に聞いたのは、「ん、くっ……」と小さく呻いた――いや、エイジの艶っぽい喘ぎ声であった。
「お、おいっ!?」
慌てて振り向けば、触手がエイジのローブの中に入り込んで、モゾモゾと蠢いているではないか。
彼の体に絡まっていたのは四本だけじゃなかった。
何本もの触手が絡まり、好き勝手に動いている。
マリーナは、さっそく触手に掴みかかって力一杯引っ張ってみる。
「このぉっ」
が、全然駄目だ。堅くて千切れない。
これをブッたぎるには、刃物のような武器じゃないと無理だ。
このパーティで刃物を持っているのは、龍輔とランスロットの二人だけ。
だが、二人とも動く気配がない。
「ちょっと、何をやっているの!?早く触手を切らないと、エイジが」
急かすマリーナの声も、二人の耳に届いているとは思えない。
ぼぉっと立ちつくして二人が何に見とれているのかといえば、エイジの痴態であった。
触手は今やローブをビリビリに引き裂いて、エイジの白い裸体が露わになっていた。
淡い桜色の乳首に細い触手が巻きついているのは、なかなかにエロティックな光景だ。
僅かに残った白い布きれ、下着の成れの果てが大事な部分を隠しているが、その中にも触手は入り込み、蠢いている。
「あ、んっ……んんっ」
時折、エイジの唇からは小さな喘ぎ声が漏れてくるのだから、たまらない。
マリーナが回り込んで見てみれば、龍輔は鼻血を垂らしていた。
心なしか前屈みになっている。
「ちょっと!あなた、そーゆー趣味の人だったの!?」
心底ドン引きしたマリーナに問われ、龍輔は股間を押えて答え返す。
「ち、違ぇーよ!けど、あんな可愛い顔で、あんなやらしー声出されたら、誰だって、なぁ?」
葵野も赤面してキョドッているし、なんとジェナックまでもが目を泳がせているではないか。
無論、ランスロットの視線もエイジに釘付けだ。
エイジは目元に涙を浮かべ、荒い息を吐いている。
その目が『助けて』と言っているように見えたので、マリーナは再度仲間に檄を飛ばす。
「早くエイジを助けてあげないと!触手なんかに彼がヤられちゃうわよ、いいの!?」
ごくりと生唾を飲み込んで、主に下半身へ視線を集中させているランスロットの肩を揺さぶった。
「あなたはエイジの盾で剣なんでしょう?あなたが彼を助けないで、どうするの!」
皆の前で、エイジが切ない悲鳴を上げた。
「ふぁぁ……ッ!」
びくん、びくん、と体を震わせる。
いやらしくまとわりついた触手に、乳首を激しく刺激されているようだ。
それをきっかけに全員の硬直も解け、これまでガン見していたテレを隠すが如く、ジェナックが大声で気合いを入れ直す。
「よ、よぉーし!エイジを助けるぞ、皆ッ」
「おうよ!エイジの処女穴は俺が守る!」
エイジは男でしょとマリーナが突っ込む暇もあらば、龍輔が勢いよく飛び出して触手に斬りかかる。
マリーナが素手で引っ張った時よりも、触手の反応は敏感だ。
「キシャーーーッッ!!」とカボチャが甲高い鳴き声をあげ、斬りつけられた触手がシュルシュルと巻き戻っていく。
切り落とす事は出来ずとも、的確な攻撃を与えれば押し戻すのは可能なようだ。
「ランスロットも、お願い!」
刃物を持つ二人に触手をまかせ、マリーナはジェナックへ号令をかける。
「私達は、本体を叩きましょう!葵野くんは回復援護をお願いっ」
マリーナを中心に、パーティが動き出す。
初めて見る攻撃に硬直していたのが嘘のように一斉乱打を繰り返し、ついに彼らは巨大レアカボチャを打ち倒したのであった。

「エイジ、大丈夫か!!」
カボチャ消滅と共に放り出されたエイジを、地面との激突から救ったのは龍輔だった。
ランスロットよりも早く落下地点に走り込んでくると、両手でエイジを受け止める。
「ん……あ、ありが……とう……」
ポッと頬を赤らめ、俯き気味に礼を言うエイジに、龍輔の喉がグビビリと鳴る。
「な、なぁ」
顔を寄せ、囁いた。
「な、なんだ……?」
顔の近さに驚くエイジへ、にゅぅっと蛸のように唇を尖らせて龍輔が言う。
「キスしてもいいか?」
「えっ!い、いやだ!!」
めいっぱい拒絶しているというのに、龍輔の蛸口は止まらない。
「いいじゃねぇか、ちょっとだけ、ちょっとだけ、ちょんっとくっつけるだけでいいんだ。な?」
「嫌だ!俺に、そういう趣味はないッ」
「俺だってないけど、お前とならキスできる気がするッ」
「気のせいだ!!」
「いや、だって、お前なんかエロいし、前についてるモンが見えなかったらマジ女の子だし」
「誰が女の子だって!?」
エイジは頭から湯気が出そうなほど怒り狂っている。
が、龍輔ときたら、デレデレと鼻の下を伸ばしてエイジの機嫌に微塵も気を払っていない。
「だってよ〜さっきの声、マジでエロかったし。あれ聞いた瞬間から、俺もう股間がビンビンになっちゃって」
エイジの機嫌どころか背後に迫ってきた危険にも気づいていなかった。
「エイジ様にぃー、セクハラするのは、おやめなさい!!」
ランスロット渾身の跳び蹴りが決まり、龍輔は文字通り吹っ飛んだ。
「ぐはぁ!!」
吹っ飛ぶ龍輔を横目に、マリーナがジェナックへ尋ねた。
「さっき、あなたもエイジに釘付けだったわよね。まさか、あなたも」
「じょ、冗談はやめてくれ。あれは、その、だな。え、エイジがガラにもない声を出すから、つい見とれてしまったというか」
赤面して額には汗を浮かべ、視線をキョドらせる親友を見て、マリーナは心の底で、そっと考えた。
エイジは戦力的に見れば、頼りになる魔術師かもしれない。
だが、彼をジェナックに近づけるのは危険だ――


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