己キャラでMMO

14周年記念企画・闇鍋if


エイジ&ランスロット

ハロウィンイベントでは散々な目にあい、皆の前で赤っ恥をかいてしまった。
当分イベント参加は、やめにしよう。
そう思っていたエイジだが。
「恋人がいるんだったら、絶対参加しなきゃ!」
久しぶりに個人チャットで話したフレンドの葵野に、次のイベントへの参加を勧められる。
「ねっ、エイジも参加しようよ。じゃないと、ランスロットが誰かに奪われちゃうよ?」
「ランスロットは……別に、俺の恋人というわけでは」
「恋人じゃなくても、誰かに奪われるのは嫌じゃない?」
「それは、まぁ……」
嫌か否かの二択で問われるならば、嫌だ。
ランスロットはエイジの使い魔というだけじゃない。
家族よりも大切な存在だ。
恋人じゃないと言ったが、本音じゃ恋人になりたい。
ただ、それを素直に言うのは恥ずかしい。
言葉を濁すエイジを肯定と取ったか、葵野が再び参加を促してくる。
「専用ダンジョンもあるから、一緒に行こう?エイジが一緒なら、心強いよ」
それにしても葵野は何故、こうも張り切っているのか。
わけを聞くと、こうだ。
最近レベルがあがると共に、坂井の人気もあがってきたのだという。
坂井というのは葵野の相棒で、如何にも前衛職といった筋肉質の男だ。
目つきの悪い三白眼で、実際ガラも悪い。
お世辞にも、異性にモテるタイプとは思えない。
思えないのだが葵野曰く、彼は最近女性のフレンドに引っ張りだこだというのだ。
単に強いからではないか?
エイジの指摘に「そうかもしれない」と一旦は同意したが、すぐに葵野は付け足した。
性的なお願いをされている現場も見たのだと。
で、何故相棒のモテっぷりに葵野が憤慨しているかというと、これもまたエイジからすると信じられない事実なのだが、葵野と坂井は恋人同士なのであった。
葵野も坂井も男同士である。
だが、そういう愛もあるのだと、ランスロットはしたり顔で言っていた。
「とにかくイベントが始まったら連絡するから、予定、開けといてね」
「判った」
葵野との約束を取り付けながら、さて、どうやってランスロットに切り出そうかとエイジは考えた。

しかし実際にイベントが始まってみると、エイジに届いたのは葵野からのドタキャン連絡で、「ごめん!別の人と行くことになっちゃった。エイジは誰か他の人と参加して」との事である。
自分から誘っておいて後発の誘いに乗っかるとは、呆れてモノも言えない。
恐らくは、彼の相棒が勝手に取り決めてしまったのだろう。
予定が空いてしまった。
「エイジ様、世間はバレンタイン・イベントだとか……どうなさいます?参加いたしますか」
そわそわと、落ち着かない様子でランスロットが話しかけてきた。
選択権をエイジに委ねているようで、でも腹の内は参加一択なのか、期待に満ちた目が見つめてくる。
「ランスロットは、どうなんだ。参加したいのか?」
逆に問い返すと、ランスロットはモジモジしながら頷いた。
「あの、実はフレのかたに誘われていて……それで、エイジ様もご一緒して下さいましたら、と」
フレのかたとは、男なのか女なのか。
男だったら何が何でも、二人っきりの行動を阻止せねばなるまい。
鋭い目つきでエイジに睨まれ、慌ててランスロットは付け足した。
「あ、あの、エイジ様が、お嫌でしたら、この話はなかったことに……」
どこまでも言葉を濁すランスロットに焦れて、とうとうエイジは問い質した。
「フレというのは誰なんだ?」
「あ、その……龍輔さんです……」
龍輔とはハロウィンイベントの際に知りあったのだが、エイジは彼が大嫌いである。
というのも、あの忌まわしきイベントで彼に口説かれたからだ。
あの変態ときたらエイジを口説くだけでは飽きたらず、ランスロットとフレンド交換していようとは返す返すも許し難い。
大体、ランスロットも何故あんな男とフレンドになっているのか。
後できつく叱っておかねば。
「……駄目だと言ったら、どうする?」
意地悪く睨みつけてやると、ランスロットは、しおしおと項垂れて呟いた。
「は、あの……諦めます……」
全く。
そんなに参加したいなら、参加したいと言えばいいのに。
ただし、同行するのは龍輔ではない。
しょんぼりする使い魔に、エイジは声をかけた。
「ランスロット、出かけるぞ」
弾かれたように顔をあげ、しばしの間、ランスロットはキョトンとする。
「え、は、はい?えっと、その、どこへ……?」
「決まっている。イベントダンジョンだ。お前は、そこへ行きたいんだろう?」
「あ……は、はいっ!」
いそいそと身支度を調え、張り切ってマイホームのドアを開ける。
「さあ、参りましょうエイジ様!」
全く。
最初から、そうやってエイジだけを誘えばいいのだ。
龍輔の名前など、出す必要がない。


イベント専用ダンジョンは、二人だけで行くには難易度の高い場所だ。
従って、人数の足らない者は野良パーティを結成しなければいけない。
同じ場所を目的とする、見知らぬメンバー同士でパーティーを組むのである。
「あなた達も二人パーティなの?だったら、私達と一緒に組まない?」
エイジ達に声をかけてきたのは、小柄な金髪女性であった。
クラスを聞くとカラテカだという。
彼女のツレはソルジャーで、二人とも前衛だ。
「回復職が一人欲しいところだが……」
あいにくと野良パーティを組んでくれそうなクレリックは、一人も現れそうにない。
「なァに、回復がいたッていなくたッて関係ねェよ。ポーションがぶ飲みで進もうぜ」
至って気楽に言いのけると、金髪女性のツレが挨拶をよこしてきた。
「俺はソロンッてンだ。お前らは?」
「エイジ=ストロンだ」
エイジが名乗り、背後でランスロットが一礼する。
「ランスロットと申します、お見知りおきを」
「二人とも、素敵なお名前ね。私はティル=チューチカ。気軽にティルって呼んでいいわよ」
金髪女性も名乗りをあげ、改めてパーティを組んだ。
パーティーリーダーにはエイジが任命される。
「私達の中では、あなたが一番頭がよさそうだもの。それに後衛職なら全体を見渡せるでしょう?危なくなったら、指示をお願いね」
ティルに頼まれ、エイジも素直に頷く。
「判った」
「エイジ様、大役でございますね!」
さっそく飛んできたランスロットのヨイショは華麗にスルーして、エイジは新たな仲間へ尋ねた。
「ダンジョンランクは、どれでいく?」
「最上級と言いてェトコだが……まッ、今の俺達じゃ中級が限度だろうな」
四人のレベルは似たり寄ったりで、中級は適正レベルに当たる。
回復職がいれば、もう一段階難しいダンジョンを狙えたのだが、いないのでは無理も禁物。
ちなみにソロンの言う最上級は、最低でもレベルが60必要の一番難しいダンジョンである。
「もう、ソロン。最上級なんて六人パーティでも行けるわけないでしょ。適正適所、これは常識よ」
「それを言うなら適材適所だろ」
軽口を叩きあう二人を横目に、エイジはイベントダンジョン専用の転移札を買い求める。
札を地面に置くと、魔法陣が出現した。
この上に乗るとダンジョンへ転送される仕組みだ。
「さ、いくわよ!レェーッツ」
「バレンタイン!」
ソロンとランスロットの両名が元気よく叫び、号令があったなんて聞いてないぞと驚くエイジもまた、皆と一緒に転送された。


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