己キャラでMMO

14周年記念企画・闇鍋if


エイジ&ランスロット

固まっていたのも、ほんの数秒で。
「だ、だだ、だ、ダメです!そんなお試し感覚でPEなんて、エイジ様、正気ですか!?」
けたたましく騒ぎ始めたランスロットに、多少ならずともエイジは落胆する。
そういう反応が来るであろう事は、大体予想していた。
なにしろランスロットは生真面目で清楚で恥ずかしがり屋で古風な思考を持つ、理性派悪魔だから。
「……いや、いいんだ。なんでもない。今のは忘れてくれ」
ぼそっと呟き、腰を上げる。
ランスロットを盗み見すると、何故か使い魔もガッカリしたような表情を浮かべていた。
何なんだ。
落胆するなら断らなければ良いものを。
だが、押し問答するのも恥ずかしい。
自分で言ったことながら、なんと大胆な発言だったことか。
今頃になって猛烈な恥ずかしさがエイジを襲い、照れ隠しに彼は一つ提案した。
「そ、それよりも。この世界を渡り歩く為にも、ある程度のレベルは必要だ。ランスロット、しばらくレベルアップ修行に励もう」
どことなく早口なご主人様を見上げ、ランスロットも立ち上がる。
先ほどPEを持ちかけられたのが嘘のように、エイジは全ての発言を撤回してしまった。
――何故、咄嗟に却下してしまったのか。
自分でも自分が信じられない。
あそこで「はい、お願いします」とでも言っておけば、きっと今頃は、めくるめくエロスの世界がスタートしていたのに!
ランスロットは死ぬほど後悔したが、だからといって蒸し返すことも出来ず、トボトボと狩り場へ向かうご主人様へついていくしかなかった。

対人モード、すなわち痛覚をシャットアウトするだけでも、戦闘のやりやすさが格段に違う。
エイジとランスロットはレベルが12になった処で、一旦休憩に入る。
「ねぇエイジ様」とランスロットが話しかけてきたので、エイジは耳を傾けた。
「対人モードって何の為に存在するのでしょうね?痛みを感じたがる人なんて、そうそういないと思うのですが」
「対人モードというぐらいだ。プレイヤーとの対戦を楽しみたい奴の為に存在するんだろう」
ひとまず、そう答えておいた。
対人のオンオフ機能がなかったら、対人したくない者まで戦争やPKを強制されてしまう。
PEは……まぁ、オマケ要素といったところか。
オマケ要素にしては、いやに生々しい感触だったが。
あの女、ブランニュといったか。
初心者を襲うのを趣味としていたようだった。
対人モードは当分オフにしておくに越したことはない。
そのほうが絶対に安全だ。
「エイジ様は……対戦、お好きですか?」
遠慮がちにランスロットが尋ねてくる。
「いや」と短く答え、逆にエイジは聞き返した。
「お前は、どうなんだ……その、PKやPEに興味はないのか?」
「ピッPEですか!?」
何故か一つにだけ反応し、激しく動揺している。
「いや、PKも」と言いかけるエイジの前で、瞬く間にランスロットが頬を染めて俯いた。
「え、えっと、その……興味、ないこともないのですが……」
予想外の反応だ。
てっきり不潔なのも野蛮なのも大嫌いです!と絶叫されるかと思っていたのに。
「あ!で、でも誤解しないで下さいね!?」
エイジのポカーンをどう受け止めたのか、ランスロットが慌てて付け足す。
「誰でもいいってわけじゃないんです……!す、好きな相手とじゃないと、嫌ですぅ……」
言葉尻は小さくしぼみ、沈黙が訪れた。
今のは、どういう意味だろう。
エイジは真剣に考える。
ほとんど告白といっても良いのではないか。
いや、だが、待て。
ランスロットは名前をはっきり言っていない。
エイジが好きなら、エイジの名前をはっきり言いそうなものではないか?
名前を言わないで言葉を濁すというのは――他に好きな奴がいるのでは!?
エイジは己で考えた推理に、自分で落ち込む。
いや、しかし――エイジ以外に好きな奴がいるとしたら、それは、いつ出会ったのか。
エイジとランスロットが一緒ではなかった場面など、最初にゲートへ飛ばされた一瞬だけだ。
あの一瞬の隙で目を離した際、誰かと出会ってフレンドになっていた可能性。
全くないとは言い切れない。
ランスロットは客観的に見ても美人だ。
他の男が目をつけないとは限らない。
こんな美人が草原で一人迷っていたら、手をさしのべたくなるはずだ。
眉間に皺を寄せて黙りこくってしまったご主人様をランスロットはオロオロと見つめていたが、不意にがばっと顔をあげたエイジに肩を掴まれて、がっくんがっくん揺さぶられた。
「ランスロット!フレンドリストを公開設定にしてみろッ」
「は、はぁっ?」
「いいから、早く!」
「い、いいですけど、見て面白いものでもないですよ?」
わけがわからないまでもランスロットは素直に従い、フレンドリストをエイジに公開する。
エイジの名前だけがぽつんとある、リストにもなっていないシロモノを。
「あっ……」と小さく呟いて、エイジがすとんと膝をつく。
もう、ランスロットには何が何だか、さっぱりだ。
ご主人様は急激に落ち込んだかと思うと突然何かを閃き、そして今は安堵しているようである。
一連の謎行動は、先ほどの会話と何か関連しているのであろうか。
先ほどの会話を思い出し、ランスロットはドキドキと胸を高鳴らせる。
思いきって言ってみたのに、どうもエイジの反応を見た感じ、これっぽっちも伝わっていないように伺える。
ここで「ランスロット!俺も好きだ」とか言ってエイジがガバァッと抱きしめてくれたら、全てを任せて無茶苦茶にされたいのに。
だが、それをしないのがエイジでもある。
エイジ様はエッチな知識皆無のピュアなハートをお持ちな、永遠の美青年なのだから。
お試しでPEしようと言い出したのは、きっとPKと同じく好奇心で試してみようと思っただけだ。
他意はない、恐らく。
「すまん」
そのエイジ様に、いきなり頭を下げられた。
「お前を少しでも疑ってしまった」
「は、はぁ……?」
謝られたほうはポカンと呆けている。
それもそうだろう。
エイジに謝られる理由が、ランスロットには全然思いつかない。
なにやら疑っていたらしいが、疑いはランスロットの知らないうちに晴れた様子。
「と……とにかく」とエイジが話を切り替え、再び立ち上がる。
「第一次転職を終えたら、次になすべき事を考えよう」
それまではレベルアップ修行に励むという。
「判りました」とランスロットも気持ちを切り替え、エイジに従い狩り場へ向かった。
……本音を言うと、まだ少しは希望を持っていたのだが、エイジとのPEに。


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