己キャラでMMO

14周年記念企画・闇鍋if


ダグー&ヴォルフ

「ほぉ……大盛況じゃないか」
イベント専用ダンジョンへ、一歩入ってダグーもGENも驚いた。
内部は大混戦状態。
至る所で、複数のパーティがモンスター相手に戦っている。
ターゲットが重なるパーティもあれば、単独で雑魚と戦うパーティもあり、どのパーティも戦闘で忙しい。
もっと、まったりしたペースでモンスターが出てくるのかと思っていたので、今更ながらダグーは心細くなってきた。
怖がるダグーとは正反対に、ヴォルフとティーガは目を輝かせている。
「なるほど、なるほど。あの金ピカモンスターがレアで、たくさんアイテムをドロップするってわけだな」
「経験値もね。でもチョコは、一番奥のボスじゃないと落とさないよ?」
「ボスレベルは、ここだと幾つだ?」
「40ぐらいじゃないかな。入場できるレベル上限が40までだし」
「なら、雑魚は無視で進むか。GEN、お前もそれでいいな?」
ヴォルフが確認がてらGENへ振り向くと、彼は全く明後日のほうを見て軽く固まっていた。
「おい、GEN……どうした、何か気になるものでもあったのか」
ポンポンと肩を叩かれて、ようやく我に返ったGEN。
追及される前に、自ら話題を切り替える。
「あぁ、いや、なんでもない。その、雑魚スルーで奥へ進むのはOKだ。俺が聞いた話だと、チョコはドロップ率が低いらしいから数回マラソンしよう」
どこかセカセカした様子にティーガも首を傾げたが「ま、いいや」と独りごちると、奥へ歩き出す。
しかし歩き出した途端、ヴォルフには腕を掴まれて後ろへ引っ張られた。
「ティーガ、お前はしんがりだ」
「しんがりって?」
「最後尾って意味だよ。ダグー、お前は真ん中に入れ。俺から離れるんじゃないぞ?」
ヴォルフに頭を撫でられて、ダグーもぴったり彼に寄り添う。
「うん。俺のこと、守って下さいね。先輩」
「そういやさぁ、なんでヴォルフはダグーの先輩なの?」
ダグーがティーガの質問に答えようとした瞬間、さっと目の前に何かが降りてくる。
「敵だッ!」と叫ぶや否やGENが飛びかかり、少し出遅れてヴォルフも殴りかかる。
「あー雑魚スルーって言っても、難しいよね。ランダム出現だと」
ダンジョンの敵は基本、沸きと呼ばれるモンスターの出現ポイントがある。
逆に言うと、沸きにさえ近づかなければ、モンスターと戦う危険性も減る。
だがイベント専用ダンジョンでは、モンスターの出現方法は普段と異なる場合が多い。
沸きポイントが存在しないダンジョンはモンスターがウロウロしていたり、何もない処から出現したりする。
今回のイベント専用ダンジョンは突然目の前に現れる、ランダム出現のようだ。
襲いかかってきたモンスターを眺め、ティーガがポツリと呟く。
「ここの敵って人型なんだ。間違えてプレイヤーを攻撃しちゃいそうで嫌だな」
盗賊か山賊か、といった出で立ちの敵だ。
確かに、シーフやアサシンのプレイヤーと間違える可能性はある。
さすがに雑魚なだけあって、戦闘は数分で終わった。
「間違えてプレイヤーを攻撃してしまったら、すぐ攻撃をやめて謝ればいい。ここは混戦フィールドだからな。誤爆しても、やむなしだろう」
イベントは、どれも対人モードをオンにしないと参加できないシステムになっていた。
今回のバレンタインイベントも、そうだ。
余所のパーティとの共闘の為だと、概要には書かれていたが――
「混戦に紛れて、PKやPEを仕掛けてくる奴がいるかもしれんな」
ぼそっとヴォルフが懸念を吐き出し、GENも深く頷く。
もし襲われるような事態になったら、自分はともかくティーガは何としても逃がしてやらねば。
このダンジョンを脱出する方法は二通りある。
一つは全滅。
死亡すれば、ダンジョンの外へ放り出される。
もう一つはリタイアだ。
リタイアすれば生きたまま、ダンジョンの外へ出られる。
ただし戦闘中はリタイアできないから、一度戦闘を離脱する必要があった。
PEで襲われた場合も一旦相手を振りほどいて、射程範囲外まで逃げ切らないといけない。
ティーガが、いやらしいオッサンやオバサンに汚される。
考えただけでも、ぞっとする。
ティーガには幸せになってもらいたい。
好きな人と最高の時間を過ごして欲しい。
「――GENッ、新手だ!」
物思いに沈んでいたGENは、現実に引き戻される。
今度は女性の人型モンスターが二体か。
やたら雑魚とのエンカウントの高いダンジョンだ。
「ふんぬっ!」と殴りかかったヴォルフの拳が、寸前で退けられる。
「なんだと!?」
今のはパリィだ。
剣士系クラスの使う防御スキルの一つで、剣で攻撃を受け流す。
しかしGENのレベルで、防御スキルを使うモンスターは今まで出会ったことがない。
よく見れば、二人とも煌びやかな装備を身に纏っている。
じっくり観察している暇もなく、今度は飛んできた小刀を寸前でGENは避けた。
馬鹿な。
剣士なのに飛び道具?
これまでのモンスターとは、全く行動パターンが違うじゃないか。
「ヴォルフ!こいつら、もしかしてッ」
「あぁ、間違いない」
頷きあう二人に、よく判っていないダグーが叫ぶ。
「何が!?」
「NPCじゃない、PCだ!」
叫び返したGENが、一人に飛びかかる。
これも寸前でかわされて、反対側に降り立った。
「くそ、素早い!」
「貴方たちだって相当なものよ」と、ここで初めて女性の片割れが、しゃべった。
話しかけてくるモンスターなど一度も見たことがない。
やはり、彼女達はプレイヤーだったのか。
「ちょこまか動いてウザイったら、ありゃしないったら」
もう一人が含み笑いをし、低く腰を落とす。
「ウザイって思うなら、通してくんない?俺達、先を急ぎたいんだよね」
臆せず話しかけるティーガへは二人ともクックと笑い、一人が挑発的に言い返してきた。
「いいわよ。ぼうやとデカブツは通してあげても」
「ただしバンダナの人と、そっちのイケメンさん。パフォーマーの彼を残していってくれたらね」
一瞬きょとんとなった一行だが、すぐにヴォルフには今の状況が飲み込めた。
恐れていた事態が早くも起きてしまった。
こいつらの目的はPEだ。
それもイケメン二人だけを厳選した。
だが、二人にダグーを渡すつもりは毛頭無い。
「ダグー、ティーガ!戦うぞ!!全力で、こいつらを倒すッ」
「えっ?で、でも、俺、女の人は……」
戸惑うダグーの横では、早くもティーガが呪文の詠唱に入っている。
ダグーと違い、ティーガは女性を殴り倒す事に躊躇がないようだ。
否、ティーガは回復職なのだから殴り倒す必要はない。
今唱えているのは、補助魔法の類だろう。
「ダグー、君も前衛に出なくていい!俺かヴォルフのどちらかに、補助演奏をしてくれれば充分だ」
GENもまた、覚悟を決めて攻撃態勢に切り替える。
PKは、あまり好きではない。
しかし己の身の危険となれば、話は別だ。


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