ダグー&ヴォルフ
戦争イベントが終わった後も、ダグーとヴォルフは丘の上のマイホームで毎日イチャイチャしていた――かというと、そんなことはなく。
あれから少しは狩りを覚えたし、料理スキルも身につけた。
やっと、外に出て楽しむ方向に二人の生活が変わりつつあった。
友達だって何人か増えた。
どれも街をブラブラしている時に出会った、温厚そうな人達だ。
温厚そうでいて、それでいて戦闘では頼りになる。
そして彼らは情報通でもあった。
「バレンタインデーが、この世界にもあるとはねぇ」
顎に手をやり感心するダグーの横を、逆毛に白いバンダナを巻いた男が歩いていく。
「ダグーのいた世界にもあったのか?こういうイベント」
「まぁね。内容も大体同じだよ。違うのは、ダンジョンの奥に落ちているって部分ぐらいかな」
「へぇ……」
男の名はGEN。
三日前に知りあったばかりの、ダグーの新しいフレンドだ。
彼の友達、ティーガともフレになっている。
今日はスキル修練の日だとかで、ティーガは一緒ではない。
「GENはチョコレートを手に入れたら、誰にプレゼントするんだ?」
ダグーに尋ねられ「えっ、俺?」と完全に虚を突かれた表情で、GENが見つめ返してくる。
「いや、まだ参加するかどうかは決めちゃいないけど……」
「けど俺にイベントの話を振ってきたってことは、興味あるんだろ?」
「そりゃ、まぁ、うん」
GENは、どこかはにかんだ様子で、落ち着きがない。
もしかしたら彼には意中の人がいて、その人のことを思い浮かべているのか。
「好きな人がいるんだったら、参加した方がオトクだろうね。好感度をあげるチャンスだ」
「う、うーん……でも、受け取ってくれるかなぁ」と、GENは煮え切らない様子。
思いきって、ダグーは聞いてみた。
「誰かにあげる予定が?」
「えっ」と我に返ったGENは、しばし沈黙していたが、胸の内にしまい込んでおく気はなかったのか、すぐに想いを打ち明けてきた。
「えぇと……好きな人が、いるんだ。こっちで知りあったんだけど」
「へぇ。フレンドの中に?」
「いや、フレンドには、まだなってなくて。というか俺が一方的に街で見かけて、それで気になったというか……」
このイベントをきっかけにフレンド申請するつもりだったとGENに告白されて、ダグーも強く頷いた。
「いいんじゃないかな。思いきってアタックしてみれば」
「あぁ、そうする。ありがとう。君に聞いてもらったおかげで、勇気が出せそうだ」
嬉しそうなGENに、もう一つ尋ねてみた。
「それでGENは、店売りのチョコとダンジョンのチョコ。どっちを渡すつもりなんだい?」
「え、あー、そうか。二種類あるんだったっけ」
考え込んだのも数秒で、すぐに彼の答えは出た。
「そうだな、どうせだったらダンジョンので。愛のエキスってのは、よく判らないけど、深く考えなくても大丈夫だよな?」
イベント概要には、こう書かれていた。
ダンジョンでドロップするチョコレートの名称は『愛のエキス』入りだと。
愛のエキスが何なのかまでは概要にも書かれておらず、不親切だとダグーは思った。
だが実際の効果は、実際に使って試せという事なのかもしれない。
何しろ非売品且つ、イベント限定品なのだし。
「それで……」
ダグーが、なおも質問を重ねる前に、GENがスクリーンカメラを取り出してダグーに見せてきた。
「これが、その人なんだけど」
青緑色の髪をポニーテールに結んだ、見目麗しい女性が写っている。
名前はランスロット。
女性にしては些か勇ましい名前だ。
鎧甲冑を着込んでいるから、職業はナイトであろう。
思わずヒューと口笛を吹いたダグーを見て、GENが照れ臭そうに微笑んだ。
「な、綺麗だろ?性格も、おっとりしていて良さそうなんだ」
「どうして見かけた時にフレ申請しとかなかったんだ?」
当然の質問にGENは少しばかり、つまらなさそうな表情で答える。
「そりゃ……ずっと友人らしき人と一緒に話していて、割り込むきっかけが掴めなかったんだよ」
彼はすぐ笑顔に戻り、カメラをしまい込んだ。
「ダンジョンはソロじゃ厳しい難易度らしい。ってんで、ダグー。ヴォルフにも連絡を取ってくれないか?一緒にパーティを組もう」
「いいとも」と頷くと、ダグーはトークレシーバーを取り出した。
ヴォルフは今日、一緒じゃない。
まだ家で熟睡しているはずだ。
昨日は、ちょっと激しくベッドの上で運動したから……