ダグー&ヴォルフ
ギルド戦は人数が物を言うイベントであった。当然メンバー五人の『魔力連合』では手も足も出ず、早々にクォードはイベント参加を投げてしまい、取り残されたダグーとヴォルフは残り日数をギルドルームで過ごしていた。
「自作ホームに戻れないのは残念だけど……でも、こうして先輩と一緒にいられるなら、場所なんか何処だっていいよね」
ダグーが甘えて顔をすり寄せてくるのへは、軽い愛撫でヴォルフも応える。
「そうだな。この部屋には、おあつらえ向きにソファもある」
ソファは最初からギルドルームに置かれていた。
ソファーとトイレ。
それがギルドルームの初期設備だ。
人数とギルド運用費が貯まればシャワールームやベッドルームなんかも作れるらしいが、そこまで贅沢な設備は要らない。
そもそもギルドマスターのクォードが管理を放り投げてしまったので、作ろうにも作れない。
ダグーとヴォルフの二人は、毎日ギルドルームでイチャイチャしていた。
もちろん、裸で。
何日経ってもクォードとアミュの戻ってくる気配がない。
きっと今頃は二人で狩りでもしているか、或いは二人っきりでお楽しみのムフフなのかもしれない。
二人とはフレンドになっていたが、呼び戻すのも悪い気がしてダグーは放置しておいた。
食べ物が欲しい時だけ、ダグーとヴォルフは街へ出る。
街は戦場と化していたが、本来の戦闘フィールドに出れば野草や果物が手に入った。
そして意外なことに、戦闘フィールドのほうが街の中よりも却って安全なのであった。
「戦闘フィールドは広いからな、街を塗り替えるほうが楽なんだろ。待ってりゃ他の連中も来るし、バトッて勝利すればランクもあがる。一石二鳥というわけだ」とは、ヴォルフの分析。
もう少し人数が増えれば、彼が参謀として活躍したかもしれないと考えると、ダグーは少し残念な気がした。
が、しかし、対人モードは痛いと聞いている。
痛いのは嫌だ。
そう考えると早々にクォードがイベント参加を投げてくれたのは、ダグーにとっても一石二鳥だった。
何しろ二人っきりのイチャイチャルームを手に入れた上、戦闘とは無縁の毎日が送れるのだ。
丘の上で暮らしていた頃と、なんら変わりない。
「ずっとイベントが続けばいいのにな」
ぽつりと呟くダグーをちらりと見、ヴォルフは言った。
「俺もそう願いたいもんだが、残念なことに、あと数時間で終了するらしいぞ」
「えっ!?」
驚いて飛び起きるダグーに、ヴォルフが頭上を指さす。
上部メニューとは別に【お知らせ】の文字が浮いている。
開いてみると、イベント終了の告知メッセージが、ずらずらと書かれていた。
現在のランキング一位は『第九小隊』というギルドらしい。
聞き覚えのないギルドだし、どうでも良かった。
重要なのは、イベントの終了時刻だ。
本当だ。
先輩の言うとおり、あと二時間弱で終了するではないか。
「イベントが終了したら、俺達どうなっちゃうのかな?ギルドルームを追い出されたり、とか?」
「それはないだろ。ただ、あいつらが戻ってくるかもしれん。今の内に服ぐらいは着ておくか」
初めて彼らと出会った時の状況を思い出し、ヴォルフが顔をしかめる。
あのチビ、クォードといったか、あいつは異形の怪物でも見る目で、こちらを見てきやがった。
男同士で愛し合って、何が悪い。
ダグーとヴォルフが愛し合った処で、クォードに迷惑がかかるわけでもなかろうに。
ダグーも同じ事を考えていたのか、しばし無言になっていたが、しばらくしてから、もそもそと服に着替え始めた。
やがてイベント終了のアナウンスが、二人のいるギルドルームにも響いてくる。
「ピンポンパンポーン♪只今の時刻をもって、戦争イベントは終了します。皆様、お疲れ様でした〜!」
それを聞きながら、ヴォルフがダグーへ微笑んだ。
「それじゃ、帰るとするか。俺達のマイホームに」
ダグーは勢いよく「うん」と頷き、ヴォルフの腕に抱きつく格好でギルドルームを後にした。