ダグー&ヴォルフ
奇襲者二人はレベルが高かった。だが、こちらのほうが人数は多かった。
それにダグーとティーガ、二人の補助魔法の援護効果も大きく、突如始まったPK撃退に何とか成功する。
二人目が点滅して消えるのを見届けてから、ようやくGENは一息つく。
「やれやれ。俺なんか襲っても楽しいことなんか一つもないのにな」
「GENさん格好いいから、襲われちゃうんだね」
ティーガが、そう言ってニヤニヤする。
「大人しく襲われるつもりもないよ。俺だって抵抗する時はするし」
言い返し、GENは落ちていた紙を拾い上げる。
先の二人が落としていったアイテムだ。
「なるほど、PKでもアイテムはドロップするのか」
「保護ロックかけていない物だけ、だけどね。それ、ここの地図じゃない?」
ヴォルフとティーガの二人が覗き込んでくるので、GENは皆にも見えるよう地面に置いてやった。
「へぇ、中級は五階で終わりなんだ。意外と浅いダンジョンなんだね」
少々余裕が出てきたのかダグーが軽口を叩き、GENは軽く諫める。
「浅いけど、雑魚も一杯出るみたいだから油断しないでくれよ?」
「うん、それは大丈夫。先輩もいるし、俺は極力前衛に出ないようにするから」
そこは、ちゃんと弁えているダグーである。
バードからパフォーマーに転職しても、火力は全く上がらなかった。
だが温厚なダグーにとって、火力が高くないのは幸いであった。
火力が高いと前衛に出なければならなくなる。
自分の手で誰かを傷つけるなんて、たとえ作られたモンスターでも、まっぴらごめんだ。
「あっ、ねぇねぇ。なんでヴォルフはダグーの先輩なの?」
さっき答えを聞き損ねた質問を繰り返すティーガへ、今度こそダグーは答えてやった。
「ヴォルフは俺に、人生の歩き方を教えてくれたんだ。だから先輩なんだよ」
ちらっとティーガがヴォルフを見上げると、目があった途端、ヴォルフが馬鹿笑いする。
「はは!そんな大層なもんでもないさ。行き倒れになるところだったダグーを助けただけだ、俺は」
「それって、結構すごくない?命の恩人じゃん」
納得したようにウンウンと頷き、ティーガはニッコリ微笑んだ。
「命の恩人で、人生の指針となった先輩かぁ〜。俺のGENさんと一緒だね。ねっ、GEN先輩♪」
「あぁ、お前が俺を先輩って呼んだことは、あまりないけど」
襲い来るモンスターを拳の一撃で倒しながら、GENも応える。
「あ、雑談ついでに俺も聞いていいかい?GEN」
「なんだ?」
「さっき、ぼんやり遠くを見ていたみたいだけど……何か見つけたのか?」
「さっき?いつの話だ」
話しながらも動きは忙しく、モンスターと戦いながらの雑談だ。
イベント限定と銘打たれているが、出てくる雑魚は普段狩りで使っているフィールドと大差ない。
「えぇと、ダンジョンに入った直後だったかな」
「あぁ……」
レベルアップのファンファーレを聞き流して、GENが頷く。
「……いや、似た人を見つけたんだ。その……あの人とそっくりな」
「え?なになに?あの人って誰?」
途端に食いついてきたティーガを「ちょ、顔近いって!」と払いのけ、GENは、ふぅっと息を吐く。
「少しな。気になる人がいるんだよ」とだけ言うと、ティーガにはスケベ笑いされた。
「あ〜、もしかして美人発見?駄目だよ、浮気は。ミズノさんに怒られちゃうよ〜?」
「お、俺とミズノは何でもないって。それに、俺が誰を気にしようと関係ないだろ、あいつには!」
どう見ても『好きな人がいるんです』と言わんばかりの態度バレバレなGENに、ダグーもヴォルフも苦笑する。
ティーガもきっと、判ってしまったはずだ。
GENに意中の人がいることぐらい。
「ミズノさんって誰だい?」
好奇心混じりにダグーが問えば、ティーガが嬉々として答える。
「えっとね、GENさんの恋人!」
「違うって!俺に恋人なんかいないっ」
「まぁ、恋人だったらチョコレートは、その人に渡すよね……」
ポツリとダグーも漏らし、GENには「おいっ!くちが軽いな、ダグーッ」と怒られたが、「えーっ、ダグーには教えたのに、俺には教えてくれないの?教えてよ〜、ぶーぶー」とティーガにしつこく迫られて、とうとうGENは音を上げた。
「あーもうっ、判った、判ったよ!この人だ、この世界で見かけた!」
ヴォルフもティーガも、そして一度見ているはずのダグーも一斉に、GENのスクリーンカメラを覗き込む。
「ほえぇ〜……高エネルギー生命体」
「えっらいド美人さんだなぁ」
「頑張れ、GEN。俺も応援しているよ」
すぐにGENはカメラをしまい込み、場を仕切り直す。
「さ、さぁ!最下層へ急ぐぞ。チョコレートは一回のドロップじゃ落ちないかもしれないしな」
GENお気に入りのスクリーンショット美人とは、案外早く再会した。
最下層のラスボス手前で、彼女のいるパーティーと出会ったのである。
そこから先は色々あったりもしたのだが、ここでは割愛とさせていただく。