アミュ&クォード
ホワイトデーイベント終了後、GMには会うことが出来た。しかし、彼らは誰一人として『笹川』の存在を知らなかった――
このゲームの運営は有限会社ネオポトス。
ペーパーカンパニーではなく、実在する会社だ。
代表取締役は朝倉翔太となっており、こちらも実在する人物である。
笹川修一の名前は、どこにもない。
社員スタッフの中にさえも。
偽名を使っているのか、或いは運営とは別口のスペシャルサポート扱いなのか。
ともあれ、笹川の足取りを辿るのは事実上不可能だというのが判っただけであった。
「完全に手詰まりだな。どうすんだよ」
不機嫌ヅラのクォードに尋ねられても、アシュタロスには余裕が伺えた。
「なに、この世界には幾つか異質が混ざっていただろう。私と君と、あの天使のように。まずは彼らを捜して、情報交換といこうじゃないか」
「向こうだって似たり寄ったりの状態だと思うぜ?」と、なおもクォードは不服そうであったが、不意に何かを思いついたのか、レシーバーでもって掲示板に書き込み始めた。
「どうしたのかね、何か名案でも」
ちらりとクォードの手元を覗き込んだアシュタロスは、顔を綻ばせる。
原始的だが、一番手っ取り早い方法を選んだか。
『ログアウトできない奴いるか?』
そういうタイトルで始まる書き込みだ。
数時間後には閲覧数が100を越え、返信も、ちらほらつく。
だが、そのどれもが『永遠ログアウトしちゃった奴ならいるみたいだけど』といった、野次馬の書き込みばかりであった。
愚にもつかない返信ばかりだとアシュタロスは思ったのだが、クォードの反応は違った。
「見ろよ、これ」と返信の一つを指さされ、アシュタロスも目を通す。
――ログアウト出来ないの?不具合?
――強制ログアウトスキルを受けても駄目なの?
「強制ログアウトスキル?」と首を傾げるアシュタロスの前で、クォードが検索を始める。
やがて、それに関する書き込みを見つけ出すと「やっぱな」と微笑む。
「そういうスキルを仕掛けてくる敵がいやがるんだ、フィールドレイドボスに」
「フィールドレイドボス……なるほど、盲点だったな」
クォードの見つけた書き込み記事タイトルは『注意喚起です!!』となっており、『強制ログアウトスキルを受けたら、アカウントが消滅してしまった!』と書かれていて、『なんで今書き込めているしw嘘乙ww』といった返信で溢れていたが、書き込み主曰く、新しくアカウントを作り直して書き込んだとの事である。
他にもスキルを受けた者は多く、大抵が再ログインできていたが、消滅報告も複数あった。
後処理の差はあれど、スキルを受けた者は100%ログアウトさせられる仕様のようだ。
「俺がレイドをやっていた頃には居なかったから、最近アップデートされたんだろうぜ。戦ってみるか?こいつと」
それに対してアシュタロスが「そうだね」と答えるよりも早く。
「この書き込み、クォードさんですよね!あなた、クォードさんの知り合いでしょう?クォードさんに伝えて下さい、私もログアウトが出来ないのだと!」
甲高い声が背中へ突き刺さり、アシュタロスが振り向いた先には、アミュが立っていた。
数時間後。
アミュとクォードとアシュタロスの三人は、レイドボスの沸きフィールドへ到着する。
アミュの姿はブロックしているクォードには見えないのだが、アシュタロスはブロックしていないので、先ほどからアミュに話しかけられまくりだ。
正直言って、鬱陶しい。
いっそブロックしてやろうかと思ったが、クォード曰く「そいつは戦力になるから、ほっとけ」との事。
自分はブロックしているくせに、アシュタロスにブロックを許さないとは、どういう了見か。
しかし文句を言えばクォードに嫌われてしまうのは判りきった結果なので、大魔族は黙っておいた。
「君が天使に味方するとは意外だよ……」
しょんぼり項垂れて精一杯同情を煽っても、クォードの態度は素っ気ない。
「味方してるんじゃねぇ。盾にしろって言ってんだ」
何しろ敵はレイドボス、強敵だと予想される。
どのタイミングでスキルを使ってくるのかは書かれていなかったから、出たとこ任せだ。
「あと三分で出現ですよ。わくわくしますね、フォーリナーさん!」
「ハイハイ。あとフォーミュラーだから」
「あっ!出ましたよッ」
アミュは言うが早いか飛び出して、剣を一閃する。
しかし防御力が堅いのか、ゲージは、ほとんど削れていない。
アミュのレベルは65。
けして弱くはない。
にも関わらず、これか。
「ふむ」と呟き、アシュタロスは呪文詠唱に入るクォードを突いた。
「この敵、かなり強そうだよ。メンバーを揃えて出直したほうがいいんじゃないのかね」
返事はなく、クォードの手から燃えさかる召喚獣が飛び出し、モンスターへ襲いかかる。
ゲージがガガッと三分の一削れたのを確認してから、クォードが答えた。
「……俺の負担を考えると、そうしたほうが早道かもな。よし、撤退するぞ」
パーティメンバーに心当たりはない。
しかし、残された時間も限り少なかろう。
不具合と認識されているのでは、100%確定のスキルも修正される可能性が高い。
野良で募集するしかない。
くるりと踵を返して逃げ出すフォーミュラーを見て、アミュも撤退に従った。