アミュ&クォード
ギルド戦イベント以降、アミュとクォードが何をしていたかというと、恙なくバレンタインもハロウィンもスルーして、ひたすらレベルアップ修行に励んでいた。二人とも、とっくに第二次転職を終えている。
長らくソロ、いや正確には二人パーティだったクォードが初めて、野良でパーティを組んだ。
何故ならレベル90のレイドボスを相手にするのに、二人では手こずったからに他ならない。
組んだ相手は名をフォーミュラーといった。
紫に近い赤毛で、顔立ちの整った美しい女性だ。
クラスはゴースト。
シーフの最上位職だが、あまり見かけないクラスでもある。
あとでアミュが調べたところによると、強さランキングに毎月名を連ねる古参でもあるらしい。
野良でパーティを組んだのにも驚きなら、フレ交換のお誘いに二つ返事でクォードが「いいぜ」と許可したのにも驚いた。
群れるのを嫌うようだから、てっきり断るかと思ったのに。
現にアミュの申請だって、延々と断られ続けている。
「で、ミュラ。この後の予定は何かあるのか」
早くも本人認定のアダナで呼ぶあたり、何か惹かれるものでもあったのだろうか。
失礼ながら、アミュはじろじろとフォーミュラーを観察する。
顔立ちは確かに綺麗だ。
やや釣り目で、口元には薄く紅を引いている。
胸のサイズも、腰のくびれも申し分ない。
小型のナイフに、飾り気のない民族衣装のような薄緑の服を纏っている。
見かけは大したものではない装備だが、いざ実際に戦ってみれば、戦士のアミュに勝るとも劣らない火力だった。
今、入手できる装備の一番いいやつであろう、恐らくは。
ケチのつけようがないぐらい、完璧だ。
強いてケチをつけるならば、完璧すぎるぐらいか。
性格は普段温厚。
しかし戦闘はやる気満々で機転が利く。
野良パーティを長くやっていると本人は言っていた。
ギルドに入る気はないのか?と尋ねたら、答えはノー。
野良が一番気楽でいいのだとか。
「えっと、クリスマスイベントに参加しようかなって考えているけど」
「クリスマスイベント?スキーに興味あんのか」
「まぁね。今まで戦闘ばかりで飽き気味だったんだけど、新しい仕様なら参加してみようかなって」
如何にも古参らしい意見を言う。
イベントにさっぱり参加していなかったアミュは、ここぞとばかりに口を挟んだ。
「クォードさん、ここは私達も参加してみるというのは?」
「何が『ここは』なんだよ」と口を尖らすクォードの手を握り、フォーミュラーも誘ってくる。
「今日知りあったのも何かの縁、クォードも一緒に参加しよう。あ、スキーは大丈夫?」
「滑れるかってんだったら大丈夫だ」
ニヤリと口を歪めるクォードを見、アミュもハイハイと手を挙げる。
「私も!私も得意です!」
「そうなんだ」とフォーミュラーはアミュへ微笑み、続けて言った。
「じゃあ、競争しよ」
「え?」
「スキー勝負はサンタとのタイマン以外に、大勢で一緒に滑るモードもあるみたいだし」
「は?」
「クォードも。いいよね、どちらが先にゴールするか勝負しよ?」
ポカンとするアミュを置き去りに、クォードも「望むところだ」などと言い返している。
このままだと、クリスマスイベントはスキー対決の予定になりそうだ。
なんとも熱血な展開である。
概要を見た限り、このイベントの目的はプレゼントにあり、本来恋人御用達なはずなのだが……