十九周年記念企画・闇鍋if

第一次己キャラ大戦

9.

「勇者だって?勇者なら、ここにいるじゃないか」
驚くキースの横を、エイジと斬が駆け抜ける。
表通りまで飛び出してみれば、魔物の大群に囲まれた男性の姿が見えてきた。
彼だけではなく、周りの町人にも被害が及びそうな数だ。
「エイジ!魔物を倒すぞッ」と呼びかける斬に、エイジがマッタをかける。
「待て。ここで戦えば被害が出る、町の外へ誘導しよう」
前方の男は最小限の動きで攻撃をかわしているようだが、如何せん四方を囲まれた状態だ。
彼から魔物の注意を逸らさねば、町の外への誘導もままならない。
「大勢で一人を狙うとは卑怯者め、助太刀致す!」
斬が大声で怒鳴りつけると、魔物の何匹かが、こちらに気づく。
中央の男も、攻撃をかわしざまに呼びかけてきた。
「いいところに来てくれた!まずは囲みを崩してくれ!!」
よしきたと走りかける斬を制し、エイジが一歩前に出る。
「斬、ここは俺のランスロットに任せろ。あなたでは、やりすぎてしまう恐れがある」
クォードを軽く撫でて、ぶっ飛ばした時のことを言っているのだ。
ATK99の弱点は、手加減ができない部分にある。

先制攻撃!
エイジの こうげき!
エイジは ランスロットを召喚した!


「あぁ、とてつもなく久しぶりにエイジ様のお顔を見た気がします」
呼び出されて一発目は涙にくもった一言を漏らす使い魔に、エイジは容赦なく命令を下す。
「魔王を倒したら、お前の我儘に幾らでもつきあってやる。今は目の前の敵に集中しろ」
「わかりました。目標は……前方に集まった魔物軍団ですね?」
もっとごねるかと思いきや、ランスロットも従順に頷く。さすがは使い魔だ。
「そうだ。囲みを一ヶ所崩すだけでいい。斬はそこから入り込んで、彼をつれて町の外へ誘導してくれ」
「任せてくれ」と斬も従順に頷き、ランスロットは虚空から取り出した槍を構えて走り出す。
「それでは……失礼します」

ランスロットの こうげき!
おおかまきりに あしばらい!
おおかまきりは バランスをくずして たおれこんだ!
おおかまきりは 起き上がれず もがいている・・・


「倒すのかと思いきや、案外ソフトな攻撃だな」
追いついたキースが素直な感想を述べるのを背に聞きながら、斬は助走をつけて巨大カマキリの真上を飛び越し、男の背後に着地した。
近くで見てみると、精悍な顔つきの青年だ。
年の頃は二十後半から三十代ぐらいだろうか?自分よりは年下だと、斬はアタリをつける。
眉毛が太く、意志の強そうな瞳を向けている。
黒い着物から垣間見える肉体も、無駄なく鍛えられていて逞しい。
彼が幼い子供に勇者と呼ばれるのにも納得だ。
実際、魔物の群れに一人で立ち向かっていたようだし、正義感は人一倍強いのだろう。
「さぁ行くぞ。町の外へ魔物を誘導しよう」
ぎゅっと熱く手を握り、「えっ、なんで手を」と驚く彼を引っ張って走り出す。
二人を追いかけて魔物軍団も町の外に出ていって、延々追いかけっこを繰り広げた末に先頭の二人が立ち止まったのは、サードゥンから遠く離れた砂漠の入り口一歩手前であった。
「ゆ……誘導するにしても、ここまで走ってこなくても、よかったんじゃないの」
追いかけてきたピコロットは息絶え絶えに突っ込み、横ではキースも、ぜぇぜぇと乱れた息で座り込む。
「えらい大運動会だったな……ここまで素直についてきた魔物軍団も、どうかと思うが」
「黒服がいねぇぞ。どうしたんだ」とは町の出入口付近で合流したクォードの弁で、クロトがいないのにはエイジも気づいていたが、元々彼はパーティメンバーでもないのだし、どうでもいいと切り捨てる。
それよりも、魔物軍団にトドメをさすのが先だ。
ランスロットに抱えられた格好で、勇者に戦闘続行を促した。
「斬、ここなら被害を気にせず暴れられる。一気に蹴散らしてくれ」
「よぅし、思いっきりやってやるか!」
やっとエイジに格好いいところを見せられる。
斬は張り切って、魔物の群れに突っ込んだ。

斬の こうげき!
キマイラに 99999∞のダメージ!
キマイラを たおした!
青いぶにょぶにょは 逃げだした!
黒い魔女は 逃げだした!
ブルードラゴンは 逃げだした!
二本づの悪魔は 逃げだした!
レッドブルは 逃げだした!
グリーンナーガは 逃げだした!
ゴルゴンは 逃げだした!
ベヒーモスは 逃げだした!
悪魔将軍アルタスは 逃げだした!
モンスター軍団は 全員逃げていった!


見渡す間もなく魔物軍団は一匹もいなくなり、あとは空っ風が吹き抜けるばかりだ。
「一匹退治しただけで魔物にすっかり恐れられるとは、さすがは勇者。ATK99は伊達じゃないな」
キースが無意味に眼鏡を光らせる中、一緒に脱出してきた青年が斬に頭を下げる。
「一人でも大丈夫かと思ったんだが、無謀だったようだ。助けてくれて、ありがとう」
「いや……あれなら、きみ一人で充分だったかもしれない」と首を振り、改めて斬も青年と向き合った。
「お仲間に勇者と呼ばれているようだが、あなたも勇者なのか?」
青年に尋ねられて斬は頷き、ついでにと聞き返してみる。
「きみも町の人に勇者と呼ばれていたな。きみもロココンの末裔なのか」
だが青年は「ロココン?なんだ、それ」と首を傾げ、名乗りを上げてきた。
「俺は十和田九十九。何故か町の人々が勇者と持ち上げてくるんだが、俺は勇者ではなく霊媒師なんだ。それはそれとして、この土地の者達は魔物に苦しめられているようなので、ずっと人助けを行っていた。しかし、あなたが本物の勇者なら俺の役目も、ここで終わりだ」
少し離れた場所ではピコロットが「ロココンじゃないわ、ロコロンよ。あれ?ロリコンだったかしら」と呟き、エイジに「違う、ロロコンの末裔だ」と突っ込まれていたので、斬は手招きで彼女を呼び寄せる。
「九十九は、この町の人々に勇者だと認識されているようだ。案内役のきみに確認しておきたいんだが、勇者は各町に一人ずつ出現する存在なのか?」
「ちょっと違うわね」と肩をすくめ、ピコロットが訂正する。
「勇者が出現するのは予言で知らされている。けど、どこに出現するのかが不明なの。ただ、どれだけ偽物が出てこようと、案内役の私には本物の勇者が判るのよ。神様がコイツだって教えてくれるから!」
「神様が?では、末裔の血は関係ないのか……?」
訝しむエイジの呟きなど右から左へすり抜けたかのように、ピコロットは、まるっと無視して話を続けた。
「安心して。勇者は斬、あなただけしかいないわ。九十九はそうね、パーティ仲間として召喚された異世界人じゃないかしら?」
またしても異世界人か。
言われてみれば、この世界に霊媒師という職業は存在しない。
あるのは戦士、武闘家、魔法使い、僧侶といった一般職ぐらいで、忍者もないとはガッカリだ。
勇者は世界でたった一人だけに許された職業と思われる。
いや、そもそも勇者は職業なのか?
当たり前のように魔王退治を押しつけられたが、勇者とは一体何なんだ。どういう立ち位置だ。
腕を組んで考え込み始めた斬の肩を、九十九がチョンチョン突いてくる。
「考え中のところ、すまない。あなたの名前も教えてくれると有難いんだが」
そういや、聞くだけ聞いて名乗っていなかった。
「斬だ」と短く答え、誤解が生まれる前に付け足しておく。
「ロロコンの末裔ということにされているが、俺も他の世界から呼び出された異世界人だ。だから、この世界には全く詳しくない」
「そうか、斬か。いい名前だな。そこの仲間も全員異世界人なのか?」
九十九に確認を取られて、ピコロット以外の全員が頷く。
妖精だけが、胸を張って否定した。
「私は現地人よ。名はピコロット。冒険に不慣れな勇者をエスコートする」
しかし話途中で斬が「九十九は、これからどうするんだ?」と切り出し、九十九もピコロットの自己紹介に耳を傾けることなく「どうするかを、これから考えようと思っていたところだ」と答える。
「ちょっとー!私の自己紹介、スキップしないでちょうだい!私は、これでも重要な役目を負った」
キースも彼女を無視して、九十九に誘いをかけた。
「何もする当てがないんだったら、お前も魔王退治としゃれ込まないか?」
「それがいい。パーティメンバーは四人までと言われたが、NPCであれば何人でも同行できるそうだ」とエイジまでもが賛同し、「何人でもオーケーだなんて、一言も言ってないんだけど!?」と喚くピコロットは、クォードの奇襲チョップで撃ち落とされる。
「クロトがいなくなった分、同行できる枠も空いただろ。この羽虫は気にすんな。いてもいなくても同じ存在だ」
「……お前は?魔物じゃないのか」
クォードを見て身構える九十九には、斬が笑顔で警戒心を解かせる。
「クォードも仲間だ。仲間になりたいと、自ら志願してくれたんだ。魔王城を知る唯一の情報源でもある」
「そうなのか……疑って悪かった。よろしくな、クォード」
差し出された九十九の手を握り、クォードもニヤリと口の端を吊り上げた。
「お互い魔王を退治するまでの仲間だが、な」
「それより、やっと馬車が手に入ったんだ。そろそろ次の町へ行こう」とエイジが一行を促し、「ムガー!魔王城の情報なら私も知ってるっつーの!!」と、意識を取り戻してのピコロットの喚きは、新規加入で沸き立つパーティメンバーには聞いても貰えない。
馬車に乗り込むエイジにクォードが、ぼそっと申告する。
「さっき逃げてった魔物の中によ、聞き覚えのある名前があったんだ」
「あぁ、それか。重要そうな中ボスっぽい奴だろ?」と請け合ったのはキースで、遠くを見やる真似をする。
「確か悪魔将軍アルタス、だったか」
「それだ。俺の知るあいつかも知れねぇ……また、どこかで遭遇できりゃあいいんだが」
「遭遇しないほうがいいんじゃないか?どう見ても敵対していたし」とキースもやり返し、馬車へ乗り込んだ。
全員乗り込んだところで、ピコロットが御者席で鞭をふるう。
「ハイヨー、一路オアシスへ!って、私が御者役なのー!?」
妖精の一人ボケ突っ込みを周辺に響き渡らせながら、勇者一行が目指す次の場所は砂漠のオアシス――

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