第三話 キャラ作りは大変だニャン(ΦωΦ)
〜あらすじ〜キャラの立った坂井に憧れるクロード。
俺もあんたみたいに尖った個性が欲しい!と申し出る彼に、坂井が提案した「キャラ」とは――?
坂井は言った。
「キャラを立たせるのに一番簡単な方法は、語尾を変えるこった」
「語尾を?」
クロード以下、級友がハモる。
「そうだ。たとえば、語尾に"ござる"とつけるだけでも、だいぶキャラが違ってみえるでござる」
字面だけだと、チョンマゲの台詞みたいだ。
実際にはヤンキー顔負けの三白眼デコスケが言った言葉でも。
おぉーっと背後で歓声があがる中、クロードも真似してやってみた。
「こ、こうでござるか?」
「そうでござる。なかなか様になってんじゃねぇかでござる」
「お褒めいただき感謝でござる」
――と、その時。
「ござるござると、うるさいでござる!」
いきなりバーン!と扉を開けて、入ってきたのは三年生の笹川だ。
「ござるなんて、ありきたりすぎてキャラ立ちにもなんねーでござるよ!」
しっかり自分も、ござるを採用している。
だが確かに、三人もござる使いがいたのでは、キャラ立ちもクソもない。
「もっと変わった語尾がいいかもな」と坂井にも言われ、クロードはない知恵絞って考えた。
「じゃ、じゃあ……ニャンなんて、どうかな?」
一斉に、ざざーっと級友が後ずさる。
「にゃ、にゃんっ!?」
「そう、にゃん」
「にゃんねぇ。やってみろよ」
坂井に促され、クロードはコホンと咳払いすると、おもむろに言った。
「こんにちは、クロードだにゃん。今日はいい天気だにゃん」
恐らくは、その場にいた全ての級友が思ったに違いない。
顔は普通なのに語尾がニャンというだけで、途端に気持ち悪く感じるのは何故だろう――!
「坂井にゃん、どうだにゃん?俺の個性、立ってきたにゃん?」
ずいずい真顔で迫られ、ドン引きしていた坂井も引け腰だ。
「あ、あぁ……いいんじゃねぇか?」
「にゃあぁぁん、嬉しいにゃん♪坂井にゃんに褒められたにゃんっ」
坂井に何度も頬ずりした挙句、拳を握ってふるふるポーズのおまけつき。
クロード、お前は一体どこへ行くつもりなの?
「それじゃ、校内一周して反応を確かめてくるにゃん」
「えぇっ!?」「ちょ、ちょっと待て。校内って、お前」
級友達が慌てて引き留めるも、クロードはニャンニャン言いながら教室を出て行ってしまった。
二時間目開始のチャイムが鳴り響く中。
「よし、授業始めるぞ」
二時間目は数学だった。
担当の教師、長田は教室を見渡して、生徒の様子がおかしいことに気づく。
「どうした?皆、脂汗なんか流して」
「せ、先生……」
覇気のない目が長田を見つめる。
皆、ニャンニャン毒気に当てられてしまったのだ。
「先生、ちょっといいですか?」
手を挙げた生徒、葵野に「なんだ」と答える長田。葵野は間髪入れずに言った。
「先生、ちょっと語尾にニャンってつけてみてください」
「えっ?」
ヘンテコリクエストに長田の片眉が上がりかけるも、続けて須藤の「お願いします!俺も聞きたいですっ」が耳に届くと、コホンと咳払い。
「よし、他ならぬ生徒の頼みだ。やってやろう」
チラッチラッと須藤に色目を送りながら、長田は「あー……」しばらく躊躇っていたが、意を決してリクエストに応えた。
「今日は一日目なので教科書を、ざっと読むだけにするにゃん?」
かぁっと赤面しながらニャン語尾をつける長田を見て、須藤他、一部の生徒は思った。
か、可愛い――!
「せ、先生!もう一度お願いしますっ」
興奮してガターンと机を蹴り飛ばす者や、鼻息荒く前屈みになる者で、教室は騒然としてきた。
そんな中、坂井はぼんやり考える。
――クロードのキャラ、あっという間に長田にパクられちまったなぁ……
その頃、クロードは何も知らんとニャンニャン言いながら廊下を歩いていた。
誰かに披露したくてたまらないのだが、何故か廊下は無人だ。
いや何故かも何も、今は授業中だから誰もいなくて当たり前なのだが。
「誰かに聞かせたいのに誰もいないにゃん。寂しいにゃん」
ポツリと呟き、踵を返した時だった。
『待つニャ!』と甲高い声に呼び止められたのは。
振り向くと、黒服の少女が仁王立ちで怒りに燃えている。
『お前はなんニャ!? パーシェルの真似っ子ニャ?』
両耳に鈴をつけており、彼女が何か話すたびに、りん、りんと鈴がなった。
「パーシェルって誰だにゃん?」
『お前の目の前にいるニャ!』
あぁ、なるほど。つまり、一人称が名前の女の子か。
「よくある個性だにゃん。没個性乙だにゃん」
ふふんと鼻で笑い飛ばすクロードに、パーシェルの怒りは、ますますヒートアップ。
『お前だってパーシェルのパクリなのニャ!』
「違うにゃん。俺のは"ん"が最後につくから別物にゃん」
廊下でニャンニャン騒いでいると、近くの教室のドアが勢いよく開く。
「静かにしろ、授業中だ」
開いた勢いとは裏腹に、抑揚のない静かな音量で注意された。
「あ、先生、こんにちはにゃん。俺は今日から、にゃん語で話すことにしましたにゃん。お見知りおきを、にゃ〜ん」
「どうでもいい。早く教室へ戻れ」
教師は全くクロードの話に耳を貸してくれず、パーシェル共々クロードは追い立てられた。
しかし、あの教師。クロードがニャンニャン言っても眉毛一つ動かさなかった。なかなか豪の者である。
「世の中にはツワモノがたくさんいるんだにゃん」
『しつこいニャ!いつまでパーシェルの真似するのニャ!?』
「だから、俺のはニャンで、お前のはニャだろにゃん?違う語尾なんだよにゃん」
聞き分けの悪い猫娘に何度説明しても、パーシェルには理解してもらえない。
しまいには『偽物は退治するニャ!』と襲いかかられ、「ひょえ〜にゃん!」クロードは廊下を疾走するはめに。
遠ざかっていく二つのニャンニャンを見送りながら、廊下へ出た教師、ブルー=クレイは溜息をついた。
――変な奴しかいないのか、この学校は。
実は内心しっかり動揺していたクレイである。ただ、表情には出さなかったというだけで。
しかし、変な奴だらけの学校だと悲観してばかりもいられない。
もうすぐ学園祭があるのだ。その時には、外賓もたくさんくる。
粗相のないよう、今から生徒達をしつけておかなくては。クレイは一人、教育魂を燃やすのであった。