15周年記念企画・闇鍋if

アミダでテーマ・リレー小説

第四話 嗚呼、ぼくらの学園祭

〜あらすじ〜
学内の乱れた風紀に頭を悩ませる、教師クレイ。
彼の取った、教育的指導とは――?


「来月、学園祭があるんだってよ」
そんな会話を教室のあちこちで聞くようになった。
入学した翌月に学園祭とは、随分と慌ただしいスケジュールである。
「学園祭って何をやるんだにゃん?」とクロードが問えば、「お前まだニャンとか言ってんのかよ」と突っ込んでから坂井が答えた。
「これまでに研究してきた学術の発表や、練習した芸能を見せる大会らしいぜ」
これまでに、と言われても、入学したばかりの一年は、どうすればいいのか。
担任のデヴィットは何も教えてくれなかった。
否、デヴィットは来月学園祭があることすら、教えてくれなかったのだ。
「一年はゲストみたいな扱いかな?」
葵野の意見を覆したのは坂井やクロード達級友ではなく、ガラッと勢いよく扉を開けて入ってきた二年の担任ブルー=クレイであった。
彼は腕につけた大きな時計のような機械をポチポチ押していたが、ややあって、冷たい合成音声が教室内に響き渡る。
『一年も学園祭には成果を提出してもらう。なんでもいい、クラスでやりたいものを発表してみろ』
「……って言われてもなぁ」
ブーとクチを尖らす新入生達。
急に何かを発表しろと言われても、そうそう思いつくものではない。
「よし、ならば、ここは鉄板のメイド喫茶だろう」
適当に手を挙げて提案したのは、眼鏡をかけた自称クールガイのキースだ。
クレイが尋ね返す。声は、腕につけた機械から漏れている。
『メイド喫茶、とは?』
キースは眼鏡をくいっと上に上げると、ふっと鼻で笑った。
「決まっている。メイドが経営する喫茶店だ。客は全てご主人様となり、メイドを好きに扱うのだ。メイドはご主人様には絶対服従だからな」
「メイド、ねぇ。このクラスで、メイド服が似合いそうな女子っつったら」
ぐるりと教室内を見渡して、坂井が大きく溜息をつく。
駄目だ。
女子は香護芽とかいうバケモノぐらいしかいない。
葵野にはメイド服が似合うかもしれないが、ご主人様には絶対服従?ダメダメ、そんな真似は、させられない。
「……女子が、いませんね……」
ぽつりと須藤も呟き、キースも改めて教室内を見渡して、訂正した。
「ならば男子猫メイド喫茶では、どうだろう?今から何かを発表するにしても、一ヶ月では時間が足りん。飲食店は名案だと思うが?」
「わらわが一肌脱いでやってもよいのでおじゃるよ?」と香護芽が何か言っていたが、誰も聞いていない。
「よし、じゃあメイド服の似合う奴はメイドをやって、似合わない奴がバックヤードに回ろうぜ!」
「裏方かぁ。呼び込み役も必要だよね」
全員がメイド喫茶の分担ではしゃいでおり、香護芽は綺麗にスルーされた。
「わ、わらわが一人メイドになれば、よいのでおじゃろ〜〜?」
必死に存在をアピールする彼女へは、クラスの男子がフォローに回る。
「駄目だよ。君一人に注文聞きをやらせるなんてフェミニズムの風上にも置けない真似はできない」
なんだか判らない理由で、却下された。
そうこうしているうちに、可愛い系がメイドをやることにきまり、残りは全員裏方を希望。
やたら裏方の多い男性猫メイド喫茶の完成だ。材料の準備は前日買いそろえる算段に。
「よし、ではリハーサルだ!ビアノ、君がメイド役をやれ。トシロー、お前がお客様役だ」
てきぱきキースに指示を飛ばされ、「なんで俺が……」と文句言いつつトシロー、そして「任せて!」と勢いよくビアノが立ち上がる。
さっそく「いらっしゃいませぇ〜」と、とびっきりの可愛い笑顔を向けてくるビアノに、トシローは真顔で言い放った。
「おっぱい揉ませて下さい!」
途端に、背中へビシィーッ!と鞭が飛んでくる。
「ギニャー!」
鞭をふるったのは、これまでずっと無言で見守っていたクレイ先生だ。
これには全員驚いて、「な、なにをするっ!?」と皆を代表してキースが尋ねれば、クレイもまた、真顔で答えた。
『学内での不純行為は許さない。真面目にやれ』
「好きに扱えるっつったじゃんよ〜」
涙目で騒ぐトシローへは「予定変更だ」と冷たく言い放つと、キースはビアノに演技指導を加える。
「客の中には、こうした不純行為を要求してくる奴もいるだろう。そういう時は、こう言って凌ぐんだ」
ぴらっとビアノのスカートをめくりあげ、気持ち悪い裏声を発した。
「おっぱいは揉めないけどォ〜、タマタマのおかわりなら、ありますゥ〜」
間髪入れず、鞭が飛ぶ。
「ギャパァッ!!」
キースの口からは絶叫がほとばしり、皆は恐怖の表情でクレイを見た。
『不純行為は許さないと言ったばかりだ』
真顔なのが却って怖い。
「つ、次は葵野と坂井でメイドと客、やってみろよ」
同級生に背中を押され、ビクビクしながら葵野、そして坂井が眉をつり上げて一歩前に出る。
「い、い、い、いらっしゃいませぇぇ……」
怯える葵野とは対照的に、坂井はふんぞり返って注文した。
「おうメイドさん、珈琲一杯もらうぜ」
「は、は、はいぃ……かしこまりましたぁぁ……」
珈琲を注ぐ真似をする裏方役も、ビクビクもんだ。
始終クレイの顔色をうかがいながら、葵野が珈琲を運んでくる真似をする。
「おぉぉ、おまたせいたしましたぁ。ご、ご注文の品ですうっぅ」
「おう、いただくぜ」
豪快に飲む真似をする坂井、の背中に鞭一つ。
「いてぇっ!」
一体どこが駄目だったのか?と、慌てて二人がクレイを振り返ると。
クレイは眉間に皺を寄せて、駄目出ししてきた。
『片膝を立てて椅子に座るな』
「俺はお客様だろうがよッ!?客に駄目出ししてくんじゃ」
話している途中にもビシィッ!と鞭が飛んできて、坂井はもんどりうった。
「ぐぁっ!」「さ、坂井ッ!」
『教師に口答えをするな。反社会的な態度、学園祭で来賓に向けて行なわないよう教育する必要がある』
クレイの愛の鞭は、メイド喫茶の指導だけではなく、生徒全員の態度指導も含まれているようだ。
あと一ヶ月、これが続くのか――
学園祭の前に、ライフがゼロになりそうだよぉっ。
口に出さなかったが、誰もが、そう思った……


――そして学園祭、当日。
一年生は全員が学校へ来なかった。
全員、鞭に叩かれた痛みを訴え、休んだのである。
おかげで今年も学園祭は、無事に終了した。
クレイは一人、自己完結で満足に浸ると、教室の窓から来賓達を眺めるのであった。

End.

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