第二話 規則は絶対!まっすぐ学園ライフ
〜あらすじ〜横暴な教師デヴィットに、入学早々たてつく坂井達吉。
君の求める学園ライフって何さ?と尋ねられ、彼が答えたのは――
「俺が求めるのは正々堂々、まっすぐ規則に忠実な学園ライフだ!」
坂井が答えた直後、教室はシーンと静まりかえる。
まさか三白眼でやぶにらみのチンピラみたいな外見の奴が、そんなことを言うなんて。
誰もが、そう思ったに違いない。この反応を見る限り。
不意にパチパチと拍手が響いて、皆がそちらを見やる。
「坂井、格好いい!」
拍手しているのは葵野だ。ついさっきまで萎れていたはずなのに、復活が早い。
「へぇ、規則に忠実ねぇ。例えば?」
デヴィットに尋ねられ、坂井は思いついた項目を順に挙げていく。
「例えば、そうだな、制服は必ず着ること。遅刻はしない。掃除当番をサボらない。宿題は必ず提出する」
「それを破ったら、どうなる?」
「そりゃあ、それなりに罰が下されるだろうぜ」
「なら」と廊下を振り返って、デヴィットは会話を締めくくる。
「僕があの二人に課した罰は、君の理想の学園ライフに準じた正当な体罰だったってわけだ」
なんだか自分の首を絞める結果に終わってしまった気がする。
いや、正確には葵野の首か。
真顔で椅子に座り直す坂井を、横から慰めるのは当然のように葵野である。
「坂井、落ち込まないで。俺が誰かに怒られるのは日常茶飯事だもの」
自分で言ってりゃ世話がない。坂井も小声で言い返す。
「バカ、それとこれは別問題だろ。お前は何も罪を犯していない、なのに体罰くらいそうになったんだ。そこは怒っていいんだぞ?」
だが葵野はエヘヘとだらしない顔で笑うと、坂井の予期せぬ斜め上な返答をよこしてきた。
「いいよ、俺は別に……坂井に庇ってもらえただけでも充分嬉しいよ」
これでは示しがつかないばかりか、庇った意味もない。
坂井は閉口し、静まったのをヨシとして授業が始まった。
休み時間――
「お前、すごいな。入学早々教師に噛みつくなんて、恐れ知らずなのかバカなのか」
褒めているんだか貶されているんだか微妙な言葉をかけられて、目つきを通常の1.5倍は険悪にしながら、坂井は声の主へ振り向いた。
「や、普通しないって。だって一年目だぜ?普通はどんな無茶言われても大人しく従うよな、教師に」
背は、そこそこ。
取り立てて特徴のない、言ってみれば主人公の後ろの引き立て役。
或いはモブに混ざっていそうな平凡な顔だ。
「相手が何者だからって態度変える人間じゃねぇんだ、俺は」
人相悪く睨みつけると、坂井は大股で立ち去った。急がないとトイレを往復する時間がなくなる。
「あんなのに話しかける、お前も結構すごいと思うけど」
別の級友に突っ込まれ、クロードは小さく呟いた。
「話しかけるぐらいなら、誰にでも出来る。そう、俺じゃなくたって。俺も、ああいうふうに一度でいいから教師にたてついたりしてキャラ立ちしてみたいんだ……」
「お前、そんなに目立ちたいの?」
他の奴にも聞かれ、クロードは即答する。
「目立ちたいよ!俺、前の学校では平凡なまま終わっちゃってさ。周りの奴はキャラ立っていたのに、俺だけ地味で……なぁ、どうやったらキャラって立つのかな?」
そんなの自分で考えろよ。そう言われるのも覚悟の上だった。
クロードの悩み相談に答えたのは、教室に残っていたクラスメートではなく、トイレからの往復で戻ってきた坂井だった。
「キャラを立たせたい?だったら、そんなのは決まってんだろ」
坂井の出した案。
それらを聞くうちに、クロードは早くも実践してみたいという、はやる気持ちを抑えられなくなっていた。