十二周年記念企画・闇鍋if

Barak Island Fight!!

15.お姫様は王子様のキスで

「デヴィット!お前が、どうして此処にいるんだ」
赤毛の男、エイジがランスロットと一緒に現れる。
どこも怪我をしていないし服も破れていない。
一旦は安堵したデヴィットだが、しっかり繋がれた二人の手を見て、たちまち機嫌を悪くする。
おかげで、再会した時に言おうと思っていた言葉も忘れてしまった。
「僕がどこにいようと僕の勝手だろ。それより何だい?手なんか繋いじゃって、ラブラブだね。そんなにリア充乙って僕に言って欲しかったのか?」
瞬く間にエイジが、かぁっと赤面する。
「こ、これは誘導だ!ランスロットは、まだ本調子ではないから仕方なくッ」
ランスロットはエイジの後ろでモジモジしていたが、上目遣いにデヴィットを見た。
『あ、あの……エイジさんを怒らないで下さい。わたしが悪いんです、わたしが混乱で呆けてしまったから、エイジさんは、わたしを逃がす為に、手を』
「エイジ"さん"?」
ランスロットの言い分にも腹を立て、デヴィットは彼女に詰め寄った。
「使い魔如きが、ご主人様に対して随分と馴れ馴れしいじゃないか。前は"様"ってつけていたのに、僕が見ていない間に急接近しやがって。二人だけで何をやっていたんだ?まさか牢屋の中で一線を越えちまったんじゃないだろうね?」
ランスロットの頬も赤く染まり、哀れなり使い魔は俯いてしまう。
代わりにエイジが怒鳴った。
「馬鹿!!ランスロットは記憶を失っているんだ、仕方ないだろ!」
それはパーシェルも言っていた。
エイジが見てもそうなら、そうなんだろう。
しかし一度ついた嫉妬の炎は収まらず、デヴィットの憎まれ口は続く。
「へぇ?その割には次元分断能力がちゃんと発動したらしいけどね。目撃者は、そこの探偵だ。なぁ、グラウ?あんた見たんだろ?ランスロットがキーリアって奴を時空の彼方へ放り込むのを」
デヴィットに促され、唖然と事の成り行きを見守っていたグラウが我に返る。
「そ、そうだ。我が輩は、この両目でちゃあんと見たぞ!そこの女が真っ暗な空間を生み出して、我が輩の仲間を次々に放り込んだ瞬間を!我が輩も危うく放り込まれるところだったのだが、そこの赤毛青年がストップをかけて、我が輩を助けてくれたのだ」
アリスにニャーニャー泣きついていたパーシェルも話に加わってきた。
『そうニャ、ランスロットはパーシェルの事も忘れていたニャ。酷いのニャ、パーシェルはランスロットを友達だと思っていたのに〜!』
それはどうでもいい。
『わたし……わたし、無我夢中で……』
ランスロットが血色をなくして、ぽつぽつと語り始める。
『夢中だったんです……エイジさんに牢屋を出ようって、牢屋の柵がなくなる映像を脳裏に思い浮かべてみろって言われて、一生懸命念じていたら、いつの間にか柵が消えていて……通路に出たら、今度はあの人達が襲いかかってきたんです。わたしを庇ってくれたエイジさんが殴られて、わたし、あの人達にも消えろ!って念じたんです。そうしたら、本当に消えてしまって、それで』
「へー、それは大変だったね」
刺々しい声で遮って、デヴィットはランスロットを睨みつける。
本来なら同情しなきゃいけない相手だ。
記憶喪失で捕虜となり、逃げ出したら襲われるなんて不幸としか言いようがない。
なのに、今のデヴィットの心を占めるのはランスロットへの嫉妬だった。
獣人に囚われた挙げ句、顔も忘れたご主人様に体を張って守られただって?
こんな奴、使い魔失格だ。
怒り心頭のデヴィットを遮ったのは、氷のように冷え切ったアリスの一言であった。
「他の獣人は……?他の人達も、時空の彼方へ飛ばしてしまったの?」
「あぁ……」と頷き、エイジが唇を噛みしめる。
恐らくエイジはグラウを助けたように、他の人の時も止めようとしたんだろう。
でもランスロットの能力は暴走してしまい、結果として止めきれなかった。
「全く、ご主人様に心労までかけさせるなんて大した使い魔だよ。エイジ、君もう、こんな役立たずとは契約を破棄した方がいいんじゃない?」
「そうはいくか。たとえ記憶を失ったとしても、ランスロットは大切なパートナーだ。一度契約を結んだ以上、見捨てるわけにはいかない」
エイジは頑固に拒否し、パーシェルも横で加勢する。
『そうニャ、そうニャ!デヴィットは薄情ニャ!』
フンと鼻息荒く罵声を吹き飛ばし、デヴィットはそれでも怒りを静める。
「まぁ、いいさ。僕は君達を捜していたんだ。アーシュラが別次元に飛ばされたらしくてね、呼び出そうにも呼び出せない。そこでランスロット、君の能力を拝借したいと思っている。記憶喪失とは厄介だが、能力が使えるんなら問題ない。やってくれるか?」
ついさっきまで罵倒していた相手に頼むとは、随分と調子が良い。
エイジがムッとして答えた。
「駄目だ、今のランスロットは能力の制御が出来ない。失敗したら、俺達全員を亜空間に放り出してしまう危険性が高いんだぞ?」
「なら、記憶を取り戻せばいいんじゃないかな?」
そう突っ込んできたのは、それまで蚊帳の外にいたダグー。
「どうやって?」
エイジからの当然の質問に、彼は笑顔で答えた。
「う〜ん。たとえば、王子様の愛で目覚めさせるとか……キスしてみるってのは、どうだろう?もちろん王子様は君だよ、エイジくん」
あまりにも古典的なネタをふられて、当のエイジは勿論のこと。
その場にいた全員が、見事に硬直してしまったのであった。


――かなりの間をおいて。
エイジの絶叫が洞窟内に木霊する。
「できるか、馬鹿ッ!そんな恥ずかしい真似……この、馬鹿ッ!!」
「馬鹿の案は所詮、愚考か」とヒスイも吐き捨て、アリスへ尋ねた。
「獣人は全滅したようだな、そこの女悪魔の能力で。どうする?まだデヴィットを殺すつもりか。殺したって元の世界にゃ帰れねぇと思うがな」
これだけ大騒ぎしても誰も駆けつけないのだから、要はそういう事だ。
獣人はランスロットの暴走に巻き込まれて、全滅したのであろう。
可哀想な事をしたが、本を正せば悪いのは彼らだし、自業自得とも言える。
真っ赤になってプルプル震えているエイジを、デヴィットは眺める。
今このタイミングで聞くのは野暮だなと思ったが、仕方なく確認を取った。
「なぁ、エイジ。いつまでもココでだべっているってのもなんだし、まずは落ち着ける場所まで移動してから、ランスロットの記憶を取り戻す方法を考える。それでいいかい?」
答えの代わりに飛んできたのは怒声だ。
「デヴィット!なんだ、この破廉恥な無礼者は!?お前の友人か」
エイジは真っ赤になって目をつり上げている。
彼の中におけるダグーの第一印象は最悪に終わったようだ。
「まぁね。僕達、すっかり気があっちゃってさ」
わざとカンに触るよう、目の前でダグーと肩を組んでやる。
二人が手を繋いで現れた時、こっちだって気分を悪くしたのだから、おあいこだ。
「変態の友人は変態か、お似合いのコンビだな!」
エイジは吐き捨て、ランスロットへ向き直ると、さっきよりは多少声を和らげて小声で謝った。
「すまない。気を悪くしたかもしれないが、あいつらの戯言は聞き流してくれると助かる」
ランスロットは恥じらいの表情を浮かべ、上目遣いにエイジを見る。
『い、いいえ……気を悪くするだなんて、そんなこと……』
その顔は、まさに恋する乙女。
デヴィットの苛つきが五十パーセント、プラスされた。
「だ・か・ら!僕の目の前で、エイジとイチャイチャするなって言っているだろ!?使い魔のくせにっ。大体、女でもないクセに生意気なんだよ!」
言うことが大概言いがかりになってきたデヴィットに、ダグーが驚いて尋ねる。
「えっ?彼女、男だったのか?あ、もしかして男の娘ってやつなのか」
へぇ〜っと何故か、しきりに感心している。
ランスロットが男で何で感心されるのか判らず、デヴィットの声は裏返った。
「男の子?違う、あいつは男でも女でもないんだよっ」
デヴィットの逆ギレはさておき、アリスがヒスイへ疑問を投げかける。
「私達を次元移動させたのは、本当にコードKだったの?」
「あんた、コードKを知っているようだな」
質問で返すヒスイに、しばし沈黙してから、アリスが答えた。
「えぇ。キーリアが……いえ、獣人達がボスと崇める男よ」
「やはりな」とヒスイは顎をなで、思案顔で言った。
「俺が会ったカリウスって獣人曰く、コードKはデヴィットの命を狙っているらしい。デヴィットさえ消せばKが俺達を元の世界へ帰してくれるかもしれない、なんて調子の良いことを言ってやがったぜ」
皮肉めいた口調に、アリスが首を傾げる。
「調子のいいこと……?」
あぁ、と頷きヒスイは視界の隅にデヴィットを入れる。
「俺達は、あのニヤケバカを助けてコードKを倒さなきゃいけないらしい。Kは、そいつを阻止する為、俺みたいな異邦人やデヴィットを狙っているようだ。どうせコードK自身も、この世界の住民じゃねぇんだろ?」
ふるふると首を振り、アリスもデヴィットを見た。
彼はダグーやエイジと言い争いをしている。
かなり、どうでもいい話題で。
「獣人達は何か言っていなかったか、奴の事を」
「ファーストエンドの住民ではない、とキーリアが言っていたわ。彼は、ゲート通過者だと。そして彼は……デヴィット=ボーンはゲートを通過せずにファーストエンドの世界へ来た、招かざるイレギュラーな存在。そう呼ばれていた」
「本当にゲートを通ってきたか、怪しいもんだがな。コードKってやつも」
ヒスイは鼻で一笑し、口喧嘩を終わらせるべくデヴィットへ声をかけた。
「おい、移動するなら、さっさとしようぜ?とりあえず街に戻ってみるか」
途端に、ダグーとデヴィットが同時に叫ぶ。
「ストーップ!!」
「アァ?何がストップなんだよ」
人相悪く睨んでくるヒスイへは、デヴィットが冷や汗たらして付け足した。
「僕達みんなビーストメイヤーの街へは戻れない理由があってね……できればビーストメイヤー以外の街へ行ってくれると嬉しいんだけど」
「僕達みんな?」とヒスイが眉をひそめる横では、アリスが暗い顔で俯く。
グラウも珍しくデヴィットに同意し、提案した。
「我が輩も当分故郷に戻るわけにはいかんのだ。従って、ここはコールドシティに向かってみるというのは、どうだろう?そこのダグーによれば、フラワーサンダーにも獣人がいたという話だし」
しばし考え、ヒスイも頷く。
「……そうだな。コールドシティ周辺にあった、獣人のアジトは壊滅した。あそこなら安全だ、とりあえずな」
「またあそこに戻るのかい!?」
寒さを思い出して悲鳴をあげるデヴィットへは、ヒスイの冷たい視線が飛んでくる。
「嫌ならいいんだぞ?テメェだけ、ここに残っても。それにな、思い出したんだ。あの洞窟には俺を瞬間移動させたカリウスって獣人がいたはずなんだ。あいつなら、もっと詳しい事情を知っているに違いねぇ。なんたって獣人の一味だからな。あいつを捕まえてKの情報を吐かせようぜ」
「けど」と反論を唱えたのはダグーだ。
「いつまでも残っているものかな?ソロンって人が壊滅させてから、だいぶ経っている。もし生き残りがいたとしても、もう、あそこはもぬけの空なんじゃ……」
「どのみち、移動は必要だ」と、エイジ。
「俺とランスロットは、何日もろくな飯を食べていない」
『わたしは……大丈夫ですけれど、エイジさんが』
ぽそっと呟いて、ランスロットがエイジの影に隠れる。
『……エイジさんが、わたしに自分の分まで分けて下さいましたから……』
必要以上のベタベタっぷりに、再びデヴィットのボルテージがあがりそうだ。
彼が癇癪を起こす前に、パーシェルが号令をかけた。
『それじゃ〜コールドシティへレッツゴーなのニャ!ところで、それってどこニャ?』
「テレポットで洞窟に行って、そこから街へ戻るとするか。こっちだ、ついてこい」
ヒスイの案内でテレポットを使い、一同は一路コールドシティへUターンする。

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