十二周年記念企画・闇鍋if

Barak Island Fight!!

8.俺達ぁ世界のお尋ね者!?

目の前の景色が一旦消えて、視界が戻ったかと思った瞬間。
「はっ……はばばばば、ハヴァヴァヴァバ……」
歯の根が合わず、ZENONとGENは寒さに震える。
さっきまでニューシティにいたはずなのに、この寒さはどうだ。
辺りを見渡すと、風はビュービュー吹き荒れて、吹雪が舞っている。
なんだ、ここは。ニューシティじゃなくなっている?
「がっ、がががが……なっ、なんじゃこりゃあ……?」
ZENONもGENも薄着一枚だ。
吹雪なんぞが吹き荒れていたら、そりゃ〜寒いに決まっている。
二人揃ってガチガチやるのをジト目で見つめながら、ピートが小さく囁いた。
「もう一回飛ぶよ?」
「と、飛ぶって?ここは一体どこ――」
最後まで言い終える前に、GENを含めた全員の姿が、その場から消える。
再び自由に動けるようになったのは、いずことも知らぬ建物の中であった。


ここはゲート研究機関と名付けられた、冒険者ギルドの施設の一つ。
コールドシティの片隅に建っていた。
管理者の名はハーフエルフのマクリゥス。
本名ではないらしいが、実名は友人であるシャウニィも知らない。
「ようこそ、ファーストエンドの世界へ」
外は恐ろしく寒かったが、建物の中は暖かい。
おかげで余裕の出てきたZENONが、さっそく噛みついた。
「ファーストエンド?それが、この土地の名前か。んで、俺達をこんな場所に連れ込んで、一体どうしようって腹だ」
「土地の名前ではない」とマクリゥスが彼の間違いを訂正する。
「この世界の名前だ」
「この世界の?」と首を傾げるのはGEN。
「いや、世界って……世界って?」
「あぁ、何を聞きたいのかは判る。つまり君たちは、君たちの住む世界……いや、故郷と言い換えた方が判りやすいかな?そことは全く異なる次元に来てしまったのだよ」
言い換えられても、やはり理解できない。
きょとんとする大人二人に、ピートが蔑みの表情で補足した。
「要するに、異世界へ来ちゃったってこと。オレも、あんた達も」
「異世界……」「……だとォ!?」
今度は二人にも判ったのか、一斉に声をあげる。
「ん、いや、オレもっつったな?おいガキ、テメェもファーストエンドじゃないところから、やってきたってぇのか?」
ZENONに聞かれ、疎ましそうにピートが睨みつけてくる。
「ガキじゃないよ、オレにはピートって名前があんの。で?オッサン達は?なんてーんだよ、名前」
ちっこいくせに生意気な子供だ。
ZENONのこめかみは引きつったが、GENは気にせず自己紹介した。
「俺はGEN。で、こっちはZENONだ。俺達は黒魔境って処でエクソシストを営んでいたんだが、ここへ来るまでの記憶がなくて困っていたんだ」
「あァ、どうやってココに来たのか、さっぱり判らねぇ。ってんで、ここの情報を集めるうちに妙な噂を聞いたのよ」と、ZENONも補足する。
ソロンが聞き返す。
「妙な噂?ゲート未通過者の噂か?」
ギルドでも上層部の連中しか知り得ない情報だ。
未通過者本人の耳に入るような場所で聞ける噂ではない。
ZENON達が掴んだ情報も、どうやら違ったようで、二人は揃って首を真横に否定する。
「いや?俺達が掴んだのは、獣人達がおかしな動きをしているって話だ。それで、冒険者ギルドに行けば獣人に関する依頼が出ているというから、ギルドへ向かったんだ」
「やはりな」と呟いたのは、マクリゥスだ。
「何か知ってんのか?」と尋ねるシャウニィへは目線で頷くと、静かに話し始める。
「獣人が怪しい動きをしているという噂は、私も聞き及んでいる」
「どこで?」
ソロンの問いには「コールドシティでだよ」と答えたマクリゥスの目がピートを捉えた。
「な、なんだよ」
ガン見されていると気づいてピートが狼狽えるのへは、ふっと小さく笑った。
「奴らがモンスターと一緒にいる場面も目撃されている。獣人がモンスターを操っていると考えている者も多いようだ。ギルドにはモンスター退治の依頼が多く出回っている。だが依頼の多さに反して解決したという噂は、あまり聞かない」
「どういうこった?」
シャウニィが首を傾げる横で、ソロンはピンときた。
「引き受けた奴が消息不明になッているッてわけか」
「その通り」
満足そうに頷くと、改めてマクリゥスは三人へ問う。
「今日も新しい依頼が張り出されたようだ。コールドシティの外にある洞窟に住み着いたモンスター退治の依頼がな。ファーストエンドに洞窟は多い。モンスターの数も多い。しかし新たに洞窟へ住み着くモンスターの数が、ここ数日で異常なほど膨れあがっている。これには人為的な何かが作動しているとは考えられんかね?」
GENの喉が、ごくりと鳴った。
「その人為的な何かを……獣人達が引き起こしている、と?」
「時期が合うのだよ」とハーフエルフが頷く。
「獣人の噂と、モンスターが大量発生した時期がね。あながち無関係とも思えない」
「そこで、だ」と話を切り出してきたのはシャウニィ。
「お前らには、洞窟の調査をして欲しいんだよ。どの洞窟だっていい、獣人に繋がる手がかりがないか探してきて欲しいんだ」
「俺達が?」
GENもZENONも驚いた。
何故、見ず知らずの自分達に頼むんだろう。
気になるなら、自分で調べてくりゃいいのに。
「……実は、な」
シャウニィが声を潜めてきたので、知らず皆も円陣を組んで中腰になる。
「お前らゲート未通過者には賞金がかけられている」
「賞金だとォ!?」
素っ頓狂な声をあげたZENONを「シーッ!声がでけぇっ」と制し、ダークエルフはヒソヒソと続けた。
「お前らみたいなのにウロウロされっと、ギルドにとってまずい混乱が生じるんだよ。情報の混乱ってーか。だから捕らえようって話で、まとまっちまってよ。や、俺はやめようっつったんだけどな?賞金首にするだなんて、敵意むき出しみたいじゃん」
「みたい、じゃなくて敵意むき出しじゃねーか!」
敵意むき出しで喚くZENONを一瞥して、ソロンが言葉を引き継いだ。
「だからよ、冒険者にお前らが捕まる前にココへ連れてきたッてワケだ」
「あ、そういやぁ……」
思い出したようにGENが言った。
「ニューシティから一瞬でココに到着したみたいだけど、あれはどうやったんだ?」
「オレのちからだよ」と答えたのは、ピート。
「お前の?」
オウム返しなZENONへ頷くと、どこか得意げにピートは語った。
「オレはサ、念動者なんだ。本来はソルを動かす為に能力を鍛えていたんだけど、戦争が終わった後は訓練して簡単なテレポートぐらいなら出来るようになったんだぜ」
「簡単なテレポート……つまり、それが瞬間移動の秘密なのか」
GENが判ったような顔で、ぽんと手を叩く。
念動者というのが何なのかは判らないが、ピートの世界では当たり前に存在するのかもしれない。
「そっ」と頷き、ピートがソロンを促した。
「オレ達が調べに行くのは構わない。けど、装備はきっちり用意してくれよな。オレはともかく、こっちの二人は寒さにチョー弱いみたいだし」
ピートの嫌味に、ZENONが即食いつく。
「な、なんだと!?別に俺達ぁチョー弱いってんじゃねーぞガキィィッ」
「へー。でもガチガチブルブル震えてたじゃん」と、ピートはどこまでも蔑みの目線だ。
「君は、寒さに強いのか?」と、これはGENの質問に、ピートは肩をすくめて鼻で笑った。
「オレは念動者だって言っただろ?念動力でバリアぐらい張れる」
「だが、その能力は無限ではない」
マクリゥスが締めくくり、ソロンへ命じる。
「ソロン、君もついて行ってやれ。彼らはファーストエンドのモンスター知識に乏しい」
「勿論だぜ」
ソロンは自信満々に頷き、GEN、ZENON、そしてピートにも防寒具を放り投げる。
「手頃な依頼を俺が引き受けてきてやッから、お前らはソイツを着て寒さに体を慣らしておけよ?いざッて時、体が動かねェッてンじゃ話になンねーからな」
「あ、ありがとう。でも君は?」
防寒具に袖を通しながら尋ねるGENへソロンが首を傾げる。
「ン?俺がどーかしたか」
「いや、君も着なくていいのか?防寒服……」
ソロンもGEN達同様、上はタンクトップ一枚で涼しそうな格好だ。
なのに彼は、ピートの能力で瞬間移動してきた時も平気な顔をしていた。
「君も念動力ってのを持っているのか?」
「俺?寒かねーよ、この程度」とソロンは笑い、軽く手を振り出て行った。
おかげでZENONが「テメーが平気だってんなら、俺だって平気だよ!なんでぇ、吹雪ぐらいッ」といった無駄な負けん気を発揮するものだから、後に残った連中は彼に防寒具を着せるのに四苦八苦したという。

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