十二周年記念企画・闇鍋if

Barak Island Fight!!

1.はじめての仲間!

目を開いて、一番最初に飛び込んできたのは真っ青な空だった。
二、三度、しばたいて、デヴィットは自分が砂浜に寝ころんでいたと知る。
背中もお腹も砂だらけだ。
「もうちょっとマシな場所に飛ばせないもんかねぇ」
ブツブツ文句を言いながら立ち上がった彼の耳に、悲鳴が飛び込んできた。
「だ、誰かー!助けてくれぇっ」
男の声だ。
どこからだと見渡してみると、なんだ、見渡すまでもない。
すぐ近くで、なにやら異形の怪物と向かい合っている若い男が見えた。
黒髪を短く刈り上げ、白いTシャツを着ている。
勇ましく振る舞えば精悍と言えようが、今は下がり眉で情けない顔を晒していた。
男と向かい合っているのは、まさに怪物としか言いようのない生き物だ。
どう見ても顔は虎なのだが、人間のように二本の足で立っている。
手には指が生えている。人間と同じ、五本の指が。
全裸で、尻には長い縞々の尻尾が生えていた。仮に虎男とでも命名しようか。
悪魔とも似ているが、悪魔ではない。悪魔特有の気配を纏っていない。
男とデヴィットの目があった。
「助けてくれ、頼む!」
頼まれてしまっては、嫌だと言えない。
いや、言ってもいいのだが、デヴィットは彼に興味を持った。
男は助けを求めていたが、態度には若干余裕も感じられる。
それを不思議に思ったのだ。
「いいけど、報酬は何をくれる?」
「ほ、報酬!?えぇっと……金もお宝も持っていないんだけど、何がいい?」
馬鹿正直に答えてくるとは、変わった奴だ。
こんなことを言われたら大抵は嫌な顔をする奴ばかりなのに。
気に入った。彼を助けてやるとしよう。
「いいよ。じゃあ、報酬は君のキスで」
デヴィットは軽やかに近づくと、困惑の男と異形の怪物の間に割り込んだ。
「貴様、邪魔するかッ!」
虎男が人の言葉を発する。
だが、驚く間もないまま直後に鋭い爪が振りかざされる。
そいつを難なくかわし、デヴィットは男の腕を取る。
「さ、行こう」
「えっ!?」と驚く彼の腕を強引に引っ張り、走り出した。
追ってくるかと思いきや、虎男はその場でがなりたてるだけで追いかけてこない。
見る見るうちに姿は遠ざかり、もう大丈夫と思える場所で二人は立ち止まる。
「ありがとう」
「礼には及ばない」
肩で息する男へ爽やかに微笑む。
「ああいう輩の扱いには慣れているんでね。それよりも君、報酬だ」
自分の頬を突いて催促するデヴィットに男は一瞬躊躇したようであったが、すぐに苦笑を浮かべて聞き返してくる。
「けど、いいのかい?俺は男で君も男なんだけど」
「なぁに、君みたいに可愛い人なら大歓迎さ」
どこまで本気か判らないデヴィットの態度に、男は覚悟を決めたようだ。
「それじゃ、ちょっとだけ……」と呟いて、デヴィットの頬に軽く唇をつける。
「これで、いいかい?」
照れ隠しに笑う彼へ、デヴィットも頷いた。
「まさか本気でやってくれるとは思わなかったよ、ありがとう」
「本気でって」と戸惑う彼へ、改めて自己紹介する。
「僕はデヴィットっていうんだが、君は?なんていうんだい、名前」
気を取り直したか、男が答える。
「あ、あぁ……ダグーだ。気軽に呼び捨ててくれて構わない」
「ダグー、ね。変わった名前だな」
「よく言われるよ」と微笑み、ダグーが額の汗をぬぐう。
「さっきのは何だったんだろう?虎のような、人間のような」
よほど怖かったのか、まだ微かに体を震わせている。
確かに、先ほどの怪物は見かけが怖かった。
けど、大の男にしちゃ少々ビビりすぎじゃなかろうか?
それに、先ほど感じた余裕は何だったんだろう。
実は余裕なんか全くなくて、余裕に見えたのは自分の勘違いか。
……なんてことを内心では考えながら、デヴィットは冷静に応え返す。
「僕にも判らないな。悪魔と似ているけど、悪魔でもなかった」
それよりも、とデヴィットはダグーの腕を掴んで歩き出す。
いつまでも立ち話していては、疲れてしまう。
どこかの店にでも入って、ゆっくり話をしよう。


「――そう。それじゃ、君も僕と同じか」
砂浜の終わりに見つけた小さな茶屋にて、お互いの身の上を話すうちに判ったことが一つ、二つ。
ダグーもデヴィットと同様、どこかの世界から来たそうだ。
真っ白な空間で目が覚めたら、リュウと名乗る男にファーストエンドに行って欲しいと頼まれて、有無を言わさず飛ばされた先が、あの虎男の前であった。
「リュウか……奴になら僕も会ったよ。世界に秩序を戻して欲しいそうだ」
「世界の秩序?」
ダグーは首をかしげている。
「今が混沌としているようには見えないけど……」といって茶屋を見渡す。
のんびりと茶をすする爺さん。
果物を頬張る若い男。
ウェイトレスとおぼしき娘が、お茶を配っている。
ちっとも切羽詰まっているようには見えない。
デヴィットが投げやり気味に言った。
「コードKって奴が近々もめ事を起こすらしい。僕は、やつの野望を止めないと元の世界へ戻れないってわけさ」
「どうして君が、それをやらなきゃいけないんだ?」と、これは当然の質問に、デヴィットは肩をすくめた。
「僕のほうこそ聞きたいよ。でもリュウの話だと僕は真人ってやつに選ばれて、無理矢理その大仕事をやらなきゃいけないハメになったらしい。まったく、迷惑な話さ」
「大変だね……」と、しみじみ呟いたダグーが顔をあげる。
「俺にも何か、手伝えないかな?」
「手伝ってくれるのかい?」
こんな得体のしれない話を聞かされて手伝いたいだなんて、つくづくお人好しに産まれてきた男らしい。
あるいは、相当のバカなのか。
だが、この際どっちでも文句は言えまい。人手は必要だ。
「あぁ。君には命を救われた。今度は、俺が君を救う番だ」
ダグーの瞳は一片の曇りもなく輝いている。
邪心など持ち合わせていない証拠だ。
「嬉しいね、ありがとう」
心の底から本音で呟くと、デヴィットはダグーの瞳をのぞき込む。
「じゃあ、まずは僕の仲間捜しを手伝ってくれないか?ランスロットとエイジっていって、彼らも、この世界へ来ているはずなんだ」
「ランスロットとエイジ、か」
懐から手帳を取り出し、ダグーが書き込む。
「彼らは何が出来るんだ?」
「ランスロットは時空を切り開く能力を持っている。あいつの力を使えば、僕の遣い魔も召喚できるようになるはずさ」
エイジは、そのランスロットを使役する術師である。
ランスロットはエイジの命令なくしては、働いてくれない。
だから、二人まとめて探す必要があった。
そういえば、と思いついてデヴィットは尋ねた。
「ダグー、君は何が出来るんだ?僕は遣い魔を使役できるんだけど」
「俺?俺は、えぇっと」
しばしの間が開いて、首をかしげたダグーが呟く。
「何ができるんだろ。何もできない……?」
それを聞いた瞬間、猛烈な後悔に襲われたデヴィットであった。

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