十二周年記念企画・闇鍋if

Barak Island Fight!!

序章 ここはドコ?異世界に迷いし戦士達

上も下も右も左もない。
真っ白の空間。
気がついたらデヴィット=ボーンは、そうした場所に、たった一人で佇んでいた。
「これは、これは……」
自分が立っているのか、浮いているのかも、おぼつかない。
ぐるりと一帯を見渡した後、アーシュラを呼び出そうとしてデヴィットは頭をかいた。
呼び出せない。
どうしたことか、ここでは悪魔の召喚を禁じられているようだ。
「困ったもんだね」と、まるで困った風には見えない顔で呟いていると、頭上から声がかかった。
「冷静だな。さすが悪魔を使役する術者なだけはある」
見上げると、黒スーツの男がいた。
「冷静に見えたんなら、いいけどね。実は困っているんだ。ここは何処で、君は誰だ?」
デヴィットの呼びかけに、男が応じる。
「ここは時空の狭間――亜空間とも呼ばれている。君は真人の命令により強制召喚されたのだ。世界の秩序を保つ為に」
「世界の秩序?」
随分と大風呂敷を広げたものだ。
金髪黒スーツの男が、デヴィットのいる位置まで降りてくる。
「シンジンってのは誰だ?君のこと?」
デヴィットが尋ねると、男は「違う」と短く答える。そして、言った。
「真人とは神の上にいる存在だ。俺はリュウ=ライガ、時の管理者をやっている」
「宗教の話は苦手でね」
肩をすくめるデヴィットには お構いなく、リュウが話の先を続けた。
「輪を乱す者が現れた。そいつを排除するには皆の協力が必要だ。デヴィット=ボーン、君には仲間を集めてもらいたい。秩序の安定に協力してくれる仲間を」
「僕が?」
デヴィットは驚いた。
「僕が、どうしてやらなきゃいけないんだ?そういうのはカリスマのある奴か、君自身がやったらいいじゃないか」
自分で言うのもなんだが、自分にはカリスマもなければ協調性もない。
ついでに言うなら、めんどくさい。金にならない仕事なんて、まっぴらだ。
世界の平和を守るのは、自称正義の味方にやらせればいい。
「俺は真人を守らねばならん。それに、これは真人に選ばれた君がやらなくてはいけないのだ。俺の代わりにシンを同行させる。あとは、彼に詳しい話を聞いてくれ」
「シン?」とデヴィットは尋ねたのだがリュウの返事はなく、急に目の前が真っ暗になったかと思うと、どこかへポーンと放り出された。

再び目を覚ましたデヴィットの側には、一人の青年が座っていた。
褐色に焼けた肌と、白い髪の毛が目にまぶしい。
青年はデヴィットの意識が戻ったと知ると、軽く会釈した。
「はじめまして。俺はシン、シン=トウガ。リュウさんからも話は聞いていると思うけど、デヴィットさん、あなたは神様の上に立つ人に選ばれて、世界の秩序を守る戦いに参加しなきゃいけなくなったんだ。突然の事だし、なんで自分がと理不尽に思うのも判る。けど、これは、あなたにしか出来ないんだ。だから」
一気にまくしたてるシンを手で制し、デヴィットが割り込む。
「まだ全部を理解してはいない。けど、君たちの話を総合すると僕は選ばれし伝説の勇者って訳だ。で?勇者として、手始めに何をすればいいんだ」
「話が早くて助かります!」
喜ぶシンの顔に顔を近づけ、デヴィットはニヤリと微笑んだ。
「なに、いつまでも飲み込み悪く駄々をこねたところで帰れそうにないからね。面倒ごとは、さっさと済ますに限る」
顔の近さに、少々引きながらシンが言った。
「まず、あなたには仲間捜しをしてもらいます。一人では奴には勝てませんから」
「奴?そもそも、だ。世界の秩序を乱そうとしているのは、誰なんだ?」
デヴィットの問いに「はっきりとは、判りません」と断ってから、シンは続けた。
「でもリュウさんの予想ではコードKと呼ばれている、あの人ではないかとの事です」
「コードK?随分と勿体ぶった仮名じゃないか。大物なのか?」
「えぇ」と神妙に頷き、シンは、どこか遠くを見つめるまなざしで話す。
「真人の下には三人の守り手がいるんですが、そのうちの一人がコードKなんです」
「えっ?」
真人に仕えていた者が騒動の原因だとすれば、この騒ぎは上司と部下の内輪もめなのか?
そうデヴィットが尋ねると、シンは少し悩んだふうであったが、すぐに答えた。
「内輪もめ……というよりは、反乱ですね。真人の守り手は真人と等しい能力を与えられますから、彼は慢心してしまったのかもしれません。真人がいなくても、自分は世界を動かすことができるぞって」
神様の上に立つ者と同じ能力を持つ相手など、どうやって倒せというのか。
自分は所詮、悪魔を呼び出すことができる程度の術師である。
「倒せとは言っていません。ただ、彼を捕まえて世界に秩序を戻してほしいんです」
「けど、コードKってやつはシンジンとやらと同じ能力を持つんだろ?僕みたいな凡人に、神様以上の能力者が捕まえられるもんか」
「だから、仲間を集めるんです」とシンは言った。
「仲間になった人には捕まえる為の能力を持つ人がいるかもしれません。あなたの遣い魔アーシュラさんだって、強いんでしょう?皆とちからを併せて、一丸になって戦えば、きっとチャンスが見えてくるはず!」
そうだ。アーシュラは何をやっている。
今も来いと心の奥で念じているのだが、一向に姿を現さない。
シンが心配そうに尋ねてきた。
「召喚できませんか?」
「あぁ。悪魔も呼び出せないんじゃ僕は凡人以下に成り下がっちまう」
思わずデヴィットが悪態をつくと、シンは緩く首を振った。
「おそらくですが、アーシュラさんは何処かの次元へ隔離されてしまっていますね……それで召喚できないのでしょう。まずは、次元を切り開く能力を持っているランスロットさんと、そのマスターエイジさんを探しましょう」
「……ちょっと待った」
呼び止めるデヴィットに、シンが振り向く。
「なんですか?」
「僕やアーシュラの名前といい、なんで君がエイジやランスロットの事まで知っているんだ?君達と僕は初対面のはずだが……」
リュウもそうだ、何故ナチュラルに名前を呼んできたのか。
だが、そんなのは簡単だと言わんばかりにシンが笑顔で答えてよこす。
「俺達は時の管理者ですよ?今回召喚された他次元の住民については、一通り調べてあります。といっても、俺の知識は全てリュウさんの受け売りなんですけどね」
時の管理者とは何なのかが判らないが、要するに、こちらを調査したらしい。
「あっ!」
不意にシンが叫び、「な、なんだい」とデヴィットも狼狽える。
シンは何かを探る目つきで遠くを睨んでいたが、小さく囁いた。
「イレギュラーの気配を感じます、ファーストエンドに。デヴィットさん、ここからは、あなた一人で行動して下さい。俺はまだ管理者に成り立てで、他次元への移動を禁じられている身です。だから一緒には行けません」
そんな勝手な理由で、いきなり案内を放り出されても困る。
大体、呼び出したのは真人なのだから、真人がデヴィットを守ってくれなくては。
しかし抗議を申し立てる暇もなく、デヴィットの目の前は暗くなり、自分の体が何処かへ放り出される重力を感じた。

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