ウサミッチ……
いや、宇佐美との出会いは制作部の連中が編集部に持ち込んだ、面接用のポートフォリオにあった。
正しくは、面接で落ちた人々の作品集である。
社内のデザイナー達は揃って「ゲームオタク丸出しの作品が多いよね」なんて中傷しまくっていたけれど、伊藤の目には古くて逆に新しい、大昔には自分も熱中した頃の時代が、そこには描き出されていると感動したのであった。
大体、ゲーム雑誌なんだから、ゲームオタクが面接しにくるのは当然ではないか。
人事や編集長は非オタを雇いたいようだが、それはおかしいと伊藤は思う。
ゲームに疎い相手だと、ゲーマーには通じる用語が通じなかったりするので面倒だ。
非オタを後輩にした時は、何度も伝言に失敗して頭を抱えた。
尤も、今では彼らもすっかり立派なゲームオタクだ。
伊藤の教育の賜で。

一番気に入った作品の作者を人事に尋ね、宇佐美の履歴書を入手する。
本来こういった個人情報は部署内で秘匿にせねばならないはずなのだが、この会社は社内に限り、全部署フリーダムに持ち出し自由となっていた。
履歴書に貼られた写真は、さながら第一印象はヤクザかチンピラだ。
目つきの悪い男が、やぶ睨みしている。
「うさみ、きょうじ……これ、本名かな?」
隣の奴に思わず話題を振ってしまうほどの、キラキラネームだった。
いっちゃなんだが、伊藤がこんな名前をつけられたら速攻でグレるだろう。
キョウジという名前の響きは良いのだが、如何せん当て字が酷すぎる。
凶と書いて、次。次に凶。
誰かを詛っているみたいで、怖い名前だ。
人事は、まさか顔と名前で落としたのではあるまいか。
いや、まさかね。
まさか、ね……
この会社だと、ありえなくもないから困る。
伊藤は苦笑いしながら、宇佐美の番号へかけてみた。
『はい、宇佐美ス』
二回のコールで、ボソッと低い声が応じる。
彼が宇佐美くんか。
履歴書には二十三歳と書いてあるが、随分と大人びた声だ。
「えぇと、突然のお電話すみません。ピコ通編集部の伊藤と申します」
受話器の向こうで息を呑む気配を感じた。
「貴方の作品を見せて貰って、それで興味がわいたというか何というか。個別でお仕事を頼みたいんですが、どうでしょうか?」
ぶしつけな頼み事だとは自分でも思ったが、ポートフォリオを見た瞬間にピンときたのだ。
彼ならば、昔懐かしいコーナーの雰囲気へデザインを戻してくれるのではないかと。
今の誌面デザインは、はっきり言うと伊藤の好みではない。
流れが読みづらいし、全体的にゴチャゴチャしているように感じる。
にも関わらず、ずっとそのデザインなのは、編集長がゴーサインを出してしまうのと、デザイナーが、こちらの要求を、まるっとスルーしているせいだ。
その際の口論で必ず言われるのが、「同じ雑誌に長く居すぎているせいで、伊藤さんはセンスが古い」という言葉であった。
確かに、そうなのかもしれない。
だが良き古き時代を捨て去るのは、本当に雑誌にとって良いことなのだろうか。
昔の良い部分を捨ててしまったせいで、今のゲーム業界斜陽があるのではないか――
ま、これは伊藤個人の持論にしか過ぎない。
故に編集長も、曖昧な笑顔で伊藤の文句を聞き流してしまうのだ。
かくなる上は自分の企画だけでも守らねば。
そう思っての、個別デザイナー依頼であった。
ぶしつけ且つ唐突な依頼には、いくら新卒といえど嫌がるかと思いきや、あっさり二つ返事で『いいですけど』とOKしてくれたのには驚いた。


――そして、今に至るというわけだ。
彼には毎月企画紙面のデザインをやってもらっている。
今のところ、伊藤の理想に添うデザインで、充分満足している。
人材募集広告のモデル依頼も、伊藤の思いつきによる突発であった。
初見の頃から思っていたのだ。
宇佐美はイケメンの部類に入るのではないかと。
それも、アウトロー系のイケメンだ。
彼はゲームオタクにしてはスマートで、それでいて上背がある。
自分みたいな、ひょろっとしたインドアモヤシではない。
痩せているように見えて、案外均整の取れた体格だ。
腕も逞しく、日焼けしていた。
聞けば、大学時代はガテン系でバイトしていたらしい。
ゲームオタクには珍しい、アウトドアの肉体派だ。
これはもう、プライベートでも仲良くなりたいタイプだ。
伊藤は以前より、アウトドア系のアクティブな若者に興味津々であった。
なにしろ自身はゲームにどっぷりの超インドア系であったが為に、友人関係も皆、全てそっち系だ。アウトドア?何それ食えるの?状態である。
ここらで一つ、自分とは違うタイプの友人も作っておきたい。
そんな下心もあったのだ。
最初の面会で、ハイパーにテンションが高かった理由の一つには……

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