SEVEN GOD

act5-2 各地攻防

自分達を目掛けてユニウスクラウニが総攻撃をかけにくる――
そう言われても、マッドには今ひとつピンと来なかった。
特務七神などと大層な部隊名こそついているが、所詮は連邦軍の一部に過ぎない。
組織の一端である一つを敵の総大将が、そこまで気にかけるものだろうか?
疑問をマッドが口にすれば、リュウはポツリと答えた。
「現在も連邦軍による能力者殲滅作戦が、各地域で行われている。連邦軍兵士も馬鹿ばかりではない。我々ほどではないが、それなりに健闘しているようだな」
彼の言うとおり、非能力者である兵士も各地で能力者殲滅に当たっている。
連邦軍の総力をかけ、持てうるかぎりの兵器と戦力を投下した一斉攻撃だ。
大量の戦死者を出しながらも、徐々に能力者達を追い詰めているとの報告が、今頃は本部へ続々と寄せられている頃であった。
どうして、リュウがそれを知っているのかは謎だが。
「そもそもリー=リーガルは絶対的な数の差があると知りながら何故、反組織を作ったのか。それは、能力者の能力が非能力者と比べて強大であったが為。なまじ己の持つ能力が強すぎたが為に、リーガルは思い違いをしたのだ。この力を集めることができたならば、連邦軍の支配から逃れることができるだろう……と」
彼の弁に、マッドが歯止めをかける。
「待ってくれ。リュウ、君はリー=リーガル……つまり君の話を信じるとユニウスクラウニのリーダーだそうだが、その男について随分と詳しいじゃないか。君は、リー=リーガルと会ったことがあるのか?」
ゆっくりと頭を振り、リュウは即座に否定する。
「会ったことはない。しかし俺は彼の能力を知っているし、彼がどういう運命を辿るかも知っている」
「お得意の予知で?」と横合いから混ぜっ返すジンの目は、半信半疑だ。
無理もない。
リー=リーガルの名前は、連邦軍のブラックリストにだって載っていないのだ。
何故それを、シンと同じ異世界の住民であるはずの男が知っているのか。
だが、リュウは構うことなく頷いた。
「そうだ」
「それで?」
神太郎も口を挟む。
「貴殿の視た未来で奴らは、どういう運命を辿る予定なのですか」
「俺の視た未来では――」
リュウの目がシンに止まる。
見つめられた方は戸惑いの色を浮かべて、彼を見つめ返した。
「リー=リーガルは複数の仲間と共に、ここへ攻め込み……神崎アリス、元気神、御門神女、神矢倉一朗、草壁神太郎、神宮紀子、そしてマッド=フライヤーを倒したのちに、シン=トウガの手によって敗れ去る」
「ちょ、ちょっと待てよ!」
泡を食ってジンが腰を浮かした。
「お前の予想じゃ、俺達ほとんど全滅じゃんか!」
対するリュウは冷静に切り返す。
「全滅ではない。一之神舞は生き残る」
「舞が……?」と、さすがに神宮や神矢倉も怪訝に彼を見つめ、眉をひそめた。
「確かに一之神さんは本部にいますから、僕達より安全かもしれませんが……」
彼女の意識は、まだ回復していない。
異世界からの帰還以来、ずっと本部病棟のベッドで眠りについている。
体は正常だが意識だけが目覚めない。
「でもさ、シンはアッシュ達に保護されてたんだろ?お前、あいつらと戦えるのかよ?」
なぁ、とジンに目で促され、シンも叫んだ。
「そ、そうです!リュウさん、俺はアッシュやリーガルさんと戦ったりは、しない!!」
それに対しても、リュウは冷静に頷く。
「その通りだ。君は、両者の戦いをやめさせると俺に言った。今の君は、俺の視た未来にいた君ではない」
「ではシンの動きで、全ての運命も変わるというのか……?」
神宮の呟きに誘われるように、皆がシンを注視する。
照れて赤くなるシンをリュウも一瞥して、小さく息をついた。
「いや、リー=リーガルの運命は変わっていない。彼は必ず此処へ来る。能力者でありながら能力者を裏切った、『特務七神』へ一矢報いるために」
「玉砕覚悟か」
神太郎が呟き、マッドはリュウに尋ねる。
「だが、上の連中には何と話せばいい?予知で見えたから――では、誰も納得しないぞ。我々の任務も時間が迫っている。のんびり待ちかまえる余裕など、ないんだ」
何よりも、マッド本人が納得していない。
リュウの能力を疑うわけではないが、ユニウスクラウニが特攻をかけるのは時期早々すぎる。
いくら徐々に奴らを追い詰めているとはいえ、けして連邦軍だけが絶対的な優勢ではないのだ。
そんな時だった。
南米支部の基地がユニウスクラウニの手に落ちた、という連絡が入ってきたのは。


ユニウスクラウニと地球連邦軍の戦いは、今のところ全くの互角であった。
能力者は各地に散らばり、激しい攻防戦を繰り広げている。
普通に考えるならば、武器を持った兵士に素手の連中が勝てるわけもない。
だが能力者の中には、武器の効かない連中もいた。
アッシュやアユラが、その典型的な能力者といえよう。
リー=リーガルもまた、武器の効かない能力者だ。
故に彼は能力者の指導者となり、ユニウスクラウニを結成したのだとも言える。
今、彼らの空母クラウニフリードは、連邦軍の北欧支部へ向かっている処であった。
元々リーガルは、完全勝利を目指して戦ってきたわけではない。
抵抗を続ける、その行為こそが大切なのだ。
自分では何もせず愚痴を言ったところで、状況は何も変わらない。
非能力者に逆らい続けることで、彼らに能力者もまた人間であると理解してもらう必要があった。
なのに、その結束が味方側から崩されようとは。
どういった境遇の者達か知らないが、権力者に尾を振り抵抗をやめてしまった能力者がいる。
連邦軍にすり寄り他能力者の命と引き替えに、自分だけ生き残ろうとする算段か。
どんな事情があるにせよ、同じ能力者として許しておける行為ではない。
後世の者達へ戦いの行方を託すためにも、裏切り者だけは自分の手で始末しなくてはなるまい。
上空を飛んでいる間にも、クラウニフリードへは各地からの報告が入ってくる。
アッシュのチームが南米を落としたことや、東南区域が激戦であることなど。
そしてディノからの通信を受けたユニウスクラウニは、北欧へと進路を定めた。
ディノが最後に、裏切り者と接触したからである。
「シン=トウガは権力者の手に落ちたというのか……」
リーガルの呟きに、ジャッカルが反応する。
「奴は元々異世界の住民です。我々の戦いを理解することなど出来なかったんだ」
彼を異世界の住民だと信じていなかった男が、調子の良い。
アッシュは彼を信じていた。
エリスやリーガルの見立てではシンもまた、アッシュに心を許しているように思えたのだが。
アッシュの話を信じるなら、シンの能力はユニウスクラウニの大きな戦力となるはずだった。
広範囲に渡り、敵を凍らせる能力。
そいつが連邦軍側に回ってしまったというのは、かなり厄介である。
「連れ去らされた際に、洗脳でも施されたのか」
再びの呟きに、先ほどよりも苛ついた調子でジャッカルが口を挟む。
「あの男は能力者ではなかったのかもしれません。どのみち、連邦軍の手先となった奴の心配などしても、意味がありません。我々はもう、大切な仲間を何十人も失っているんだ!」
密林へ向かったアユラからの連絡によると、アンナとヴィオラが殺された。
彼女達だけではない。
南米へ向かったメンバーの、半数以上が殺されている。
連邦軍の兵士が放った火に巻かれて死んだらしい。
アッシュでもあるまいに、まさか連中が火を放つとは思いも寄らなかった。
こちらが追い詰められているのと同じく、向こうも手段を選ばなくなってきているようだ。
「判っている。だから、こうして奴らの元へ向かっているんじゃないか」
奴らとは、全ての能力者にとって憎むべき裏切り者。
連邦軍の手先と成り下がった能力者であった。
名前は判らないが、数は判っている。
兵士も含めて全部で九人。
ディノが命と引き替えに残した、最後の伝言だ。
ディノの報告が正しければ今頃、北欧支部は奴らの手によって落とされている頃だろう。
取られたなら、取り返せばいいのだ。
今の内に、つかの間の勝利でも味わっておくがいい。
「エリス、この空域に連邦軍の船は?」
後方に立つ妻へ尋ねると、エリスは眉間に指を当てて遠くを見つめていたが、やがて答えた。
「今のところは、何も」
シールド役のサリーナも復帰している。
このまま順調に進めば奴らのレーダーに捕まることなく、北欧支部の上空まで出られるはずだ。
そう、向こうの能力者が、こちらの気配に気づいたりしない限りは。

ジン、神矢倉、アリス、そして神太郎の四人は、ユニウスクラウニの北欧支部を目指していた。
残りのメンバーは、連邦軍の支部に待機している。
結局マッドはリュウの話を信じた。
上には別部隊の奇襲が予期される、と説明してある。
シンを手元に残したのはユニウスクラウニのリーダー、リー=リーガルを説得させるためだ。
そして彼が平和的解決を望んでいる以上、北欧支部を攻めに行けとは言えなかった。
全員残るとシンには言っておきながら、彼には気づかれぬようジン達を送り出したのである。
「ったく、大尉も気苦労なこったよなァ。そんなに大事かね?あいつが」
軽口を叩くジンへ、神矢倉が応じる。
「あいつというのは、トウガ君のことですか?」
「他に誰がいるよ?」
口を尖らせるジンへ苦笑し、神矢倉は肩をすくめた。
「そうですね……大切、というよりは、腫れ物を扱うような気分なんじゃないでしょうか」
依然として監視対象ではあるが、一応、シンは民間人である。
民間人の前で、わざわざ評判を下げるような真似をするのは愚か者のやり方だ。
特にシンは、ユニウスクラウニのメンバーと面識がある。
土壇場で裏切られるような事態になっては、たまったものではない。
「しかもさ、しかもだよ?」
振り返り、アリスへ愚痴るジン。
「俺達が全員でいるとリュウの予知が当たるかもしれないって心配しちゃってんだぜ?バッカみてぇ」
少年の軽口を封じたのは、神太郎の鋭い叱咤であった。
「もうすぐ敵の範囲内に入る。静かにしろ」
「ヘイヘーイ」
ぷぅっと頬を膨らましたものの案外素直に頷くと、ジンは手元の銃を確認する。
ユニウスクラウニのメンバーと違い、特務七神は異質でも連邦軍の一員、銃器訓練ぐらいは受けている。
己の実力を過信しすぎるな。
過信は油断を呼び、死を招く。
連邦軍の教官、ジンに銃を教えてくれた上官が、いつも言っていた。
戦場に出た今なら、実感できる。
彼の言葉は本当だった。
ユニウスクラウニの奴らは、自分の能力を過信しすぎている。
だから先手を打ったのにもかかわらず、シンの説得なんかに油断して、やられてしまったのだ。
俺は、あいつらとは違う。
油断したりしない。
手元に弾の重さを感じながら、ジンは気を引き締めた。

リーガルが北欧へ向かったと聞いても、アッシュは驚かなかった。
むしろ彼を驚かせたのは、リーガルが本部ごと特攻をかけると聞かされた時だった。
思わず我が耳を疑ってみたりもしたが、アッシュに情報を伝えたのはクロトである。
生真面目な彼が冗談を言うとも思えない。
特攻は本当に、現在進行形と見ていいだろう。
「ジャッカル、あいつ何やってんのよ!リーダーの暴走を止めるのがサブリーダーの役目でしょうがッ」
アユラが悪態をつき、腹いせ紛れに床へ転がる連邦軍兵士の死体を蹴飛ばす。
南米支部、元はユニウスクラウニの支配下にあった基地を守っていた兵士は全て倒した。
守るものがいなくなった今、アユラ達は、ここに留まり、世界の動向を探っていた。
機器を操る手は休めず、クロトが横やりを入れる。
「責められるのはジャッカルだけじゃない。エリスやサリーナもいながら、誰一人としてリーガルを止めなかった」
「……どういう意味?」
投げやりに、どすんと椅子へ腰掛けて、アユラが眉を潜める。
正面の巨大モニターに世界地図を表示してから、クロトは答えた。
「満場一致で特攻をかける作戦に決まった、ということさ」
「でも、どうして?」と会話に混ざってきたのは、サム。
ぐったりと横たわるマリヤ中尉の体を、ベタベタと無遠慮に触りながら尋ねてくる。
マリヤは、まだ死んでいない。
生かされた、といった方が正しいか。
殺せと絶叫する彼女にビンタをくれ、こめかみに当てた銃を叩き落としたのはサムだ。
やがて抵抗する気力も失ったマリヤを脱がし、犯したのはクロトである。
アッシュが到着する頃には、全てが終わっていた。
「まだ戦況は決まっちゃいないんだぜ?勝つか負けるかも判らないうちに突撃するなんて、おかしいよ」
世界地図を拡大し、クロトが応える。
「相手が非能力者だけなら、こちらが勝つ要素も充分にあった」
「どういう意味よ?」と、再びアユラ。
クロトは彼女を冷めた目で一瞥し、視線をモニターへ戻す。
モニターに並ぶのは、連邦軍の通信と思わしき複数の文字列だ。
「ディノがやられた。やったのは、例の裏切り者らしい。……これを読んでみろ、奴らの名前が判る」
そう言われては見ないわけにはいかず、皆は揃ってモニターを見上げた。
「とく……む、ななかみ……?」
スミスが小さく読み上げると、クロトは頷いた。
「そうだ。トクム・ナナカミ、恐らくは奴らのコードネームだろう。こいつらがディノやマイラを殺した」
「……もしかして!」
アユラが勢いよく立ち上がる。
アッシュも彼女を振り返ると、同時に叫んだ。
「リーガルは、そいつらを倒しに行ったのか!?」
小さく溜息をつき、クロトがモニターを切り換える。
今度は連邦軍の北欧支部が映し出された。
「まだ到着していないようだが、『トクム・ナナカミ』を求めて、リーガルは必ず北欧に行くだろう。ディノの仇討ちも兼ねた、邪魔者退治の為に」
サムが肩をすくめる。
嫌味ったらしく、刺々しい口調で混ぜっ返してきた。
「仇討ちなんて、馬鹿馬鹿しいんじゃなかったの?」
モニターから離れると、クロトは壁に背をもたれた。
「俺は、そう思っている。だがリーガルは、そう思っていないかもしれん」
続けて彼が小さく呟いたのを、アユラもアッシュも聞き逃さなかった。
「……ディノは優秀な奴だった。奴を失ったのは、俺にとってもユニウスクラウニにとっても損失だ」
「クロト、あんた……ディノのこと、そんなに」
アユラが何か言いかけるのを軽く制し、アッシュがクロトに囁きかける。
「クロト。ディノが可哀想だと思うなら、俺達も急ごうよ。あいつの無念晴らしを、リーガルだけに任せるわけにはいかない、だろ?俺達だって手伝わなきゃ!」
両手を握りしめて恐らくは励ましているつもりのアッシュを、クロトは、じっと眺める。
やがて緩く首を振り、手早く機器に何かを打ち込んだ。
「仇討ちを推奨するつもりはない。だが――」
サブモニターが切り替わり、この基地の屋上と思わしき景色が映し出される。
屋上には戦闘機が何台か並んでいた。
「こいつでブッ飛ばせば、リーガルの到着ぐらいまでには間に合うかもしれん」
やってみるか?と目で促され、アユラとアッシュは、いち早く頷いた。
「どうせリーガルがやられたら、俺達はオシマイなんだ。ここに残ってたって意味ねーよな」
サムの言葉につられるようにして立ち上がると、スミスも力強く頷く。
「そ、そうだ。そうだとも、こんな時こそ、僕達は一丸となって戦わなきゃ!」
かと思えば不意に足下へ視線を落とし、オドオドと皆の意見を求める。
「あ、で、でも、ここはどうしよう?この女を生かしておいたら、また占拠されちゃうんじゃ」
この女とは言うまでもない、マリヤのことだ。
「だからといって殺す必要もない。気になるなら、連れていくか?」
悠然と答えるクロトに、アッシュが賛成する。
「そうしよう!んで、つく間にも念には念を入れておこうねー、スミス」
「念を入れるって、何を?」
さらに落ち着かない顔つきで聞き返すスミスの肩を抱き、アッシュが歩き出す。
「決まってるじゃん、子種だよ、子種ー。クロトのだけじゃ根付かないかもしんないしぃ」
「あんなこと言ってるよ?クロトの精子って、そんなに薄いワケ?」
サムの茶化しに答えることなく、無言のままクロトも歩き出す。
サムは肩をすくめ、不機嫌になったアユラを最後に全員が屋上へ向かった。


連邦軍、北欧支部。
屋上では既に物々しい部隊が戦闘準備に入り、上空からの来訪者を待ちかまえていた。
「しかし、まさか上の連中が彼の予言を信じるとは……」
呆れた表情を浮かべて神宮が言うのへ、マッドも困惑顔で頷く。
全隊員に屋上で待ちかまえるよう指示したのは、マッドではない。
この支部を預かる、タナトス=ダイゲン大尉の指示である。
普段あまり表に出ることのない怠け者だと悪い評判だけが広まっている男だが、動く時期は見逃さない。
やる時はやれる切れ者だからこそ、大尉の地位にまで昇進したのだ。
その男ですらもリュウの予知を信じたというのだから、これで外れたらマッドの立場がなくなる。
ユニウスクラウニには何としてでも、ここを奇襲していただきたい。
タナトスは建物の奥にいる。
大尉クラスともなれば、現場で指揮をしないのが一般的だからだ。
現場を特務七神と部下に任せ、自分は状況把握と情報伝達に努めるつもりであろう。
「それなら、全員待機させておけば良かったかもねェ」などと軽口を叩くシーナを軽く諫め、神宮はマッドへ心配の目を向ける。
「大尉も、建物の中へお戻りになったほうが宜しいかと思います。リュウの予知を信じるなら、もうすぐ此処は戦場となりますので」
本音をいうと隣で暢気に口笛を吹いているシーナ、彼女にも建物の奥に引っ込んでいてもらいたい。
相手が空から来る場合、対空放射や銃撃戦がメインとなる。
そうでなくてもシーナの能力は戦闘向きではない。
流れ弾に当たって怪我しても、面倒を見てやれる暇などないのだ。
大尉は混戦を予想してアリスと神矢倉、それから神太郎も残党討伐へ向かわせた。
ジンまで外れてしまったのは少々予想外だが、こちらには自分とリュウがいる。
大丈夫だ。リュウは強い。
無論、神宮にだってマッドを守れるぐらいの余裕はある。
もし白兵戦が始まるような事態になったら、絶対にマッドの側を離れないようにしなくては。
能力者との戦いで、真っ先に狙われるのは非能力者だ。
緊張を高める神宮は、ふと、一人足りないことに気がついた。
「そういえば……シンは?まだ、あの人と一緒にいるのですか」
白い髪の青年、彼の姿が屋上にない。
リュウでさえ腕組みしたまま、兵士達の背後で佇んでいるというのに。
「あぁ」
マッドは頷き、無意識でか首の後ろを撫でつけた。
「最後になるかもしれないって言われちゃァね、無理強いはできない。大丈夫だ、敵の姿を目視したら、すぐに呼び出せる――」
だが彼が言い終える暇もなく、耳につけたインカムからはタナトス大尉の大声が響き渡る。
『おいでなすったぞ!敵の大型戦艦だ。全員、第一戦闘配置につけェい!!』
俄に屋上の動きが激しくなり、兵士達が持ち場へ散らばるのを横目に見ながら、マッドも己の部下へ指示を出す。
「銃撃戦は、ダイゲン大尉の部下に一任しろ!俺達は降下してくる奴の相手をするんだッ」
神宮やシーナが「了解です!」と叫ぶのを聞き流し、続けて通信チャンネルをシンへ回した。
「シン、聞こえるか!?ユニウスクラウニが近づいてくる、君は急いで屋上へあがれ!」
空を飛ばれたままでは、話し合いもクソもない。
交渉できるチャンスがあるとすれば銃撃戦が止み、降下部隊が屋上へ着地する瞬間しかない。
シンが通信機を取り落とす音や、どもりまくった返事を最後まで聞くことなく、マッドは物陰に転がり込んだ。

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