SEVEN GOD

act2-3 次元崩壊


空間にねじれが生じた瞬間、まともでいられなかったのはシンだけではない。
ユニウスクラウニ、そして連邦軍の両機も歪みに巻き込まれていた。


砲撃を受けても割れないとされる剛化ガラスが、いとも簡単に砕け散った。
「キャーーーーッ!!」
窓という窓が全て割れ、神女とジンの体に降り注ぐ。
咄嗟に神女は顔を覆ったが庇いきれず、破片は彼女の眼球にグサグサと突き刺さる。
目が焼けるように、痛い。前が見えない。
手で瞼を触ると、ぬるっとした感触がした。
「ウワァ……ァ、助けて、マッド、助けてよォ」
神女はよろけて、床に倒れ込む。
手探りでマッドを探すも、手は空を薙ぐばかりであった。
「くっそぉ!」
ジンのほうは間一髪、十字に腕を組み、顔への直撃だけは免れる。
それでも腕には幾つもの破片が、深々と突き刺さった。
たちまち血が流れ出し、切り裂かれた鋭い痛みに彼は顔をしかめる。
「なんなんだよ!今度は誰が攻撃してきたってんだ!?」
悪態をつくジンの耳に、後方からはマッド大尉の怒鳴り声が響いてくる。
「窓から離れろ!全員ショック体勢に入れッ!!」
マッドは、同じく窓際にいた神宮を助けるので精一杯だった。
神女やジンにもガラスの破片が降り注ぐのをみたが、二人を助けるには手が足りなかった。
彼の背中にも破片が降り注ぎ、軍服は瞬く間に血で湿ったが、それに構う暇はない。
既に窓の外が異常事態である。
見た事もない異様な景色が展開されていた。
空や海は消え失せ、真っ黒な景色が目に入る。
地平線など見えない。
どこまでも黒く塗りつぶされた空間が、無限に広がっているだけだ。
彼らは、何処とも知れぬ場所に迷い込んでいた。
"閉ざされた空間"は異世界である、との情報は事前に聞かされている。
しかしマッドは実際に到着しても、まだ信じられなかった。
異世界といいつつ、本当は地球の何処かなのではないかと疑っていた。
今なら信じられる。
"閉ざされた空間"は、紛れもなく地球ではない別の空間だったのだ。
重力までもが、おかしい。
まっすぐ立っていられない。
まるで無重力のようだ、足下がふわふわする。
神宮を抱きしめたまま、マッドは次々と部下の名を呼んだ。
「シンタロー!カミヤグラ、アリス!!ジン、シーナ、マイも無事かッ!?無事なら返答してくれ!」
声は空間に飲み込まれ、木霊せずに消えてゆく。
この世界にいるのは、マッドと神宮の二人だけ。
不意に、そのような考えが脳裏をよぎった。
すぐにマッドは己の心に生まれた気弱を、激しく首を振って振るい落す。
隊長である自分が不安になって、どうする。
腕の中の神宮だって、震えているではないか。
能力者といえど、やはり人間なのだ。
異常事態には対応しきれないし、不安に心細くもなる。
抱きしめる力を強めて彼女へ囁いた。
「大丈夫だ。お前は俺が、必ず守る」
この空間の何処かで、神矢倉やジンも心細さに震えているのであろう。
必ず探し出してやる。
それが隊長である自分の成すべき仕事だ、とマッドは気合いを入れ直した。

ガラスの破片が降ってきた瞬間、神宮紀子は咄嗟に動けなかった己を恥じた。
軍人として、そして女性として異性にナメられないよう、常に自分へ訓練を課してきたはずなのに。
いざという時に動けないのでは、訓練も何もあったものではない。
身を挺して庇ってくれた大尉へ、そっと目を向ける。
彼が庇ってくれなければシーナと同じ運命を辿っていたのかもしれないと考えると、背筋がゾッと凍りつく。
シーナに降り注いだガラスの破片は彼女の大きな瞳へ吸い込まれるようにして、深々と突き刺さっていた。
このまま放っておいては、失明も免れまい。
早く彼女を治療してやらなければ。
だが、辺りは真っ暗だ。
シーナはおろか、神太郎や神矢倉の姿も見えない。
皆、何処へ消えてしまったのか?
肉眼で探すのは無理と気配の感知に切り替えたが、それでも皆の位置を掴む事はできなかった。
消えたのは仲間だけじゃない。
寸前まで乗っていたはずの戦闘機ですら、目視で確認できなくなっていた。
足下が頼りない。
床の感覚がなく、無重力のフィールドへ放り出された気分だ。
異世界を甘く見ていた。
少し外装が違うだけで存在する原理は地球と同じだろう、と考えていた。
認識の甘さを恥じると同時に、これからどうなるのだと考えると心細くもなってくる。
我知らず震えるノリコを、大丈夫だ、そう言って大尉は何度も撫でてくれた。
大きな手。それに、暖かい。
撫でられて、悪い気はしなかった。
むしろ、彼に抱かれているというだけで安心する。
そう思える自分にノリコは驚く。
異性を相手に、安堵を抱くなど初めてであった。
歳は、さほどノリコと変わらないはずなのに、フライヤー大尉からは父親の匂いを感じる。
ノリコの本当の父親も、彼のように優しい男だったら良かったのに。


――ここは、何処だ?
海も空もない。
側にいたアッシュも、サーファー達の姿もなかった。
たった独りぼっちで、真っ暗な空間に投げ出されたシンは途方に暮れる。
何が起きたのか、さっぱり判らない。
怪物を倒して、アッシュの仲間とやらが現れて、それから――それから、どうなった?
彼が両手に光を宿して、それが何なのかを確かめようとした矢先、意識が遠のいた。
目が覚めてみれば、今の状況だ。
何がどうすれば、こうなってしまうというのか。
あの光は、結局なんだったのだろう。
考えても判らない。
えぇい、もうやめだ。
考えても判らない事を考えていたって、始まらない。
それよりも早く店へ戻って、マダムを安心させてあげるんだ。
だが、どうやって?
ひとまず歩き出そう、そう思って足を動かすのだが前にも後ろにも進まない。
地面の感触を感じられず、足が空を掻いている。
やがて、シンの思考は最初の疑問に戻る。ここは何処なのだ。

「ここは、亜空間だ。何処でもなく、何処へでも繋がっている」

耳元で囁かれ、シンは慌てて振り向く。
真後ろに、男が立っていた。
一体いつの間に。
先ほど辺りを見渡した時には、誰もいなかったはずだが。
黒い眼鏡をかけた男だ。
背は高く、全身を黒で統一しているが、髪の毛だけは違った。
暗闇の中で、場違いなほどにキラキラと輝いて見える。
溜息の出るほど美しい、金髪であった。
「次元崩壊に巻き込まれるのは初めてか」
男に尋ねられ、シンはオウム返しに尋ね返した。
「次元崩壊?」
シンの問いを無視するかたちで、男は朗々と話し続ける。
「強すぎる力の前に、君のいた世界は崩壊を起こした。君は亜空間に放り出され、時の旅人となった。だが、これは一時的な処置だ」
目の前の男は何を言っているのだろう。
理解できない話題に、シンは首を傾げるばかり。
そもそも、アクウカンって何だ?
アッシュといい、専門用語を使うなら、それの解説ぐらいはして欲しいものだ。
不意にシンを、ひたと見据えて、男が名乗りを上げた。
「俺はリュウ=ライガという。シン=トウガ、いずれ君の運命と重なりを持つ者となろう」
「えっ!?」
見知らぬ男にフルネームで名前を呼ばれ、シンは虚を突かれた顔になる。
何故だ。何故、この男はシンを知っている?
「運命は常に真っ直ぐ線を引かれている。線の向きを変える事など、誰にも出来ない」
「ちょ、ちょっと待って下さい!その前に」
リュウの弁を遮り、シンは尋ねた。
「ここは、どこなんです?それに運命って?」
尋ねたい事は多すぎる。
だが、なによりも先に抑えておきたい点があった。
ここを出る方法だ。
リュウと名乗った男。
彼は、ここが何処で、シンが何故ここにいるかを知っているようである。
彼が全てを話し終えて立ち去る前に、脱出方法だけでも聞いておかなければ。
男の口元が歪む。
蔑みではない、苦笑したのだ。
「ここは亜空間だと言ったはずだが?」
「ですから」
シンも食い下がり、真っ向からリュウを見据えた。
「アクウカンって何なんですか」
「空間であって空間とは否なる場所だ。君のいた世界と、彼らの世界を繋ぐ一時的な避難所だと思えば良い」
判るか、とでもいう風に見つめられ、シンは恐る恐る聞き返す。
「セカイ……?俺のいた街ですか?あの街は、セカイという名前じゃありませんよ」
聞けば聞くほど、リュウの話す内容は難しくなる。
そうでなくても考えるのが苦手なシンは、段々頭が痛くなってきた。
眼鏡の中央、繋ぎの部分を押さえて、リュウは考えこむ素振りを見せた後、ややあってからシンへ向き直り答えた。
「君は、自分の国の名前を知っているか?」
「え?」
「君の住んでいた街が含まれる、国の名前だ」
「……クニってなんですか?」
どこまでも会話が平行線だ。
そうと気づき、男は口元を引き締めると再び眼鏡へ手をやり、シンは黙って次の言葉を待つ。
待ちながら、頭の奥でチリチリと痛みを感じていた。
今日は、次から次へと知らない単語が出てくる。
頭痛は次第に激しくなり、軽い吐き気さえ覚えた。
アッシュと名乗る青年、あいつに出会ってからだ。
おかしな連鎖が始まったのは。
あいつと出会って、すぐに海の怪物が出て、シンの掌に氷が生まれた。
そして空を飛び回る鉄の塊が二つ出現したかと思うと、今は、このザマだ。
見知らぬ場所、リュウの言葉を借りるなら、亜空間なる場所に閉じこめられている。
悪い夢なら、早く覚めて欲しかった。
ふぅ、と小さく溜息をつき、男が空間の彼方へ視線を移す。
「……難しい話は抜きにしよう。要点だけ話す」
あまりにもシンの物わかりが悪くて、呆れられてしまったのだろうか。
「ここを出る方法は簡単だ。やがて、君は意識を取り戻して目覚める」
黒眼鏡が、こちらを見た。
やはり理解していないであろうシンの表情に、口元が僅かばかり落胆で歪む。
それでも、彼は辛抱強く話を続けた。
「目覚める場所は君の住んでいた街とは違う場所だが、亜空間ではない。もう一つの独立した世界で、名前を地球という。君は必ず、その地球で目を覚ます」
シンがくちを挟む隙もない速さで、最後まで言い切った。
「やがて君は、地球で二つの勢力から君の力を必要とされるだろう」
最後まで聞き終え、混乱する頭でシンは考える。
意識を取り戻すということは、今の自分は気を失っている状態だったのか。
では、アクウカンというのは夢なのか?
いやに意識のハッキリした夢もあったものだ。
「どちらへ手を貸すかは、君の自由だ。だが、それもまた運命で定められた道に過ぎない」
リュウの言葉で物思いから我に返ったシンは、ふと思いついた事を尋ねてみた。
「そ、そうだ!マダムは!?」
マダムだけで通じるかどうかは怪しかったのだが、何となくリュウには説明せずとも通じる予感がした。
はたして彼には通じたようで、リュウは視線を外したまま緩く首を振る。
「彼女の事は忘れろ。忘れるんだ、そのほうが君にとって幸せとなろう」
「え?」
きょとん、となるシンへ、諭す口調で続けた。
「運命の線は、誰にも行く先を変えられない」
ちらり、と腕に目線を落とす。
腕に小さく光る時計を見つめて、リュウは呟いた。
「……そろそろ時間だ。君が目を覚ませば、この空間も消滅する」
「あ!ま、待って、待って下さい!!」
床もないというのに、リュウが歩き出すと、見る見るうちに姿は遠ざかってゆく。
シンも足をバタバタさせるが、一向に追いつけない。
それ以前の問題で、体が前に進まない。
「待って……」
涙が鼻にかかる。
情けない事に、シンは涙ぐんでいた。
何が何だか判らないまま、こんな真っ暗な場所で一人にしないで欲しい。
目が覚めればと彼は言うけれど、どうやったらシンの目は覚めるというのだ。
覚めるも何も、目は既に開いている。
意識だって、はっきりしていた。
リュウが振り向く。
「どうした?」
「俺、俺……」
ずずっと鼻水をすすり上げ、シンは答えようとするも言葉にならない。
リュウは戻ってきて、シンの側に腰を下ろすと、彼の肩へ優しく手を置いた。
「目の覚まし方が判らないのか?大丈夫。この空間が消えると同時に、君は目を覚ます」
「で、でも、俺……」
一人にしないで下さい。
言葉で言う代わり、シンはリュウの腕を、ぐっと掴んだ。
潤んだ瞳で彼を見上げる。
黒眼鏡の奥で、リュウが微笑んだような気がした。
「大丈夫だ。目覚めても、君は一人ではない。周りの人の言葉に、耳を傾けろ。だが……もし君が再び俺に出会いたいと願うなら、闇に祈るといい。俺は必ず君の元へ駆けつけよう」
いずれまた、俺と君の運命は混ざり合う運命にあるのだから。
最後のほうは、声として聞こえたのか。
それとも、脳の端で感じただけなのか。
薄れゆく意識の中でシンは考えたのだが、答えは出そうになかった。


真っ白い光が近づいてくる。
近づくにつれ、そいつは丸みを帯びてきて、やがて大きな輪となってシンの両目に飛び込んできた。
「――わっ!」
驚いて飛び起きてみれば、見知らぬ部屋に一人、寝かされていた。
目に鮮やかな、白いシーツ。
堅いベッドから身を起こし、シンは、ぼんやりと考え込む。
ここは――何処だって?
リュウの話だと、チキュウという空間らしいが。
去り際、周りの人の声に耳を傾けろ、と彼は言っていた。
さっそく人影を求めて、シンは辺りを見渡してみる。
いた。
こちらへ背中を向けている、つるりとした撫で肩の人間が。
背中を丸め、机に向かって何かの書き物をしている。
シンの上げた声に気づいたのか、相手が振り向いた。
撫で肩の人物は、女性であった。
浅黒い肌は、焼けたというよりも元から黒い濃さだ。
瞳も真っ黒だった。
「あぁ、気がついたのね。私の言葉がわかる?」
歳はシンより上、大体、四十代半ばといったところ。
人の良さそうな顔をしている。
コクリと頷くシンを見て、女性は気をよくした調子で頷いた。
「良かった。じゃあ、さっそくだけど、アーンってして?アーンって、口を大きく開けてみせて」
言われたとおりアーンと口を大きく開けると、舌を引っ張られる。
長い棒で、つんつんと口の中を突かれた。
そうした謎の行為も、すぐに終わり、女性が再び微笑みかける。
「声は出せるみたいね。それじゃ、行きましょう」
「ど、どこへ?」
掠れた声が出た。ゴホゴホと喉に絡む痰を切ってから、シンは聞き直す。
「どこへ行くんです?それに、ここは」
「ここ?ここはクラウニフリードの中。今から貴方をリー=リーガル司令の元に連れて行くのよ。気がついたって報告しなきゃ」
廊下を歩きながら、女性はアンナ=ケイスクと名乗り、シンが何故ここにいるのかを語ってくれた。
それによると次元崩壊の際、シンを歪みから救い出したのはアッシュだという。
空間の歪みによる衝撃を受けても、クラウニフリードは壊れたりしなかった。
アッシュとシンを回収し、正しい軌道に船を乗せ直すと、崩壊する世界から逃げだしてきたのである。
「アッシュは貴方のことを、能力者だと言ったわ。私達は、それを信じて貴方を救出したの」
「能……力、者……?」
頭の奥が、ズキリと痛む。
「そう、能力者」
アンナは頷き、シンの顔を覗き込んだ。
「私達は今、能力のない人達に狙われているの。捕まれば、問答無用で殺されてしまうわ。でもリーガルは、それをやめさせようとしている。私達にも、生きる権利を与えようとしているのよ」
生きていく権利ぐらい誰でも持っていると思うが、この『チキュウ』という世界では、そうではないらしい。
『能力者』は、常に能力者ではない者達から命を狙われている。
普通に日常を生きていく権利すらない、というのだ。
理不尽な話である。
シンはアッシュの姿を、脳裏へ浮かべた。
何も考えていなさそうな若者だったが、彼も裏では苦労していたのかと思うと胸がしめつけられた。
プシュッと空気の抜ける音がして、壁だと思っていた場所が左右に開く。
「リーガル司令、彼をお連れしました」
アンナが先に入り、続けて促されたシンも、おずおずと入ってゆく。
連れてこられた先は、広い部屋になっていた。
ゴチャゴチャした機材が、窓際一面に並べられている。
機材の前に座った人達が皆こちらを向いているものだから、シンは少し恥ずかしくなった。
「ようこそ、シン=トウガ君」
名前を呼ばれ、ハッとそちらを見やると、長身の男が歓迎のポーズで立っている。
この男が、リー=リーガルか。
髪の長い男だ。
リュウも長かったが、この男はリュウよりも長く伸ばしている。
彼は柔和な笑みを浮かべて、シンへ一歩近づいた。
「リー=リーガルだ。ユニウスクラウニの総司令を務めている」
握手を求められては無視するわけにもいかず、差し出された手をシンは握りしめる。
冷たい手であった。
「アッシュは君を能力者だと断言していた……だが、奴には困った性癖があってね。奴の言葉を素直に受け取ると、酷い目に遭うのだよ。だから君には、直に見せてもらいたい。君の能力を」
そうだ、そのアッシュは何処にいるのだ。
アンナの話だと、この中にいるような事を言っていたはずだが。
リーガルの言葉を半分以上聞き流し、シンは目だけでアッシュの姿を探した。
彼は何処にもいない。
諦めかけた時、扉が勢いよく開いて、見覚えのある赤毛が入ってくる。
「シン〜ッ!目が覚めたんだね。俺のこと、覚えてる?」
一直線にシンの胸へ飛び込んできた彼に、シンもぎこちない笑みで応えた。
「あ、あぁ。勿論だよ、アッシュ」
「わ〜いっ!シン〜、だーいすきぃ」
ギューッと抱きつく力が強まって、シンは内心苦笑する。
話し方だけを見ていると、まるで彼は子供のようだけど、力は立派な青年男子なのである。
締められた腕が痛くて、かなわない。
そろそろ、離してくれると嬉しいのだが……
「アッシュ!今は大事な話の途中だ、お前は此処へ来るなと言っておいたはずだが!?」
ヒステリックな声に思考を遮られ、シンはビクッと驚いてリーガルを振り返る。
先ほどまでの穏和な態度は、どこへやら。
司令官は眉間に縦皺を寄せ、苛々と足踏みをしながらアッシュを睨みつけている。
怒られた当のアッシュは全然堪えていないらしく、生意気にもベーッと舌を突きだした。
「シンをつれてきたのは俺なんだぜ?感動の再会ぐらいしたっていいじゃないか!」
この反抗には司令官も真っ赤になって「アーッシュ!」と怒鳴り散らすもんだから、シンの方が怯えてしまい、彼はアッシュに謝るよう促した。
「あ、アッシュ。駄目だろ、リーダーに逆らっちゃ。ほら、謝れよ」
「う〜」
口を尖らせて、ジッとシンを見上げたアッシュは、渋々頷く。
「……うん。シンが、そういうなら」
意外や素直にシンから離れると、ぺこりと頭を下げた。
「ごめんねぇ、親父ー」
「親父?」と、シン。
「うん、リーガルは俺のオヤジなんだ」
アッシュは嬉しそうにリーガルを紹介する。
二人を交互に見比べ、シンは首を傾げる。
親子にしては、全然似ていない。
だってアッシュは赤毛なのに、リーは金髪じゃないか。
それとも、母親が赤毛なのであろうか?
リーガルが、ゴホンと咳払いする。
「すまない、シン君。見苦しいところを見せてしまったな」
「あ、いえ」
気遣うシンを見て、満足げに頷くと、司令官は改めて場を仕切り直す。
「ひとまず、君が能力者だという証拠を」
だが仕切り直したのも、つかの間、船は大きく横に揺さぶられ、会話がまたしても途切れた。
「えぇいッ!今度は何だ!?」
逆ギレするリーガルへ、機材の前に陣取ったメンバーの一人が叫び返す。
「連邦軍です!後方より小型機が仕掛けてきました、振り切りますか!?」
「なんだと……!例の奴らか?」
リーガルの問いには首を振り、答えた青年が機材へ視線を落とす。
「いいえ、別部隊と思われます!能力者の存在は感知できません!!」
途端にアッシュが身を翻し、リーガルは彼の背中へ声をかけた。
「アッシュ、頼んだぞ!」
――何を?
キョトンとするシンへ、アッシュが大声で呼びかける。
「シンも一緒に行こっ!先手必勝、俺とキミの能力を見せてやるんだ!!」
「え?」と呆けている間にも、アッシュはシンの元へ戻ってきた。
そして急展開について行けず呆然とするシンの腕を取り、廊下へと飛び出したのである。

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