SEVEN GOD

act2-2 無我夢中で

サーフボードが宙に舞う。
横合いから風を受けて、怪物の脳天に着地する。
浜辺に届くほどの大きな音が響き、衝撃で怪物の体勢が崩れた。
その間にシンを乗せたボードは波に乗って、すいすいと怪物との間合いを離してゆく。
「一回ーっ!」
浜辺からは声があがった。
シンの戦いを見物するサーファー達やアッシュの声援だ。
彼らはシンの戦いを邪魔しないようにと海からあがり、浜辺で見守っている。
ただでさえ悪天候の中、他の者が海に入れば波が波を呼び、シンの調子を崩しかねない。
今のところ、怪物を倒せそうな者はシンしかいない。
誰だって英雄になりたい。
しかし、その大元をつきつめれば、英雄になりたい裏には海の平穏を取り戻すという目的がある。
ならば彼が力尽きるまでは邪魔しないのが、海を守る同士の連携というものではないだろうか。
風が次の波を呼び、シンはそちらに乗り換える。
怪物が尾ひれで海面を叩き、新たな波が生まれた。
新たな波を跳び越え、シンが怪物の頭上を越えて反対側に降り立つ。
うまい着地だ。バランスも崩れていない。
勢いは殺されていない。
波から波へ移るたびに加速を増してゆく。
再び高波に乗って怪物の頭上へ飛んだシン、くるっと足でボードを回転させて奴の脳天に叩きつける。
すかさず、浜辺から歓声が上がった。
「二回ーっ!」
ビッタン、ビッタンと巨大な鰭が海面を激しく打つ。
小さな波が幾つも生まれ、シンの足下へ押し寄せてくる。
見えていないのか、すれすれまで近づいても、怪物に吸い込まれる気配はなかった。
効いている、効いているのだ、こちらの攻撃が。
これなら勝てる。
いや、勝てないまでも、確実に追い返すことができる――!
巧みに足と体でボードを操り、シンは再び間合いを置いた。
いい波が来るのを待つ為に。
奴の頭上を跳び越えられるほどの大波が来るまで、細かい波に足下をすくわれないように気をつけねばならない。
雨風が生み出す波は勿論だが、怪物が暴れて生み出す波も要注意だ。
怪物によって生み出される波は、自然が発生させる波よりも流れが読みづらい。
おまけに、波と波がぶつかっても新しい流れが生まれてしまう。
大抵は、それでボードから転落する。
次から次に流れてくる波へ身を任せ、シンは易々と怪物の真横に回り込む。
地元のサーファーたるもの、この程度で転落するわけにはいかない。
沖から、激しい風が吹きつけてきた。
肌寒さに、浜辺で応援していたアッシュは、ぶるっと身を震わせる。
頭からズブ濡れになっていた。
肌にぴったりと張りついたジャケットが気持ち悪い。
それでも立ち去れなかったのは、怪物相手に素手で戦うシンが気になったからだ。
サーフィンをしないアッシュにも、シンが凄腕の上級者であるのは一目瞭然であった。
高波が来るタイミングを読んでいるかのように、うまく波に乗っては怪物の頭にボードを叩きつけている。
もしかして彼なら、この怪物を倒すことができるのでは?
淡い期待に、アッシュの胸は高鳴った。
もし勝てるのだとしたら、その瞬間を見過ごすわけにはいかない。
こんな戦い、一生に一度ぐらいしか見る機会がなさそうだった。
身動きするたびに、濡れた音がアチコチから漏れる。
ズボンもパンツの中まで、ぐっしょり濡れていた。
服は、あとで乾かせば済む話だ。
リアルタイムの戦いは、今しか見られない。
「シンー、がんばー!もっかい、バシーンってやっちゃえー!!」
周りのシン・コールに負けないほどの大声で、アッシュは海辺のシンへ声援を送った。
波から波へ乗り換えながら、シンは待った。
頭上を越えられるほどの大波が、なかなか来ない。
相変わらずの悪天候、濡れた肌に風が突き刺さる。
手足の先は、最早感覚がない。
怪物も二度目の衝撃から立ち直ったのか、ぐるり、ぐるりと水の中で回転して渦巻きを造り出している。
渦巻きの起こす波がシンを押し流し、怪物から遠ざける。
次に高波が来ても、これでは頭に飛び乗れるかどうか。
だが、彼は辛抱強く待った。
自分の攻撃が効いているという望みに、かけていた。
いつの間にか、波乗りを続けているのは自分だけになっていると彼は気づいた。
自分が最後の挑戦者だと思うと、迂闊なミスなど許されない。
やがて、待ちに待った高波が現れる。
沖から押し寄せるのは、遥かに怪物の頭上を越す大波だ。
今までに見た中でも一番の高さであった。
あれに乗って飛び上がれば、一度目や二度目以上の衝撃を奴に与えられる。
怪物の動きに用心深く目を配りつつ、体勢を整えたシンは、怪物の背後に回り、高波に乗り換えた。
怪物が目下に迫る。
飛び出すタイミングを計った。
一。二……三!
意を決して飛び出した、その瞬間であった。
怪物がぐいっと頭を持ち上げて真上を向くと、ちょうど降りてくるシンへ向けて大きく口を広げたのは。
――なんてことだ。
タイミングが合わない、どころの話ではない。
みっちり生えた歯が眼下に迫ってくる。
奴の、怪物の目が、きらりと愉悦に光った気がした。

















絶体絶命のピンチに浜辺の者達は目を被い、アッシュが力の限り叫ぶ。
「シ―――――――ンッッ!!」
高波は化物の頭上で崩れ、波飛沫が奴とシンの体を飲み込んだ。

――かのように見えたのだが。

「……え?」
恐る恐る目を開けた誰かが、ポカンと口を開ける。
アッシュも然りだ。
目の前の光景に、誰もが信じられないといった表情を浮かべている。
さもあらん。
海は一面凍りつき、海の化物も凍った高波の中で氷の彫像よろしく固まっていたのだ。
「な……に?これ、何が起きたの?」
ちょいちょい、とアッシュは凍りついた海を突いてみるも、あまりの冷たさに出した手を引っ込めてしまう。
海は、一瞬にして氷の海と化してしまった。
何が起きたのかなんて聞かれた処で、誰にも判らない。
ただ一人、アッシュだけがいち早く我に返って叫んだ。
「そうだ!シン、シンは!?シーーーーンッ!!」
すると彼の声に応えるように、怪物の近くの氷にピシピシと亀裂が入り、勢いよく人の手が飛び出してくる。
手は、周囲を確認するかのように二、三度、氷の上を叩き回した後、ぐっと力を込めて己の体を引き上げた。
「……ぷぅっ!」
氷を割って這い出てきたシンへ、真っ先にアッシュが飛びつく。
「シ〜〜ン!」
それを引き金に浜辺にも活気が戻り、皆もシンの元へ駆け寄ってきては、彼の背や肩を祝福しまくった。
「すげぇ!すげぇよ、お前!怪物をやっつけるなんて!!」
「この氷、なんなんだ?どうやったんだよ!」
「いや、どうやったかなんてトリックばらしは後でいい!」
「お前が倒したんだよな?倒したんだよな、この化物を!!」
口々にかけられる祝福の嵐に笑顔で答えながら、シンは自分でも何故自分が助かったのか判らずにいた。
怪物の歯が迫り、喰われると思った時、死を覚悟した彼の脳裏に浮かんだのはマダムの姿であった。
ここでは死んでは、いけない。
そう思った刹那、脳の奥で何かが弾けた。
掌の中に、尖った何かが当たる。
無我夢中で、そいつを握りしめ、怪物へ振りかざした。
尖った何かは怪物に当たろうかという寸前で一瞬にして粉々になると、真っ白な結晶を撒き散らす。
そして――
気がつけば怪物もろとも氷の中に閉じこめられていた、というわけである。
「凍ったはいいけど、どうしよ?これ」
誰かが苦笑しながら怪物を見上げる。
氷に包まれた怪物は、日に照らされて輝いていた。
あれほど悪天候だったはずなのに、今はすっかり晴れている。
青く澄みきった空が、眩しい。
「シン、シンッ、シ〜ンッ。無事で良かったよぅ!」
シンは、子犬のようにじゃれついてくるアッシュを見た。
シンが無事だったのを、心から喜んでいる。
ついさっき出会ったばかりだというのに。
「ははっ、ありがとう」
優しく彼の頭を撫でてやってから子供みたいな扱いだったかと気づいたが、アッシュが気にした様子はない。
羨望の眼差しに、とろんと恍惚の表情を浮かべて彼はシンを見つめてきた。
「シン……大好きぃ」
「え?」
いきなりな告白で驚くシンに抱きつき直し、アッシュは譫言のように呟く。
「シンも、俺と同じ能力者だったんだね……俺、すっごく嬉しいよ」
その呟きも皆の歓声にかき消され、聞こえなくなってしまった。


ついさっきまでは雷光が轟きまくり雨風が窓を叩きつけていたというのに、今は、そよとも風が吹いてこない。
突如晴れ渡った気まぐれな天候に驚く暇もなく、レーダーを眺める神宮が叫ぶのをマッドは聞き流す。
「進路クリア!ですが、前方に異常物体を確認しましたッ」
レーダーを覗き込むまでもない。
窓際に張りついた神女も、窓の下を見て大騒ぎしている。
「ジン、ちょっとぉ、何あれ?すっごぉーい!氷の彫像が出来ちゃったよ!?」
窓へ走り寄ったマッドも、驚愕に目を剥いた。
海が広範囲に渡り、凍っている。
太陽がさんさんと照り返す、真っ青な空の下で。
凍っている中央に見える大きな物体、あれは何だ?
鯨のように見えるが、鯨より獰猛な顔をしていた。
ぱっくりと開いた穴の中には、びっしりと生えそろった歯が並んでいる。
「能力者の仕業か!?」
咄嗟に神太郎へ尋ねてみるも、彼は眼鏡をくいっと押し上げ首を傾げる。
「分析しかねます。この空域にはまだ、我々の探知を妨げる力が働いておりますので」
しかし海を一瞬にして凍らせる道具など、果たしてあるものだろうか?
ここが異世界だからといって。
もしあったとしても一体誰が、それを使ったというのだ。
「見て!あっちのほうに人影がたくさん!!」
神女の示す方向へ目を凝らしたマッドは、即座に神宮へ舵を取らせる。
「進路を西に取れ!人影が多数見える」
「人影?あぁ、あれだ。さっきサーフボードを持って海に入ってった奴らだろ?」
ジンも窓の外を覗き込み、一瞬おや?という顔になった。
不思議に思ったマッドの見つめる前で、彼は懐から双眼鏡を取り出すと目に当てる。
かと思えば、すぐに双眼鏡から目を離し、マッドへ振り向いた。
「大尉、大変だ!あいつらに出し抜かれちまった!!」
「な、何?」
いきなりの会話についていけず、マッドはたじろぐ。
彼に構わず、ジンは神宮へ同じ事を報告する。
マッドとは違い、神宮はすぐにジンが誰を指しているのか判ったようで強く頷いた。
「大尉、ユニウスクラウニが地上にいるようです。直ちに攻撃をしかけますか?」
ようやく話が見えてきたと思ったら、急展開だ。
「何!?」
再び驚くマッドだが、今度の決断は早かった。
なにしろ、いきなり船が激しく横揺れして、思いっきり尻餅をつかされたからだ。
「船体後部に被弾。攻撃を受けています」
冷静なアリスの声に、マッドが叫ぶ。
「今度は何だ!」
アリスは調子を崩さぬまま答えた。
「前方に、ユニウスクラウニの母艦を肉眼で確認」
揺れる中、机に手をかけて立ち上がってみれば、なるほど確かに窓の外に見えるのは大きな飛行船だ。
空母、戦艦と称しても差し支えない大きさである。
あれが奴らの総本山という訳か。
「反撃命令をお願いします!」
さらなる振動に神宮がよろめき、レーダーを支えにマッドへ叫ぶ。
マッドも叫び返した。
「砲撃準備だ、急げ!反撃するぞ!!」

海の怪物が凍った瞬間、リーガルは強烈な力の発動を感じた。
急遽クラウニフリードは海へ向かい、そこで空中待機する連邦軍の戦闘機を見つけたのである。
リーガルの決断は早く、戦闘機を見つけるや否や「砲撃開始!」と命令を下す。
アッシュが近くにいるかもしれない、という思いは彼の中にもあった。
だが、構わず彼は砲撃命令を下した。
息子の安全を考えられぬほど、連邦軍への憎しみは彼の中で激しく燻っていたのだ。
まだ少年だったリーの目の前で、両親は二人とも連邦軍兵士に銃殺された。
全ては己が能力者であったが為に。
その時の恐怖と悲しみ、そして憎しみを胸に抱いて、今日まで彼は生き抜いてきた。
だからこそ連邦軍の戦闘機を見た瞬間、迷わず「撃て!!」という言葉が口から飛び出ていた。
見過ごすなんて、できない。
連邦軍がマヌケにも油断している、今というチャンスを。
リーガルの読み通り、最初の数発は面白いように被弾する。
奴らは思ったとおり油断していた。
しかし、さすがに立ち直りは早く、向こうからも撃ち返してくる。
空での砲撃戦が始まった。
連邦軍の船は小さいくせに弾数が多い。
おまけに小回りを利かせて、左右に旋回するものだから、砲撃手の狙いも定まらない。
いいように攻撃を受けた。
「リーガル!無理よ、一旦退きましょう!?」
戦艦は大揺れし、エリスが悲鳴をあげるが、リーガルは構わず大声を張り上げた。
「撃て、撃て、撃ちまくれ!!力がつかえん以上、ここは撃ちまくるしかないッ!!」
飛行船に乗っていては力が使えない。
能力者が得意とするのは、白兵戦だ。
こちらから仕掛けてしまった以上、姿を隠す能力も使えない。
戦い続けるしかなかった。
アユラが叫んでいる。
「いたよ!あのバカ、地上にいるっ」
地上にアッシュの気配を見つけたらしい。
しかし残念ながら、今はそれどころではない。
全ての砲台を撃ち尽くす勢いで、クラウニフリードの砲台という砲台が火を噴く。
そいつの合間をぬって小型の戦闘機が近づいてきては、一点集中砲撃で離れてゆく。
ユニウスクラウニの砲撃手も頑張っているのだが、如何せん相手が小型すぎて上手く当てられない。
憎たらしい事に、空中戦においては連邦軍のほうが一枚上手であった。
彼らは火器の扱いに慣れている。
奴らが小型機で、この世界に乗り込んできたのは、小回りを重視しての魂胆か。
最初から、こちらとやりあうことを想定していた。
そうとしか考えられない。
油断を誘われたと、リーガルは悔しさに歯がみする。
奇襲したのは、こちらが先だ。
迂闊に撤退も許されない。
背中を見せれば、やられてしまう。
一気に優勢へ立つはずが、一方的な劣勢に追い込まれていた。

連邦軍とユニウスクラウニの派手な空撃戦は、地上にいた全ての人々の目に映る。
シンやアッシュも例外ではない。
ポカンと真上を見つめるサーファー群に混ざって、彼らも呆然と空を見上げていた。
「なん……だよ、あれ?」
見たことのない大きな塊が周りをブンブン飛び回る小さな物体に、赤や黄色の光をぶつけている。
あんな大きな塊が空に浮いているなど、まずそれが信じられなかった。
海の怪物など、比較にもならない大きさだ。
怪物が二、三匹は余裕で入ってしまいそうでもある。
シンの腰にしがみついたままの恰好で、アッシュが小さく呟く。
「……皆、来てくれたんだ……でも」
「みんな?」
怪訝に眉をひそめてシンが問い返すと、アッシュは空の大小を見つめたまま答える。
「うん。俺の仲間、だけど……連邦軍に襲われている」
「レンポウグン?」
聞き慣れぬ単語に、ますますシンの眉間には縦皺が寄った。
どちらがアッシュの仲間で、どちらがレンポーグンだというのか。
ブンブン飛び回っている小さなほうは、赤や黄色の光を軽々と避けているように見える。
一方、小さい方が放つ白い光は全て、大きい奴に当たっていた。
優勢なのは意外や、小さい方である。
とすると、アッシュの仲間は大きな塊の方に乗っているのだろうか?
「アッシュ、どうするんだ?」
空の上では戻ろうにも戻れまい。
シンが尋ねると、アッシュは泣きそうな顔を向けた。
「……どうしよう。皆が、やられちゃう。俺、俺……」
まるで小さな子供だ。
べそをかく彼を励まそうと、シンは彼の肩を抱き寄せる。
「だ、大丈夫!……そうだ、あれに登ってジャンプしたら、どうだ?」
あれ、とは海の怪物だ。
空にそびえ立つようにして、カチンコチンに凍りついている。
あれの天辺まで登って、さらに飛び上がれば届くんじゃないかとシンは考えた。
だが彼のせっかくの名案にもアッシュは眉をひそめ、ごしごしと目元をこすっただけだった。
「本気で言ってるの?シン……届くわけ、ないじゃないかー」
そう言って、ポロポロと涙を流す。
見る者の情を打つ哀れな姿に、思わず胸がキュウンとなったのはシンだけではない。
周りのサーファー達も揃って、アッシュを慰めにかかる。
「やってみなきゃ、わからないだろ?思い切って飛んでみろよ、もしかしたら届くかもしれないじゃないか!」
「そ、そうだ!俺も力を貸すからさ」
場の勢いでシンが言うと、アッシュはパッと顔を輝かせる。
励ましに喜んでくれたのかと思えば、そうではなかった。
彼は、いきなり立ち上がると、怪物の前に仁王立ちして両手を広げる。
「……ね、シン。この氷、溶かしちゃうけど、いいよね?」
「へ?」
溶かす?
何を言っているのだ、彼は。
火種も持ってきていないというのに、どうやって?
「溶けたら、またコイツも動き出すよね?そしたら俺を乗せて、あそこまで飛んでよ。波に乗って」
「あ、あぁ」
訳がわからないまでも、シンは頷く。
アッシュが微笑んだ。
その手に、赤い光が灯る。
なんだ?
光の正体を探ろうと、彼に近づく。
アッシュの側まで寄った瞬間、視界が歪んだ。
まっすぐ立っていられず、シンは慌ててアッシュの肩へ手を伸ばすも、手は空をかいて意識は闇に沈む。

正確にはシンの視界が歪んだのではない。
空間そのものが、大きく歪んだ。
海の怪物を凍らせたシンの能力発動に加え、連邦軍とユニウスクラウニの衝突による衝撃。
そしてアッシュの能力発動までもが加わり、"閉ざされた世界"は強すぎる衝撃の前に世界としての形を保てなくなった。

その事に気づいたのは、たった一人だけ。
閉ざされた空間でも地球でもない場所に住む、たった一人の男が、その事実に気づく。
彼はサングラスを外し、虚空の闇を見つめた。
「まずいな……」
才能ある能力者が、闇に飲まれようとしている。
助けに行かなくては――

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