act2-1 海の怪物
海を割って、恐ろしく巨大なものが頭を出してゆく。そいつは近くにいたサーファーを波で包み込み、凶悪な牙を剥きだして威嚇した。
沖からのサイレンに、ハッと身を起こしてマダムは窓を見た。
海が荒れている。
少しウトウトしている間に、天気はすっかり崩れていた。
あの日と同じだ――アックスが怪物と対峙して、波にのまれて消えた日と。
戦うのは、もうやめてと彼女は頼んだ。
けれど、アックスは聞いてもくれなかった。
あの人が怪物と相打ち、いや犬死にしてしまったのは自業自得ともいえる。
あの時、ジェイミーの言うことを聞いて、家で大人しくしていればよかったのだ。
そうすれば、死ぬこともなかった。
だが――
思い直し、マダムは首を振る。
彼が、大人しくしていられるはずもない。
彼は英雄として祭り上げられていた。
行くしかなかったのである。
怪物が海に出たとなれば。
不意に脳裏へ浮かんだのは白い髪の青年、店でバイトとして働いているシンの姿であった。
アックスに憧れて、バイト志願してきたという。
今時、珍しい若者である。
ほとんどの者が出稼ぎで都会へ出てしまった今、この界隈に残るのは娯楽主義の金持ちぐらいなもの。
シンもサーフィンを嗜んでいたが、彼は同時に生活苦でもあった。
親の金で遊びほうける他の若者とは異なり、サーフィンの傍ら、貧しいながらも自活していた。
根性のある若者だとアックスは喜び、即決で彼を雇ったのである。
夫の目に狂いはなかったと、マダムも思う。
シンは、よく働き、そして愛想の良い青年だった。
物腰や笑顔が柔らかいので、接待に向いている。
力仕事も進んで引き受けた。
アックスを失って、でもシンは手元に残った。
英雄のいなくなった店など、すぐに辞めてしまうかと思いきや、彼は残ると言ってくれたのだ。
オーナーが戻る日まで一緒に頑張りましょう、とも。
彼の心遣いが嬉しくて、それで今日まで、ずっと雇っている。
クビにするなど、考えたこともない。
ただ、一つだけマダムには心配があった。
それが、海の怪物である。
言うまでもなく、海の怪物は全てのサーファーにとって邪魔者であり倒すべき敵でもある。
アックスが二回撃退してからというもの、我こそはと名乗りをあげる者まで出てきている有様だ。
怪物を倒すことが、サーファーのステータスになっているような部分も見受けられる。
シンもサーファーだ。
彼も怪物を倒したい、戦ってみたいという願望があるに違いないのである。
何しろ彼は英雄アックスに憧れて、この店のバイトを志願してきたのだ。
激しい雨が顔を叩きつけてくる。
風と雷もセットでついてきて、海は荒れに荒れていた。
今も、高波が海岸へ迫っている。
迫っているのは波だけではないと気づいて、アッシュは瞳を輝かせた。
「すっげー!何あれ!あれ、何?」
波の合間に見える黒いもの。明らかに魚といった類の大きさではない。
アッシュの体よりも、いやボートや漁船よりも大きかった。
それが波に紛れて浜辺へ迫っているのだ。
「怪物だ!」
前を走る青年、シンが答える。
顔を見た感じではアッシュと同じぐらいの年頃と思われるのに、髪の毛は見事なまでに真っ白であった。
雨風に負けじとアッシュも叫び返す。
「怪物!?」
怪物がいるなんて、さすがは異次元、別世界。
ファンタジーの世界だ。
「そうだ!海には怪物がいる、そいつを倒すのが俺達サーファーの夢なんだ!!」
しかも勇者はいない。
勇者イコール、サーファーときた。
この世界のサーファーは、波乗り以外にバケモノ退治も任されているらしい。
あまり気楽なご身分では無さそうだ。
「俺達ってことは、キミも?キミもサーファーなの?」
シンの返事はない。
正解、ということだろう。
続けてアッシュは尋ねた。
「怪物って、サーファーじゃないと倒せないの?」
だが、これにもシンは返事をしてくれない。
答える必要がないから答えてくれなかったのかと思いきや、単に無視されていただけのようだ。
チェッと舌打ちして、アッシュは足を止める。
波と共に向かってくる怪物の方へ、振り返った。
「サーファーじゃなくても倒せそうだよね……」
まだ全貌は見えていないが、およそ漁船以上タンカー以下の大きさと予測される。
この世界のサーファーが、どのような力を持っているのかは知らない。
しかし、サーファーというぐらいだから素手なのは確実であろう。
だとしたら、アッシュでも倒せそうな気がする。
シンは見た感じ、何かの能力を持っているようには見えなかった。
能力者を捜すアッシュに対し、能力者って何?と聞き返してきた男である。
能力者であるはずがない。
彼でも戦える相手だとすれば、アッシュなら楽勝である。
海の中にいられては発火能力を使えないが、殴り合いだけでも何とかいけるだろう。
「よーし!」
浜辺に突進するアッシュを見て、シンは仰天する。
あいつ、急に立ち止まったと思ったら、一体何をする気だ?
サーフボードも持たないで今の海へ入ろうだなんて、命知らずにも程がある。
海へ飛び込もうかという寸前、横からのタックルに押されて、アッシュは盛大に浜辺へ転がった。
波と共に黒い何かがアッシュのいた場所目掛けて襲ってきたのは、彼が横へ転がった直後だった。
波飛沫で頭から濡れ鼠になったアッシュの頬を引っぱたき、シンが怒鳴りつける。
「馬鹿!手ぶらで今の海に入るなんて、自殺行為もいいところだぞ!」
怒鳴られた方はポカーンとして、シン、そして黒い影を交互に見つめる。
浜辺まで押し寄せてきた黒い影の正体。それこそが、海の怪物であった。
鯨に似た生き物が、浜辺を見下ろしている。
大きく開け放たれた口には、びっしりと生えそろった鋭い歯が見えた。
もし襲撃に気づかないで海に飛び込んでいたら、今頃は、あの歯で噛み砕かれていたかもしれない……
無意識に、アッシュは殴られた頬をさする。
誰かに頬をビンタされたのなんて、初めてだ。
それに自分を心配して、命がけで守ってくれた。
胸の内がキュッと痛くなり、アッシュは胸に手を当てた。
何だろう?この気持ち。ドキドキする。
「いいか、安全な場所まで逃げるんだ!海に入ろうとするんじゃないぞ!!」
ポカンと座り込んだままのアッシュに再度言い含めると、シンが立ち上がる。
身を翻して走り出した。
行きがけ「サーフボードを取ってくる!」と言い残して――
バタン、と激しい音にマダムが振り向くと、びしょ濡れのシンが入ってくる。
「まぁ、まぁ、シン。すっかり濡れてしまって……早く着替えなさい、風邪を引いてしまうわ」
マダムの言葉を聞き流し、シンは奥の部屋に立てかけてあったサーフボードを手に取った。
店の販売物ではない。
自分の愛用ボードである。
それを見て、マダムの顔色も変わる。
「お待ちなさい、シン。この天気で、どこへ行こうというのです?」
聞かなくても判っているし、答えられなくても知っていたが、そう聞かずにはおれなかった。
眉間に皺を寄せた彼女を見て、シンは一瞬怯んだ様子であったが、それでも踵を返す。
「……すみません。俺が行かないと、無茶しようとする奴がいるんです」
脳裏に浮かんだのは、浜辺へ置き去りにしてきた赤い髪の青年。
この辺の事情に詳しくないみたいだったし、きっと、あいつはまた海へ入ろうとするだろう。
「誰かを助けるのね?」
マダムの眉間から皺が消える。
シンは黙って頷いた。
「そう……ならば、一つだけ約束して。勝てそうになかったら、その人と一緒に戻ってきなさい。いいわね?」
もう一度、黙って頷くと、シンはボードを手に店を出ていった。
必ず戻ってこいと言えなかった自分にマダムは弱さを感じたが、ゆるく首を振って窓の外を見る。
雨風の勢いは弱まる事なく、囂々と窓を叩きつけている。
怪物が去るまで、天候は回復しそうもない。
信じるのだ。
シンは、シンなら必ず、怪物を何とかしてくれる。
そして必ず、マダムの元へ戻ってきてくれる。
だって、一緒に店を守ろうと言ってくれたのは、シンなのだから!
豪風雨の空に浮かぶ戦闘機が一つ、あった。
地球連邦軍の機体である。
風と雨に打たれて、グラグラと揺れながら空中で停止していた。
「正確な場所は判るか?」
マッドの問いに、神宮が首を捻る。
「進路クリア――と言いたいですが、この台風では。それに、周辺の地図が出ません。さすがは異世界といった処ですかね」
乗っているのは通称セブンゴッド、マッド=フライヤー率いる特殊任務部隊の連中である。
「シーナ、窓から変なモンが見えてるぜ?」
ジンに促されて、神女は窓を見下ろした。
荒れ狂う海の中に、黒い大きなものが見え隠れしている。
「ワーォ、ホントだ!何あれ?鯨?」
「バーカ、鯨がこんな海岸沿いまで出てくるかよ」
「お前ら!持ち場を離れてさぼっているんじゃないッ!」
たちまちサボッていることがばれ、マッドの雷がおちて、ジンと神女は肩を竦めた。
「持ち場ったってよ、地図もでないんじゃ、お手上げだぜ。どうやって能力者を捜せってんだよ」
セブンゴッドは、重大な任務を授かっていた。
ユニウスクラウニを追って”閉ざされた世界”へ飛び、奴らよりも先に能力者を捕獲しなければいけない。
異世界へ飛べるようになったのは、偏に舞のおかげだ。
彼女の持つ力、異世界への扉を開く力が閉ざされた世界への門を開けたのだ。
セブンゴッドは地球連邦軍の所属でありながら、全員が能力者である。
異端の力に勝つためには異端の力を借りるしかないという、上層部の判断なのだろう。
目には目を、歯には歯を、というやつだ。
はっきり言うと捨て駒部隊である。
「諸君らには判るんだろ?能力者の居場所が」
マッドに聞き返され、ジンはジト目で睨み返した。
「そりゃ、向こうにいる間はね」
先ほどから、ずっとジンはユニウスクラウニの気配を探しているのだが、一向に捕えられない。
なんと例えるべきか、世界全体が白いもやで霧がかっているような印象を受けた。
閉ざされた世界とジン達の住む世界とでは、どうも勝手が違うようだ。
「気配を察知できないのか……」
ポツリとマッドが呟く。
司令官もお手上げ状態なのかとジンが彼を見やると、マッドは既に立ち直っていた。
「まぁいい、なら肉眼で奴らを探すぞ。全員、資料には目を通したか?」
「はい。ですが」と神矢倉が頷き、軽く手を挙げる。
「我々が探すのはユニウスクラウニではなく、この世界に住む能力者では?」
それに答えたのはマッドではなく、神宮だ。
「能力者は能力者同士、惹かれあうもの。ユニウスクラウニの奴らに、この世界の能力者を見つけ出させるという手もある」
「しかし、それでは戦いになります」と、神矢倉も譲らない。
両者の論争に、神太郎が割り込んでくる。
「どのみち、ユニウスクラウニも討伐対象に入っている。遅かれ早かれ奴らとは戦う運命だ」
二対一の劣勢に神矢倉は顔を曇らせ、それでも最後の一矢を放つ。
「……この世界の住民を、戦いへ巻き込みたくないんです。僕の考えは、甘いですか?大尉」
流れ弾を受けたマッドはウッと言葉につまるが、神宮と神太郎、そして神矢倉の視線を受けて言い返した。
「カミヤグラ、君の気持ちも判らないではない。しかし我々は軍人だ。任務の為ならば、非情にならなければいけない時もある……この世界の能力者を捜すというのは、この世界を戦いに巻き込めという意味だ。判るな」
ふいっと視線を外し、神矢倉は自分の席に腰掛ける。
何も言わぬまま、暗いモニターを見つめた。
「あーあ。スネちゃったよ、イチローのやつ」
これ見よがしにジンが冷やかし、神女は、もう興味が失せたとばかりに再び窓の外を見下ろした。
ザーザーと降り止まぬ雨のせいで、浜辺には殆ど人影がない。
しかし黒い影に向かって走っていく人を見つけて、彼女はキャアキャアと騒いだ。
「ジン!ジン、見てよ!誰かが鯨に向かってく!!」
「だから、鯨じゃねぇって。UMAってやつじゃねぇ?」などと軽口を叩きながら、ジンも見守った。
サーフボードを手に、海間をかき分け入っていった人影を。
人影は、一つではなかった。
いくつもの影が、黒い怪物目指して波をかき分けていく。
この悪天候の中、しかも、あんなデカイのがいる海でサーフィンをするつもりか?
お気楽な奴らがいるもんだね、とジンは呆れて肩を竦めた。
連邦軍が閉ざされた世界の領域へ侵入したように、ユニウスクラウニもまた、この世界へ侵入していた。
目的は勿論、能力者の捕獲である。
しかし今は、ここへ突入した際、行方知れずになった仲間を捜していた。
「まぁったく!アッシュのバカ、一体どこへ落ちちゃったのよ!!」
悪態をついているのは、栗毛の少女アユラだ。
密林から急いで戻ってきて何とか次元移動に間に合ったのだが、今度はアッシュが行方不明になる大騒ぎ。
双子の妹、ファニーも行方が知れない。
こちらは次元移動するよりも前の話だ。
リーガル曰く、アッシュが拉致してきた連邦軍の兵士と一緒に姿を消したという。
まさか連邦軍兵士如きに妹がどうこうされるとは思えないから、連れ出したのはファニーが、だろう。
連れ出して、それで、どうなった?
誰に尋ねても、皆が皆、首を振るばかり。
誰もファニーが兵士をつれて出ていくのを、目撃していなかったのだ。
彼女の気配を探ることさえできなかったとも言われた。
妹は、地球にいながら消息不明となってしまった。
それと比べるとアッシュの行方不明は、もっと簡単で、彼は異世界へ到着するなり扉を開けたのだ。
まだ飛行船が上空を飛んでいて、状態も安定していないという時に――
「いやっほーう!」と叫んだアッシュが飛び降りるのを、全員で目撃した。
背中には噴射機をつけていたから、地面で真っ赤なトマトになってはいないだろうけれど、それにしても無茶すぎる。
ここは地球とは違うのだ。
何が潜んでいるかも、判らないというのに。
「周辺の地図は、できたか!?」
リーガルが神経質に騒いでいる。
エリスは首を傾げ、呟いた。
「駄目ですわぁ〜。世界が……なんていうんでしょう、こう、全体的に霧がかっているみたいで」
アユラも、そしてユニウスクラウニのメンバーが全員でアッシュの行方を捜している。
それなのにアッシュの気配どころか人間が他にいるかどうかさえ察知できないというのは、おかしい。
「世界全体がブロックされているとでも、いうのか?」
リーガルの苛々した呟きを聞き流し、アユラは司令室を抜け出た。
あの部屋にいて司令官の癇癪をぶつけられるぐらいならば、自室で休んでいたほうがいい。
ああ、それにしてもグラグラと揺れて気分が悪いったらない。
風と雨で、うまく船が飛べないのだ。
せっかくの海なのに、窓から見える景色は最悪だ。
雨が横殴りに窓を叩きつけている。
遠くでは雷も鳴っていた。
なんという悪天候の日に来てしまったのか。
何も、こんな日を選んで来なくてもいいじゃない、と彼女は司令官に腹を立てた。
実際はリーガルが選んで、この日に飛んできたのではないと、アユラ自身にも判っていたのだが。
シン以外にも、果敢に化物へ立ち向かうサーファーの姿があった。
この界隈に住んでいて、英雄アックスに憧れる者達である。
彼らもまた、英雄になりたいという野望を持っていた。
怪物は滅多に姿を現さない。
それだけに姿を現している今こそが、戦いのチャンスであった。
向かっていく側から、怪物に大波を起こされてバランスを崩す者、雨と風に押されて、うまく波に乗れない者。
サーフボードから一度でも転落してしまえば、後は化物の胃の中に収まるのが彼らの運命である。
目の前で海の水が赤く染まるのを、アッシュは呆然と眺めていた。
皆が何をやろうとしているのかが、朧気に判った。
サーフボードを、あの怪物の頭に叩きつけようとしているのだ。
しかし……
どう考えても、この悪天候では勝ち目がない。
怪物へボードを叩きつける以前に、自分がボードから落っこちて自爆している者ばかりではないか。
キョロキョロと辺りを見渡して、アッシュは視界の先に白い髪の青年を見つける。
逞しく焼けた体へ目が泳ぎ、迂闊にもドキドキしてしまった後、彼は青年へ声をかけた。
「シ〜ン〜!こっち、こっちぃ〜!」
こっちに来て、というニュアンスで叫んだのだが、残念ながら声は届かなかったようだ。
シンは真っ直ぐ一直線に、怪物目指して泳いでいく。
波に乗る気か。この悪天候の中を。
海に落ちた奴らに対し、怪物は全く容赦がなかった。
次々と飲み込まれていくのを、さっきから目撃しているアッシュである。
シンも飲み込まれてしまうのでは?と考えただけで胸がキリキリと痛み出し、アッシュは立ち上がった。
「シンー!やめろー、バカー!命を粗末にするんじゃな〜〜いっ!」
叫びながら、浜辺を走って手頃なサーフボードが落ちていないかと探す。
サーフィンなんて生まれて一度もやったことがないのだが、彼は無我夢中で探しまわった。
シンを助けなきゃ。
シンを手伝ってあげなきゃ!
さっき出会ったばかりなのに、アッシュの脳裏はシンの姿でいっぱいになった。
どうしてだろう。どうしてかは判らない。
初めて、心から自分を心配してくれた人だから?
また胸がドキドキする。
このドキドキは、アヤと話している時に感じた胸のときめきと同じだ――!
アッシュは今、ようやく気がついた。
アッシュの心配とは裏腹に、シンは波にうまく乗っていた。
この界隈で育ったサーファーとしての意地がある。
毎日泳いできた海だ。
少しばかり天候が崩れたとしても、波に乗れる自信はあった。
もっとも、今日は大荒れに荒れ狂っていたが。
シンは、この海が好きだ。
幼い頃から、ずっと好きだった。
海と共に育ったと言っても過言ではない。
だからこそ、この海で、これ以上、誰かが死ぬのを見たくなかった。
追い出してやる。
俺が、このボードで怪物を追い出してやる――!
マダムの為だけじゃない。
ましてやアッシュの為でもない。
自分のために、戦おうと考えた。
黒い影が迫る。
波が急変する!
怪物が尾ひれを叩きつけ、新たな波を発生させたのだ。
だが、その程度でバランスを崩すシンではない。
彼を乗せたボードは、ひらりと宙を舞い、ふわりと大波の上に着地する。
波が波とぶつかり、新たな流れを発生させる。
次々に発生する流れの上へ巧みに乗っかるシンへ、いつしか他のサーファー達も声援を送っていた。
「あいつ……すげェ!」
「アックスの生まれ変わりだ!!」
次第に声援は「頑張れー!」と叫んだ誰かの声によって、ワーワーと混ざり合って聞き取れなくなる。
アッシュもまた皆に混ざって、力の限りに喚きたてた。
「シンー!がんばれー!!そんなヘンなの、ガツーンと!やっちまえぇぇっっ〜〜っ」
「シン?あいつ、シンっていうのか?」
傍らにいたサーファーに尋ねられ、アッシュは思いっきり頷いた。
すると皆もシンの名を大声で呼びはじめ、浜辺は雨風や雷に負けないほどのシン・コール一色で包まれた。