SEVEN GOD

act1-3 全人類能力者計画

この時代、地球連邦軍の作った法が全てを支配していた。
人間は自分と違う生き物を本能的に恐れる。
従って特異な能力を持つ者達が恐れられ、忌み嫌われるのも当然であった。
能力者狩りは、連邦軍の法律で許されていた。
人殺しは犯罪だと散々謳っておきながら、能力者は人間ではないと判断したのである。
やがて能力者達は狩られる立場から一転して、徒党を組み、狩る立場へと変わる。
始めは殆どが少数でのゲリラ活動でしかなかった。
下位の警察や機動隊で対処しきれる規模で抵抗を続けるものの、能力者に不利な状況は続いた。
だが力の強い者同士、惹かれるものでもあるのか、やがて大きな組織が生まれる。
それがユニウスクラウニである。
彼らの出現により連邦軍の各支部も、本腰をあげて討伐にかからなくてはならなくなった。

連邦軍の新兵であるアヤも、ユニウスクラウニの名前なら知っている。
戦闘に長けた能力者の軍団だ。
彼らは武器など使わない。己の能力のみで戦う。
現に彼女の隣で小型機の操縦桿を握っているアッシュだって、襲いかかってきた時は素手だった。
アッシュは両手から炎を噴き出す。発火能力だ。
連邦軍のブラックリストにも名を連ねているぐらいだから、きっと多くの軍人を葬ってきたのだろう。
アヤと戦った時は、千分の一も実力を出していなかったに違いない。
殺す素振りさえ見せなかった。
焼かれたのは服、それも胸元だけだし、その後の彼はアヤの胸に顔を埋めて甘えてきた。
幼なじみだからではないことは、アッシュがアヤを覚えていなかった点からも明確である。
今、小型機はユニウスクラウニの総本山へ向かっている。
アッシュに誘われ、半ば強引に連れて行かれようとしている処であった。
到着する前に聞いておこうと、アヤが話しかける。
「ねぇ、アッシュ」
「ん、何?」
逡巡したが、思いきって直球で尋ねてみる。
「どうして私を殺そうとしなかったの?」
「んー、いや、だって女の子は殺しちゃいけないからさ」
どういう意味だ。
竜喜が言っていた、女は犯されるというのと何か関係があるのか?
「男の人だって殺したら駄目じゃない」
「や、男はいいんだよ。だって男は俺の子供を産めないだろ?」
「それはそうだけど、でもだからって殺さなくてもいいじゃない」
前方に、ふっと影がよぎったような気がして、アヤは言い合いをやめた。
変だ。
雲の上なのに、重量級の気配を感じるなんて。
近くに飛行機の影はない。
「ねぇ、今、何か横切らなかった?」
アッシュに尋ねると、彼は嬉しそうに「あれ、判るの?もしかしてアヤも能力者なの?」と聞き返す。
だが次の瞬間には、いきなりショボーンと項垂れてしまう。
「え?能力者?え、違う、っていうか、なんでしょげてるの?私が能力者だと、なんかマズイわけ?」
これにはアヤも動転して、あたふた尋ねるが、アッシュはアヤの「違う」だけに反応した。
満面の笑みを浮かべてアヤに向き直る。
「よかった〜。なら、俺の子を産んでもらえるね!」
あっさり立ち直った彼を見て、アヤもガックリくる。
心配して損した。
「何なの、さっきから俺の子俺の子って……アッシュって、そんなに子供が好きだったっけ?」
「ん?んーん、子供は嫌いだけど、でも子供は作らなきゃいけないから」
子供が嫌いなのに子供を作ってどうしようというのか。
さっぱり訳が判らない。
子供嫌いな人が子供を作ったって、その子はDVの餌食になるか捨てられるかの二択ではないか。
そんな不幸な子供を増やす手伝いなど、アヤはしたくなかった。
だが、つっこもうとしてピンと来た。
言おうとしていた言葉を言い換える。
「わかった!要するに、やりたいんだよね?私と」
アヤは処女ではない。
気まぐれに何人かの男とつきあった事もある。
経験は済んでいた。
「えっ!? い、いや、やりたいっていうか、まぁ、やりたいんだけど、そーじゃなくて」
「やりたいなら遠慮しなくてもいいよ。アッシュなら……私も、嬉しいし」
我ながら、なんと破廉恥な会話をしているのだろう。
我に返り、アヤの頬が赤く染まる。
横目にチラリと見てみれば、アッシュの顔も赤くなっていた。
まともに動揺しているのが判る。
アヤを幼なじみだと気づいていなかった時は、あんなにも大胆に抱きついてきたくせして。
それに能力者では駄目だけど、普通の女ならOKという理由も判らない。
アッシュだって能力者なんだから別にいいじゃないか、相手が能力者だったとしても。
どこか目線は上の空で、アッシュが言う。
「え、えっと、さっきアヤが感じたのは、連邦軍の偵察機だよ」
「あ、そうなの」
重量級の気配は、確かに存在していたのだ。
改めて目を凝らしてみるが、感じたと思った気配は、どこにも見つけられなかった。
――いや、待て。連邦軍の偵察機だって?
アヤが気配を感じるぐらい近づいていたのに何故、この小型機は発見されなかったのか。
「あ、俺達が向こうに見つかることはないから安心してね」
「どうして?どうして見つからないの?」
「見つからないよう力を使ってる奴がいるんだ、俺達の仲間に。だから平気」
「そ、そう」
何か納得いかないものはあるが、アヤも能力者の能力を全て把握しているわけではない。
自分が知らないだけで機械を誤魔化す能力、というものがあるのかもしれない。
それに安心してねと言われても。
どちらかというと、アヤとしては見つかりたかった。
このまま能力者の巣へ直行するのは、どう考えてもまずい。
殺される確率があがる。
アヤは正真正銘、ただの人間だ。能力者ではない。
しかも連邦軍の兵士だ。ユニウスクラウニにとっては敵、及び仲間の仇でもある。
例えアヤが直接手を下したのではないにしろ、能力者を殺す手伝いをしている事に代わりはない。
「そ、それよりも……さっきの話だけど」
緊張に顔を歪めながら、気を紛らわせようと先ほどの話に戻すが。
「あ!ついた、ついたよアヤッ。あれがユニウスクラウニの本部だ」
無情にも、二人きりのフライトは終わりを告げようとしていた。
彼の指さす先に目を向けて、アヤは息を呑む。
恐ろしく巨大な船、いや飛行船が空中で停止している。
全長で千メートルぐらいは、あるんじゃなかろうか。
あれほどの巨大なものが今まで発見されずにいたとなると、連邦軍とは何と無能な軍団だろうか。
いや、アッシュの弁を借りるなら『見えなくする能力』を持つ者のおかげだ。
連邦軍は億の目を持つ。
言うなれば、地球に住む普通の人間全てが連邦軍の目となる。
見逃すなど、ありえない。
飛行船が見つからずにいるのは、彼らが能力者の集まりだからだ。
アヤは、もう一度アッシュを盗み見た。
彼の派手な能力だけに気を取られていたが、ユニウスクラウニという集団は侮れない。
戦える能力は確かに脅威である。
しかし、本当に脅威なのは地味に強力なサポート能力だ。
連邦軍の総力をかけてでも総本山を一気に叩き潰さなくては、普通の人間達の勝利は有り得ない。
なんとかして、この情報を連邦軍の元へ伝える手段を見つけないと。
不意に、地上で戦っている仲間を思い出す。
竜喜は無事に逃げられたのだろうか。
犯されたり、殺されていなければよいのだが。


アッシュ率いる部隊が奇襲してきたとの報告は、既にマッドの元にも届いていた。
奇襲されはしたものの、兵士の何名かは無事に降下し、作戦を続行しているという。
だが、その中に高峰アヤの名前はなかった。
バーバラ=エイデルが首の頸動脈を噛み切られ、死亡したという報告も入っている。
死体から精液反応がなかった事などから、男と間違えられて殺されたらしい。
しかしバーバラも一人では死なず、敵を相討ちにしている。
彼女の死体の側には、真紫に顔を変色させた能力者の死体も転がっていた。
窒息死だ。
頸動脈を噛みきられながらも、バーバラは相手の首を絞めて殺したのである。
女ながらに勇猛な軍人だった。
何度も降下作戦に参加しては、向こうの下級兵士を何人も討ち取った。
マッドはしばし黙祷して、彼女の冥福を祈る。
願わくば、次の人生は平穏であるように。
アヤの死体は、未だ発見報告がない。
死んでいないと思いたい。
彼女は美人だ、男と間違われるはずもなかろう。
囚われている、ともマッドは考えなかった。
ユニウスクラウニとの戦いにおいて、捕虜となる心配だけはない。
男を殺し女は犯すが、奴らはけして女を人質に取ったりはしなかった。
それは賢明であるとマッドも思う。
連邦軍は捕虜となった兵士を見捨てる。
敵の居場所を割り出すための駒に使う。
探知が相手にバレた時は、ためらわず兵士の体に埋め込まれた自爆装置のスイッチを押す。
爆発は四方三百メートルにも及び、小さなアジトなら半壊まで追い込める。
連邦軍の下級兵士とは所詮、使い捨ての労働力でしかない。
兵士に志願する者達も、それは承知の上だ。
承知の上で、使い捨ての駒となる。
アヤの体にも発信器が埋め込まれている。
一刻も早く、探知したとの報告を受け取りたいものだ。
彼女はユニウスクラウニに囚われていない。
行方が知れないのは着地に失敗したか、或いは辱めを受けている最中と予想された。
ユニウスクラウニは、その辺のゲリラとは違う。
頭の良い奴らである。
捕虜など取っても良いことなどないと、始めから判っているようであった。
恐らく彼らの内部には元軍人か、軍部に詳しい奴がいるのだろう。
空中で奇襲された女は、無理矢理挿入された後に大量の膣内射精を受ける。
だが、けして墜落死させられたりはしない。
能力者の手により五体無事に着地させられ、味方に発見されるまで裸で放置される。
彼らが何故、敵の女兵士にトドメを刺さないのか。その理由は判らない。
男兵士に対する残虐性を見る限りでは、人命を大切にしているわけでもなさそうなのだが。
女と異なり、男は容赦なく殺された。
向こうは素手だが、ゼロ距離の接近戦ではナイフも銃も役に立たない。
背後から羽交い締めにされ、首筋に噛みつかれたり頭蓋骨を吹っ飛ばされるのだ。
どんなに有能な戦士でも回避するのは難しい。
現在攻略中の砦は、今、この時点で既に大量の死者を出している。
場所が場所だけに、戦車では入れない。
上から爆撃しようにも、相手は対空砲撃で待ちかまえていた。
従って降下部隊の出番となったのだが、これもまた劣勢である。
けしてマッドの部隊が弱いというわけではない。
ゲリラとの戦いでは、数々の功績をあげている。
ユニウスクラウニは、その辺の雑魚ゲリラではない。
能力者の粋が集まっていた。
そいつらを率いているアッシュもまた、選ばれた能力者である。
アッシュ=ロードは連邦軍のブラックリスト、そのリストの中でも上位に入る要注意人物だ。
能力は発火。
自由自在に体から炎を出し、鋼鉄から人間まで溶かせないものはない。
こちらも、使えそうなものは何でも使った。
銃は当然としてナイフ、ガスの類から消化器まで。
だが奴の体に触れることなく、アッシュへ向かっていった兵は皆、消炭にされた。
奴と対等に戦うには、まず奴を孤立させなければいけない。
サポートとしての妙な能力を隠し持つ輩が、いるかもしれないからだ。
これまでの作戦を破棄し、少しずつ包囲していく方向へ変えた。
時間がかかるし、その分だけ死者も増えるが、確実に密林基地を落とすためならば致し方なかった。
アッシュ一人に、いつまで手こずっているのだと上層部からも催促がかかっている。
これで砦攻略に失敗したとなれば、降格もやむを得まい。
無念のうちに死んでいった部下達にも、申し訳が立たない。
この戦いに己の首をかけようと、自宅を出る前に誓っていたマッドであった。

二回続けての奇襲が来るとは、思っていなかった。
そこに油断が生まれた。
「くそ……腹が、いてぇや……」
肩に打ち込まれた二本のナイフを疎ましそうに睨み、黒岩竜喜は起き上がる。
血は既に止まっている。
ナイフの柄を強く握りしめて引っぱると、意外や簡単に二本とも引き抜けた。
どうやら深く刺さってはおらず、見かけに騙されたのかと思うと余計に悔しさが増してくる。
竜喜は、全裸だった。
降下中、背後から何者かに足で抱きつかれ、同時に両肩へ鋭い痛みが走る。
ナイフを突き立てれたのだと判った時には、ショックと痛みで目がくらんだ。
軍服を引きちぎられ、胸と股間が晒される。
黒々とした茂みに指を突っ込まれた。
まだ濡れてもいない場所を掻き回され、苦痛に呻く竜喜の耳を背後の男が舐めてくる。
耳たぶを甘噛みされ、怖気が走った。
こんな奴、こんな卑怯な奴に犯されるなんて。
竜喜は処女であった。
前回襲われた時は、運良く撃退できた。
アヤと違って格闘の黒帯ではない彼女だが、前から襲われたのが幸運だったのだ。
抱きつかれたので思いっきり股間を蹴りつけてやったら、相手は悶絶しながら墜落していった。
今度だって、そうしてやるつもりだった。
だがナイフで刺されたショックが尾を引いて、反撃もままならない。
「やめ、ろぉ、ばかぁっ」
暴れようと藻掻いた。
そのたびに肩に激痛が走り、竜喜の両目が涙で濡れる。
動かないほうが賢明だ――そう思い始めた時、尻から脳天に渡り、更なる激痛が体を貫く。
「あ、あ……あぎィィッ!!」
尻に挿れられたのだ、とは処女の竜喜でも判った。
初めては痛いと聞いていたが、これほどまでとは。
肩の痛みすら飛んでしまうほどだ。
ぶっとい何かが竜喜の穴へギッチギチに刺さっている。
少し動かれるだけでも意識が飛びそうになった。
「は……が……」
生暖かい何か、恐らくは血が己の尻から太股にかけて伝っていくのを感じた。
無理な挿入で、中が切れたのか。
想像しただけでも唇はわななき、血の気が引く。
竜喜の頬を伝う涙を、男の舌が舐め取った。
「痛いのか?そうか、初めてだったのか。なら、たっぷり注いでやるよ。お前の子宮になぁッ」
堅くて大きなものが、尻から出ていく気配を感じた。
男が、ゆっくりと前方に回ってくる。
股間を蹴り潰すなら今しかないが、竜喜には、そのような余裕も既に失われていた。
尻の激痛は退きそうになかったし、ついでにいうなら両肩が痺れて満足に手も動かせない。
両足を持ち上げられ、茂みに男の顔が被さる。
肉の内に舌を這わされて、竜喜は小さく悲鳴をあげた。
「ひ……ィ」
信じられなかった。
どちらかといえば男らしい、がさつな自分が、女の子みたいに怯えている。
男の舌が、れろれろといやらしく動き、襞の上にある小さな突起を何度も舐める。
「い……や……ぁ」
そのたびに竜喜の体は、ぶるぶると震え、瞳には涙が浮かんだ。
駄目、そこは舐めないで。
舐められるたびに、ぞわぞわとしたものが竜喜の中を這いずり回る。
自分が自分では、なくなる。
もっと下等な、淫猥な畜生に成り下がってしまう気がした。
男にナメられたくなくて、英雄になりたくて、軍に志願した。
兵士が使い捨ての駒であるのは判っていた。
それでも手柄を立てれば一気に昇進できるし、一生を左うちわで過ごすのも夢ではない。
「ふぁッ!」
竜喜の想いは途中で途切れた。
男の舌が、動きが激しくなっている。
ジュッパジュッパと音を立てて、激しく股間を吸われた。
両足を持ち上げられた恰好では抵抗できない。
もう、尻の痛みも、肩の痛みも気にならない。
全ての神経が股間に集中していた。
「あ、は、や…っ、やっ……」
快楽に呻きながら、朦朧とした頭で気づいたことがあった。
やけに滞空時間が長く感じられる。
落下時間を考えると、そろそろパラシュートを開かなくてはいけない地点にきていなければ、おかしい。
快楽で感覚が麻痺してしまったのかと思えば、そうではない。
竜喜の股間にむしゃぶりついている男。
こいつが、落下のスピードを緩めていた。
こいつの背中につけられているのは、小型の噴射機だ。
それが囂々と音を立て、飛行の役目を果たしている。
噴射機を取り外して、こいつを道連れに相打ちしてやろうか――そんな考えが脳裏をよぎった。
今、この高さで落ちれば間違いなく二人とも死ぬ。即死だろう。
構うものか。卑怯者に犯されるぐらいならば、死んだ方がマシだ。
不意に男が股間から顔を放して、竜喜へ囁いた。
「おい、妙な考えを起こすなよ?このまま大人しくしてりゃ、少なくとも命は助かるんだ」
「ふ、ふざけんな……ッ!」
カラカラになっていた口から、干からびた声が出た。
血を吐く思いで、本音を吐き出す。
「あ、あたしは、犯されてまで、助かりたくないっ!!」
「いや、お前には生きてもらう。俺の子供を産んでもらわなきゃいけないからな」
勝手な言葉に、竜喜はカッと頭に血が登る。
誰が貴様のガキを孕むものか!
「いやだ、いやだ!はなせぇッ!!」
肩の痛みも忘れて暴れると、力を込めて乳房を掴まれる。
続いて股間にも、何かが入り込んできた。
最初、尻のほうに入ってきたものと同じものが。
「ぐぎィィィッ」
歯を食いしばり、竜喜は男から逃れようと身を捻る。
だが、男が逃がしてくれない。
竜喜を抱き寄せ、さらに深くへ潜り込ませる。
太くて堅いものが何であるのかを考える、それを竜喜の脳は拒否した。
否、それどころではなかった。
「力を抜けよ。締まりすぎて動かせねぇだろうが」などと言われても、すぐに力を抜けるものではない。
痛い、痛い、痛い、痛い。
体が股から二つに裂けそうだ。
抜いて。お願いだから、抜いて下さい。
そう言おうとしたが、痛すぎて言葉にもならない。
「……ヘッ、仕方ねぇ。一旦気絶してもらうか」
悪魔の呟きが耳元に聞こえ、男が激しく腰を動かし始める。
「ひ、ひ、あひィ……ッ!」
竜喜の両目は白くでんぐり返り、彼女の意識は深い闇に沈んだ。
――それから、しばらくして。
気づいた時には、全裸で草っぱらに転がされていた。
近くには誰もいない。
味方も、竜喜の処女を奪った男でさえも。
股の間、いや、膣の周りが、汚らしいものでガビガビになっていた。
最悪の事態は、免れなかったらしい。
男に、たっぷりと膣内射精されたのだ。
考えただけで竜喜は暗く落ち込み、吐き気に蹲る。
しかし、下を向いても反吐が出ない。
気分の悪いまま彼女は立ち上がり、両肩のナイフを抜く。
先ほどから、お腹のあたりがゴロゴロいっている。
初めての射精で、具合が悪くなったのかもしれなかった。
「……殺してやる……」
処女は失った。
だが、こうして生きているのは不幸中の幸いというやつかもしれない。
後悔させてやる。
生かしておいたことを、奴らに後悔させてやる。
子供ができたって、産んでなどやるものか。
流してやる。
汚い血が混ざったガキなんて、存在ごと闇に流してやる。


ユニウスクラウニが総本山として運用している船は、またの名をクラウニフリードといった。
司令室に駆け込んで開口一番、アッシュは元気よく叫んだ。
「たっだいま〜!リーガル、エリス、いる?大ニュースだよ、俺、結婚するから!」
アヤの肩をぐいっと前面へ押しやると、皆に彼女がよく見えるようにする。
「ちょ、ちょっと、アッシュ」
アヤは当惑したが、司令室にいる全員も当惑していた。
「え?け、結婚?なんなの、突然ね」
育ての母親エリスは眉を潜め、義父リーガルも見知らぬ女性の出現に眉皺を寄せる。
「降下部隊はどうした?もう全滅させたのか?大体、なんだ?その女は。もしかして連邦軍の兵士をつれてきたんじゃなかろうな?」
「まっさかぁ〜。アッシュが、そんなことするわけないじゃん。ねぇ?アッシュ」
横から茶々を入れてきたのは、アユラそっくりの小さな女の子。
だが、彼女はアユラではない。
本物のアユラなら、まだ密林支部で戦っている。
アユラに瓜二つな彼女の名前は、ファニーといった。
ファニーの問いに、間髪入れずアッシュが答える。満面の笑顔で。
「うん!連邦軍の兵士だよ、名前はアヤちゃん。俺の幼なじみなんだっ」
「………………」
一時の静寂が、部屋を包み込んだ後。
「どええええええぇぇぇぇえええええええーーー!?」
予期せぬ答えにファニーは仰け反り、リーガルは壁に勢いよく頭を打ちつけた。
派手なリアクションをしたのは、この二人だけではない。
向こうで聞き耳を立てていた何人かが、激しく機材に顔を突っ込んでいる。
「アッシュ、そういうことはホラ、まず、お父さんに相談しなきゃ駄目でしょう?」
エリスに怒られ、アッシュはポリポリと頭を掻く。
「えー、でも驚かせたかったし!こういうのってインパクトも大事だと思うんだよね」
眉を潜めたまま、若母エリスは、ころころと上品に笑った。
「そりゃあ、ビックリさせたいっていう、アッシュの悪戯心も判らないではないけれど。でもね、こういうのは、まず親に許可を取るのが大事だと、お母さんは思うの。結婚前にできちゃったりすると、なにかと世間体も悪いしねぇ」
「って、ちッがぁーーーーうっ!」
ショックから立ち直ったリーガルが、さっそくツッコんできた。
「馬鹿か、お前は!馬鹿だ、お前はぁーッ!連邦軍の兵士を、ここまで連れ込んで、どう責任を取るつもりだコルァ!?」
怒りのあまり巻き舌になっている。
ここまで逆上した義父は、初めて見た。
だがアッシュも堂々としたもので、きりりとマジメ顔になって答えた。
「結婚する!」
「結婚って、何が結婚だコルァァ!!」
「だから、責任を取ってアヤと結婚する。それで文句ないだろ?」
「ばッ、馬鹿者ー!!責任を取るというのは、そういう意味では、なぁぁいッッ!!」
リーガルの体から、どす黒いオーラが出てくるのをアヤは見た。
あれが彼の能力か?
何の力を持っているのかは判らないが、禍々しい光だ。
ろくな能力ではあるまい。
背後から夫を羽交い締めにしてエリスが叫ぶ。
「待ってアナタ、落ち着いてぇぇっ!あれはアッシュよ、攻撃しちゃ駄目ぇぇ!!」
ハァハァゼェゼェと息を切らせて夫婦が落ち着くのを、アヤは呆れた目で見守った。
リーガルの怒りは、よく判る。
連邦軍兵士が体内に発信器を持つことを、この司令官らしき男は知っているのだろう。
アヤも、当然知っていた。
入隊してすぐ、埋め込み手術を受けていた。
ただ、そのことを彼女はアッシュに言わなかった。
言えば途中で降ろされてしまう。
そう思ったので、わざと教えずにいた。
どうせ、助けなど来まい。
自分の部隊は地上で戦っている最中なのだから。
ならば殺される直前まで、この場所を教える光になりたいとアヤは考えた。
黙っているアヤに、アッシュが微笑んで話しかけてくる。
「アヤ、大丈夫だ。リーガルは俺が説得するから」
結婚できるか否かを心配しているわけではないのに、変な気遣いをされてしまったものだ。
「説得も何も、私は結婚するなんて一言も承知してないんだけど?」
しかしリーガルの怒号で、アヤの呟きは、かき消される。
「もう、ここの場所を奴らに知られたかもしれんのだぞ!その女のせいで!!アッシュ、貴様は、この責任をどう取るつもりだ!!結婚以外で答えろッ」
対してアッシュはジッと義父を見つめていたが、不意に、その口元へニヤリと笑みを浮かべた。
「……随分と弱気なんだな。ユニウスクラウニの総親分にしては」
「何ィ!?」と声を荒げるリーガルへ、訥々と語る。
「向かってくる相手は、ぶっ潰せばいい。居場所がバレたんなら、新しい場所を探せばいい。それだけの話だろ?それとも何か?連邦軍を倒して能力者だけの世界を作るってのは、大言壮語だったのかよ」
意地悪く笑うさまは、報告書に載っていた写真と同じだ。
先ほどまでの明るくて少々ヌケた感じのアッシュは、今は何処にもいない。
「アッシュ!なんて無礼なことをいうの、お父さんに謝りなさいっ」
エリスが金切り声をあげるが、それを制したのは他ならぬリーガルであった。
「……そうだったな。まさか我が子に指摘されるとは思わなかったよ」
すっかり落ち着きを取り戻している。
「全人類を能力者にする計画は、まだ続行中なんだろ?だったら、俺はアヤを嫁にする。アヤなら度胸が据わってるし、軍人やってるぐらいだからさ、体も丈夫だと思うんだよね。んで、俺の精子で丈夫な子供をバンバン産んでもらうんだ!」
牛や馬じゃあるまいし、いくらアヤの体が丈夫といってもバンバンは産めない。
それにしても、なんでアッシュは子作りに拘っているのだろう。
子供が嫌いなくせして。
それに、全人類を能力者にする計画だって?無茶を言う。
能力者が生まれる確率は、普通の子供より低いはずだ。
いくら全世界の女を犯したところで――
そこまで考えて、アヤは、あっとなった。
何故、ユニウスクラウニが女性兵士を殺さないのか。
それは、能力者を産ませるためだ。
確率が低ければ、高くなるように調整すればいい。
「ね〜、アヤ」
甘えてくるアッシュの手を振り切り、アヤは叫んだ。
「触らないで!このッ、ケダモノ!!」
「ほぇ?」
きょとんとするアッシュから一歩、そしてまた一歩と遠ざかり、アヤは彼を罵倒した。
好きだという気持ちが、ガラガラと音を立てて崩れていく。
目の前の男が、急激に意も知れぬ怪物に見えてきた。
「女を何だと思ってるの!?私達は、バケモノを産む鶏じゃないッ」
「なんで怒ってんだよ、アヤ〜」
「怒るに決まってんでしょ!子供ってのは、愛があってこそ育むものじゃないの!?」
「愛?俺はアヤを好きだよ。だから、アヤの子供も好きになれる」
「嘘!子供が嫌いって言ったくせに!」
「うん、子供は嫌いだ。けど、アヤの子供なら好きになれるよ」
「なれるもんですか!急に子供好きになんかッ。嘘つき、アッシュの嘘つき!!」
力の限り罵倒したのだが、一歩、一歩と間合いを詰められ、とうとうアヤは壁際に追い詰められた。
アッシュの背後から、リーガルの声が響く。
「そうだ、女はバケモノを産む鶏ではない。そして……我々も、バケモノではない」
アッシュの影になっているから、彼がどのような表情で言っているのかは判らない。
アヤは声の限りに叫んだ。
「なら、なんで無理矢理産ませようとするの!?強姦してまでッ」
対照的に、静かな声が応える。
「今の時代に、能力者と結婚したいと思う普通の人がいて?」
この声は、アッシュの母を名乗っていた女性だ。
確かエリスと呼ばれていた。
リーガルもアヤを諭す。
「我々は人間でありながら、同じ種であるはずの人間に迫害を受けている。人間でありながら、家畜同然に殺されている……人と異なる力を持っている、というだけで。そして、お嬢さん。悲しいことに我々だけでは繁栄も、ままならないのだよ」
アヤが聞き返すよりも前に、エリスが続ける。
どこか寂しげにも聞こえる声色であった。
「能力者の女性はね、能力者の子供が産めないの。何故なのかは判らないけれど」
――そうだ、思い出した。
エリスもリーガルも、アッシュの親じゃない。
アヤが覚えているロード夫婦は、彼らではなかった。
もっと普通の、おじさんとおばさんだった。
名前が思い出せないけど、おじさんは炎なんか出さなかったし、黒いオーラも出さなかった。
「我々が生きる権利を得るには、もはや立場を逆転させるしかない。能力者を増やし、特異とされる者が常識だという認識に置き換えさせる」
これが全人類能力者計画の全貌というわけか。
恐ろしく気の長い話だ。
おまけに、ひどく女性を侮辱している。
同じ女性として、エリスやファニーは何とも思わないのだろうか?
……いや、彼女は産みたくても、自分の分身と呼べる能力持ちの子供を産めないのだ。
能力持ちの子供が産めるのならば犯されても構わない、そう考えていそうである。
「アヤ、俺の嫁さんになってよ」
「う……嫌、嫌ッ!」
アヤは激しく髪を振り乱して拒否を示したが、アッシュには何を言っても無駄のようで、ぎゅうっと力いっぱい抱きしめられる。
熱い。体内が、燃えるように熱くなるのをアヤは感じた。
やだ。抱きしめられただけで、感じている?
股間の火照りも覚えたが、それは只の勘違いだったとアヤはリーガルの言葉で知る。
股間の火照りは本物だが、体が熱くなったのは感じてしまったせいではなかった。
リーガルは、ほぉと感嘆の息をつき、こう言ったのだ。
「なるほど、体内にあるものだけを燃やしたのか。アッシュ、お前の能力は日に日に強くなっていくな」
義理の父親でさえも、彼の能力を把握できていないようだ。
「なにを、燃やしたの?」
濡れた瞳で見上げたアヤが呟くと、アッシュは人懐っこい顔で笑う。
アヤのよく知る、ちょっとマヌケだけど明るくて優しい彼に戻っていた。
「ん、アヤの中にあった機械を。あれがあったからリーガル、怒ってたんだろ?」
頼みの綱が、完全に断たれた。

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