act5 銀の聖女

「それって城下町の人達が危ないって事じゃない!だったら早く戻らないとッ」
さっそく駆け出すレンを追いかけようと、ソロンも山道を振り返る。
その背中を「待たれよ」と、呼び止める者があった。
斬だ。
「今から追いかけても間に合わぬ。それよりは――」
「それよりは?」
オウム返しに、ジロが尋ねる。
応えたのは、ハリィだ。
「ここで待っていた方が得策、か」
その通り、と斬も無言で頷き、水晶へ近づいてゆく。
手を触れると、ひやりとした。
心なしか前に触った時より、温度が下がっているような気もする。
「しかしよ」とボブが口を挟んでくる。
「ここで待つにしても、このまま戦っていたんじゃ俺達は戦力不足だ。弾の補充もしなけりゃならねぇ。どうするんだ?ニンジャさんよ」
「心配ありませんわ」と言い返してきたのは、エルニー。
先の戦いでは全く役に立っていなかった小娘の横やりに、ボブの眉毛も怪訝に潜められる。
「次の戦いでは、レン様も協力して下さいますもの」
やはり、どこまでも他力本願だ。
「そのレン様なら、走っていっちまったようだが?」
皮肉に口元を歪め、ボブもやり返す。
白騎士団は斬の制止も無視して、ほとんどが城へ戻っていってしまったようだ。
まぁ、仕方ない。城を守るのは彼らの本意なのだからして。
「自由に動けるのは俺達と、あンたら傭兵、それからハンターご一行ッてだけか」
ぐるりと残った仲間を見渡して、ソロンは溜息をつく。
このメンバーでは、またしてもルリエルの攻撃一本に頼るしかない。
近づくことさえできれば、負けるつもりなどソロンにはない。
しかし近づくことすらできないのでは、剣をふるうチャンスもないではないか。
ソロンの気持ちを代弁するかのようにハリィが言う。
「しかし、どうするんだ?奴らには銃も道具も効かない……あの結界がある限りな」
彼もまた、らちのあかない戦いに業を煮やしていたらしい。
ちらと横目でエリックを見てから、斬が答える。
「策がないわけでもない」
「ほぉ〜?どんな策だ?」
何故か偉そうにボブが問うのへは、目線だけで応えた。
皆の視線が一点に集まる。
すなわち、エリック司祭の元へ。
「司祭、あンたは悪魔と戦えるチカラがあるッつッてたよな?そいつは、具体的にどンな力なンだ?」
ソロンの問いに、本人が答える。
「時空を歪め、直接奴らを討ち滅ぼす力です」
「ハ!」
途端にレピアが肩をすくめ、鼻で笑い飛ばした。
「なら、なんでさっきは使わなかったんだい?」
当然の質問だ。
エリックは小さく溜息をつき、無意識のうちに袖の上から右手をさする。
「……一気に消耗するのですよ、体力を」
体力ばかりではない。精神の消耗も激しく、おまけにチャンスは一度しかない。
一度でも外せばクローカーのこと、すぐに対策を整えてしまうだろう。
敵はクローカーだけじゃない。もう一人、白い髪の奴だっているのだ。
「なぁんだ」
あからさまに落胆した様子で、シャウニィが大きく溜息をついた。
「使えそうで使えねぇ能力だな」
たちまち「そう言わないの」とティルには窘められ、エルニーにもジト目で睨まれる。
「貴方みたいな無能には、司祭だって文句を言われる筋合いなどございませんでしてよ?」
――無能、ね。
くちには出さなかったものの、ダークエルフの口元が僅かに歪んだのをソロンは見逃さなかった。
さぞかし、悔しいだろう。実戦で役立たずだった女に無能呼ばわりされるのは。
そこへ、すっ……と音もなく近寄ってきたのは、ルリエル。
じぃっと見つめあげられ、「なんだよ?」と尋ねるシャウニィにはお構いなしに、彼女が言った。
「あなた……とても高い魔力を感じられる」
「そりゃそうだ。なんたって俺はファーストエンド最強の召喚師だからな」
臆面もなく言ってのけるシャウニィに、背後ではティルやキーファが呆れるも。
無表情のままルリエルは小さく「そう」と頷いて、両手をダークエルフの手の上へ重ねた。
何をする気なのか判らず、皆が見守る中。
シャウニィの上に重ねたルリエルの両手が、ぽぅ……と、不思議な輝きを放つ。
だが輝きは続かず、すぐに消えた。ややあって、ルリエルは両手を放して小さく呟く。
「これでいいわ」
間髪入れずにキーファが突っ込む。
「これでいいって、一体何が!?」
無表情な瞳を彼にも向けて、ルリエルが答える。
「私の精霊を彼にも与えた。これで彼も魔法を使える」
「えッ!?」と、思わず全員が大声でハモり、ソロンが当のシャウニィを問いただすと。
ダークエルフは何度か両手を握りしめた後、自分でも信じられないと言った顔で頷いた。
「判らねぇ。だが、頭ん中に直接マナが浮かんできやがる……」
「マナが?けど、マナっていうのは大気中に浮かんでいる魔力じゃないのか?」
キーファの問いにも曖昧な表情を浮かべて、シャウニィは答える。
「そうなんだけどよ……ちょっと試してみるわ」

「え」

誰かが止める暇もあらば。
両手を差し出したシャウニィが、口の中で何事かを唱えると。
真っ赤な炎がダークエルフの両手から飛び出した、と思う暇もなく唸りをあげながら飛んでいった。
「ちょ……ちょっと!!」
周りに何もなかったからよいものの、一歩間違えば山火事必至。
真っ先にティルが飛びかかり、シャウニィの頭をごちんと殴る。
「いっでェ!」
「けどよ、お前、魔法使えたじゃん」
呆然とした様子でキーファが呟くのへは、斬が本人の代わりに答えた。
「ルリエルの魔力を分けて貰ったのだ。効果は短いが威力は彼女の呪文と同等を秘める」
「じゃあ、なおのこと無駄遣いしちゃ駄目じゃん!」
レピアにも非難され、痛む頭をさすりながら、シャウニィは涙目でぶぅたれた。
「いってぇなぁ〜。いきなり殴るこたねぇじゃんよ」
「あなたが、いきなり危ない魔法を唱えたりするからでしょ!」
「テストだよ、テスト。本番で何も出なかったら困るだろ?」
「だから!本番まで、その魔力を取っておけっつってんの!」
女性二人とギャアスカやっているダークエルフなど、そっちのけで。
ハリィが手招きで皆を呼び寄せる。
「作戦が変わってきたな。ルリエル、君のおかげだ」
「ならば、俺の案も聞いてくれるか」と、斬。
頷くハリィへジロやスージを示すと、ぼそりと呟く。
「アルを使い、この三人をクレイダムクレイゾンへ飛ばす」
「まぁだ避難させる、なんて言ってやがんのか?」
たちまち口調の跳ね上がるボブを横目で制し、こうも続ける。
「避難ではない。三人には、あるものを取りに行って貰う」
「あるもの?」と、首を傾げたのはボブばかりではない。当の三人もだ。
ソウマがピンと来たのか、不意に叫んだ。
「マスター、もしかして!?」
深く頷き、斬が答える。
「そうだ。アレを持ってきてもらう」
「でも、アレは門外不出のシロモノじゃないのか?」
「なんだよ、アレって」
二人だけの判った会話に焦れてか、バージが横やりを入れてくる。
勢いよく振り向いたソウマが答えた。
「アルテルマだよ!」
「アルテルマ?って……ナニ?」
首を捻るティルの真横で、モジャモジャ頭のモリスが「アルテルマだってェ!?」などと叫ぶもんだから。
ティルの耳はキーンとなり、間髪入れずに怒鳴り返した。
「耳元で、突然怒鳴らないでよ!」
「す、すまん。しかしアルテルマって、そりゃホントか?」
「なンだ?アルテルマッて」
尋ねるソロンへ、ハリィが答える。ただし、訝しむ表情で斬を見つめながら。
「この世界の何処かに眠るとされている、古代の魔具だ。しかし……」
「何故そのようなものがクレイダムクレイゾンにあるのか?そう尋ねたいのだろう」と、斬。
ハリィが頷くと、覆面男は無表情のまま応えた。
「俺も知らぬ」
「オイッ!堂々と開き直ってんじゃねぇぞコラァ!?」
憤るボブ、やっぱり判っていない表情の異世界四人組を一瞥してから、斬は甥っ子達へ向き直る。
「いいか、時間がない。簡潔に、且つ具体的に納得のできる説明をするのだ」
「難しいこと言わないで下さいよぉ、マスタァ〜」
スージが、さっそく音を上げる隣では、エルニーが真剣な表情で頷く。
「承知しておりますわ。ジロもおりますもの、絶対に、おばさまを説得してごらんにいれますわ」
「おばさま?」と、聞き返したのはルクばかりじゃない。
バージやハリィも怪訝に尋ねた。
「アルテルマが何処にあるのか、知ってるような口ぶりじゃないか」
「君達の知っている人物なのか?」
ハリィの問いには、至って気楽にジロが答える。いつものように、鼻をほじりながら。
「あぁ、俺のお袋ッス」
――一瞬の間を置いて。
「え、えぇぇ〜〜〜〜っっっ!?」
ジロ達を除く全員の大合唱が、更地となった元洞窟に木霊した。


大きく跳ねとばされ、宙を舞う。
あわや地面に激突する寸前、アレンは何とか体勢を立て直す。
「――くそッ!」
駄目だ。何度向かっていっても、兄には傷一つ負わせる事ができない。
言うなれば、兄の前には巨大な防壁が張られているかのようであった。
直前で剣は防がれ、見えない何かに弾き飛ばされる。どの角度から行っても、死角がない。
呪術師の存在を思い出し、すばやく辺りに視線を走らせた。
だが、そのような人物も見あたらず「くっ!」とギリギリで異形の者の爪をかわす。
「アレン、余所見は禁物ですわ!」
すかさずセレナに叱責され、アレンも大声で応えた。
「わかっている、すまないッ」
判っているって、ちっとも判っていないじゃないの。
彼には聞こえないよう、小さく舌打ちするセレナ。
アレンがジェスターに向ける憎悪は、痛いほど判っている。
だからといって、馬鹿の一つ覚えのように猪突猛進に突っ込んでいけばいいというものではない。
異形のモンスターから彼を守っている、こちらの身にもなってみろと言いたい。
気のせいか、いや気のせいではなく確実に、奴らの数は増えている。
知らず焦れるセレナの耳に、城壁側から威勢の良い声が響いてきた。
「テフェルゼン殿、加勢するぞ!!」
振り返れば、青いローブの青年が魔術書を片手に立っている。
白騎士団に所属する魔術師の一人、アルベルト=フォン=エグゼンだ。
魔導力なら、天才魔術師レン=フェイダ=アッソラージに次いでナンバー2と噂に名高い。
「アルベルト様!」
黒騎士の一人が歓声をあげ、押されていた士気も持ち直す。
魔術師の中にキリーの姿を見つけ、セレナは露骨に眉を潜める。
だが、アレンの反応は違った。彼女の耳に聞こえる程度の小声で、小さく呟く。
「全く、キリーの奴。魔術師を説得するとは、あいつらしい」
「えっ?」
虚を突かれ、振り向きかける彼女には元気よく叫んだ。
「セレナ、敵が全滅するまで余所見は厳禁だぞ!」
「わ、判っておりますわ!!」
強気な彼女が答えるのを横目に、魔術師達が一斉に呪文を唱え始める。
――魔術師連中は待機を命じられていたはずだ。
テフェルゼンも一旦は悩んだが、キリーの姿を見つけた瞬間、全ての謎が氷解した。
普段は全く命令を聞かない癖に、いざって時は知恵のまわる男である。
怪獣事件の時も彼の機転で、黒騎士団は、かなり助けられている。
今度も、待機中の魔術師達を説き伏せて無理矢理出動させたに違いない。
気むずかしいアルベルトを説き伏せるとは、一体いかなる手を使ったのかが気になるところだが。
「ゆくぞ!黒騎士団は一旦下がれッ」
閉じていた双眸をカッと見開き、アルベルトが叫ぶ。
黒鎧の軍団が後退するのを合図とし、魔術師達の口からは次々に呪文が飛び出した。
赤、黄色、白、紫。
様々な光を放つ魔術が一束の攻撃となり、反逆者、及び異形の者達へと降り注ぐ。
耳障りな断末魔を残して次々とモンスターが息絶える中、テフェルゼンが真っ先に飛び出した。
「隊長ッ!?」
止める部下を振り返りもせず、彼は短く叫ぶ。
「この程度で奴は死なないッ。全員突撃!」
「りょ、了解!!」
少し遅れて黒の軍団も飛び出し、魔術師達は次の呪文の詠唱に入る。
炎に包まれるモンスターへトドメを差しながら、セレナは視線でキリーを探した。
――いた。また自分だけは戦わず、少し離れたところで傍観している。
全く、あの男。隊長の命令を何だと思っているのか。
苛つくセレナを、アレンが促す。
「見ろ、思った通りだ。ジェスターは無傷だぞ」
前方へ視線を戻すと、彼の言うとおり、ジェスターだけは全くの余裕で悠然と立っているのが見えた。
「……結界ですの?」
尋ねると、アレンは判らないと答えた後、小さくかぶりを振った。
「だが結界なら、奴も隊長には手出しできないはずだ」
異形の者を切り払い、テフェルゼンが早くもジェスターの元へ到着する。
目にも留まらぬ速さで一閃するも、やはりアレンの時と同等。見えない何かに攻撃を阻まれている。
「くそっ、どうすりゃいいんだ!」
誰かが呻いた。
「魔法も効かない、隊長の剣さえ届かないんじゃ、お手上げじゃないかッ」
即座に「諦めては、駄目ですわ!」とセレナが諫めるも、弱音を吐いた同僚は逆に睨み返してきた。
「じゃあセレナには、いい案があるってのか!?」
「それは……」
セレナは口ごもる。
あるわけがない。
彼女だって、今の総攻撃で片がつくと思っていたのだ。
悪知恵の達人キリーはというと、遠目に戦いを見守っている。
彼も、次の手が思いつかないらしい。

――勝てないのか?

またしても新たな敵影を見つけ、アレンは歯がみした。
異形の者達だ。炎に包まれた仲間を踏み越え、こちらへ攻め込んでくる。
何故だ。テフェルゼンの相手をしているジェスターには、呪文を唱える暇などなかったはずだ。
否、兄は魔術師ではない。騎士の資格を剥奪された、剣士の成れの果てだ。
やはり協力者がいるのか?しかし、何処に?
黒騎士ばかりではなく、魔術師達も焦燥を感じ始めていた。
燃やしても氷の刃で貫いても、奴らは無限に出現する。群れを成し、続々と押し寄せてくる。
かつての怪獣騒ぎとは違った意味での危機だ。それに、あの時はグレイグ隊長がいた。
テフェルゼンがいるとはいえ、彼はジェスター一人の相手で手一杯。
「くそっ!」
何度目かの舌打ちをし、アレンが飛び出そうとした時。
頭上を黒い影が、大きく横切った。


「――あ、あれを!」
山道を駆け下りる白騎士団が見たのは、レイザース城の頭上を旋回する大きな影であった。
見間違えようもない。あれは、ドラゴンではないか!
銀色に輝く鱗が、日の光を受けて眩しく輝いている。
ドラゴンは、気まぐれに上空を旋回しているのではない。空中で、何かと戦っていた。
「まさか……」
無意識のうちにグレイグは立ち止まり、空中へ目を凝らす。
ドラゴンの周りを、小うるさく飛び回る小さな影は二つ見える。
そのどちらの背中にも、羽根が生えていた。禍々しい、黒い羽根が――
誰かが不意に叫んだ。
「悪魔だ!銀の聖女が、悪魔と戦っている!!」
ヨシュアだ。
彼が銀の聖女と呼ぶ者こそ、怪獣襲撃事件の際にレイザースを救った英雄ドラゴンに他ならない。
反逆者ジェスター及び怪獣軍団に襲われ、あわやレイザース滅亡という危機に。
突如飛来した銀色のドラゴンが、彼らを瞬く間に討ち滅ぼしてくれたのだ。
レイザースの民はドラゴンを銀の聖女と崇め、大通りにはドラゴンを模した記念碑が建っている。
銀の聖女が、再び現われた。レイザースの危機を、救う為に。
「……急ぐぞ!我々も加勢するんだ」
「了解!!」
グレイグの号令を受け、白騎士団の士気も高まる。
転げ落ちんばかりのスピードで、彼らは山道を駆け下りた。


一方。
アルの背中に乗ったジロ・スージ・エルニーの三人組は、一気にクレイダムクレイゾンへ到着していた。
元より此処は馬車で行っても、そう遠くない場所だ。ドラゴンの背中に乗れば、一瞬でつく。
アルの変身が解けるのも放っといて、三人組は走り出す。
「おばさま、今日はちゃんと家にいるんですの!?」
走りながら尋ねるエルニーに、ジロが叫び返した。
「しらねーよ!用がなきゃ、大体はいると思うけど」
ジロの母親アリシア=クレイマーは、クレイダムクレイゾンでも有数の資産家の娘である。
今はダン=クレイマーと結婚し、一軒家で暮している。
ダンとアリシアは家が近所の、いわゆる幼なじみであったらしい。
だが、二人の結婚は望んだ形によるものではなかった――と、スージは大人達の噂で聞いていた。
結婚後、彼女は外へ働きへ出るようになり、ダンはというと、これがまた駄目な奴で。
「オヤジ!お袋ッ、どこッ!?」
ドアを足で蹴っ飛ばして転がり込んできたジロに、「あぁ〜ん?」と気怠そうに振り向いたのは。
床でゴロ寝していた中年だった。ダン=クレイマー、ジロの父親である。
無精という一言では片付けられないほど、汚らしい顎髭を生やしていた。
だが髭より何より特徴的なのは、目であろう。ジロと同じく、死んだマグロみたいに濁った瞳だった。
「あぁんじゃねーよ、お袋はドコだって言ってんだろが!」
憤るジロを、エルニーとスージが慌てて止める。
「ジ、ジロ、おじさんに怒ってもしょうがないだろ!?」
寝そべっていたダンが、かったるそうに起き上がった。
「……あんだよ、スージにエルニーも一緒か。アリシア?さーな、また実家に寄り道でもしてんじゃねぇのか」
夫婦だというのに、嫁の居場所も知らないらしい。チッと激しく舌打ちした後、ジロが突然踵を返す。
「あ、ちょっと、ジロォ!?駄目だよ、ボク達だけで行っても門前払いされるだけだって!」
スージの制止も振り切って、さっさと駆けだしていってしまった。
何の事情も知らぬダンだけが暢気に呟いた。
「あー、あー、諦めろって。どうせ犬ッコロみてぇに追っ払われて、すぐ戻ってくるっての」
「もうっ!おじさま、本当におばさまの行方をご存じありませんの?」
エルニーの質問にも、ダンの返事は納得のいくものではなく、彼女を余計に苛立たせる。
「あー?朝仕事に行くっつったまま、戻ってきやがらねぇよ。浮気でもしてんじゃねぇのか、あのアマ」
「するわけないでしょ!? 世間体だってありますのに!」
「ケッ。どうだかねェ〜」
このまま、ダンと話していても埒があかない。スージはエルニーの腕を引っ張った。
「追いかけよう!三人で行けば、もしかしたら話を聞いてもらえるかも!」
自分でも、とてもそうは思えなかったのだが。
それでも幼なじみと連れだって、先に突っ走っていったジロを追いかけた。

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