act6 金色の太陽

「あ、そうそう」
歩く途中でスージが振り返る。
「共同作戦を取るっていうんなら、きちんと挨拶しとかないとね」
軽そうな外見と反して、意外や礼儀正しい。女のように甲高い声で、彼は名乗った。
「ボクはスージ。で、そっちで鼻毛を抜いている赤い帽子の彼は、ジロ」
荷馬車の上で鼻毛をブチブチ引っこ抜いていたジロが、片手をあげる。今ので挨拶は終わりらしい。
横を並んで歩いていた女性が、大袈裟な身振りで会釈した。
「わたくしはエルニーと申します。以後、宜しくお願いいたしますわ」
「あなたは……貴族?」
立ち振る舞い、そして言葉遣いも二人とは違う彼女に、ティルが尋ねる。
答えたのはスージで、彼は苦笑した。
「違うよ。ボクもジロもエルニーも庶民。ボク達、幼なじみなんだ!」
「えっ、じゃあ、どうして」
言葉遣いが二人とは違うの?と聞きかけるティルへ、エルニーは挑戦的な目を向けた。
かがんだ拍子に、大仰な縦巻きロールが大きく揺れる。
「庶民が貴族に憧れては、いけませんの?」
そう聞かれては、ティルも黙るしかない。
「いけなくない……けど」
黙ったティルに代わり、シャウニィが後を続けた。
「で、ザン、あんたが、こいつらの保護者兼ギルドマスターってわけだ」
「保護者というわけではないが……この三人、及びルリエルは我がギルドの大切な仲間だ」
そう言って、斬は荷馬車の後ろをついてくる大きな犬モンスターを一瞥した。
そういや、この犬だかモンスターだかに関する説明を一切受けていなかったことに一同は気づく。
キーファが尋ねる。
「こいつ、なんなんだ?犬なのか?それともモンスター?」
それに、ルリエルって?
今までの会話では、一度も出てこなかった名前だ。
キーファの疑問を肌で感じ取ったのか、斬が手招きする。
「ルリエル、皆に挨拶しろ」
犬モンスターの後ろについて歩いていた少女が、早足で荷馬車に追いついた。
彼女をひと目見て、ティルとキーファは首を傾げる。
いや、彼らだけではなくハリィやボブも首を傾げた。
パッと見て目立つのが、髪の色だ。紫の髪の毛をシャギーにしている。
続いて、瞳の色も特徴的である。見事なまでに、真っ赤だ。一体どこの生まれなのか?
「亜人……なのか?」
呟くハリィに首を振ると、ルリエルは小さく答えた。
「……違う」
「じゃあ、異世界の移住者?」
なおも追及しようとバージが話しかけるも、ルリエルからの返事はない。
「万事この調子ですのよねぇ」
エルニーが呆れた調子で割って入ってきた。
先回りか、スージも調子を併せる。
「ボク達にも教えてくれないんだよ。彼女、秘密主義だから」
本当か?と疑ってみたが、エルニーもスージも嘘をついているようには見えない。
ソウマは何か知っているみたいだったけど、と、スージは苦笑で締めくくる。
ソウマとは誰かと尋ねれば、ここにはいないギルドメンバーの一人であるらしい。
「身元もわかんねーよーな奴を、よく雇おうって気になったもんだな?」
シャウニィも探りを入れてみるが、斬やジロの応答は簡素なもので。
「だが、ルリエルは有能な術師だ。彼女を仲間に引き入れて正解だったと思っている」
むっつり答える斬。ジロも、荷馬車の上で頷いた。
「俺も、何度も命拾いさせてもらってるもんなぁ〜」
「まァ、別にいいンじゃねェか?」
さして興味なさそうに、ソロンが混ぜっ返してくる。
「赤い瞳や紫の髪の毛なンざ、ファーストエンドにゃ腐るほどいるもンな」
「ここはワールドプリズだぞ?」と、やり返しておいてから、ハリィはマジマジと彼の目を覗き込む。
これにはソロンのほうがドン引きして「な、ナンだよ?」と一歩下がるのを無視し、ハリィが小さく呟く。
「君の瞳も赤いんだな……だが赤というのも、案外綺麗なもんだ」
「何言ってやがんでぇ!」
何故かキーファが怒り出し、サッとソロンを庇う位置に飛び出した。
「ソッ、ソロンをナンパしようたって、そうは問屋が卸さねーぞ!」
何を勘違いしたんだか、素っ頓狂な事を喚く彼には「男を口説く趣味はないよ」と軽く手を振って追い払うと。
ハリィは改めてルリエル、それからシャウニィへも目をやった。
「しかし異端の容姿は、田舎の連中を警戒させる。二人には教会でお留守番してもらったほうがよくないか?」
「そういや」と、ジロが混ざってくる。
「そいつこそ、なんなわけ?ルリエル以上に怪しいんだけど」
指さしで怪しいと言われた方は、苦笑する。
「なんつーか、こっち来てからずっと、不審人物扱いされてばっかだな、俺」
「人物ッつーか人間扱いすらされてねェだろ、お前は」
ソロンも肩をすくめ、順に仲間を紹介した。
「そいつはシャウニィ=ダークゾーン。ダークエルフッつー、人間とは違う種族の召喚師だ」
「ショウカンシ?」
首を傾げるスージへ説明したのは、シャウニィ本人だ。
「異世界から精霊や魔物を呼び出す術を使う奴らの事だよ。もっとも、ここじゃ召喚はおろか普通の魔法も使えねーんだが。エネルギーの都合で、な」
「ふぅん」と判ったような、そうでもないような顔をして頷くスージに満足したか、ソロンが先を続ける。
「こっちの女はティル、ティル=チューチカだ」
「よろしくね」
ぺこりとティルが頭を下げ、スージが真っ先に反応する。
「こちらこそ、よろしく!あ、ティルさんは、おいくつですか?ボクは今年で二十歳になりましたけどっ」
「調子に乗りすぎですわ、スージ。女性に歳を聞くなんてハレンチですわよ?」
窘めるエルニーにも微笑んで、ティルは答えた。
「私は二十五歳だから、あなたより五つ年上ね」
「えぇー!?二十五?とてもそうは見えませんよぉっ、お若く見えますゥゥ〜」
そのうちハートでも飛ばしかねないはしゃぎっぷりに、ソロンが冷たく釘を刺す。
「ちなみに、ティは俺の女だかンな。手を出した奴は、腕の一本や二本の損失を覚悟しとけ」
「えぇーッ!?二本も持っていかれたら、腕がなくなっちゃいますよぉーっ」
どこかズレた論点である。
騒ぐスージを疎ましげに睨みつけると、ソロンは最後にキーファを顎で示した。
「こいつはキーファ、俺の幼なじみッてやつだ」
「ソロンの幼なじみにして大親友のキーファ=ジェネストだっ。いいか?お前ら、ソロンに近づく奴は足の一本や二本をブッたぎられても」
調子に乗ったキーファの戯言を、皆が一斉にハモッて遮った。
「近づかないから」
「え〜」と、何故か不満げなキーファへ、更に突っ込みが入る。いれたのはルリエルだ。
「ティルは、どうして足が二本とも無事なの?」
涼しげな顔をして、とんでもないことを言う。対して、キーファは笑顔で答えた。
「友達じゃなくて、恋人だから!俺から親友の座を奪わなければヨシとするッ」
「……時々、お前と親友ッてのが重荷に感じてくるぜ……」
ソロンがぼやいた独り言は、幸か不幸かキーファの耳には入らなかったようで。
どんよりと項垂れるソロンの肩を、キーファが強引に組んでくる。
「わはは、俺とソロンは誰にも邪魔できない堅い絆なんだっ!」
アホは、もう、ほっといて。ざっと一同を見渡し、ジロがハリィへ尋ねた。
「で、残る二人は大佐、あんたの部下ってやつ?」
「その通りだ」
間髪いれず、ハリィが頷く。
「一応、二人の名前を教えておこう。ボブ、それからバージニアだ」
「よぅ。結局犬の話は、うやむやにされちまったな?」
黒人に上から睨み付けられ、ジロは帽子を被り直す。
ひさしで目元を隠すと、言い訳程度に呟いた。
「忘れてただけだよ。その犬の名前はガロン。ルリエルの友達さ」
ラルフは確かにモンスターと呼んでいた。
だが飼い主の友達が犬と呼ぶなら、ガロンは犬なのだろう。
それ以上、深く追及せず、一行は立ち止まる。
いつの間にか大通りへ続く道に到着していた。

教会へ留守番させるにしても、あんな別れ方をしたばかりである。
エリックと再会するのは気が退ける、と反対するティルに負けて、一行は異形の輩も連れていくことにした。
ただしルリエルにはフードのついたローブを被せ、シャウニィとアルは荷馬車の中へ潜らせた。
「アッツ〜イ!」
荷台に積まれた藁の中へ潜り込んで、さっそく文句を言うアルへ、ボブがニッカと歯を見せる。
「いいか、そこから一歩でも出てくるんじゃねぇゾ?でてきたら、お仕置きだ」
「お仕置きって?」
即座にティルが反応し、絡んでくる。
「乱暴するつもりなの?か弱い女の子に」
「亜人のどこが、か弱いってんだよ」
ボブはブツブツぼやいたが、荷馬車からティルへ目線を移すと、彼女の胸元へ目をやってニヤついた。
「そうさなぁ、オッパイでも揉んでやるか」
揉むほどの胸なんて、アルにもティルにもありゃしなかったが。
しかも、ティルからはバシンと殴られる。
「エッチ!」
加減も容赦も全くありゃしない渾身の一撃に「アウチッ!」とボブは飛び上がり、殴られた背中をさする。
殴られた箇所はジンジンと痛んだから、もしかしたら腫れ上がっているかもしれない。
ったく、今のやりとりがレピアとだったら、きっと楽しいものになっていただろうに。
何が悲しくて貧乳二人を相手に、こんな会話を繰り広げなきゃならんのだ。
不意に首筋に殺気を感じて、ボブは勢いよく前へ飛びのいた。
「うぉっとぉ!?」
傍らを歩いていたハリィが、不思議そうに首を傾げる。
「どうした?ボブ」
「い、いや……今、なんか背後に殺気を感じて」
もう感じない。今のは一体、何だったんだろう?
首を捻るボブの背後で、ソロンがゆっくりと剣を鞘に収める。
瞬間的に放たれた殺気は、とうに四散していた。
それに気づいたバージが、おどけてみせる真似をする。
「危なかったな。軍曹も間一髪ってやつだ」
けれど、と続けてソロンを窘めた。
「居合いの腕は仲間じゃなく、敵に向けて放ってくれなきゃ」
それには答えず、ソロンは無言でボブの背中を睨みつける。あの野郎、今度同じ冗談をティに飛ばしてみろ。
腕の一、二本じゃ済まさねェぜ。などと殺気ばしって睨んでいたら、ティルのほうが振り返った。
「そういえばソロン、あなた、いつ剣を買い換えたの?それに額当ても外しちゃっているみたいだし……」
「ン、あァ、この剣は海賊ントコから貰ってきた」
ソロンが腰に差しているのは凶悪な湾曲を描いた剣、というよりは刀に近い造形だ。
一般にシミター、或いは三日月刀と呼ばれる武器で、海賊や山賊が好んで使う。
貰ってきたと彼は言っているが、大方、海賊船から無断で失敬してきたに違いない。
だがしかし、ティルは剣より額当てのほうが気になるようで、再度尋ねてよこしてきた。
「ふぅん……で、額当ては?」
「ン〜、まァ、その」
ソロンの歯切れは悪い。唐突に荷馬車の中から返事がきた。
「捨てちゃっタ!」
「捨てちゃったぁ?」
思わずティルの声は裏返る。
さもあらん、あの額当ては彼女がプレゼントしたものだ。以前つけていた奴の代わりとして。
アルが答えた。
「剣も額当てもボロボロだったカラ、捨てちゃったヨ。何?大事なモノだったノ?」
「うん、まぁ……ね」
今度はティルが歯切れ悪く頷き、ソロンを上目遣いに見る。
「あれ、金属製だったのに……額当てがボロボロになるほど酷い目にあったのね。だから、あの時も包帯ぐるぐる巻きだったんだぁ」
額当ての有無如きで詰ってしまったことを、早くも後悔しているようだ。瞳が潤んでいる。
ティルが泣き出す前に、ソロンは慌てて彼女の謝罪を遮った。
「だがよ、今は完治したンだ。額当ては、その、残念な事になッちまッたが、もしティがよかッたら、またプレゼントしてくれると俺も嬉しいぜ」
早口で捲し立てるソロンに対し、ティルはぽぅっと頬を赤く染めて、俯いた。
「……うん」
そんなやりとりを斬は横目で薄く眺めていたが、見えてきた民家の前で立ち止まると一行を促した。
「この街は、さして広くない。分散するよりも共に行動したほうが良かろう」
「そうか?」
即座にボブが異を唱える。
「小さいからこそ、分かれて情報集めしたほうが」
そのボブにマッタをかけたのは、ハリィ。
「いや……邪教徒の件もある。ここは慎重に」
だが「あぁっ!?」と、いきなりボブが大声を出したので、ハリィの言葉も途切れてしまう。
「どうした?」
「レピアは!? レピアと一旦合流しねぇと」
ボブが通信機のスイッチを入れようとするもんだから。
慌ててハリィは、彼の手から通信機を叩き落とした。
「バカ、通信は遮断するって言ったばかりだろ」
「わ、悪ィ……」
メイツラグへ行く直前、ボブには、ここシュロトハイナムを。
レピアにはクレイダムクレイゾンの探索を任せていた。
ボブをメイツラグへ呼ぶ際、シュロトハイナムの担当をレピアに変えていた。
だから、彼女もシュロトハイナムにいるはずなのだが――一向に現われる気配がない。
「レピアというのは貴殿の部下か」
斬の問いへ頷き、ハリィは思案に暮れる。
レピアがまだシュロトハイナムにいるなら、是非とも合流したい。
金色の太陽が、この街にいると判った今、邪教徒なんかに関わっている場合ではない。
しかし、どうやって連絡を取る?通信機を使えば最後、騎士団がすっ飛んでくるだろう。ハリィ達を捕まえる為に。
「まぁ、小さな街だ。うろついている間に見つかるかもしれん」
歩き出そうとするハリィの前に、すっと手が差し出される。
「待て」
止めたのは斬だ。前方を鋭く睨みつけ、僅かに腰を落とした。
「……何か来たのか?」
ひょいと背伸びして遠方を見やるバージに続いて、ソロンも前方の気配を軽く探ってみる。
「団体だ……」
「団体?」
聞き返したティルは、すぐに気配の主を見ることとなった。
前方から、ざっざと足並み揃えて歩いてくる軍団がある。ひと目見た途端、ボブが騒ぎ出した。
「や、やべぇッ!もう追っ手がきやがった!!」
身を翻したボブを見て取ったか、軍団がいきなり駆け足になった。
逃げる暇もなく一行は、近づいてきた連中に、ぐるり一周を囲まれてしまう。
「……バカ。不審な行動を取らなきゃ囲まれずにすんだはずだぞ」
窘めるハリィに「悪ィ」と何度目かの謝罪をかまし、ボブも身構える。斬、それからソロンは早くも抜刀していた。
一行を、ぐるりと囲んだのは、どれも黒い鎧に身を包んだ騎士達。
レイザースが誇る陸軍の一部隊、黒騎士団の連中だ。
「問答無用で捕まえようッてンなら、こッちだって容赦しねェぜ」
殺気立つソロンを、手で制する者がいる。黒鎧軍団を率いるリーダーは、彼らにも見覚えのある人物であった。
「乱暴をするつもりはない……剣を収めてくれないか」
「あんたは確か……アレックス?」
シャウニィの問いに金髪の若者は頷き、ハリィを見やる。
「グレイゾン総隊長の命により、貴殿の保護に来た。どうか、この場は我々に従って貰いたい」
ハリィ達がメイツラグを脱出する時間、それがレイザースへ伝達されるまでの時間を頭の中で計算しながら、ハリィが頷く。
「随分と早いお迎えだったな。それで?拘束された後は裁判でも待っているというのか」
辛辣な嫌味に首を振り、テフェルゼンが言い返す。
「拘束ではない。保護、と言ったはずだ」
「保護?体の良い言い回しじゃねぇってのか」
噛みつくボブにも首を真横へふり、黒騎士は一行の顔を見渡した。
「犯罪者手配を出しているのは、今のところ海軍のみだ。メイツラグから手配は回っていない」
「海軍、のみ?」と、口を挟んできたのは斬。
「陸軍では、扱いが違うと言うのか」
黙して頷いたテフェルゼンは、まっすぐにハリィを見据える。
「陸と海では、管轄が違う。それに……手配が回ったとしても、総隊長は諸君等を匿うおつもりだ」
何故か?それは言われずとも、大体判る。一行の中にハリィがいるからだ。
グレイグとハリィは友達である。
しかし、軍人としての任務を放棄してでも庇いたくなるほどの仲とは。馴れ合いにも程があろう。
ワラの中で呆れるシャウニィの前で、軍人と仲間達のやりとりは続いていく。
「拘束するつもりがないなら、ついでに一つ、お願いを聞いてくれないか」と条件を申し出たのはハリィだ。
先を促す黒騎士に、彼はこう答えた。
『金色の太陽』を捜す手伝いをしてくれれば、大人しく保護されてもいい、と。
「金色の太陽……?」
怪訝に眉をひそめ、テフェルゼンは尋ね返した。
「何者だ、そいつは」
「しらねーの?騎士団のくせにぃ」
キーファに驚かれ、ややムッとしながら黒騎士の一人が反発した。
「騎士団といっても一枚岩ではないッ。我々黒騎士団の他にも、白騎士、魔術師、司祭など小隊が幾つもあっては全てを把握しきれなかったとしても、致し方ないのだッ」
把握できていなかったくせに、威張っている。
「その異名からすると、騎士ではないな」
テフェルゼンの呟きに、ハリィも頷く。
「あぁ、魔術師だったそうだ」
今は隠居の身で、名前をクローカーと変えて、姿も若い男に変えて一人で住んでいる――
そこまで話して様子を伺うと、テフェルゼンは思案顔で考え込んでいる。
「何か心当たりでも?」
話を促してみたが、黒騎士団の隊長は、僅かに首を振ったのみだった。
「……いや。逆に心当たりがないので、少々気になった」
「心当たりがねェのは、当たり前じゃねェのか?元々知らなかったンだし」
ソロンも突っ込んでみるが、テフェルゼンは浮かない顔で否定する。
「メイツラグから移住してきたのだと言ったな……?だが、ここ数年、他国からの移住手続きは受理されていない。クローカーなる者が無断で住み着いたとなると、少々厄介な事になる……」
「でもよ、金色の太陽は元々レイザース軍のメンバーだったんだろ?」
キーファの質問には「出戻りでも、移住する時は移住届を出さないといけないんだよ」とハリィが教えてくれた。
しばし悩んでいたふうのテフェルゼンは、顔をあげて一同を見渡した。
「どうにも気になるな、そのクローカーという人物。諸君等が許可してくれるのであれば、俺も同行させてもらえないだろうか」
「え?あ、あぁ、どうぞどうぞ!」
許可したのは意外にも、ハリィではなくてスージであった。
勝手なことを、と憤るボブやバージを押しのけて、ささっとテフェルゼンの真ん前に立った彼は、一枚の色紙を差し出した。
「あの、同行ついでにサイン下さい!スージくんへ、って書いて下さいね!お願いします♪あ、それと一緒にスナップ写真も!」
怒濤の勢いで、つい色紙を受け取ってしまったテフェルゼン。
「あ……あぁ、判った」と、口の中で答えると、赤くなって俯いてしまう。
サインなど、真っ向から頼まれるのには慣れていないのであろう。
そんな彼の手を馴れ馴れしくも握りしめ、スージは颯爽と歩き出した。
「じゃ、まずは聞き込み開始といきましょう、騎士様!あ、アレックス様ってお呼びした方がいいですか?」
困惑の表情で項垂れる騎士を、ズルズルと引っ張っていく。
その、あまりにも恐れを知らぬ行動に、他の皆はポカーンとするばかり。
残りの黒騎士までもが唖然とする中、ソロンが斬へ、そっと尋ねた。
「なンだ、あいつ……女が好きなのかと思ッたが、あッちの気もありなのか?」
「……いや」
斬は短く答えると、スージの後を追って歩き出す。
「あれは地の性格だ。スージは誰に対しても距離ゼロで接する。俺と初めて出会った時にも、な」
初めて会った時も、やはり斬は黒装束に覆面といった怪しい格好だったのだろうか。
だとすると、スージの勇気には恐れ入る。
ともあれ、通りでボーッとしていても仕方がないので、一同は張り切るスージを追いかけた。

Topへ