act2 異端の者達


ハリィら傭兵チームによる『金色の太陽』捜索は、成果芳しくなく。
捜索開始から三日が経つ頃には、協力を申し出た海兵のジェナックも飽き始めていた。
「これだけ大勢で探し回っているってのに足取り一つ、つかめないんだ。爺さん、とっくにご臨終なんじゃないか?」
不謹慎な発言を同僚のマリーナが窘めるも、ジェナックに反省の色はない。
傭兵チームの一人、バージニアもジェナックの意見に賛成した。
「確かに、足取りはおろか噂の一つも流れていないってのは変ですよ。メイツラグに住んでいるなら、誰かしら目撃していてもいいはずなのに」
そして、もう二つの問題事も未だ解決していなかった。
ルクとソロン、この二人の捜索である。
「海に飛び込んで、どっちの方角へ泳いでいったかが問題なのよね」
唸るティルに、ハリィが尋ねる。
「彼は方向音痴なのか?」
「ンなこたぁねーよ」と、即座にキーファが首を振った。
「ソロンに限って言うなら百パーセントないね」
「じゃあ、なんで戻ってこないんだよ?」
バージのツッコミには、肩をすくめた。
「知らないよ、そんなの。俺はソロンじゃねーんだし」
それに、と続けて尋ね返す。
「そっちのルクって野郎こそ、どこ行っちまったんだよ?ふてくされて家出なんて、五歳のガキでもあるまいに」
ソロンは海賊と戦った時に、ルクはメイツラグで人捜しを始めた時に、消息を絶っている。
「俺達はまだ、アイツとは、つきあいが浅くてね。連携がうまくいってないんだよ、悪いな」
大して悪びれた様子もなく、バージが社交辞令程度に謝る。
リーダーのハリィはというと、何か気の利いた返事をするでもなく、窓の外を眺めていた。
「窓の外に何か面白いものでも見えるの?」
傍らに寄ってきたティルが尋ねると、ハリィは憂鬱な表情で答えた。
「いや。どうしたもんかと思ってね……このままメイツラグで捜索を続けるべきか、それとも一旦レイザースへ戻るべきか」
ボブは街へ出ている。
ルクを何としてでも連れ帰ってくると、鼻息も荒く出ていったばかりだ。
「大佐、この際ルクやソロンのことは後回しにするとして。『金色の太陽』の情報を、もう一度、騎士団長さんから聞き出して貰えませんか?」
バージの提案にも、ハリィは渋い返事をした。
「管轄外だ」
「え?」
「元々、賢者はグレイにとって管轄外の人物でね。彼は人伝えの噂を俺へ教えてくれたに過ぎない」
「管轄外って……『金色の太陽』って人は陸軍に所属していたんじゃ、なかったの?」
ティルの疑問に首を振ると、ハリィは訂正した。
「グレイが騎士団長になったのは、割と最近なんだ。賢者が陸軍にいたのは、前任時代の話らしい」
「まぁ、爺さんだしな。それぐらい前の話だったとしても、俺は驚かないぜ」
シャウニィが嘯き、ジェナックも頷く。
「では騎士団長に話を聞いても、それ以上の情報は出せないか」
「そういうことだ」
ハリィが頷いた時、部屋のドアが勢いよく開かれる。
「大変だ、ハリィ!街に、首都の上空にドラゴンが出現しやがった!!」
息を切らせて飛び込んできたのは、ボブだ。
とんでもない知らせにハリィは勿論、バージやマリーナも腰を浮かせる。
「ドラゴン!?」
「なんでドラゴンが、メイツラグなんかに!?」
「ドラゴンですって?本当なの!?」
三方向からの問いに頷くと、ボブはハリィの腕を掴んで出発を急かした。
「上空を旋回するだけで、まだ何もする気配はねぇが、軍人どもが大騒ぎしてやがる!あいつらが大砲をブッ放したらヤバイことになっちまうぞ!!早く止めにいこうぜ、ハリィッ」
「し、しかし」と、ハリィは彼にしては腰が重たく、マリーナを振り返る。
「第三者の命令で攻撃を止めてくれるほど、君達海兵は従順なのか?」
マリーナは即座に頷いた。
「大佐、あなたの後ろ盾はグレイゾン騎士団長です。あなたの命令は、レイザース軍の総意と同じです。ですから海軍は全て、あなたの命令に従います。ドラゴンに攻撃を仕掛けては、亜人の島との戦争になってしまいます。急ぎましょう!」

果たして首都の大通りへ飛び出してみると。
ボブの言うとおり、上空を旋回しているのは緑色の巨大な影。ドラゴンだ。
「亜人の島から来たのか……?しかし、何故」
訝しがるハリィの腕を引っ張って、ティルが騒いだ。
「それよりも、見て!あっち、海にいるのって軍艦じゃないの!?」
彼女の指さす方向を見てみれば、なるほど、確かに大きな船が一艘二層、近海に浮かんでいる。
はためいているのはメイツラグの国旗だから、メイツラグ海軍の船だろう。
どの艦も、大砲が上を向いている。ドラゴンを撃ち落とす気満々なのは、誰の目にも明らかだ。
「大砲で撃ち落とせるモンなのか?」
のんびりしたシャウニィの問いへ、即座にボブがわめいた。
「撃ち落とせるワケねーだろが!!」
ハリィやマリーナも同様に、首を振る。
「大砲で倒せる程度の相手なら、俺達が慌てるわけもない。問題は反撃だ。ドラゴンがブレスを吹けば、やられるのは軍艦だけじゃない。街中が火の海に包まれるぞ」
「へぇ〜」
感心した調子でキーファが口笛を鳴らす。
「こっちのドラゴンってなぁ、強いんだねぇ。俺達の世界じゃ――」
慌ててティルが彼のクチを押さえるも、一歩遅く。
「俺達の、世界?」
怪訝に眉をつり上げて、ジェナックに言葉尻を捉えられた。
「そんなことより、いいのか?あのままほっといたら、大砲を撃っちまうぜ」
だが、シャウニィに促されてハリィ達が走り出す。
ジェナックも、それ以上キーファを追及する事もままならず、彼らの後を追って走り出した。
「……もう。言葉には気をつけてよね」
こそっとティルが耳打ちすれば、キーファも案外素直に「悪ィ」と謝ってくる。
しかし、とも続けて彼は上を見上げた。ドラゴンは旋回しているばかりで、襲ってくる気配が全くない。
「軍艦まで出して大騒ぎするってこたぁ、過去にドラゴンは街を襲ったことがあるんだよな。多分。なら、今回もそうじゃないって誰が言い切れるんだ?攻撃を止めさせた後に襲われたんじゃ、ハリィだって責任を取りきれないんじゃねーの」
「それはそうだけど」と、ティルも上空を一瞥してから答えた。
「初めに襲われた時、どっちが先に攻撃を仕掛けたのか。それが問題よね。もし人間が先に攻撃してドラゴンとの仲が悪くなったんだとしたら、今回は止めないとまずいんじゃない?」
駆けつけた一行に気づいたのは、軍人達のほうが先であった。
息せき切って立ち止まったマリーナへ走り寄ってきたのは、ファーレン海軍将校のカミュだ。
「君達も来たのか!良かった、ちょうど迎えを走らせようと思っていた処だったんだ」
「そのことで、お話が!ドラゴンへの攻撃を止めさせて下さい、今すぐに!!」
間髪いれず怒鳴り返してきた彼女に、カミュが目を白黒させたのも一瞬で。
すぐさま「僕の一存では決められない。メイツラグと交渉しなければ」と渋い顔で応えた。
そのカミュの襟首を、ぐいっと引っ張りジェナックが鋭い眼光を飛ばす。
「交渉?している間に下っ端が撃っちまったら、何もかもがお終いになるんだぞ」
脅されてもカミュは怯むことなく、逆にジェナックを睨み返した。
「メイツラグ海軍の雑兵に、そこまでの度胸はないさ。とにかく攻撃を止めるも続けるも、メイツラグ海軍の意志を聞かないことには――」
しかし最後まで言い終える前に、雑兵達の悲鳴で掻き消される。
「突っ込んでくるぞ!ドラゴンが、こっちに突っ込んでくる!!」
「うわぁぁぁぁっっ!」
続いてゴォォ……と、風を切る音が近づいてきた。
なんと、緑色の塊が、まっすぐ地上を目指して突っ込んで来るではないか!
「や、やっぱり!攻撃するつもりだったんだ!!」
キーファまでもが慌てふためき唾を飛ばし、ティルは負けじと身構えた。
「だとしても!簡単にやられてたまるもんですかッ」
炎、或いは毒、氷嵐といった強烈なブレスを吐き、鋭い爪と牙を持つ凶悪なモンスター。
強いが、絶対に勝てない相手ではない。
ティルは一度だけドラゴン相手に勝利したことがある。ただし、ファーストエンドでの話だが。
「間に合うか……!」
バージがライフルを構え、撃とうとするが、直前でハリィの待ったが入る。
「待て!ドラゴンの背中に、誰か乗っている……!?」
「えっ!?」となって、誰もがドラゴンの背中へ目を凝らす。
そうしている間にもドラゴンは近づいてきて、とうとう地上へ降り立つと。
巨大な翼は、ぶわぁっと一面に砂嵐を巻き上げ、そこら一帯、何も見えなくなってしまった。
「ぶえっ!ゲホッゲホッ、なんてことしやがんだよ、このクソドラゴンはぁっ」
悪態をつくシャウニィの耳に、聞き慣れた声が届いてくる。
「よォ、相変わらず元気そうで安心したぜ。シャウニィ」
思いがけぬ一言に、シャウニィは目をパチパチと瞬いた。
「ソロン、ソロンなのか!?」
見えないまでも、声の方向へ手を伸ばせば。その手を、ぎゅっと掴む者がある。
「クソドラゴンじゃないヨ?アルだヨー」
見覚えのない子供がシャウニィの腕を掴んで、ニッと笑いかけてきたもんだから。
シャウニィは思わずアッとなって、子供の手を力一杯振りほどいた。
何事にも動じない彼にしては珍しく。

――やがて、一面を取り巻いていた砂の煙が晴れてくると。

降り立ったはずのドラゴンの姿は、どこにもなく。
代わりにドラゴンの着陸地点に立っていたのは、小さな少女が一人。
そして、髪の毛を逆立てた青年が一人。
「ソロン!!」
真っ先にティルが駆け出し、逆毛の青年へ飛びつく。
飛びつかれたほうは、よろめくでもなく、しっかりとティルを受け止めた。
「よォ、ティ。二日、いや三日ぶりだッたか?留守にしちまッて悪かッたな」
「何よ、もう、馬鹿……無事なら無事って、連絡ぐらい寄こしなさいよぉ……っ」
ティルがグスグス泣いているのは、目に砂が入ったせいか、それとも嬉し泣きか。
どのみち、次にしなきゃいけないのは言い訳だ。と、ハリィは周囲を一瞥して頭を抱えた。
なんだってドラゴンに乗って現われなきゃいけないんだ。
例えソロンの漂流先が亜人の島だったとしても、そこから筏で戻ってきてくれりゃ〜いいものを。
周り一帯は、すっかり軍人で取り囲まれている。
どの顔も警戒、或いは猜疑心の塊だ。銃を構えている者もいる。
「おい、貴様等はドラゴンの仲間だったのか?」
ジェナックが声をかけてきた。
彼もマリーナも警戒しており、カミュを守る位置で身構えている。
「冗談じゃねーぜ!」
即座にボブが答え、ハリィも肩をすくめる。
「そこの彼は俺達の仲間だがね。ドラゴンは知らない、初の顔合わせだよ。どうやら俺達の与り知らぬ場所で、ドラゴンを仲間にしてしまったらしい」
「……ふざけるなッ!!」
ジェナックには冗談も通じなかったようで怒鳴り返された。
「ドラゴンを使って、何を企んでいる!?貴様がメイツラグへ来たのは、本当は何が目的だ!!」
がなり立てるジェナックを肩越しに押さえつけ、カミュが必死で止めに入る。
「待てよジェナック、彼の持つ透かし刻印は本物だったんだぞ!」
「それがどうした!!」
吼えるジェナックに、マリーナも横から口を挟む。
「ハリィ大佐がグレイグ=グレイゾン総団長の命令で動いているという、動かぬ証拠よ!」
そこへ、場の空気を読まぬ一言が割り込んでくる。
「よォ、ずいぶん殺気立ってるみたいだが、何があッたンだ?」
くるっと一斉に振り向き、三人が怒鳴り返した。
「お前のことで騒いでいるんだ!!」
ソロンはキョトンとした顔でティルとキーファ、それからハリィ達へも目をやり、首を傾げる。
「……そうなのか?」
苦虫を噛み潰した顔でハリィは頷き、カミュ少尉の元へ一歩近づいた。
「驚かせてしまって申し訳ない。だが彼がドラゴンに乗って戻ってきたのは、こちらも予測の範囲外だった」
ハリィには黙礼で返し、カミュがソロンへ極力穏やかに話しかける。
「と、ハリィ大佐は申しておりますが……君は、どうしてドラゴンに乗って、こちらへ?」
対してソロンは悪びれるでもなく、平然と答えてよこした。
「ン?流れ着いた先がアジンの島ッてトコでよ。そこでドンゴロッつー爺さんが、メイツラグへ行くならドラゴンに乗ったほうが早いッつーから従ったまでだ」
「ドンゴロ!?」
カミュは飛び上がった。
「もしかして、賢者ドンゴロ様ですか!?」
もしかしなくても、ワールドプリズでドンゴロを名乗ってよいのは、賢者である本人しかいない。
偉大なる呪術師であり、世界の理を知る、ただ一人の賢者。
レイザース住民は言うに及ばず、つい最近まで他国の住民だったカミュでも知っている。
「ドンゴロ様にも、お会いしたのか……」
ハリィまでもが唖然としているのを見て、ソロンは、またまた首を傾げる。
「そンなスゴイ奴には見えなかッたぞ?ただの老いぼれ爺さんだッたぜ」
「バカ野郎!!」
直後、ボブには殴られる。
文句を言い返そうと口を開くソロンに、言う暇も与えぬほどの早さでボブが怒鳴り散らした。
「お前が知らないだけで、すごい御方なんだよ!このワールドプリズで唯一、世界を見渡す力をお持ちあそばすんだからな!」
口の悪いボブが敬語になるぐらいだ。皆から一目置かれた存在だというのだけは、なんとなく判った。
しかし、とカミュがソロンを見た。
「ドンゴロ様をご存じないとは一体、君は……君は、どこから来たのです?少なくとも、レイザースの住民ではありませんね」
レイザースの住民なら、ドンゴロの名は誰でも知っている。
何故なら、レイザースこそがドンゴロの生まれ故郷であるからだ。
彼もまた、かつてはレイザース騎士団に所属していた術師であった。
「ドコだっていいじゃねーか。そんなに気になることかぁ?」
シャウニィが異議を唱えるが、ジェナックに厳しい視線で睨まれオットットとなる。
「気になるに決まっている。レイザースでもない、ファーレンでも亜人の島でもメイツラグでもないとしたら、貴様らは一体、どこの住民だと言うんだ?」
「決まってンだろ」
ソロンが答える。
ハッとなったハリィが慌てて止めに入る暇もなく、直球全開で言ってしまった。
「俺達は異世界から来たンだ。ファーストエンドッてトコからな」
一拍の静寂が場を包み込み――そして。


「ファーストエンドォォォッ!?」


軍人全員の大合唱が、大通りを包み込んだ。



いくつもの足音が大通りを駆け抜け、港へ出る。
「あぁ!もうッ。次からは、ちゃんと教えこんでおけよなッ。言っちゃダメな事と言っていい事の違いを!!」
わめくボブを手で窘め、ハリィは渋々頷いた。
「教育が足らなかったことは認めるよ。だから、今は逃げることに専念してくれないか?」
言い返しながらも目は船を求め、軍艦でも商船でもないのを一隻見つけると、そちらへ走り寄った。
船員の制止も振り切って甲板へ駆け上がると、すぐさま船長らしき人物を呼び止め頼み込む。
「船を出してくれ、大至急だ!金は払う、海軍に追われているんだッ」
「海軍だァ?いってぇ何したんだ、てめぇら」
海賊旗はためく甲板で怪訝に問い返されるも、ハリィは船長の両手に大金を叩きつける。
途端に目の色を変えて「いいだろう、で、行き先は?」と嬉々として尋ねてくる海賊へ早口で答えた。
「シュロトハイナムに一番近い港町なら、どこだって構わない!」
「ど、どうして、そのシュトロ、シュロロ、ハイナムへ?」
もつれ気味に尋ねてくるティルを一瞥し、ハリィは憮然とした顔で応える。
「レイザース首都近郊の港には、既にカミュ少尉の連絡が入っているはずだ。ひとまず田舎まで逃げて、追々対策を考えよう」
何も知らない海賊の親分が、大声で子分へ号令をかけた。
「オーケー。んじゃあ大きく迂回してレイザースのド田舎を目指すぜ、野郎共!」
オー!という鬨の声をBGMに、ハァハァと息を切らせたシャウニィが甲板へ腰を下ろす。
大通りからココまで、休みなしで一気に駆け抜けてきた。インドア系のエルフにとっちゃ大した運動量だ。
「シュ、シュトロハイナム?につくまで、ちょっと休ませてくれや……」
だが、状況はダークエルフにとって、どこまでも無情のようで。バージが後方の海を指さした。
「そうも言ってらんねーみたいだぞッ、後ろを見ろ!」
後ろから追いかけてくるのは、見間違えようもない軍艦だ。メイツラグの国旗がはためいている。
「任せろよ。メイツラグ軍の船なんざぁ、振り切ってやるッ!」
何故か、海賊のキャプテンは大張り切り。
勢いよく舵を切るもんだから、船は急旋回。甲板にいた全員がバランスを崩して、スッ転んだ。
「た、大佐、でもルクの件は、どうするんです?」
ライフルを杖に、よろよろとバージが立ち上がれば、ハリィは憂いの目で振り返る。
「ルクには悪いが、緊急事態だ。それに、あいつも傭兵なら、街で聞き込みすれば俺達に何があったかぐらいは判るだろ」
ソロンが海兵達に身元をバラした後――
すぐさま身柄を捕獲されそうになり、一斉に飛びかかってきた海兵から逃げてきたという次第である。
甲板を見渡すと、アルといったか、ソロンと一緒にいた謎の少女も、ちゃっかり乗っている。
混乱のどさくさに紛れて逃げたということは、彼女も海軍に捕獲されては困る身なのであろう。
亜人の島の住民である可能性が高い。
「アルといったね。君が、ソロンをドラゴンで送ってくれたのかい?」
ハリィの問いに少女は首を振り、満面の笑顔で答えた。
「アルがソロンを送ったンダヨ!」
ハリィが言葉の意味を把握する前に、ソロンも口添えする。
「ドラゴンで送ったンじゃなくて、アル自体がドラゴンなンだ。お前らも見たらビックリすンぜ?こんな小っちゃいのが、一気にでかくなるンだからな!」
「……ハァ?」
首を傾げるボブとは対照的に。あぁ、と、ティルが物知り顔で手を打った。
「竜人族と同じね、ファーストエンドの!ね、アル。あなたも人間に変身する事の出来る、ドラゴンなんでしょう?」
ティルに問われ、アルは今度も満面の笑みで頷く。
「そうだヨ!アルはドラゴンだヨ!」
「少女がドラゴンに変身……?」
そして、まだ状況を把握し切れていない傭兵達をチラリと見ると。
「ッタク、文明にすがって生きる人間はコレだから。マスターも嘆いてたヨ?アジンの島を理解できない、レイザース人の物わかりの悪さに!」
さも残念そうに、肩をすくめてみせたのだった。

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