act3 王国

夜になった。
ついてこい、と促されるままにアパートを出た四人は、灯りも持たず山道に入る。
月明かりだけを頼りに進む中、ハリィが小声で囁いた。
「今から行く場所は、まだ騎士団にも知られていない極秘の場所だ。歩きづらいとは思うが、我慢してもらえるか」
「何故、そんなところに私たちを連れて行きたいの?」
ティルが当然の質問をする。
足下で、ぽきりと小さく小枝を踏む音がした。
それがやけに暗闇へと響き、彼女は慌てて足を引っ込める。
「昼にも言ったが、君達は異世界の住民だ」
ティルに手を差し伸ばしてやりながら、ハリィは続ける。
「俺達ワールドプリズの住民では判らない知識が、あるんじゃないかと期待しているんだ」
二人の間に割って入り、ソロンがティルの腕を取る。
ハリィには指一本として、ティルに触らせまいとするように。
ソロンのさり気ない嫉妬に苦笑しながら、今度はシャウニィがハリィへ尋ねた。
「俺達の知識ってぇと、例えば魔法の知識か?」
「そうだ」と、差し伸ばした手を引っ込めて、ハリィが頷く。
「俺達の世界にも魔法はある。だが、その知識と技術は未熟と言っていいだろう。少なくとも亜人種がいない分だけ、他の世界よりは遅れていると見ていい」
シャウニィは「なるほど、なるほど」と満足げに頷き、前方へ目をこらす。
山道は真っ暗だが、夜目の利くダークエルフには、うっすらと洞窟の入口らしきものが見えていた。
「正確には、この俺の魔導知識をお借りしたいと。そういうわけだな?」
「そういうわけだ」
ハリィも頷き、再び一行は無言で歩き出す。
滝の流れる音が近くなってきた。
それに伴い、山の傾斜も険しくなる。ごつごつした岩肌を手探りに、一歩一歩慎重に進む。
足下は苔で滑っている。うっかり走ったりしようものなら、足を滑らせて大惨事になりかねない。
「もうすぐだ。がんばんなよ、エルフのお兄さん」
ローブで歩きづらそうなシャウニィへ手を貸すと、レピアはぐいぐい先導していく。
やがて先頭のボブが終点を告げる頃には、全員が洞窟の入口に到着した。
「この奥に、君達へ見せたいものがある」
ようやく灯りに火を点し、ハリィが皆を手招きする。
「まだ歩くのかよ?」と、ぼやいたのはシャウニィだけで。
他の三人が黙って頷くもんだから、ダークエルフも渋々降ろしかけた腰をあげた。
「なんだったら、あんたはあたしが担いでってあげようか?」
シャウニィを半分引っ張る形で連れてきてくれたレピアが、そう申し出た。
有り難い言い分だが、いくら力強いからといっても女性に担がれるのは、少々情けないサマである。
非力で体力もないエルフにだって、一応、男のプライドというものはある。
なので、彼はやんわりと申し出を却下した。
「あんたを俺が担ぐってんなら大賛成だがな、その逆はお断りだ。いいよ、自分の足で歩いていくから心配すんなって」
「そうかい。あまり無理するんじゃないよ、疲れたらいつでも声をかけな」
レピアにはポンと背中を叩かれ、続くボブにはジロリと睨まれる。
「なんだよ?」
挑戦的にシャウニィが睨み返すと、黒人は眉間に皺を寄せて脅しをかけてきた。
「……あまり調子に乗ってるんじゃねぇぞ?黒野郎。あれは俺の女だ、気安い声をかけるんじゃねぇ」
自分だって真っ黒な肌をしているくせに、人をクロンボ呼ばわりとは。
「おい、ハリィ。とっとと入って、さっさとお知恵を借りようぜ!これ以上のんびりやってたら、魔導以外の知識も見せられるハメになっちまう」
レピアの尻をシャウニィの視界から隠すように、ぴったりと彼女の後ろについてボブが歩き出す。
どいつもこいつも、余計な気を回しすぎである。
再び苦笑して、シャウニィは一行の最後尾に付いた。

洞窟の中は意外や明るく、そして心なしか暖かい。
足下はツルツルしており、その理由が苔ではなく磨き抜かれた岩のせいであるとソロンは気づく。
自然に磨かれたものではない。人工的に磨かれたものだ。
内部が明るく感じたのも、ハリィの持つ灯りが床や壁に反射しているからだ。
洞窟内には幾つかの横道が伸びており、どの道も壁がツルツルに磨き上げられている。
そして洞窟には必ずあるといってもいい苔類の植物が、一本として生えていなかった。
誰が何のために、このような手間をかけたのだろうか?
ハリィ達に聞いても判るまい。
彼らも、この奥にある何かの知識を得たくてソロン達を頼るぐらいなのだから。
「ここだ」
小さく呟き、ハリィが立ち止まったのは岩壁の前。
すぐさま「行き止まりじゃねーか」と後ろのキーファが文句を言うが、ハリィは構わず壁に手をつく。
カタリと小さな音がして、なんと、壁が真横にスライドした。
シャウニィが感心した様子で呟く。
「シークレットドアかよ。しかし後ろでも前でもなくて、横に開くたぁ変わってんなァ」
「このドアもだけど……全体的に、ちょっと人工的な作りよね?」
恐る恐る壁に手をつき、ティルがソロンへ目を向けた。
彼女も気づいていたのだ、この洞窟が誰かの手で造られたものであることに。
「……あいつらでも判ンねェモノが置いてある洞窟なンだ。ここが自然洞窟じゃなかッたとしても、俺は驚かないぜ」
そろそろと壁伝いに、ハリィ達の潜り抜けたドアの先へソロン達も入り込んだ。

部屋に入って、まず目に飛び込んできたのは、大きな水晶。
その中に入っているのが女性、それも人間ではない亜種族と知った時。
極秘という事も忘れて、四人は思い思いに声をあげていた。
「な……なンだ?こりゃ……」
「なッ、何!?これぇっ」
「ひ、人だ!人が入ってやがんぞ、コレェッ!!」
「魔族だ……なんで、この世界に魔族がいやがんだ?」
シャウニィの呟きを耳にして、ポカンと水晶を見上げていたソロンが振り返る。
「魔族?お前は、あの中に入ってンのが魔族だッて言うのか?」
「マゾク?なんだ、そりゃあ」とボブも会話に混ざってきて、皆がシャウニィに注目する。
視線を浴びることには慣れているのか、ダークエルフは悠然と皆の顔を見渡し咳払いを一つ。
「水晶に生き物を封じ込めているってこたぁ、あれを造った奴の求める物は魔力と見て間違いねぇ。魔力の高い生物を順にあげていけば、あれが魔族か妖精族であることは誰にだって判らぁ」
誰にでもと言うが、この場にいる彼以外の全員が判らなかったのである。
今もキーファやソロン、ティルやボブなんかは、ぽかーんとシャウニィの顔を見つめている。
ハリィだけが把握したような表情で頷いた。
「つまり、これを造った者は水晶の中に生物を閉じこめることでその生物から生態エネルギーを吸い取ろうとした……そういう意味で合っているか?」
当たり前だと言わんばかりの呆れジト目で頷き、シャウニィは水晶の後ろに回ってみた。
やっぱりだ。
水晶の後ろには細くて長い紐が伸びており、それが隣の四角い箱と繋がっている。
「こいつぁ、魔導というよりは機械都市の技術に近いな」
「キカイトシ?」
またまたボブに尋ね返され、ダークエルフは頷いた。
「俺達の世界には機械ってのもあるんだよ。まッ、俺も詳しく知ってる訳じゃないんだが。けど、機械を見た事ならあるぜ。ギルドでさ、時折試作品を買い求めたりするんだよ。こいつは、その試作品、マナを集める機械ってのと、よく似てるなぁと思ってね」
「君達の世界にも機械が……」
ハリィが小さく呟くのを、ソロンは聞き逃さなかった。
どうも、この世界。ハリィの言葉を借りると、名はワールドプリズというらしいが。
異世界という割には、ファーストエンドと似ている部分が多々あるようだ。
全く違う世界だと期待していたソロンとしては、少々がっかりな展開になりつつある。
だがソロンの喪失感などそっちのけで、シャウニィとハリィは、どんどん話を進めてゆく。
「こいつの作成者は、誰だか判らねぇのか?」
シャウニィが問えば、彼らは揃って首を真横に振り、事の起こりをハリィが語り出す。
「こいつを最初に見つけたのは俺達じゃない。とある、名も無きトレジャーハンターだ。発見したものの、そいつでは手に余ったのか俺達へ相談を持ちかけてきた。この装置からはヤバイ匂いがする、誰が何のために造ったのかを調べて欲しい……ってね」
「騎士団には何で知らせないの?宮廷にはお抱えの魔術師ぐらい、いるんでしょう?」と、これはティル。
ハリィは頭を振り、肩をすくめる。
「事を公にして騒ぎを大きくしたくない」
水晶の真横にある四角い箱、色とりどりのスイッチがついた側面へ手をかけた。
機械には多少詳しいハリィですら、操作はおろか作動を止める方法すら判らなかった代物だ。
ボタンは何を押しても無反応、どの側面を見ても電源の切り替えスイッチらしき物もついていない。
「まず、俺達だけで判る範囲を調べておこうと思ったんだ。ここ数日レイザース中を駆けずり回って情報収集していた。そこへ現われたのが君達ってわけさ」
シャウニィがハリィの隣へ並び、彼の顔を覗き込む。
「俺達の世界にある知識と照合して……ってこたぁ、あんたはコレが異世界の産物である可能性もあると考えてるのか?」
ハリィもシャウニィを見て、微かに微笑んだ。
「考えられる可能性なら何でも頭に入れておきたい」
ふむ、と頷いたシャウニィは、再び水晶の後ろに回り込む。
細い線を持ち上げて、くいくいと引っ張ってみた。
線は頑丈に取り付けられており、ちょっとやそっとじゃ抜けそうになかった。
続いて色とりどりのスイッチに目を向け、スイッチの側に小文字で何か書かれている事に気づいた。
目を細め、じぃっと眺めたものの、彼には理解できなかった言語のようで。
「……この世界の言語か?」
ハリィに尋ねると、彼は首を振る。
「いや。辞書と照らし合わせてみたんだが、どの国の言語でもなかった」と答えた。
「ふぅん……じゃ、やっぱりこいつを造ったのは魔族か?しかし魔族が同族を捕らえるかねぇ」
ブツブツ呟きながら、なおもシャウニィが水晶の側へ近寄った時。レピアが短く叫んだ。
「大佐、表に人の反応が現われたよッ」
人の反応?反応というのは、気配の事だろうか。
慌ててソロンが周囲の気配を探ってみれば、確かにいる。
洞窟通路、つまり一行が通ってきた隠し扉の向こう側に、複数の気配を感じた。
殺気は今のところ感じないが、どの気配からも緊張が伺える。
息を潜め、ソロン達の様子を探っている――そのような気配であった。
それにしてもソロンですら気づかなかった気配を、誰よりも先に勘づくとは。
レピアという女、ハリィの腰巾着だとばかり思っていたが、意外と侮れない。
「あンた、すげェな」
ソロンが素直に褒めると、レピアは心底小馬鹿にした視線を彼に向ける。
「バカ、これだよ、これ」
そう言って、ポンと手渡されたのは、折りたたみ式の平べったい物体。
物体の表面には黒いシートが貼られており、そこに幾つかの赤い点々が輝いている。
何だか判らず首を捻るソロンに、レピアは説明してやった。
「人の気配を感知する機械ってやつさ。レイザースの傭兵なら、誰でも持ってる代物だよ」
そのレピアに、ハリィが尋ねる。
「何人だ?」
「全部で……十二人。この人数じゃ付近の住民じゃないことだけは、確かだね」
ハリィとボブが顔を見合わせる。ボブは露骨に舌打ちした。
「まずいな……」
「つけられたか」
二人の様子からしても、尾行してきた連中は只者ではなさそうだ。
そろそろと剣に手をやりながら、ソロンは尋ねた。
「通路にいる奴ら、何者なンだ。お前らの知りあいッてワケでもなさそうだが」
渋い顔で壁を睨みつけ、ハリィが答える。
「恐らくは騎士団の連中だ。俺達が山へ入るのを目撃した住民でもいたんだろう」
「騎士団が?善良な国民をつけ回すなんて、騎士団のやる行為じゃないわね」
憤慨した様子でティルが叫び、それをきっかけにしたのかどうかは定かではないが、突如壁が開かれる。
と、同時に真っ白い鎧を身につけた軍団が転がり込んでくる。
まばゆい灯りに目を焼かれ、ソロンもシャウニィも応戦の手が遅れた。
その間に、ばらばらと四方に散った騎士達は、瞬く間にソロン達を包囲してしまう。
「全員動くな!武器を捨てて、壁に手をつけろ!!」
灯りが水晶をも照らしだし、騎士団と思わしき連中がどよめくのを横目に見ながら、キーファがハリィに小声で問う。
「……どうするんだ?結局俺達、騎士団の厄介になっちまいそうなんだけど」
懐から銃、それから細々した器機類を取り出して、足下に並べながらハリィは答えた。
「レイザースの騎士団は優秀だよ。下手に逆らわないほうがいい」
「大人しく連行されとけッてことか」
ソロンも長剣を足下に放り投げると、大人しく壁に手をついた。


金属の冷たい音が鳴り響き、一行は牢屋に放り込まれる。
「なんなのよ!取り調べもなしに一方的に牢屋って、この国の法は一体どうなってるわけ!?」
文句を言おうにも兵士は既に去った後で、仕方なくティルは同室のレピアに当たり散らす。
幸い鉄格子の向こうには、ソロンやハリィ達の姿も見えていた。
彼らは別々の牢屋に放り込まれ、シャウニィなどは呪文を警戒されてか猿ぐつわを填められている。
「そう騒ぐんじゃないよ。ワールドプリズじゃ、こんな扱いは一般的さね」
対してレピアは落ち着いたもので、あっさりティルの怒りを受け流す。
逮捕された罪人は、まず牢屋に入れられる。
その後で裁判が行われ、罪の善悪を問答することになるのだそうだ。
むしろ男女を別々の牢屋に入れているだけ、レイザース宮廷のやり方は他よりも紳士的なんだとか。
「……随分と冷静なのね。もしかして、牢屋に入れられるのは常連なのかしら?」
冷めた目で見つめてくるティルを鼻で笑い、レピアは腕を組む。
「推測なら、お好きにどうぞ」
金で人殺しを請け負う傭兵にとって、ターゲットが善人か悪人かは関係ない。
依頼人の払う報酬額が良いか悪いか。それだけが問題となる。
当然、国の要人がターゲットとなることもあり、しくじった暁には逮捕も免れない。
ハリィとチームを組むまで、レピアは何度か牢屋のお世話になっている。
死刑を免れる為に、いくばくかの財産を国に渡すという屈辱のおまけ付で。
今度も、いくらか袖の下を包めば、簡単に開放される。
そう踏んでいるからこその、余裕であった。第一、こちらは何も悪いことをしていないのだ……
鉄格子の向こうでは、ソロンが身を乗り出してハリィに尋ねている。
「いつまで拘束されるンだ?俺達ァ、ここで時間を潰してる暇はねェんだぞ」
ハリィも、やはりレピアと同様に気落ちした様子はなく、気楽に答えた。
「そう時間はかからないはずだ。今は、騎士団長様が俺達の身元を確認していらっしゃるはずさ」
「騎士団長が、直々に罪人の身元を調べるの?」
あまりに驚いたので、思わずティルは会話に混ざってしまった。
ロイス王国では、騎士団長が罪人の取り締まりに関わることなど滅多にない。
ソロンのように特別な事情でもない限り、大抵の罪人は宮廷お抱えの最高司祭が裁きを下す。
そもそも、罪人の扱いからいって全く違った。
このように、有無を言わせず牢屋へ放り込んだりしない。
まずは街の警備隊なり騎士団ヒラ兵士なりが、身元を調べて取り調べをする。その上での牢屋行きだ。
「騎士団が捕まえてきた罪人は、特別な人間が多いからね。大抵は騎士団長が全てを取り仕切る。特に今回は亜人とも人間とも言い難い人物が混ざっているから、騎士団だって慎重にもなるさ。調べが長引いているのは、そのためだろう」
ちらりとシャウニィの入っている牢屋を一瞥すると、ハリィはごろりと寝転がる。
フガフガという言葉にならない声が、シャウニィのいる牢屋から聞こえた。
俺のせいかよ、とでも言ったのだろうが、猿ぐつわを噛まされているのでは言葉を発することもできまい。
ともかく調べが済むまで何もできないことだけは、よく判った。
「それにしても――」
鉄格子から身を乗り出し、ソロンは通路をぐるりと見渡す。
これだけの大人数が牢屋へ放り込まれたというのに、通路には人っ子一人いやしない。
見張りの兵士すら置かないとは、少し不用心すぎるのではないか。
ティルが急にハッとなって、部屋を見渡した。
「ねぇ、この牢屋ってもしかして……おトイレないんじゃないの!?」
言われて気づいたが、ソロンのいる牢屋にもトイレが見あたらない。
いや、全ての牢屋の造りは同じであった。どの部屋にもトイレがない。
これでは便意を催した時に困ってしまう。
「あるわけないだろ、仮保留なのに」と、どこまでも冷めた返事なのはレピア。
「仮保留?」
ソロンがハリィへ尋ねれば、ハリィは片目を開けて彼を見た。
「ん、あぁ。ここへ入れられるのは数分、長くても一時間までだ。調べが済めば、すぐに出られる。だから通路にも見張りがいないだろ」
「不用心すぎンじゃねェか?もし脱走しようッて奴がいたら、どうするンだ」
先ほど思ったことをソロンが口にすれば、ハリィ、そしてボブとレピアも苦笑した。
「仮保留程度で脱走かい?そんな真似をすれば、罪が余計重たくなっちまうぜ。まぁ一応監視カメラは動いているから、尿意を感じた時にはトイレを貸してくれって叫ぶといい。すぐに下っ端兵士が、すっ飛んでくるよ。連中も、お漏らしの始末をするのは嫌だろうからね」
不意にカツカツ、と足音が聞こえてきたので、誰もが黙り込む。
早足に近づいてきたのは、白い鎧に身を包んだ騎士団兵士の一人だ。
彼は一つずつ牢屋を覗いていき、ハリィの囚われている部屋で足を止めた。
「貴殿はハリィ=ジョルズ=スカイヤード大佐で、間違いないか?」
前口上も抜きで用件だけを切り出してきた相手に対し、ハリィは鷹揚に頷く。
「間違いないよ。なんなら、通行証でもお見せしようか?」
取り出した通行証を、鉄格子の隙間から遣り取りする。
ややあってハリィ本人と確認できたのか、兵士は深々と会釈した。
「大変失礼いたしました。団長殿が面会を希望しておられます。どうぞ、こちらへ」
ハリィが外へ出されるのを見て、キーファがギャアギャア騒ぎ出す。
「お、おい!そいつだけ出すって、どういう了見だ?畜生!俺達も出せ!出せったら、出せ!!」
鉄格子を両手で掴んで騒ぐ様は、さながら檻に閉じこめられた野生の猿のようだ。
「静かにしろ!」
頭に来たのか兵士も牢屋を蹴りつけて、かと思えば咳払いを一つしてからハリィへ向き直る。
「……失礼しました。では、参りましょう」
歩きながらハリィが尋ねる。
「彼らの保釈は、まだかい?」
「それについても、団長殿からお話がありましょう。まずは、こちらへ」
兵士は素っ気なく答えた。

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