Infallible Scope

act2

異世界人の誘拐事件は思ったより手こずったものの、ほとんど異世界人の手で解決に至った。
それこそ、自分達がついてきた意味などなかったとルクが思えるぐらいに。
彼らはカチュアら魔術師の呼び出した門をくぐり抜け、元の世界へと帰っていった。
一つの問題を残して――


異世界人を見送った後は一旦、酒場に腰を落ち着ける。
「本来、そちらの用件を解決するためにカチュアを呼びに行ったんだ」と、ハリィが話を切り出した。
亜人の島にて発見されたという魔物を退治するために、魔術師を探していた。
どんな生物にも乗り移れ、どのようにも姿を変えることが出来るという。
亜人の島のドラゴンたちは自分達を滅ぼす為にジェスターが放ったのではないかと予想した。
ジェスター=ホーク=ジェイト。
かつては黒騎士団の団長としてレイザース軍に所属していた男だが、素行の悪さで騎士を剥奪され、以降は執拗にレイザースの滅亡を企むようになった。
彼は過去にも二回ほど、レイザースの首都を襲っている。
一度目は亜人の島に住む怪獣を引き連れて。
そして二度目は悪魔軍団を引き連れて――
襲撃は二回とも失敗し、その場を逃れたジェスターは消息不明となっていた。
「もう魔物といったらジェスターって法則が成り立っちまいそうですよね」
バージが軽口を叩き、ジョージは慎重論を唱える。
「全く別の人物による犯行の可能性も、捨てきれませんが」
「あぁ、そのとおりだ」とハリィは頷き、皆の顔を見渡した。
「何しろ、この件は霧を掴むが如く情報が全くない。襲われたのは亜人の島のドラゴンだし、目撃者は異世界人とハンターだけだ」
「ハンターって、例の保護ハンターですか?あの、ザンとかいう」
首を傾げるモリスに、ハリィも頷く。
「あぁ。そして彼らとの契約は、まだ切れちゃいない」
「ハッ!ま〜たハンターと手を組んで共同作戦すんのかよ。あいつら、情報収集で役に立った事がねーだろーが」
すかさず悪態をついたのはボブだ。
ハリィは彼をちらりと見て、肩をすくめてみせる。
「だから情報収集を、こちらにお任せすると言ってきた」
連絡があったのは、ついさっき。
酒場へ行く途中の道で、メッセージを受信した。
差出人は斬。
保護ハンターを名乗る、HANDxHAND GLORY'sのギルドマスターだ。
メッセージには、情報収集を頼みたいとの旨が書かれていた。
ハンター達は亜人の島へ渡り、実地調査をするらしい。
王国の手続きなしで島へ潜り込めるのは彼らしかいないから、この分担に文句はない。
「ボブはカズスンと組んで船着き場を当たってくれ。モリスはジョージと一緒に酒場巡りを、お願いできるか?」
「オーケー、船乗りが襲われてねぇか調べろってんだナ」
ボブが笑う側では、カズスンも「了解です」と頷いた。
「あたし達は?」
レピアに問われ、それに答えるがの如くハリィは話を締める。
「残りのメンバーは各地へ散らばって、ジェスターの足取りを追いかけてくれ。まだ奴がレイザースの転覆を狙っているなら、辺境に潜んでいる可能性が高い」
「けどドラゴンたちの予想じゃ、奴は亜人の島に狙いを切り替えたんでしょう?」
バージの質問に、ハリィは慎重な面持ちで腕を組む。
「彼らは賢者経由でしか世界を知らない。悪者といえば、ジェスターしかいないと思っているんだろう……亜人の話は、あくまでも可能性の一つとして捉えておいたほうがいい」
椅子を立ち上がり、レピアは、うーんっと背伸びをした。
「僻地で情報収集かぁ〜。いつも通りだね。じゃ、あたしはカンサーにでも行ってみようかな」
俺はどうしよう、どこそこへ行ってみます、といった声があがる中。
「大佐は、どうするんです?」
ルクに尋ねられたハリィは微笑んだ。
「勿論、ジェスターの情報を集めに行くに決まっているさ。なんならルク、たまには君と一緒の――」
最後まで言わせぬキンキン声が二つ、追い被さってくる。
「えー!ルクと大佐が一緒だなんて、ズルイズルイ!」
「だったら、あたしと一緒に情報収集いきませんかァ?ルクは単独行動のほうが向いてますしィ〜」
誰かなんてのは言うまでもない、カチュアとレピアの両名だ。
チラッチラと色目を使ってくるレピアには苦笑し、ハリィがやり返す。
「単独での情報収集なら君のほうがお手のものだろ、レピア。それとカチュア、君は酒場で留守番だ。君を情報収集に回すのは、俺達の風評被害にもなりかねない」
「えっ?なんです、この、僕を貶める流れ」
まだカチュアは文句を言っていたのだが、ハリィは華麗に無視すると、ぐるりと皆を見渡してパンと手を打った。
「それじゃ、解散!諸君らの活躍を期待しているぞ」
「おぅ。ハリィ、お前もルクに足を引っ張られんよう気をつけろヨ?」
といったボブの軽口を聞き流しながら、ハリィはルクの肩に手をかける。
「さぁ、行こう。少し足を伸ばして、南国諸島まで下ってみるか」
「えっ、でも、いいんですか?本当に俺と一緒で」
一応レピアの視線を気にして、ルクは聞き返してみたのだが。
「いいんだ、気にするな。それに、君とは最近ご無沙汰だったしね」
ハリィは笑って取り合わず、背中にカチュアとレピアの嫉妬の視線を浴びながらルクは酒場を後にしたのであった。


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